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二章 魔道学校編
第51話 ディジーとおじさんの攻防
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「泥鼠か。それを言うならドブネズミじゃねえのか?」
「いや、間違ってないさ。キミには泥を被ってもらうつもりだからね」
「……どういう意味だ?」
「悪いがそれを答えるほどボクは人が良くないんだ」
ディジーとおじさんのやり取り。ついて行けてないのはわたしだけ?
というかこのおじさんも何ものなんだろうか。ディジーの口振りだとただの見回りの人ってわけでもなさそうだけど。
そもそもなんでディジーはここにいるのか。自分の部屋にいるんじゃなかったのか?
なぜか空気がピリピリしてきた。この感じは覚えがある。
これから戦いが始まる。そんな空気だ。
「アンタを舐めてたあっしが悪かったみたいだな。ここは退散させてもらうぜ」
「簡単に逃がすと思うなよ」
おじさんがバックステップして闇に紛れ込もうとする。ディジーは追いかける様子はない。なのに余裕の態度を保っている。
「ぐっ!?」
バチン! そんな弾けた音が響いた。
見ればおじさんが片膝をついていた。
なんだ? ディジーが何かした様子はなかった。それでもおじさんがうずくまっている。
「これは結界魔法か? いつの間に張りやがったんだ……」
「さてね。よそ見していたから気づかなかったんじゃないかな」
ひょうひょうとしたディジーの言葉におじさんは舌打ちをした。
うん……、まったくついて行けてないぞ。とりあえずディジーがこのおじさんと敵対しているってのはわかった。でもそれだけ。なんでかなんてわかりようがない。どういう間柄なんだろうか。
……ふむ。わからないなりに顎に手を当てて考えるポーズをしてみる。意味はない。
「エル」
「あっはい」
「下がっててもいいよ。すぐに終わるから」
ディジーは杖をおじさんに向けている。やる気満々といった感じだ。
お言葉に甘えておこうかなぁ……。なんだか急にシリアス色を増した空気についていけてないし……。
「アンタはあっしの目的を知っているのかい?」
「さてね。ただ、キミが裏では有名ななんでも屋というのは知っているよ」
「素性を知られているとはな。そんな素振りは見えなかったんだがな」
「結局魔法も使えない泥鼠にボクを相手にすることなんてできないのさ。残念だったね、と言っておくよ」
「ちっ。嫌な嬢ちゃんだ」
おじさんが立ち上がる。と思ったらキラリと光るものをディジーに向かって投げつけた。ナイフか。
彼女はそれを簡単にかわす。素早い動きから身体能力を強化しているのがわかる。
「金も大事だが自分の命が一番大事でね。ここは痛い目に遭ってもらうぜ」
「キミにそれができたらね」
おじさんは小柄な体を生かして小回りの利いた動きでディジーに接近する。フェイントを混ぜているのだろう。彼の体がブレて見える。
動きが速くて目で追えない。魔法を使った様子はないのに、身体能力を向上させているディジーと同じくらいの速さに思えた。元の身体能力が人間離れしている。
だけどディジーに慌てる様子はない。
彼女の口元が動いている。高速詠唱だ。
「――ウォールシャドー」
詠唱が完成して杖を振るう。彼女の眼前に黒い壁が出来上がった。
なんだあれは? 聞いたことのない魔法だ。
ディジーと戦った時には出さなかった魔法。それに警戒してかおじさんは急停止した。
それが結果的におじさんの敗因になってしまった。
「遅いよ」
「うおっ!?」
おじさんが何かに足を取られたのかバランスを崩す。
「な、なんだこりゃあ!?」
驚愕の声が静かな廊下に響く。それを聞くのはこの場にいる三人だけだ。
「え?」
わたしは目を見開いた。
おじさんの体が段々と沈んでいる?
目を凝らす。膝を折っているわけじゃなく、確かにおじさんの足が底なし沼にでもはまったかのようにズブズブと沈んでいたのだ。
「怖がらなくていい。少しだけ体の自由を失うだけさ」
ディジーの淡々とした言葉に、おじさんの声に焦りが生まれる。
「なんだ!? なんなんだこの魔法はっ!? あ、足の感覚がなくなってきてやがる! や、やめろ! やめてくれぇぇぇぇぇぇーーっ!!」
恐慌状態に陥ったおじさんは腕をがむしゃらに振り回す。
おじさんの下半身が床に埋まった。いや、それは床なのか。月明りに照らされてもおじさんの足元は真っ暗だった。
黒と表現するのも生ぬるく感じてしまう。黒よりも黒い影が床に広がっている。
なんだか怖くなる。知らないうちに唇が震えていた。
「ディ、ディジー……?」
「ああごめんよエル。もう少しだけ待っててもらえるかな?」
いつもの調子だ。笑みを浮かべるディジーに恐怖を感じる。彼女は一体何をしているんだ?
なんて言葉をかけたらいいんだろうか? この状況はなんなのかとか、このおじさんは何者なのかとか。いろいろと聞きたいことがあるはずなのに、それを声に出せる勇気がなかった。
「こ、この……っ。クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
おじさんが叫んだ。目玉が飛び出しそうなほど目を見開き、顎が外れるんじゃないかってくらい大口を開けた鬼気迫る形相だった。
がむしゃらに振り回していた腕を一直線に振り下ろす。瞬間、視界が閃光に覆われた。
あまりの光に目をつむる。目をつむってても目が痛い。それほどの光がわたし達を眩ませる。
「む……。やられた」
次に目を開くとおじさんの姿はなかった。風を感じて目を向ければ窓が割れていた。どうやらあそこから逃げたようだ。
「魔法を無効化する魔石といったところかな。さすがはマグニカか。レア魔石があったもんだね」
「ディジー?」
「エル、ケガはないかい?」
「あ、うん。わたしは大丈夫……だけど」
だけどこの状況は一体? わけがわからなくて何もできなかった。それが良かったのか悪かったかの判断もできやしない。
ディジーはわたしの疑問に答える気がないみたいで、割れた窓に目を向けている。
「ボクはさっきの男を追うつもりなんだけど、エルも手伝ってくれるかな?」
わたしに笑顔を向けるディジー。友達の頼みを断るだなんてできないだろう。即座に頷いた。
「わかった。任せてよ」
「うん。頼りにしてるよ」
ディジーの敵。友達の敵はわたしの敵でもある。
だからとっ捕まえてやるのだ。彼女のためになることをする。それはわたしがここに来た理由として何も変わってないのだから。
「いや、間違ってないさ。キミには泥を被ってもらうつもりだからね」
「……どういう意味だ?」
「悪いがそれを答えるほどボクは人が良くないんだ」
ディジーとおじさんのやり取り。ついて行けてないのはわたしだけ?
というかこのおじさんも何ものなんだろうか。ディジーの口振りだとただの見回りの人ってわけでもなさそうだけど。
そもそもなんでディジーはここにいるのか。自分の部屋にいるんじゃなかったのか?
なぜか空気がピリピリしてきた。この感じは覚えがある。
これから戦いが始まる。そんな空気だ。
「アンタを舐めてたあっしが悪かったみたいだな。ここは退散させてもらうぜ」
「簡単に逃がすと思うなよ」
おじさんがバックステップして闇に紛れ込もうとする。ディジーは追いかける様子はない。なのに余裕の態度を保っている。
「ぐっ!?」
バチン! そんな弾けた音が響いた。
見ればおじさんが片膝をついていた。
なんだ? ディジーが何かした様子はなかった。それでもおじさんがうずくまっている。
「これは結界魔法か? いつの間に張りやがったんだ……」
「さてね。よそ見していたから気づかなかったんじゃないかな」
ひょうひょうとしたディジーの言葉におじさんは舌打ちをした。
うん……、まったくついて行けてないぞ。とりあえずディジーがこのおじさんと敵対しているってのはわかった。でもそれだけ。なんでかなんてわかりようがない。どういう間柄なんだろうか。
……ふむ。わからないなりに顎に手を当てて考えるポーズをしてみる。意味はない。
「エル」
「あっはい」
「下がっててもいいよ。すぐに終わるから」
ディジーは杖をおじさんに向けている。やる気満々といった感じだ。
お言葉に甘えておこうかなぁ……。なんだか急にシリアス色を増した空気についていけてないし……。
「アンタはあっしの目的を知っているのかい?」
「さてね。ただ、キミが裏では有名ななんでも屋というのは知っているよ」
「素性を知られているとはな。そんな素振りは見えなかったんだがな」
「結局魔法も使えない泥鼠にボクを相手にすることなんてできないのさ。残念だったね、と言っておくよ」
「ちっ。嫌な嬢ちゃんだ」
おじさんが立ち上がる。と思ったらキラリと光るものをディジーに向かって投げつけた。ナイフか。
彼女はそれを簡単にかわす。素早い動きから身体能力を強化しているのがわかる。
「金も大事だが自分の命が一番大事でね。ここは痛い目に遭ってもらうぜ」
「キミにそれができたらね」
おじさんは小柄な体を生かして小回りの利いた動きでディジーに接近する。フェイントを混ぜているのだろう。彼の体がブレて見える。
動きが速くて目で追えない。魔法を使った様子はないのに、身体能力を向上させているディジーと同じくらいの速さに思えた。元の身体能力が人間離れしている。
だけどディジーに慌てる様子はない。
彼女の口元が動いている。高速詠唱だ。
「――ウォールシャドー」
詠唱が完成して杖を振るう。彼女の眼前に黒い壁が出来上がった。
なんだあれは? 聞いたことのない魔法だ。
ディジーと戦った時には出さなかった魔法。それに警戒してかおじさんは急停止した。
それが結果的におじさんの敗因になってしまった。
「遅いよ」
「うおっ!?」
おじさんが何かに足を取られたのかバランスを崩す。
「な、なんだこりゃあ!?」
驚愕の声が静かな廊下に響く。それを聞くのはこの場にいる三人だけだ。
「え?」
わたしは目を見開いた。
おじさんの体が段々と沈んでいる?
目を凝らす。膝を折っているわけじゃなく、確かにおじさんの足が底なし沼にでもはまったかのようにズブズブと沈んでいたのだ。
「怖がらなくていい。少しだけ体の自由を失うだけさ」
ディジーの淡々とした言葉に、おじさんの声に焦りが生まれる。
「なんだ!? なんなんだこの魔法はっ!? あ、足の感覚がなくなってきてやがる! や、やめろ! やめてくれぇぇぇぇぇぇーーっ!!」
恐慌状態に陥ったおじさんは腕をがむしゃらに振り回す。
おじさんの下半身が床に埋まった。いや、それは床なのか。月明りに照らされてもおじさんの足元は真っ暗だった。
黒と表現するのも生ぬるく感じてしまう。黒よりも黒い影が床に広がっている。
なんだか怖くなる。知らないうちに唇が震えていた。
「ディ、ディジー……?」
「ああごめんよエル。もう少しだけ待っててもらえるかな?」
いつもの調子だ。笑みを浮かべるディジーに恐怖を感じる。彼女は一体何をしているんだ?
なんて言葉をかけたらいいんだろうか? この状況はなんなのかとか、このおじさんは何者なのかとか。いろいろと聞きたいことがあるはずなのに、それを声に出せる勇気がなかった。
「こ、この……っ。クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
おじさんが叫んだ。目玉が飛び出しそうなほど目を見開き、顎が外れるんじゃないかってくらい大口を開けた鬼気迫る形相だった。
がむしゃらに振り回していた腕を一直線に振り下ろす。瞬間、視界が閃光に覆われた。
あまりの光に目をつむる。目をつむってても目が痛い。それほどの光がわたし達を眩ませる。
「む……。やられた」
次に目を開くとおじさんの姿はなかった。風を感じて目を向ければ窓が割れていた。どうやらあそこから逃げたようだ。
「魔法を無効化する魔石といったところかな。さすがはマグニカか。レア魔石があったもんだね」
「ディジー?」
「エル、ケガはないかい?」
「あ、うん。わたしは大丈夫……だけど」
だけどこの状況は一体? わけがわからなくて何もできなかった。それが良かったのか悪かったかの判断もできやしない。
ディジーはわたしの疑問に答える気がないみたいで、割れた窓に目を向けている。
「ボクはさっきの男を追うつもりなんだけど、エルも手伝ってくれるかな?」
わたしに笑顔を向けるディジー。友達の頼みを断るだなんてできないだろう。即座に頷いた。
「わかった。任せてよ」
「うん。頼りにしてるよ」
ディジーの敵。友達の敵はわたしの敵でもある。
だからとっ捕まえてやるのだ。彼女のためになることをする。それはわたしがここに来た理由として何も変わってないのだから。
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