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二章 魔道学校編
第50話 侵入! カラスティア魔道学校
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「ここがカラスティア魔道学校か」
日が暮れてきた頃に目的地に到着した。
カラスティア魔道学校。ディジーが通っている学校である。
アルバートと違って全寮制ではないようだが、生徒の約七割は寮暮らしをしているらしい。ディジーもその一人である。
通っているのは平民がかなり多いらしい。貴族もいるにはいるのだが少数だ。
その差なのかアルバートに比べて建物に古臭さが目立つ。それでも敷地はかなり広かった。まあそれはどこの魔道学校でも一定の敷地を確保しているからだ。でないと魔法の実践訓練なんてできやしない。
とりあえずカラスティアの外周をぐるりと回った。怪しい姿は見られない。
内部図を確認する。
寮は敷地の外からじゃあ見えない位置にあった。見張るにしても中に入らなければならない。
ディジーが感じている視線。平日でも感じているのだからストーカーは学校内に侵入していると考えるべきだ。
「わたしも中に入るか」
カラスティアの門には見張りなんていなかった。ちなみにアルバートは警備の人が巡回していたりする。預かっている貴族に何かあったら学校側が困るからだろう。
もう少し暗くなったら門は閉まってしまうだろう。今はまだ開いているのであっさり入ることができた。
とはいえ誰かに見つかるわけにもいかないだろう。忍び足を忘れず周囲に目を配った。
遠くから声が聞こえるけど近くには誰もいないようだ。よしよし、このままレッツゴー!
なんだかスパイ気分だ。不謹慎ながらちょっとだけ楽しくなってきた。
身を屈めながら進む。誰かが通りがかる時は建物の影に隠れる。
ふっ、案外見つからないもんだ。これなら大丈夫そうだね。
内部図を確認する。ディジーのいる女子寮はもうすぐだった。
見つからないように進んでいたからかそれなりに時間が経っていたようだ。女子寮が視界に入った頃には日が完全に落ちていた。
「ここか」
女子寮は四階建てだった。小さな窓が多い。たぶんアルバートみたいに大きな部屋ではなく、小さな部屋がたくさんあるのだろう。
「えーと……右から四番目……。あそこかな」
ディジーの部屋を発見。窓から明かりが零れている。どうやら帰ってきているみたい。
シグルド先輩のおかげでここまでは順調に来られた。感謝はしておいた方がいいよね。
さて、と。ストーカー探しといきますか。
彼女の部屋は二階にある。そこを覗ける位置はどこか。
「普通に考えれば向かいの建物だよなぁ」
少し距離はあるものの、部屋の中を覗こうと思えばそこがベストポジションだろう。
とはいえカーテンくらい閉めて……って閉めてないし。ディジーさん不用心じゃないっすかね。
仕方がない。そんな彼女のために来たのだ。わたしがなんとかしてやろうじゃないか。
わたしは向かいの建物へと足を向ける。
学内の地図によれば、確かこの建物は旧校舎のはずだ。ひと際古い建物なのでもしかしたらあまり使われていないのかもしれない。
なるほど。ストーカーにとってはいい隠れ家といったところか。
外から旧校舎を見上げる。窓から明かりが漏れているところはない。静かで人の気配はないように思えた。
「ん?」
微かにだけど、カーテンが動いた気がした。
その部屋は二階で、まさにディジーの部屋と対面する位置だった。
「あそこか!」
わたしは急いだ。
不用心にも校舎の扉は開いていた。迷わず入らせてもらう。不法侵入なんて今更なので気にしない。
当たり前だけど仲は真っ暗だった。魔法で明かりを灯して視界を確保する。
「二階……だったよね」
緊張が走る。
ストーカーなんてさっさと捕まえてしまおう。それで早く帰ろう。あまり他校にいるのもよろしくないし。
抜き足差し足忍び足。誰にも気づかれないように足音は殺す。
だったら明かりを消せって? バカ、足元が悪くて転んだりでもしたらもともこもないでしょうがっ。
そんな一人ツッコミをしながら階段を発見。上の階へと進む。
さて、ここからは本当に明かりを消しておくべきだろうか。
接近するのに気づかれてはいけない。
わたしの予定ではストーカーに気づかれていないうちに背後から華麗にとっ捕まえるというものだ。間違っても逃げられてはいけない。
上手くいくことを考える。成功するためには成功するイメージが必要なのだ。わたしの魔法みたいなものだね。イメージは大事。
明かりを消す。一気に暗くなり、知らない廊下が広がった。
「……」
ぶるりと体が震えた。いや、これはびびってるわけじゃないからね。夜になって冷えただけだからねっ。
足音を殺したまま進む。
確か外から見た部屋はこの辺だったはずだ。
「……」
ゆっくりと、部屋のドアに耳を当てた。
物音は……ないように思える。しばらく息を殺して耳をそばだてるが、微かな音さえ聞こえなかった。
どうする? 開けるべきか? それとも様子を見るべきか?
迷ってしまう。こういう時、ヒーローってのは迷わない。わたしはそんなお約束通りには動けなかった。
そもそも鍵が開いているのか? もしストーカーだったら念のため鍵を閉めておくんじゃないだろうか。目的がディジーの部屋を覗くことだったらなおさらだ。
「……」
確認……した方がいいだろうか。
ドアの鍵が開いているかどうか。その確認。
物音を立ててしまう可能性はある。それでも、開いているか閉まっているかの情報は必要だ。突入するとしても様子見をするにしても、どちらにせよだ。
心臓がバクバクする。鼓動に合わせていたらタイミングを逃してしまいそうな気がする。
「……」
ドアに、手をかけた。
「お嬢ちゃん。そこで何をしているんだい?」
「!?」
背後からの声に思わず飛び上がってしまった。
慌てて振り向けばおじさんがいた。
わたしとそう変わらないくらいの背丈だ。人の好さそうな笑みをしているが暗がりというのもあってぼんやりと顔が浮いているように見える。ちょっとホラー。
「こんな時間に校舎にいたらダメだろう。さっさと帰りなさい」
「え、あ、はい」
見回りの人なのかな。気をつけていたはずなのに後ろを取られるまで気づかなかった。
くそー、ここまでなのか。
見つかったのなら仕方がない。ここは大人しく引き上げるか。また次があるさ。
今日はストーカー退治できなかったかー。……なんでわたしはこんなところまで来ちゃったんだ? あれ、ストーカー退治だ。そう、わたしが捕まえて、わたしの手柄になって……。
なんか急に頭が痛くなってきた。早く帰って寝よう。
「すみませんでした。失礼します」
「ああ、気をつけて帰るんだよ」
見回りのおじさんに見送られる。大して怒られなくてよかった。
ほっと安心した。それが油断だったのだろう。
「――バインド」
小さな声だった。
けれど静寂だったからだろう。その声はよく響いて聞こえた。
声に反応して振り向く。魔法の縄が縛ろうと迫っていた。
「ッ!?」
咄嗟に身構えるが、それはわたしに向かってきているわけではなかった。
「おっと、危ねえ」
魔法の縄は見回りのおじさんに向かっていた。おじさんはそれをひらりとかわす。
何が起こった? わたしは魔法を放った人物を探す。
「やっと姿を現してくれた」
その人物は向こうから現れてくれた。
ゆっくりと、靴音を立てながら近づいてくる。その足音からは余裕が見て取れた。
「ちっ、油断したぜ」
おじさんが吐き捨てる。わたしはそんな言葉に気を取られたりはしなかった。
気を取られたのは姿を見せた人物。見知った人物だったからだ。
「エル、ご苦労だったね。おかげで泥鼠を捕まえられそうだよ」
影に覆われているにも関わらず、笑っているディジーの顔がよく見えた。
日が暮れてきた頃に目的地に到着した。
カラスティア魔道学校。ディジーが通っている学校である。
アルバートと違って全寮制ではないようだが、生徒の約七割は寮暮らしをしているらしい。ディジーもその一人である。
通っているのは平民がかなり多いらしい。貴族もいるにはいるのだが少数だ。
その差なのかアルバートに比べて建物に古臭さが目立つ。それでも敷地はかなり広かった。まあそれはどこの魔道学校でも一定の敷地を確保しているからだ。でないと魔法の実践訓練なんてできやしない。
とりあえずカラスティアの外周をぐるりと回った。怪しい姿は見られない。
内部図を確認する。
寮は敷地の外からじゃあ見えない位置にあった。見張るにしても中に入らなければならない。
ディジーが感じている視線。平日でも感じているのだからストーカーは学校内に侵入していると考えるべきだ。
「わたしも中に入るか」
カラスティアの門には見張りなんていなかった。ちなみにアルバートは警備の人が巡回していたりする。預かっている貴族に何かあったら学校側が困るからだろう。
もう少し暗くなったら門は閉まってしまうだろう。今はまだ開いているのであっさり入ることができた。
とはいえ誰かに見つかるわけにもいかないだろう。忍び足を忘れず周囲に目を配った。
遠くから声が聞こえるけど近くには誰もいないようだ。よしよし、このままレッツゴー!
なんだかスパイ気分だ。不謹慎ながらちょっとだけ楽しくなってきた。
身を屈めながら進む。誰かが通りがかる時は建物の影に隠れる。
ふっ、案外見つからないもんだ。これなら大丈夫そうだね。
内部図を確認する。ディジーのいる女子寮はもうすぐだった。
見つからないように進んでいたからかそれなりに時間が経っていたようだ。女子寮が視界に入った頃には日が完全に落ちていた。
「ここか」
女子寮は四階建てだった。小さな窓が多い。たぶんアルバートみたいに大きな部屋ではなく、小さな部屋がたくさんあるのだろう。
「えーと……右から四番目……。あそこかな」
ディジーの部屋を発見。窓から明かりが零れている。どうやら帰ってきているみたい。
シグルド先輩のおかげでここまでは順調に来られた。感謝はしておいた方がいいよね。
さて、と。ストーカー探しといきますか。
彼女の部屋は二階にある。そこを覗ける位置はどこか。
「普通に考えれば向かいの建物だよなぁ」
少し距離はあるものの、部屋の中を覗こうと思えばそこがベストポジションだろう。
とはいえカーテンくらい閉めて……って閉めてないし。ディジーさん不用心じゃないっすかね。
仕方がない。そんな彼女のために来たのだ。わたしがなんとかしてやろうじゃないか。
わたしは向かいの建物へと足を向ける。
学内の地図によれば、確かこの建物は旧校舎のはずだ。ひと際古い建物なのでもしかしたらあまり使われていないのかもしれない。
なるほど。ストーカーにとってはいい隠れ家といったところか。
外から旧校舎を見上げる。窓から明かりが漏れているところはない。静かで人の気配はないように思えた。
「ん?」
微かにだけど、カーテンが動いた気がした。
その部屋は二階で、まさにディジーの部屋と対面する位置だった。
「あそこか!」
わたしは急いだ。
不用心にも校舎の扉は開いていた。迷わず入らせてもらう。不法侵入なんて今更なので気にしない。
当たり前だけど仲は真っ暗だった。魔法で明かりを灯して視界を確保する。
「二階……だったよね」
緊張が走る。
ストーカーなんてさっさと捕まえてしまおう。それで早く帰ろう。あまり他校にいるのもよろしくないし。
抜き足差し足忍び足。誰にも気づかれないように足音は殺す。
だったら明かりを消せって? バカ、足元が悪くて転んだりでもしたらもともこもないでしょうがっ。
そんな一人ツッコミをしながら階段を発見。上の階へと進む。
さて、ここからは本当に明かりを消しておくべきだろうか。
接近するのに気づかれてはいけない。
わたしの予定ではストーカーに気づかれていないうちに背後から華麗にとっ捕まえるというものだ。間違っても逃げられてはいけない。
上手くいくことを考える。成功するためには成功するイメージが必要なのだ。わたしの魔法みたいなものだね。イメージは大事。
明かりを消す。一気に暗くなり、知らない廊下が広がった。
「……」
ぶるりと体が震えた。いや、これはびびってるわけじゃないからね。夜になって冷えただけだからねっ。
足音を殺したまま進む。
確か外から見た部屋はこの辺だったはずだ。
「……」
ゆっくりと、部屋のドアに耳を当てた。
物音は……ないように思える。しばらく息を殺して耳をそばだてるが、微かな音さえ聞こえなかった。
どうする? 開けるべきか? それとも様子を見るべきか?
迷ってしまう。こういう時、ヒーローってのは迷わない。わたしはそんなお約束通りには動けなかった。
そもそも鍵が開いているのか? もしストーカーだったら念のため鍵を閉めておくんじゃないだろうか。目的がディジーの部屋を覗くことだったらなおさらだ。
「……」
確認……した方がいいだろうか。
ドアの鍵が開いているかどうか。その確認。
物音を立ててしまう可能性はある。それでも、開いているか閉まっているかの情報は必要だ。突入するとしても様子見をするにしても、どちらにせよだ。
心臓がバクバクする。鼓動に合わせていたらタイミングを逃してしまいそうな気がする。
「……」
ドアに、手をかけた。
「お嬢ちゃん。そこで何をしているんだい?」
「!?」
背後からの声に思わず飛び上がってしまった。
慌てて振り向けばおじさんがいた。
わたしとそう変わらないくらいの背丈だ。人の好さそうな笑みをしているが暗がりというのもあってぼんやりと顔が浮いているように見える。ちょっとホラー。
「こんな時間に校舎にいたらダメだろう。さっさと帰りなさい」
「え、あ、はい」
見回りの人なのかな。気をつけていたはずなのに後ろを取られるまで気づかなかった。
くそー、ここまでなのか。
見つかったのなら仕方がない。ここは大人しく引き上げるか。また次があるさ。
今日はストーカー退治できなかったかー。……なんでわたしはこんなところまで来ちゃったんだ? あれ、ストーカー退治だ。そう、わたしが捕まえて、わたしの手柄になって……。
なんか急に頭が痛くなってきた。早く帰って寝よう。
「すみませんでした。失礼します」
「ああ、気をつけて帰るんだよ」
見回りのおじさんに見送られる。大して怒られなくてよかった。
ほっと安心した。それが油断だったのだろう。
「――バインド」
小さな声だった。
けれど静寂だったからだろう。その声はよく響いて聞こえた。
声に反応して振り向く。魔法の縄が縛ろうと迫っていた。
「ッ!?」
咄嗟に身構えるが、それはわたしに向かってきているわけではなかった。
「おっと、危ねえ」
魔法の縄は見回りのおじさんに向かっていた。おじさんはそれをひらりとかわす。
何が起こった? わたしは魔法を放った人物を探す。
「やっと姿を現してくれた」
その人物は向こうから現れてくれた。
ゆっくりと、靴音を立てながら近づいてくる。その足音からは余裕が見て取れた。
「ちっ、油断したぜ」
おじさんが吐き捨てる。わたしはそんな言葉に気を取られたりはしなかった。
気を取られたのは姿を見せた人物。見知った人物だったからだ。
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