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二章 魔道学校編
第43話 対校戦が終ってからの変化
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「エルさんすごいわ!」
「対校戦を優勝するなんてすごいじゃないか!」
「キミはアルバート魔道学校の誇りだ!」
対校戦が終って休日を挟んでからの学校。
教室に入って席に着く。それと同時に生徒がわたしの周りに集まってきた。そうして先ほどの言葉を浴びせられているというわけである。
「すごい」を連発されて返って変な気分だ。いやまあすごいことをしたんだろうけどさ、こんな貴族の方々に言われるとこれまた不思議な感じなんですよ。見下した目を向けられていたからなおさらね。
対校戦中もそれなりに応援はされていたけれど、ここまでの賞賛の嵐ではなかった。よく見たら上級生と思われる人もいるし。自分のクラスにいなくていいのかな?
こっそり笑みを零さずにはいられないほどの優越感である。人から褒められるのって気持ちが良いものだね。
先生が教室に来ると、先生からも褒められた。それも毎授業先生が入れ替わる度に、である。
休み時間も毎回わたしの席に集まって賞賛の嵐が続いた。もう一生分褒められた気分だ。
これはもう、あれですかね? 言ってもいいんじゃないですかね? 言いますよ。言いますからね!
わたしの時代到来!!
これだけ褒められるとにやにやせずにはいられない。もうほっぺた落ちそうなくらいゆるゆるです。
「舞い上がりすぎだ! キミはアルバートの生徒としての品格を持ちたまえ」
そんなわたしに窘めるような声がかけられる。冷や水を浴びせられたみたいに体がビクリと跳ねた。
「ル、ルヴァイン先輩……」
「まったく……、名誉を与えられた時こそ自身を律せよ、エイウェル家の家訓だ」
「は、はぁ……」
シエル家にそんな家訓はございませんがね。むしろ名誉なんて与えられたことがあるかどうかさえ疑問だ。
わたしの両親だったら人の目を気にしないくらいはしゃいでしまいそうだ。そして自慢しまくる。普段自慢できない人ほどこういう時にはしゃいじゃうんじゃないかな。
……つまりわたしか。
「だが」
ルヴァイン先輩は改まった雰囲気を出してわたしを見つめる。
「対校戦優勝おめでとう。言うのが遅くなってしまったね」
「あ、いえ、こちらこそありがとうございます」
「礼なんて必要ないだろう。僕は何もしていない。すべてはエルの実力だ」
「いえいえ、そんなことないですよ。ルヴァイン先輩が応援してくれたからこそがんばれましたし」
実際、先輩に応援されてモチベーションが向上したからね。決勝戦は大変だっただけにありがたかった。
「そ、そうか? エルの力になれたのならよかったよ」
ルヴァイン先輩は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。この照れ屋さんめ。
本当にたくさんの人が応援してくれた。それがわたしの力になったことは事実だ。本当に感謝している。
そして、今は応援してくれた人以上の人々がわたしを賞賛してくれている。
「本当に、応援ありがとうございました」
「……ああ。よくがんばってくれた。キミは僕達アルバート全生徒の誇りだ」
感謝を込めて頭を下げる。こんなに気持ち良く頭を下げることができるのだということを知ったのだった。
※ ※ ※
「おっと」
校舎を歩いていると、ホリンくんとコーデリアさんが二人きりでいる場面を目撃してしまった。咄嗟に身を隠す。
ふぅ、我ながら素晴らしい反応速度だった。
……じゃないっ。別に隠れなくてもよかったのでは? そのまま気づかないフリをして通り過ぎれば隠れ続けなくてもよかったのに……。不覚なり。
二人は何を話してんだろ? ここからじゃよく聞こえないな。
そういえば、二人からはまだ「おめでとう」って言ってもらってなかったな。いろいろとバタバタしてたからタイミングを完全に逃していた。
うーむ、やっぱり二人にこそ褒めてほしい。同じ学年で一番仲良しの男の子と女の子なのだ。やっぱり他の人から言われる「おめでとう」よりも二人から聞く言葉の方が嬉しいと思う。
でも、なんか立て込んでるのかなぁ。声はよく聞こえないけれど、コーデリアさんがホリンくんに何かを言っているようだった。さっきから彼女の口しか動いていない。
まさか……コーデリアさん猛烈ラブアタック中!?
いやいやこんなところで。いや、わたしを除けば今はあの二人だけの空間だ。そういう雰囲気ということで合ってるのか?
こっそりと二人を観察してみる。
赤毛のワイルド系イケメンと金髪盾ロールの美少女お嬢様。タイプは違えど、どちらも美形であることには変わりはなかった。
これって、実はお似合いのカップルになるのでは……?
「エルくん? そんなところで一体何をしているんだい?」
「ほわあっ!?」
「うおっ!? な、何をっ!?」
背後からいきなり声をかけられてびっくりしてしまった。びっくりついでに声をかけてきた人物を物陰へと引きずり込んだ。
我ながらすごい早業だった。おかげでホリンくんとコーデリアさんには見つからなかったみたい。
ふぅ、と一安心。
「……なかなかキミも大胆なのだね」
「うっひゃあっ!?」
わたしが物陰に引きずり込んだ相手はシグルド先輩だった。
しかもわたしがシグルド先輩を押し倒すような態勢になっている。思わず飛びのきそうになったのだが、物陰ということもあってちょっとしか離れられなかった。
「おっと、エルくんになら私は襲われても構わなかったのだがね」
「な、な、な、何を言っとりますですかーっ!」
わたしの方が何を言ってるんだ。この場合悪いのはわたしではないか。
というか二人に気づかれたんじゃあ……。心配になって目を向ければ、話に夢中なのかこっちに注意を向ける素振りすらなかった。
ふぅ、と一安心。
「ホリンと……コーデリア嬢か」
わたしの視線に気づいたのかシグルド先輩も二人を見た。
「ちょっと! のぞき見はダメですよ!」
「ほう? エルくんはのぞき見していないというのだね?」
「うぐっ……」
痛いところを突かれると反論が出てこない。ちなみにこのやり取りは小声です。
「エルくんは、あの二人の間柄を知っているのかい?」
「えっ、その……」
それはつまりコーデリアさんがホリンくんのことを好きという情報を知っているかということでしょうか? っていうかシグルド先輩も知ってるの!?
わたしがあたふたしていると、シグルド先輩は勝手に納得してくれたようだった。
「ふむ、その様子だと知らないようだね。……私達がここにいても彼らに迷惑がかかるだろう。ここから離れようか」
「は、はい」
わたしはシグルド先輩に手を引かれながらこの場を後にした。
コーデリアさんがんばれ! わたしは遠くからあなたのことを応援してるよ。心の中だけでエールを送った。
「ここまでくれば大丈夫だろう」
「そ、そうですね」
やれやれ無事に二人から見つからずに離れられた。変な邪魔をしたくはないからね。
「エルくん」
シグルド先輩に名前を呼ばれる。その顔は真剣なものだった。
その表情はあの時のことを思い出させる。
『エルくん、私のものにならないか』
「ひゃあっ!?」
反射的にシグルド先輩の手を振り払ってしまう。というか手を繋いだままだってことに今更ながら気が付いた。
頭の中にシグルド先輩の言葉がリピートされる。いや、それもういいから!
頭の中で流れるシグルド先輩の言葉を振り払おうとする。あれは絶対そういう意味じゃないからっ。
「エルくん」
もう一度、名前を呼ばれた。
「あの時の返事を、聞かせてほしい」
いくら振り払おうとしても、現実は待ってくれないのだった。
「対校戦を優勝するなんてすごいじゃないか!」
「キミはアルバート魔道学校の誇りだ!」
対校戦が終って休日を挟んでからの学校。
教室に入って席に着く。それと同時に生徒がわたしの周りに集まってきた。そうして先ほどの言葉を浴びせられているというわけである。
「すごい」を連発されて返って変な気分だ。いやまあすごいことをしたんだろうけどさ、こんな貴族の方々に言われるとこれまた不思議な感じなんですよ。見下した目を向けられていたからなおさらね。
対校戦中もそれなりに応援はされていたけれど、ここまでの賞賛の嵐ではなかった。よく見たら上級生と思われる人もいるし。自分のクラスにいなくていいのかな?
こっそり笑みを零さずにはいられないほどの優越感である。人から褒められるのって気持ちが良いものだね。
先生が教室に来ると、先生からも褒められた。それも毎授業先生が入れ替わる度に、である。
休み時間も毎回わたしの席に集まって賞賛の嵐が続いた。もう一生分褒められた気分だ。
これはもう、あれですかね? 言ってもいいんじゃないですかね? 言いますよ。言いますからね!
わたしの時代到来!!
これだけ褒められるとにやにやせずにはいられない。もうほっぺた落ちそうなくらいゆるゆるです。
「舞い上がりすぎだ! キミはアルバートの生徒としての品格を持ちたまえ」
そんなわたしに窘めるような声がかけられる。冷や水を浴びせられたみたいに体がビクリと跳ねた。
「ル、ルヴァイン先輩……」
「まったく……、名誉を与えられた時こそ自身を律せよ、エイウェル家の家訓だ」
「は、はぁ……」
シエル家にそんな家訓はございませんがね。むしろ名誉なんて与えられたことがあるかどうかさえ疑問だ。
わたしの両親だったら人の目を気にしないくらいはしゃいでしまいそうだ。そして自慢しまくる。普段自慢できない人ほどこういう時にはしゃいじゃうんじゃないかな。
……つまりわたしか。
「だが」
ルヴァイン先輩は改まった雰囲気を出してわたしを見つめる。
「対校戦優勝おめでとう。言うのが遅くなってしまったね」
「あ、いえ、こちらこそありがとうございます」
「礼なんて必要ないだろう。僕は何もしていない。すべてはエルの実力だ」
「いえいえ、そんなことないですよ。ルヴァイン先輩が応援してくれたからこそがんばれましたし」
実際、先輩に応援されてモチベーションが向上したからね。決勝戦は大変だっただけにありがたかった。
「そ、そうか? エルの力になれたのならよかったよ」
ルヴァイン先輩は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。この照れ屋さんめ。
本当にたくさんの人が応援してくれた。それがわたしの力になったことは事実だ。本当に感謝している。
そして、今は応援してくれた人以上の人々がわたしを賞賛してくれている。
「本当に、応援ありがとうございました」
「……ああ。よくがんばってくれた。キミは僕達アルバート全生徒の誇りだ」
感謝を込めて頭を下げる。こんなに気持ち良く頭を下げることができるのだということを知ったのだった。
※ ※ ※
「おっと」
校舎を歩いていると、ホリンくんとコーデリアさんが二人きりでいる場面を目撃してしまった。咄嗟に身を隠す。
ふぅ、我ながら素晴らしい反応速度だった。
……じゃないっ。別に隠れなくてもよかったのでは? そのまま気づかないフリをして通り過ぎれば隠れ続けなくてもよかったのに……。不覚なり。
二人は何を話してんだろ? ここからじゃよく聞こえないな。
そういえば、二人からはまだ「おめでとう」って言ってもらってなかったな。いろいろとバタバタしてたからタイミングを完全に逃していた。
うーむ、やっぱり二人にこそ褒めてほしい。同じ学年で一番仲良しの男の子と女の子なのだ。やっぱり他の人から言われる「おめでとう」よりも二人から聞く言葉の方が嬉しいと思う。
でも、なんか立て込んでるのかなぁ。声はよく聞こえないけれど、コーデリアさんがホリンくんに何かを言っているようだった。さっきから彼女の口しか動いていない。
まさか……コーデリアさん猛烈ラブアタック中!?
いやいやこんなところで。いや、わたしを除けば今はあの二人だけの空間だ。そういう雰囲気ということで合ってるのか?
こっそりと二人を観察してみる。
赤毛のワイルド系イケメンと金髪盾ロールの美少女お嬢様。タイプは違えど、どちらも美形であることには変わりはなかった。
これって、実はお似合いのカップルになるのでは……?
「エルくん? そんなところで一体何をしているんだい?」
「ほわあっ!?」
「うおっ!? な、何をっ!?」
背後からいきなり声をかけられてびっくりしてしまった。びっくりついでに声をかけてきた人物を物陰へと引きずり込んだ。
我ながらすごい早業だった。おかげでホリンくんとコーデリアさんには見つからなかったみたい。
ふぅ、と一安心。
「……なかなかキミも大胆なのだね」
「うっひゃあっ!?」
わたしが物陰に引きずり込んだ相手はシグルド先輩だった。
しかもわたしがシグルド先輩を押し倒すような態勢になっている。思わず飛びのきそうになったのだが、物陰ということもあってちょっとしか離れられなかった。
「おっと、エルくんになら私は襲われても構わなかったのだがね」
「な、な、な、何を言っとりますですかーっ!」
わたしの方が何を言ってるんだ。この場合悪いのはわたしではないか。
というか二人に気づかれたんじゃあ……。心配になって目を向ければ、話に夢中なのかこっちに注意を向ける素振りすらなかった。
ふぅ、と一安心。
「ホリンと……コーデリア嬢か」
わたしの視線に気づいたのかシグルド先輩も二人を見た。
「ちょっと! のぞき見はダメですよ!」
「ほう? エルくんはのぞき見していないというのだね?」
「うぐっ……」
痛いところを突かれると反論が出てこない。ちなみにこのやり取りは小声です。
「エルくんは、あの二人の間柄を知っているのかい?」
「えっ、その……」
それはつまりコーデリアさんがホリンくんのことを好きという情報を知っているかということでしょうか? っていうかシグルド先輩も知ってるの!?
わたしがあたふたしていると、シグルド先輩は勝手に納得してくれたようだった。
「ふむ、その様子だと知らないようだね。……私達がここにいても彼らに迷惑がかかるだろう。ここから離れようか」
「は、はい」
わたしはシグルド先輩に手を引かれながらこの場を後にした。
コーデリアさんがんばれ! わたしは遠くからあなたのことを応援してるよ。心の中だけでエールを送った。
「ここまでくれば大丈夫だろう」
「そ、そうですね」
やれやれ無事に二人から見つからずに離れられた。変な邪魔をしたくはないからね。
「エルくん」
シグルド先輩に名前を呼ばれる。その顔は真剣なものだった。
その表情はあの時のことを思い出させる。
『エルくん、私のものにならないか』
「ひゃあっ!?」
反射的にシグルド先輩の手を振り払ってしまう。というか手を繋いだままだってことに今更ながら気が付いた。
頭の中にシグルド先輩の言葉がリピートされる。いや、それもういいから!
頭の中で流れるシグルド先輩の言葉を振り払おうとする。あれは絶対そういう意味じゃないからっ。
「エルくん」
もう一度、名前を呼ばれた。
「あの時の返事を、聞かせてほしい」
いくら振り払おうとしても、現実は待ってくれないのだった。
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