根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

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二章 魔道学校編

番外編 前世の記憶

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 いつから俺は内向的な性格になってしまったのだろうか。
 子供の頃はまだいい方だったと思う。バカなままでも友達がいた。この時はまだ、俺は人との交流を持っていたのだ。
 クラスの中心になるような奴じゃなかったけれど、クラスの端っこで数人と遊べるくらいには友達がいたんだ。
 昨日観たアニメの話をしたり、下手くそな四コママンガを見せたりなんかして笑ってた。それはちゃんと心の底からだったと思う。
 このまま成長して、大人になれば勝手にできる人間になれると思っていた。大人ってのはなんでもできる生き物だと思っていたのだ。
 ……そんな勘違いをしていた。

 中学生になったあたりからだろうか。人と話が噛み合わなくなった。
 アニメの話をするのも、自分が描いたマンガを見せるのも恥ずかしく思うようになった。そんなことを口にするだけで笑いものになってしまうんじゃないかっていう恐怖が芽生えるようになっていた。
 みんなは体の成長とともに心も成長していくようだった。早い奴なんかは彼女ができたとか、苦労している奴なんかは親の仕事を手伝っているのだとか、そんな話を耳にするようになった。
 だんだんとみんな大人になっていく。俺は未だに子供のままだ。それに焦りを覚えるようになった。
 子供っぽかった俺だけど、変に真面目だったのだ。だけどそれは優秀でも有能でもない。
 勉強をがんばった。がんばった結果平均点を少しだけ上回れるようになった。でもそれが限界だった。
 運動をがんばった。ある程度はできるようになったけど、経験者からは足元にも及ばない。
 何か趣味を始めようと思った。どれも続かず飽きてしまった。多少はスキルが身についたかもしれないが、結局本職には到底敵わない。
 がんばっても人並程度にしか向上しない。俺には圧倒的に才能がなかった。
 アニメやマンガでは生涯をかけての努力なんて当たり前のようにするけれど、俺には無理だった。
 がんばったのなら結果がほしい。がんばっても大したものを得られないのならやる意味なんてあるのだろうか? そんな考えばかりが頭の中に広がる。
 何も得られなかった中学時代。それでも俺はまだ諦めたわけじゃなかった。
 高校生になったら世界が変わるほどに楽しい出来事が待っている。そんな夢を見ていた。
 完全に創作物に影響を受けまくっていやがった。勝手ながらこんな俺にも青春ラブコメがあるとか思ってしまっていたのだ。
 結論を述べるが、もちろんそんなことは一切なかった。
 むしろ高校に入ってより一層スクールカーストってやつが見えてきた。上の連中は明るくて人見知りなんて無縁だって感じのキラキラした奴等なのだ。
 俺とは正反対だ。
 気が付いた時には俺は人見知りするようになっていた。そうなると自然に暗い性格となっていた。そう認識されるようになっていた。
 こんな自分を知られるのが恥ずかしい。暗い性格で誇れるものなんて何もない。そんな自分が恥ずかしくてたまらなくなっていた。
 それでもまだ、諦めてはなかった。未だに打開策を求めていたのだ。

 そうだ。友達を作ろう。贅沢を言えば親友と呼べる存在がほしい。
 こんな俺でも笑って接してくれる人。そういう人がほしかった。
 俺はクラスであぶれている奴を探すようになった。自分と同じ立場なら友達になりやすいと考えたのだ。
 そして、そいつはいた。
 チャンスをうかがって、俺は勇気を振り絞って話しかけた。この時の勇気は俺の人生の中でもなかなかないほどに絞りまくってやったね。
 声をかけて、そいつと友達になったんだ。
 あの瞬間は本当に嬉しかった。ちょっとだけ、自分が買われた気さえした。
 そいつとぎこちないながらも学校で話すようになった。
 そいつはクラスでは一人だったものの、友達は多い方だったらしい。いや、俺を基準にするとほとんどが友達多い奴になっちまうな。とりあえずそいつは俺とは別の友人がいた。
 休日、どこかへ遊びに行こうということになった時、そいつの友達もいっしょにという話になった。俺に断れるはずもなく、了承した。
 そうして、そいつとその友達何人かが来た。俺は緊張の塊が体を支配していたんじゃいかってくらいガチガチだった。そいつにとっては友達でも、俺にとっては初対面だったのだ。人見知りにはきつい。
 俺とそいつのぎこちなさとは違う。本当の友人といった感じのやり取り。それを間近で見る俺に入っていける余地はなく、なんとか愛想笑いを振り絞るだけで精一杯だった。
 どうしても馴染めない。相槌を打つことしかできやしない。
 人と楽しく遊ぶためにはどうすればいいんだ? 友達と遊んでいる最中のはずなのに、俺はそんなことばかりを考えていた。
 並んで歩く。俺は一人、その後ろをついて行くだけだった。
 少しでも距離が開いてしまったら、そいつらから俺の存在自体が忘れ去られる気がしていた。並んでは歩けないけれど、離れないように必死だった。
 一人、俺の方に振り向いた。それは友達になったあいつだ。そいつが口を開く。

「なあ、なんでお前ここにいんの?」

 言われた瞬間、俺は固まってしまった。
 手足が冷えた気がした。喉がからからになった気がした。頭の中が真っ白になった。
 どう返答していいかわからなかった。口が動かない。だけど、唇は震えているのはわかった。
 そいつは返答なんて求めてなかったのか、すぐに前を向いてしまった。他の奴等も気にする素振りさえない。
 そいつにとっては何気ない言葉だったのかもしれない。もしかしたらそんなに深い意味はなかったのかもしれない。
 ただ、俺の心をへし折るには充分だった。
 俺は立ち止まり、奴等から置いて行かれる。誰も気になどしない。たぶん俺がいなくなったところでどうでもいいのだろう。
 結局、俺は誰からもどうでもいい存在だと思われている。それがよくわかった。
 俺だって、俺だってそうだ。みんなどうでもいい存在だ。そいつらがどうなったところで俺には関係ない。むしろ変に近づこうとしたからこんな苦しい思いをするのだ。
 いらない存在のくせにプライドがあった。いや、そんな扱いをされたからこそなのか。
 ただ、ここで俺は自分自身に見切りをつけた。

 こうして俺は他人を拒絶するようになった。傷つかなくていいのだからこっちの方が楽だとさえ思った。
 でも、小さな傷は増えていく。それを気にしないフリをする。それが続いていって高校を卒業し、大学を卒業し、社会人となった。
 何もない。本当に何の変化もない。ただただ平坦な道を歩くだけの人生だった。
 それが自分自身の殻に閉じこもっていた結果だってのはわかってる。だからってそこから出たいと思わなかった。
 出てしまえば余計な苦しさを味わう。そんな恐怖心でがんじがらめになっていたのだ。
 波乱万丈な人生ではない。もっと大変な人なんて腐るほどいるだろう。こんなことで不幸だなんて考えるのは怠惰に過ぎる。
 だというのに俺は、俺って奴は、他人に何の影響も与えてないのだと思うだけで死んでしまいたくなっていた。
 誰からも必要とされない。自分を誇れるものが何一つない。俺を支えるものなんて何もなかった。
 大人になったらなんでもできる人になれるだなんて、そんなわけがない。できる奴はそれ相応の人生を歩んでいる。断じて俺のような人間ができる大人だなんてことはない。
 小さな棘が心に刺さる。小さいからって放っておいた結果、俺の心は棘だらけになってしまった。

 社会人になって働いていた頃、ふとアニメを観た。主人公が自分や仲間の力でバッタバッタと問題を解決していくという話だ。
 それがとても羨ましくて。なぜ俺はこんな何も持たない大人になってしまったのだろうかと絶望した。
 全部俺が悪い。そんなのわかってる。俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が俺が!! 何もかも俺のせいだ……。
 もっと明るい性格ならば、もっと才能があれば、そうしたらもっと幸せな人生が送れるはずだ。そうでなければならない。
 こんな恥ずかしくてちっぽけでつまらない男。さっさと死んでしまえ! そう願った。


  ※ ※ ※


「はっ!? ……夢か」

 なんか無駄に暗い夢を見てしまったような……? 夢なんて起きたらすぐに忘れちゃうか。もう一片たりとも覚えてないや。
 全身汗びっしょり。ベッドのシーツまで濡れてる。痩せてしまいそうなくらいの発汗。ダイエットしてる女子には羨ましがられちゃうかもね☆ なんちゃって。
 このままじゃあ気持ち悪いから体を拭いて着替え用か。シーツの洗濯は朝メイドさんがしてくれるだろう。
 魔法で濡れタオルを作る。寝間着を脱いで体を拭いた。
 月明りだけが部屋を照らす。まだ夜中のようだった。
 鏡が目に入ったので体を拭き終わってから確認のため見ておくことにした。

「なんかすごい疲れた顔してるなぁ……」

 悪い夢でも見ていたのだろうか? どっちかっていうとようやく対校戦が終って疲れが今になって出ちゃったってとこなのかな。

「あんまり人前に出したくない顔だぞ。マッサージして、スマイルスマイル」

 両手で頬をマッサージする。笑顔を作って、はい完璧。
 いい表情になったところで新しい寝間着に袖を通す。明日は休日なので起きててもいいかと思ったけど、やっぱり寝ることにした。
 対校戦で優勝した。きっとみんながわたしを見る目が変わるだろう。それは良いことに違いなかった。

「明るくて、才能があって、美少女。これで対校戦優勝っていう肩書があれば、順風満帆のはずだよね……」

 この世界に生まれた時から、未だにわだかまるようにある不安。
 そんなもの、きっともうすぐなくなる。わたしはネガティブではなくポジティブな人間なのだから。
 目を閉じて眠りにつく。今度は良い夢が見れますように。そう願った。
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