根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

文字の大きさ
上 下
43 / 127
二章 魔道学校編

第40話 決勝戦開始! 初っ端から作戦実行

しおりを挟む
 朝起きて、ご飯を食べて軽いストレッチをした。
 体調は万全だ。昨日のような醜態をさらすことはないだろう。
 さて、決勝戦だ。
 こんな大舞台、前世だって経験したことがない。なんだか胸のドキドキが止まらないよ。
 でもそれは緊張での硬さとは違うんだと思う。武者震いって言うのかな。そんな風に思えるなんて、わたしも成長したってことなのかな。
 準備を整えて闘技場へと向かう。すでに大勢の人が集まっていた。みんな決勝戦を見に来たのだろう。
 このお祭り騒ぎも今日で最後か。そう思うとちょっと寂しい気分。
 本日は決勝戦の一試合だけなので、試合開始は正午からとなる。
 わたしはそれまで控室で休むことにした。仮眠用のベッドで横になる。
 早めにきたからか誰もいない。わいわいとした声が遠くから聞こえるだけだ。
 無駄な緊張はしないように。落ち着いて作戦通りにやるのだ。
 目をつむってイメージトレーニングを繰り返す。勝利者インタビューなんかも考えちゃったりして。インタビューはないか。
 こういう勝つイメージをすることも大事だって、前世のどっかでそういう本を読んだ覚えがある。まあそんなことまったく活かせられなかったんだけどね。それを今さら思い出す。

「おっ、早いんだな」
「ん、ホリンくん?」

 控室のドアが開く音で目を開く。上体を起こすとホリンくんがいた。

「ホリンくんこそ早いんだね。どうしたの?」
「ん、まあな。とくに用事はねえんだけどよ……」

 ホリンくんは頭をかきながら視線を上に向けて、ゆっくりとわたしへと戻した。

「……がんばれよ。それを今日一番にお前に言いたかったんだ」

 だからさ、そういうこと言うの反則だと思うんだ。顔がにやけちゃいそうになるから。
 わたしはベッドの上で体育座りをして顔を膝に埋める。これでなんとか顔を見られずにすむ。

「うん。任せてよ」

 これだけのやり取りでホリンくんのいろいろな想いをもらった気がした。
 ホリンくんだって最初は代表者になりたくてすごく努力していた。もちろん出場するのもそうだけど、勝ち上がりたかったはずだ。自分のがんばりを認めてほしかったはずだ。
 そういった想いを、きっとわたしに託してくれたのだ。
 いやはや、昨日のルヴァイン先輩もそうだけど、わたしをにやにやさせてくれる男子ばかりですなー。
 ……本当にがんばらなきゃね。
 それからホリンくんと静かに時がくるのを待った。
 沈黙って苦になるものばかりだと思っていたけど、心地の良い沈黙ってのがあることを知った。
 しばらくして先生や他の代表者が控室に集まってきた。みんなわたしに激励してくれた。
 ちょっとシグルド先輩とだけは気まずいのでスルーさせてもらった。先輩も同じなのかわたしと距離を取っているようだった。
 対校戦が終わったらあのことを返事しなくちゃいけないのかなぁ……。いやいや! 今はそんなこと考えてる場合じゃない。試合に集中せねば。
 そんなこんなしているうちに、ついに時間がきた。

「エル・シエル様。時間がきましたのでこちらへどうぞ」
「はい」

 いつも通りの案内のおじさんだ。これで見納めだと思うと寂しくなっちゃう。なんちゃって。
 よしよし、リラックスできてるみたい。

「では、行ってきます」

 そう言って控室を後にする。背中にかかる応援の声が心地良かった。
 もう慣れてしまった廊下。そして、これまた慣れてしまった戦いのフィールドが眼前に広がる。
 歓声がわっと巻き起こる。今まで以上の熱量を感じる。決勝戦ってのは本当にものすごい舞台なんだと肌で実感する。
 みんなわたしを見ているのか……。一回戦の時とは違う視線だ。その違いってのは期待があるってことなんだろう。
 こんなわたしが期待されてるのか。前世じゃあ無縁のことだったな。
 でも、今のわたしは誰かに期待されるほどの力を持っているのだ。
 それはこの対校戦で勝ち残ったことで証明されている。いらない謙遜はよそう。わたしは強い!
 だからディジーにも勝ってみせる。それがわたしに期待されていることなのだから。

「やあエル。この前いっしょに食事した時以来だね」

 わたしに遅れてディジーが姿を現した。とんがり帽子に黒いマント。ズボンを履いているのが妙に似合っている。それは彼女が女らしくないという意味ではない。よく見るとけっこう胸があるしね。
 ディジーの登場もすごい歓声で迎えられた。それに対して彼女に臆した様子は微塵もなかった。
 この舞台においても彼女はひょうひょうとした態度であった。まあガチガチに緊張しているような性格だったらこんなところまで勝ち上がってはいなかっただろう。

「そうだね。……ディジー、今日はよろしく」
「こちらこそ。本気で頼むよ。ボクも全力でやりたいからさ」

 まるで今までの戦いで全力を出していなかったかのような口ぶりだ。でも実際そうなのかもしれない。ディスペルを使ってほとんどそのパターンで勝っているのだ。まだ見せていない手があってもおかしくない。
 う、うーむ。ほどほどでお願いしたいなぁ。
 審判がわたし達の間に入る。

「二人とも準備は整っているか?」

 最終チェックだ。この覚悟を決める間は毎回ありがたかったな。

「はい」
「いつでもどうぞ」

 審判の男は頷いた。わたしとディジーはお互いの距離を広げ開始位置へとついた。

「それでは皆様静粛に! これより決勝戦を始めたいと思います!」

 審判の声が会場中に響いた。
 ついに始まる。杖を持つ。その手に必要以上の力が入らないように気をつける。

「アルバート魔道学校のエル・シエルとカラスティア魔道学校のディジーとの魔法戦を始める!!」

 わたしとディジーは構えをとった。とんがり帽子の下の目は涼し気だ。
 まずはその余裕から崩してやる!
 頭に思い描くのは昨晩立てた作戦だ。これはスピードが命。ディジーに考える暇を与えちゃダメだ。
 心臓のドキドキを軽い息遣いで落ち着ける。こういうのもすっかり慣れたもんだ。今なら人前でのスピーチも怖くないね。
 審判の目がわたしとディジーを交互に見る。ピリピリとした空気の中、ついに審判の手が振り下ろされた。

「始め!!」

 審判の開始宣言。その開始早々、わたしは無詠唱で石の弾丸を打ち放った。
 その数は三十ほど。すべてに固定化と回転を加えている。魔力の消費は大きくなるものの、これくらいなら全然余裕だ。

「――ディスペル」

 当然と言うべきか、ディジーは高速詠唱でわたしの魔法を解除していく。固定化がかかっているというのに、次々と石の弾丸が消えていく。
 だけど、間に合う速さじゃない!
 ディスペルで消しそこなったのは十ほど。充分な数だ。

「くっ」

  ディジーは消しきれなかった石の弾丸を跳躍してかわした。
 なんかすごいジャンプ力だったぞ。あの弾丸を体一つでよけるなんて。もしかして身体能力向上の魔法でも使ったか?
 だけど攻撃はやめない。休む間もなく石の弾丸を追加していく。
 わたしの作戦。それはディジーのディスペルが間に合わないほどの物量で攻めまくるという作戦だった。
 ぶっちゃけゴリ押しだ。作戦と呼べるようなものではないのかもしれない。
 でも、これがディスペルに対抗するわたしなりの手段だ。
 うまくいってるのか、ディジーの表情から余裕が消えている。常に動き続けながら詠唱をしている姿は、わたしから見ても大変そうだった。

「いや、実におもしろいね」

 ディジーの動きが止まる。なんで? 止まったらただの的になってしまうのに。
 いや、疑問を挟んでる暇はない。ここがチャンスとばかりに魔力を集中させる。
 狙いを定めて石の弾丸を放つ。何十もの石の凶弾がディジーに襲い掛かる。
 だというのに、よけるどころかディスペルも発動しない。消えることなく石の弾丸がまっすぐディジーへと向かう。
 まさか魔力切れか? 固定化つきの石の弾丸を解除していくのは思った以上に魔力を使うのか。

「――エリアディスペル」

 ディジーに向かっていた石の弾丸が全部消えた。全部!?
 ディジーの口角が持ち上がる。余裕の表情に戻っていた。

「さて、今度はボクの番だ。反撃させてもらおうか」

 背中に冷汗が流れた。お手柔らかにと言ってもいいですか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したもののトカゲでしたが、進化の実を食べて魔王になりました。

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
異世界に転生したのだけれど手違いでトカゲになっていた!しかし、女神に与えられた進化の実を食べて竜人になりました。 エブリスタと小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...