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二章 魔道学校編
第38話 バタバタの準決勝
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今日は調子が悪い。
朝からそう感じたものの休んでいるわけにはいかない。だって今日は対校戦の準決勝があるのだから。
「なんか魔法がうまくできないぃぃぃぃーーっ!?」
無理を押して準決勝に出たものの、現在わたしは逃げ回っております!
準決勝の相手はビラノフ魔道学校のヘンリー・ジュラノフという男だった。背丈がわたしとそう変わらないので男っていうより男の子って感じだ。
けれど、実力はかなりあるようだった。
聞くところによれば今年のビラノフで最強の生徒なのだそうだ。
水の上位魔法をバンバン撃ってくるほどの魔力を持っている。しかもそれを高速詠唱でやってくれちゃったりするので隙がない。同じビラノフでも初戦のノーマンとは大違いである。
対するわたしは魔法を失敗してばかりだ。無詠唱で放とうとするものの途中で霧散したり、成功したとしても威力がいつもより何段階も見劣りしていた。
こんなのは初めてだ。
アルベルトさんから魔法を教わってから自身の魔力をしっかりと感じ取れていた。なのに今日に限ってその流れが滞っているというか、濁っているような感覚があった。
もしかして病気かな? ウィリアムくんも最初弱っていた時はかなり循環が悪かった。今回のわたしはそれに近いように思える。
熱でもあるのかな? こんな時に風邪を引くとかついていないにもほどがある。
「わあああああぁぁぁぁっ!?」
背後から水の塊が襲ってくる。土の壁を作るものの強度を保っていられない。簡単に破壊されてしまった。
ヘンリーは自分の周囲にウォーターボールを作っている。それがものすごい速さで襲い掛かってくるのだ。どこまで水圧があるのかは知らないが、一発でも喰らったら致命傷になるであろうほどの威力がある。
くそー、にやにやして余裕たっぷりみたいな態度だ。わたしが自分の魔法で逃げ惑うのがおもしろくて仕方がないらしい。
開始早々津波のような水魔法でわたしに攻めてきたのに。こっちが調子が悪いと知ってからは水の弾丸を一発ずつ撃ってきて反応を楽しんでる。なんて性格が悪いんだ。
すでにベスト4。どちらか勝った方が決勝進出だ。弱いわけがない。
そんな大事な時に調子を崩してしまったわたしが悪いか。
水の弾丸が襲い掛かる。一発、いや二発きた!
無詠唱で土壁を作る。また強度が足りない。一発は防いだがすぐに二発目がきた。
「くっ!」
横っ飛びで転がることでギリギリでかわした。いや、なんかピシッ! ていう嫌な音がしたぞ。かすったかもしれない。
かするだけでもダメージがある。魔障壁が壊されてしまったらそこで終わりだ。
こんな形で負けたくない。なんとかしないと……っ。
なんとか調子を戻せないものか。魔力の循環を良くするために深呼吸をしてみる。大気のマナを取り込んで自身の魔力へと変換していく。
「ほらほらー! 早く逃げないと終わっちゃいますよ!」
実に楽しそうにヘンリー少年は魔法を放つ。こいつ絶対ドSだ!
足を動かさないといけないのでゆっくり深呼吸もできない。そりゃ戦ってる最中だもんね。当然のことだ。
今までやばい時は無詠唱の魔法に頼ってきただけに、それが使えないと簡単にピンチに陥ってしまう。
「集いし炎よ、我の手に、敵を射抜く矢とならん」
だったら詠唱すればいい。
もともと杖や詠唱ってのは魔法を潤滑に発動するためにあるものなのだ。補助輪のついた自転車で転ぶことはない。
「フレイムアロー!」
四本の炎の矢を出現させる。
よし! 失敗せずにできたぞ。
すぐさま炎の矢を射出する。赤い軌跡を描きながらヘンリーへと遅いかかる。
ヘンリーは周囲のウォーターボールを集合させて水の壁を作った。
「うっ……」
炎の矢と水の壁が衝突し、轟音を巻き起こす。熱い水蒸気が辺りを包む。
視界が白く染まる。ヘンリーの姿が見えない。それは相手がわたしの姿も見えないということだ。
「土よ集え、大地のかけらよ、すべてを破壊する槌とならん――アースストライク!」
巨大な槌がヘンリーがいるであろう位置に向かって振るわれる。
「ダイダルウェーブ!」
水蒸気を押しのけるように津波のような波が押し寄せる。あれは水の上位魔法だ。考えることはいっしょか。
確かに強いがアースストライクを防ぐほどではない。だがフィールド全体を覆えるほどの大波だ。こっちもそれを防いではいない。
ならばと続けて詠唱。自分の周りにドーム状の土壁を作る。真っ暗な中で固定化、固定化、固定化! 大波にやられないほどの強固な防御をする。
衝撃が走る。なんか揺れていて怖くなる。
衝撃が収まるまで待ち続けた。収まってもしばらく土壁を消さずにいた。
さらにしばらくしてからコンコンとノック音が響いた。
恐る恐る土壁を解除するとそこには審判がいた。
「勝者エル・シエル!」
……なんか気が付いたら勝ってた。
どうやらヘンリーはわたしのアースストライクを防ぐ手段を持っていなかったようだ。
なんだか実感が湧かない勝ち方をしてしまった。ま、まあ勝ちは勝ちだ。
調子が悪くてバタバタしてしまったけれど、なんとかこれで決勝進出だ!
今回の対戦相手
ビラノフ魔道学校のヘンリー・ジュラノフ(14)。
ビラノフ最強であり、水魔法を高速詠唱で扱う。弱い者いじめ好き。天才と呼ばれ伸びしろも大きいと見られている。
実力が認められて若くして魔道学校の入学が許可された。ちなみに年齢制限があるのはアルバートとビラノフだけだったり。ビラノフはアルバートに次いで貴族が多い。
朝からそう感じたものの休んでいるわけにはいかない。だって今日は対校戦の準決勝があるのだから。
「なんか魔法がうまくできないぃぃぃぃーーっ!?」
無理を押して準決勝に出たものの、現在わたしは逃げ回っております!
準決勝の相手はビラノフ魔道学校のヘンリー・ジュラノフという男だった。背丈がわたしとそう変わらないので男っていうより男の子って感じだ。
けれど、実力はかなりあるようだった。
聞くところによれば今年のビラノフで最強の生徒なのだそうだ。
水の上位魔法をバンバン撃ってくるほどの魔力を持っている。しかもそれを高速詠唱でやってくれちゃったりするので隙がない。同じビラノフでも初戦のノーマンとは大違いである。
対するわたしは魔法を失敗してばかりだ。無詠唱で放とうとするものの途中で霧散したり、成功したとしても威力がいつもより何段階も見劣りしていた。
こんなのは初めてだ。
アルベルトさんから魔法を教わってから自身の魔力をしっかりと感じ取れていた。なのに今日に限ってその流れが滞っているというか、濁っているような感覚があった。
もしかして病気かな? ウィリアムくんも最初弱っていた時はかなり循環が悪かった。今回のわたしはそれに近いように思える。
熱でもあるのかな? こんな時に風邪を引くとかついていないにもほどがある。
「わあああああぁぁぁぁっ!?」
背後から水の塊が襲ってくる。土の壁を作るものの強度を保っていられない。簡単に破壊されてしまった。
ヘンリーは自分の周囲にウォーターボールを作っている。それがものすごい速さで襲い掛かってくるのだ。どこまで水圧があるのかは知らないが、一発でも喰らったら致命傷になるであろうほどの威力がある。
くそー、にやにやして余裕たっぷりみたいな態度だ。わたしが自分の魔法で逃げ惑うのがおもしろくて仕方がないらしい。
開始早々津波のような水魔法でわたしに攻めてきたのに。こっちが調子が悪いと知ってからは水の弾丸を一発ずつ撃ってきて反応を楽しんでる。なんて性格が悪いんだ。
すでにベスト4。どちらか勝った方が決勝進出だ。弱いわけがない。
そんな大事な時に調子を崩してしまったわたしが悪いか。
水の弾丸が襲い掛かる。一発、いや二発きた!
無詠唱で土壁を作る。また強度が足りない。一発は防いだがすぐに二発目がきた。
「くっ!」
横っ飛びで転がることでギリギリでかわした。いや、なんかピシッ! ていう嫌な音がしたぞ。かすったかもしれない。
かするだけでもダメージがある。魔障壁が壊されてしまったらそこで終わりだ。
こんな形で負けたくない。なんとかしないと……っ。
なんとか調子を戻せないものか。魔力の循環を良くするために深呼吸をしてみる。大気のマナを取り込んで自身の魔力へと変換していく。
「ほらほらー! 早く逃げないと終わっちゃいますよ!」
実に楽しそうにヘンリー少年は魔法を放つ。こいつ絶対ドSだ!
足を動かさないといけないのでゆっくり深呼吸もできない。そりゃ戦ってる最中だもんね。当然のことだ。
今までやばい時は無詠唱の魔法に頼ってきただけに、それが使えないと簡単にピンチに陥ってしまう。
「集いし炎よ、我の手に、敵を射抜く矢とならん」
だったら詠唱すればいい。
もともと杖や詠唱ってのは魔法を潤滑に発動するためにあるものなのだ。補助輪のついた自転車で転ぶことはない。
「フレイムアロー!」
四本の炎の矢を出現させる。
よし! 失敗せずにできたぞ。
すぐさま炎の矢を射出する。赤い軌跡を描きながらヘンリーへと遅いかかる。
ヘンリーは周囲のウォーターボールを集合させて水の壁を作った。
「うっ……」
炎の矢と水の壁が衝突し、轟音を巻き起こす。熱い水蒸気が辺りを包む。
視界が白く染まる。ヘンリーの姿が見えない。それは相手がわたしの姿も見えないということだ。
「土よ集え、大地のかけらよ、すべてを破壊する槌とならん――アースストライク!」
巨大な槌がヘンリーがいるであろう位置に向かって振るわれる。
「ダイダルウェーブ!」
水蒸気を押しのけるように津波のような波が押し寄せる。あれは水の上位魔法だ。考えることはいっしょか。
確かに強いがアースストライクを防ぐほどではない。だがフィールド全体を覆えるほどの大波だ。こっちもそれを防いではいない。
ならばと続けて詠唱。自分の周りにドーム状の土壁を作る。真っ暗な中で固定化、固定化、固定化! 大波にやられないほどの強固な防御をする。
衝撃が走る。なんか揺れていて怖くなる。
衝撃が収まるまで待ち続けた。収まってもしばらく土壁を消さずにいた。
さらにしばらくしてからコンコンとノック音が響いた。
恐る恐る土壁を解除するとそこには審判がいた。
「勝者エル・シエル!」
……なんか気が付いたら勝ってた。
どうやらヘンリーはわたしのアースストライクを防ぐ手段を持っていなかったようだ。
なんだか実感が湧かない勝ち方をしてしまった。ま、まあ勝ちは勝ちだ。
調子が悪くてバタバタしてしまったけれど、なんとかこれで決勝進出だ!
今回の対戦相手
ビラノフ魔道学校のヘンリー・ジュラノフ(14)。
ビラノフ最強であり、水魔法を高速詠唱で扱う。弱い者いじめ好き。天才と呼ばれ伸びしろも大きいと見られている。
実力が認められて若くして魔道学校の入学が許可された。ちなみに年齢制限があるのはアルバートとビラノフだけだったり。ビラノフはアルバートに次いで貴族が多い。
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