根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

文字の大きさ
上 下
23 / 127
二章 魔道学校編

第20話 お出かけの仕切り直し

しおりを挟む
「――というわけで、わたしは悪くないんだよ!」

 わたしはことのあらましをホリンくんに語った。
 ちなみに現在カフェでアップルパイを食べている。財布を盗まれたというのを聞いたホリンくんがおごってくれた。おごってくれた! 大事なことです。

「なんでわざわざ冒険者ギルドのある通りを行くのか」
「だからまだ土地勘がないんだってば。ホリンくんがはぐれるのがいけないんだよ!」
「俺ははぐれたりなんかしてねー。エルが迷子になったんだ」
「誰が迷子か! ホリンくんこそ迷子だったんだろっ」
「王都で俺が迷うかよ。まったく目を離してらんねー」

 呆れ気味のホリンくんだった。なんか納得いかない。

「エルがちっちぇえから探すの大変だったんだぞ」
「誰が小さいか! わたしは普通だよ。ホリンくんがでかいだけじゃん」

 わたしの身長は女子の中でも平均的だ。大きすぎず小さすぎず、ベストサイズと言っても過言じゃないね。
 それに対してホリンくんは大きいというか体格が良い。まともに体を鍛えてはいないであろう貴族連中と比べるとそれがよくわかる。
 身長は頭一つ抜きん出ているし、肩周りだってがっちりしている。
 別れる前のウィリアムくんがけっこうたくましくなっていたけれど、ホリンくんと比べると見劣りしてしまうほどだ。まあ他の貴族の男子と比べれば充分ウィリアムくんはたくましい部類に入るのだけど。
 そんな男子の中でも体格に恵まれたホリンくんと、女子の平均的であろう背丈のわたしとじゃあ身長差があって当然だ。
 まったく、比べないでもらいたいもんだよ。
 わたしはアップルパイを口いっぱいに入れて咀嚼する。異世界にもアップルパイがあるんだね~。女になったからなのか前世の時よりもおいしく感じる。

「……女のくせに食うのが速いな」
「ん? おいしいものはすぐ食べなきゃ。じゃないと冷めちゃうよ」
「そうだな。同感だ」

 そう言ってホリンくんが笑う。今笑うとこあったか?
 女だからってちびちび食べなきゃいけないルールなんてないでしょうに。まあ食べるスピードなんて人それぞれなんでしょうけど。

「あー……、あと財布盗んだって奴の外見を憶えている限りでいいから教えろ」
「んー、と言われましてもあんまり憶えてないんだよね。ちょっと肩と肩がぶつかっただけって意識だったし」

 小柄な男。わたしが憶えているのはそこまでだ。あんまり特徴とかなかった気がする。
 そんな感じなことをホリンくんに伝えた。彼はそれに頷くだけだった。
 まあ財布が戻ってくるなんて期待してない。全財産ってわけでもないから忘れることにしよう。
 スリがいたりガラの悪い冒険者がいたりと王都ってのは物騒なところだ。気をつけねば。もぐもぐ。

 わたしが思った以上に王都のことを知らなかったみたいで、見かねたホリンくんがいろいろと案内してくれた。田舎者ですみません。

 さて、このマグニカ国の王都には出入り口の門が四つある。
 それは東西南北に分かれている。ついでに冒険者ギルドも四つあり、それぞれ門とほどよく近いところにある。
 わたしが見た冒険者ギルドは北門の側にあるところだった。冒険者ギルド『ノース』。まんまの名前だった。
 ちなみにここでの魔道学校の数も四つ。四つ四つと四って数字が好きなんですかねー。ちょっと不吉な感じがしますよー。
 王都は中央にそびえ立つ城を中心に円を描くように広がっている。やはりと言うべきか、富裕層であるほど城に近いところに住んでいるようだ。
 それぞれの魔道学校は東西南北、城と門のちょうど中間に存在していた。アルバート魔道学校は北側に位置している。
 あまり富裕層側に行くと高級店ばかりが並ぶので反対側を案内してもらう。
 本屋や服屋。魔法付与品である魔道具なんかを売っている店なんかもあった。さすがはファンタジーと呼べる品が出てきた時はテンションが上がった。
 しかし、今回はお金がないので見るだけに留めた。さすがにこれ以上おごってなんて言えないし、お金の貸し借りはしたくなかった。
 くそ~、あのスリ野郎! 今度会ったら血祭に上げてやる。
 いろいろと後ろ髪を引かれる思いではあったけれど、今回は見るだけで我慢するはめになった。

「そろそろ帰るか」

 気づけば夕方。もう少ししたら日が暮れるだろう。
 わたし達は帰路に着く。
 いやー、堪能したね。今度お金を調達して魔道具を買いに行こう。あー、本も欲しいのがあったんだ。うーむ、悩ましい。
 脳内で欲しい物リストに書き込んでおく。いやー、多すぎて困っちゃうね。

「今日はありがとねホリンくん」
「楽しかったか?」
「もちろんっ。いやー、いろんなお店があって目移りしちゃうよねー」
「そうか」

 ん? ホリンくんの口数が少ないような。気のせいかな。
 たぶん疲れちゃったんだろうね。いっぱい案内させちゃったし。わたしのテンションが上がってた分大変だったんだろう。

 ……わたしばっかりが楽しくてホリンくんは楽しくなかったのかもしれない。
 や、やばいっ。これは失敗した!?
 わたしがわたわたしているとホリンくんが口を開いた。

「悪かったな」
「へ?」

 何に対しての「悪かった」なのだろうか。全然思いつかなくて首をかしげるしかない。
 わかってないわたしには口を挟めない。ホリンくんの続きの言葉を待つ。

「最初にはぐれちまってよ。危険な目にも遭わせた」

 わたしが冒険者連中とケンカしたのを気にしているようだった。というかずっと気にしてたのかな? そんな素振りはなかったようにみえてたのに。
 わりと落ち込んでいる風だったのでわたしは胸を張って自信満々ポーズをとる。

「全然問題ナッシング! わたしの魔法の実力知ってるでしょ? その辺の輩に負けたりなんかしないよ」

 これでも同級生の中じゃあ一番なのだ!
 まだまだ知らない人も多いけれど、二年や三年の先輩にだって負ける気がしない。それくらいの実力があるって自負してる。

「むしろアップルパイおごってくれてありがとうね。すごくおいしかったよ」
「そうか。……また行くか?」
「うんっ」

 やったぜ! また遊びに行ける口実ができた。
 もしかしてわたしってリア充ライフ送ってる? 友達と遊びに行けるなんてなんて楽しいんだ!

 アルバート魔道学校の門が視界に入る。
 今日はおいしく晩ご飯が食べれそうだ。

「あら?」

 とか思っていると、門をくぐったところで取り巻きを引きつれたコーデリアさんとばったり会った。

「ホリンさ……、ホリンさんはどこかへ出かけてらしたの?」
「ああ。こいつとちょっとな」

 と、わたしを指差すホリンくん。人を指差すなっちゅーねん!
 コーデリアさんの目がこっちを向く。ホリンくんがでかくてわたしに気づいていなかったようだ。

「ああ、エルさん。エルさんといっしょなら安全ですわね」
「そんなこともねえけどな」

 ニヤリとした顔をするホリンくんだった。わたしが冒険者連中とケンカしたことに対する皮肉なんですかねー。
 ていうかわたしがいたら安全って。まあわたしの魔法の実力を知っているからこそのセリフなんだろうけどさ。ボディーガードとしては男女逆じゃあないですかねー。

「では、わたくしはこれで。ご機嫌よう」

 コーデリアさんは取り巻き連中を引きつれて去って行った。男女含めた取り巻き連中はわたしに見下した視線を送ることを忘れない。感じ悪っ。
 最後にケチがついた感じがするけれど、わたしの王都での初お出かけは無事終了したのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

処理中です...