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二章 魔道学校編
第19話 VS猛虎の爪
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さて、冒険者パーティーに取り囲まれてしまったわたし。これからどうなってしまうのか!?
なーんてテキトーなあらすじしてる場合じゃないな。
冒険者パーティ『猛虎の爪』の皆さま方です。人数はざっと六名。全員男性でぱっと見の年齢は二十代から四十代の集団でございます。
冒険者と名乗っているだけあってみなさんたくましい体格だ。十五歳の美少女のわたしの華奢な体と比べることすらおこがましい。
この人達その辺わかっているのかな? 少女を取り囲む見るからに強そうな男達。傍から見ればかなり大人気(おとなげ)ない光景に映るだろう。
ほら、実際に通行人がなんだなんだと見物してるよ。
……いやいや、見てないで止めてよ。美少女のピンチですよ~。
「他所見してんじゃねえぞ!」
リーダーらしきヒゲ面の男が怒鳴る。バガンで慣れてなかったら身をすくめていたくらいの声量だ。なんでこういう連中っていちいち大声出すんだろうか。聞こえてるってば。
リーダー以外の他の連中はわたしの左右へと散らばっている。逃げ場はないようだ。
「わたしアルバート魔道学校の生徒なんですけど。そこんとこわかってます?」
一応忠告してみる。
ここじゃあアルバート魔道学校は知らない人がいないくらい有名だったはずだ。それは貴族が通う学校で有名というのも入っている。
そう、貴族アピールである。最下級貴族ではあるけれど言わなきゃばれない☆
これで退いてくれるのが一番なんだけど。わたしの願いはリーダーの冷笑で砕かれた。
「へっ、だからどうしたってんだよ?」
「だからその、わたし貴族なんですけど」
本当に貴族なのに後ろめたい感じがあるのはなぜだろう? シエル家はちゃんと貴族ですってば。
リーダーが笑えば他のパーティーメンバーも笑う。笑いのツボが同じなのかな。
「貴族だからってな、実力のある冒険者を罰するなんてそうそうできねえんだぜ」
それは犯罪でなかったらって話じゃない? 今こいつらがやろうとしているのは犯罪にならないんですかね。
少しずつ見物人が増えてきた。なのに誰も止めようとはしてくれない。もしかしてただのケンカとか思ってませんか。
女一人に男六人がかりのケンカがあってたまるかっ。むしろいじめでしょコレ!
「へへっ、貴族のお嬢ちゃんには世の中の常識ってのをたーっぷり教えてやるぜ」
下劣な表情を浮かべるリーダーの男だった。ヒゲ面にはお似合いの表情だ。
これはもう、正当防衛ってことでいいよね。
わたしは腰のベルトに差していた杖をしゅぱーんって感じで取った。
指示棒くらいの短い杖だ。杖なし無詠唱で魔法を行使できるわたしにはいらない物ではあるんだけど、これを見せるか見せないかってだけで相手の反応は変わってくる。それに、わざわざ杖がなくても魔法が使えるという情報を相手に与えなくてもいいだろうという判断だ。
「やっぱり魔法使いか。そうやって構えるくらいだ。学校で教わったていう魔法を使いたくてしょうがないんだろ?」
「……」
わたしは答えない。
周りの見物人が賑わい出した。わたしが杖を構えたことでケンカが始まるとでも思ったのだろう。だからケンカじゃないってば。
リーダーの男の笑みがすっと消える。やる気だ。
「学生貴族様に実践の恐ろしさってのを教えてやるぞ!」
リーダーのその言葉が合図だった。『猛虎の爪』が動き出す。
右斜め後方から迫ってくる気配。さすがに抜刀したりはしていないようだ。
「エアショット」
振り向きざま、迫っていた男に風の弾丸をぶち込む。モロに喰らってふっ飛んでいった。
この程度のスピードなら詠唱してでも間に合う。エアショットは風の下位魔法というのもあって詠唱分は短い。
ふっ飛んだ男が起き上がってくる様子はない。どうやら気絶してくれたみたい。思ったよりも脆いな。
なんて確認している場合じゃない。
「うらぁっ!」
「この野郎っ!」
背後から二人の男の気配。わたしは野郎じゃないっての。
後ろ向きのままエアショットを連発する。「ぐわっ!?」「ぎゃあああ!」とかやられ声を聞いて命中したと判断する。
今のうちに距離を取らせてもらう。
「バカ野郎共が! 相手は魔法使い一人なんだから同時にかかって距離を潰すんだよ!」
リーダーの男が怒鳴る。いちいち声が大きい。
さっきまでのがまさにそういう動きだった。死角を突いて後続が追撃。一人ならしんどいのかもしれない。
いや、わたしだって一人なんだけども。
だけどこういう輩とはやり慣れているのだ。
バガンにベドス。それに自警団のみなさん。わたしの魔法の練習相手になってくださった方々である。
大勢を相手にするのだってけっこう平気になってるんだよね。
「今なら許してあげるよ。どうする?」
余裕の表情を浮かべながら言ってやる。
「な、な、舐めやがってぇぇぇぇぇぇーーっ!!」
むしろブチ切れさせてしまいました☆
残りは三人だ。
わたしが余裕そうにしているのを見てか「お嬢さんがんばれー」「かっこ良い……」「俺はあの女の子に賭けるぜ」などなど雑音が聞こえてきた。つーか賭けごとにすんな!
「同時に行くぞ!」
『おう!』
リーダーの男が言うと仲間連中が頷く。それで息が合ったのか三人同時にわたしに向かって飛びかかってきた。
鞘から抜いてないとはいえ、剣をわたしに振り下ろそうとする。手加減無用という合図と受け取った。
三方向からの同時攻撃だ。範囲魔法じゃないと対応できない。
そして範囲魔法は中位レベルだったりする。つまり、わたしは使えるのだ。
野次馬が面倒だ。火や水だと被害が出そう。そうなるとやっぱり風魔法がいいだろうか。
三人の男達がわたしに触れそうなほどに接近する。下位魔法に比べて詠唱がちょっと長い。なのでこの距離から無詠唱で行使させてもらう。
「ウォルフ」
わたしの呟きが聞こえたかどうか。リーダーを含めた男達が野次馬を越えてふっ飛んだ。
ウォルフ。術者を起点にして強風を起こす風属性の魔法だ。どれくらいの強さかと言えば大の大人でも簡単にふっ飛ばせる。これに風の刃なんかを混ぜるとかなり殺傷力が上がっちゃうので注意だ。今回はそこまでしてないので安心安全だ。
ふっ飛んだ男達は建物に激突して動きを止めた。これで全員気絶した。
ざわざわしているので、なんとなしに手を掲げてみる。すると歓声が巻き起こった。
「すげえぞお嬢ちゃん!」
「アルバートの生徒って強いんだ」
「たった一人で冒険者六人を倒してしまうとは……」
「キャー! かっこ良いーーっ!!」
拍手が鳴り響いてわたしへの賞賛の数々が止まらない。照れくさくなりながらも応える。
「どもどもー」
おおっ。なんと言いますか、これは気分が良いものですなー。
しばらく観客に応えていると、野次馬をかき分けるようにして男が現れた。ちょっと身構えたけれど、相手はホリンくんだった。
「エル! お前何やってんだよっ」
「よかったー。ホリンくんが見つかったよー」
「この騒ぎはなんだよ?」
「ねえねえ、せっかく再会できたことですし、何か食べに行かない?」
「……何やらかした?」
話を逸らそうとしたのだけどバレバレだったみたい。そりゃそうだ。
「……とりあえず本当に何か食べに行きたいな。財布盗まれちゃったみたいだしお腹が空いてるんだ。寮に帰ったら返すからお金貸してくださいっ。食べながら何があったか話すからっ」
「しょうがねえな」
ホリンくんはやれやれといった感じで歩き出した。と思ったらすぐに止まってこっちを向く。
「また離れたら面倒だからな」
そう言ってホリンくんはわたしの手を取った。
野次馬から黄色い声が上がる。うるさいってば。
わたしは下を向きながら、手を引かれるまま歩くのだった。
なーんてテキトーなあらすじしてる場合じゃないな。
冒険者パーティ『猛虎の爪』の皆さま方です。人数はざっと六名。全員男性でぱっと見の年齢は二十代から四十代の集団でございます。
冒険者と名乗っているだけあってみなさんたくましい体格だ。十五歳の美少女のわたしの華奢な体と比べることすらおこがましい。
この人達その辺わかっているのかな? 少女を取り囲む見るからに強そうな男達。傍から見ればかなり大人気(おとなげ)ない光景に映るだろう。
ほら、実際に通行人がなんだなんだと見物してるよ。
……いやいや、見てないで止めてよ。美少女のピンチですよ~。
「他所見してんじゃねえぞ!」
リーダーらしきヒゲ面の男が怒鳴る。バガンで慣れてなかったら身をすくめていたくらいの声量だ。なんでこういう連中っていちいち大声出すんだろうか。聞こえてるってば。
リーダー以外の他の連中はわたしの左右へと散らばっている。逃げ場はないようだ。
「わたしアルバート魔道学校の生徒なんですけど。そこんとこわかってます?」
一応忠告してみる。
ここじゃあアルバート魔道学校は知らない人がいないくらい有名だったはずだ。それは貴族が通う学校で有名というのも入っている。
そう、貴族アピールである。最下級貴族ではあるけれど言わなきゃばれない☆
これで退いてくれるのが一番なんだけど。わたしの願いはリーダーの冷笑で砕かれた。
「へっ、だからどうしたってんだよ?」
「だからその、わたし貴族なんですけど」
本当に貴族なのに後ろめたい感じがあるのはなぜだろう? シエル家はちゃんと貴族ですってば。
リーダーが笑えば他のパーティーメンバーも笑う。笑いのツボが同じなのかな。
「貴族だからってな、実力のある冒険者を罰するなんてそうそうできねえんだぜ」
それは犯罪でなかったらって話じゃない? 今こいつらがやろうとしているのは犯罪にならないんですかね。
少しずつ見物人が増えてきた。なのに誰も止めようとはしてくれない。もしかしてただのケンカとか思ってませんか。
女一人に男六人がかりのケンカがあってたまるかっ。むしろいじめでしょコレ!
「へへっ、貴族のお嬢ちゃんには世の中の常識ってのをたーっぷり教えてやるぜ」
下劣な表情を浮かべるリーダーの男だった。ヒゲ面にはお似合いの表情だ。
これはもう、正当防衛ってことでいいよね。
わたしは腰のベルトに差していた杖をしゅぱーんって感じで取った。
指示棒くらいの短い杖だ。杖なし無詠唱で魔法を行使できるわたしにはいらない物ではあるんだけど、これを見せるか見せないかってだけで相手の反応は変わってくる。それに、わざわざ杖がなくても魔法が使えるという情報を相手に与えなくてもいいだろうという判断だ。
「やっぱり魔法使いか。そうやって構えるくらいだ。学校で教わったていう魔法を使いたくてしょうがないんだろ?」
「……」
わたしは答えない。
周りの見物人が賑わい出した。わたしが杖を構えたことでケンカが始まるとでも思ったのだろう。だからケンカじゃないってば。
リーダーの男の笑みがすっと消える。やる気だ。
「学生貴族様に実践の恐ろしさってのを教えてやるぞ!」
リーダーのその言葉が合図だった。『猛虎の爪』が動き出す。
右斜め後方から迫ってくる気配。さすがに抜刀したりはしていないようだ。
「エアショット」
振り向きざま、迫っていた男に風の弾丸をぶち込む。モロに喰らってふっ飛んでいった。
この程度のスピードなら詠唱してでも間に合う。エアショットは風の下位魔法というのもあって詠唱分は短い。
ふっ飛んだ男が起き上がってくる様子はない。どうやら気絶してくれたみたい。思ったよりも脆いな。
なんて確認している場合じゃない。
「うらぁっ!」
「この野郎っ!」
背後から二人の男の気配。わたしは野郎じゃないっての。
後ろ向きのままエアショットを連発する。「ぐわっ!?」「ぎゃあああ!」とかやられ声を聞いて命中したと判断する。
今のうちに距離を取らせてもらう。
「バカ野郎共が! 相手は魔法使い一人なんだから同時にかかって距離を潰すんだよ!」
リーダーの男が怒鳴る。いちいち声が大きい。
さっきまでのがまさにそういう動きだった。死角を突いて後続が追撃。一人ならしんどいのかもしれない。
いや、わたしだって一人なんだけども。
だけどこういう輩とはやり慣れているのだ。
バガンにベドス。それに自警団のみなさん。わたしの魔法の練習相手になってくださった方々である。
大勢を相手にするのだってけっこう平気になってるんだよね。
「今なら許してあげるよ。どうする?」
余裕の表情を浮かべながら言ってやる。
「な、な、舐めやがってぇぇぇぇぇぇーーっ!!」
むしろブチ切れさせてしまいました☆
残りは三人だ。
わたしが余裕そうにしているのを見てか「お嬢さんがんばれー」「かっこ良い……」「俺はあの女の子に賭けるぜ」などなど雑音が聞こえてきた。つーか賭けごとにすんな!
「同時に行くぞ!」
『おう!』
リーダーの男が言うと仲間連中が頷く。それで息が合ったのか三人同時にわたしに向かって飛びかかってきた。
鞘から抜いてないとはいえ、剣をわたしに振り下ろそうとする。手加減無用という合図と受け取った。
三方向からの同時攻撃だ。範囲魔法じゃないと対応できない。
そして範囲魔法は中位レベルだったりする。つまり、わたしは使えるのだ。
野次馬が面倒だ。火や水だと被害が出そう。そうなるとやっぱり風魔法がいいだろうか。
三人の男達がわたしに触れそうなほどに接近する。下位魔法に比べて詠唱がちょっと長い。なのでこの距離から無詠唱で行使させてもらう。
「ウォルフ」
わたしの呟きが聞こえたかどうか。リーダーを含めた男達が野次馬を越えてふっ飛んだ。
ウォルフ。術者を起点にして強風を起こす風属性の魔法だ。どれくらいの強さかと言えば大の大人でも簡単にふっ飛ばせる。これに風の刃なんかを混ぜるとかなり殺傷力が上がっちゃうので注意だ。今回はそこまでしてないので安心安全だ。
ふっ飛んだ男達は建物に激突して動きを止めた。これで全員気絶した。
ざわざわしているので、なんとなしに手を掲げてみる。すると歓声が巻き起こった。
「すげえぞお嬢ちゃん!」
「アルバートの生徒って強いんだ」
「たった一人で冒険者六人を倒してしまうとは……」
「キャー! かっこ良いーーっ!!」
拍手が鳴り響いてわたしへの賞賛の数々が止まらない。照れくさくなりながらも応える。
「どもどもー」
おおっ。なんと言いますか、これは気分が良いものですなー。
しばらく観客に応えていると、野次馬をかき分けるようにして男が現れた。ちょっと身構えたけれど、相手はホリンくんだった。
「エル! お前何やってんだよっ」
「よかったー。ホリンくんが見つかったよー」
「この騒ぎはなんだよ?」
「ねえねえ、せっかく再会できたことですし、何か食べに行かない?」
「……何やらかした?」
話を逸らそうとしたのだけどバレバレだったみたい。そりゃそうだ。
「……とりあえず本当に何か食べに行きたいな。財布盗まれちゃったみたいだしお腹が空いてるんだ。寮に帰ったら返すからお金貸してくださいっ。食べながら何があったか話すからっ」
「しょうがねえな」
ホリンくんはやれやれといった感じで歩き出した。と思ったらすぐに止まってこっちを向く。
「また離れたら面倒だからな」
そう言ってホリンくんはわたしの手を取った。
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