根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

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二章 魔道学校編

第18話 遊びに行ったはずなのに

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 目が覚めて、わたしはぼんやり考えた。

「はっ! 今日はホリンくんと遊ぶ約束だったっ」

 友達と遊びに行くのが楽しみで昨夜は眠れなかったのだ。外が白んできたのは記憶にあった。それもう朝じゃんっ。
 部屋に備え付けられている時計を確認。ギリギリの時間だった。
 この世界にも時計があったことを寮生活を始めてから初めて知った。田舎のシエル家にはなかったからね。せっかくだったら目覚まし機能もつけてくれればいいのに。
 そんなことよりも準備準備。
 わたしはバタバタと準備を始める。魔法で水を出せば顔だって洗える。女子としてどうなのかって思えるくらいの速さで準備を終えた。
 本日は学校の敷地外というのもあって制服ではなく私服だったりする。
 いつものプリーツスカートではなくズボンを履いている。女子的にどうかとか言わない。だってシエル領では大体ズボンだったんだもの。動きやすいからね。元男の心がちょっとは出ているのかもしれない。別にスカートが恥ずかしいってわけじゃないんだけどね。
 ベルトに杖を差しておく。杖がなくても魔法が使えるけれど、あるってだけで抑止力にはなってくれる。あまり魔法使いにケンカを売りたい人ってのはいないからね。まあ防犯ブザーを持ってるくらいの抑止力にはなるだろう。
 待ち合わせしていた校門へと向かう。ホリンくんはすでに待っていてくれていた。

「ごめん、待った?」
「別に、今来たとこだ」

 おおう、なんかデートの待ち合わせみたいなやり取りだ。まあ『俺』の時までさかのぼってもデートなんかしたことないんだけどな。けっ。

 さて、お出かけだ。何気に王都に来て初めてのお出かけだ。
 どんなところがあるんだろう。王都っていうくらいだからその辺の町なんかじゃあお目にかかれないものだってあるだろう。

「ねえねえどこ行くどこ行く?」
「エルは行きたい場所とかねえの?」
「わたし? うーん……」

 どこがと聞かれましてもどういう場所があるのか知らないのだから決めようがない。
 買い物とか? 服や……はあんまり興味ないなぁ。乙女としてどうかと思うけど。それよりは本とかの方が。あ、本屋とかいいかも。

「じゃあ本屋がいい」
「お前は本ばっかだな」

 ホリンくんの中でわたしへの読書家イメージがすごいようだ。インテリ女子と思われているのかもしれない。文学少女はわたし的にポイント高いからよしとしよう。
 ホリンくんの案内で本屋へと向かう。

「うわぁ……。人がすごく多い」

 露店通りに出れば人の多いこと多いこと。シエル領の隣町もけっこうな規模だとは思っていたけれど、王都はレベルが違う。
 王都だけあって道幅はやっぱりこっちの方が広い。なのにすれ違う人は肩がぶつかりそうなほど近い。人が多すぎて通りに何があるのかわからないくらいだ。
 東京とかだったらこんなの当たり前なのだろうか。いや、勝手なイメージなんだけど。地方育ちには縁遠い光景である。
 人混みは苦手だなぁ。あんまりいると酔っちゃいそうだ。
 ホリンくんとはぐれないように彼のトレードマークである真っ赤な頭を見つめる。身長差があるので首が痛くなる。

「おっとごめんよ」
「あ、こっちこそすいません」

 肩がぶつかって謝られる。謝られると謝ってしまうのは習性なのか。頭を下げて再び見上げる、真っ赤な頭は消えていた。

「……え?」

 しばらく呆然としてしまった。
 ホリンくんが行方不明になった?
 待て待て、ちょっと見失ったくらいで動揺しすぎだ。ちょっと先に行ってしまっているだけに違いない。
 わたしは慌ててホリンくんを追いかけた。
 人混みをかき分けて前へと急ぐ。真っ赤な頭を探して急ぐ。
 前へ前へ、ひたすら前へ。

「い、いない……」

 進み続けると噴水のある広場へと出た。辺りをキョロキョロ見渡してもホリンくんらしい真っ赤な髪の男の子は見つからなかった。

 これはどうしたことか。いやわかっている。ただ認めたくないのだよ。迷子という事実をな!

 う、うわー! マジかマジですか!? こんな土地勘のないところで迷子ってマジですかっ。
 お、落ち着けっ。まずは落ち着くことが先決だ。
 こういう時こそ冷静に、クールになるのだ。そうすればおのずと打開策が見つかるはず。

 わたしは噴水の近くにあるベンチへと腰掛ける。広場だけあってここまで来れば人混み感は薄れていた。ちょっとリラックスする。
 噴水か。どんな仕組みなんだろ? たぶん魔法が関わってそうだな。
 水しぶきを眺めながらぼんやり考える。
 考えて考えて考えまくっていると、お腹が鳴った。

「そういえば朝から何も食べてない」

 寝坊して急いで出ちゃったからなぁ。朝ご飯を食べる暇すらなかった。
 まずは何か食べようか。ホリンくんを探すのはそれからでもいいだろう。
 財布を確認して食べ物屋を探す。財布を確認して、財布を……?

「財布がない、だと?」

 いくら鞄の中を探しても見つからない。体中をまさぐっても何もない。財布が、ない……!

「持ってきてない? いや、出る前には確認したはず。なら落とした? いや違う。あの男だ!」

 わたしと肩をぶつけた男。女子の平均身長くらいのわたしの肩と肩がぶつかったから小柄な男だったのは間違いない。それ以外は顔すら憶えてない。

「くっそ~。謝られた時に疑問に思うべきだった」

 今思えばあれはわざとだったな。
 なんてこった。まさかスリにやられるなんて。
 道もわからない場所で所持金ゼロ。もう絶望しかない。

「今度スリに会ったら問答無用でぶっ飛ばしてやる」

 とか言っても負け惜しみにしかならない。
 今はこれからの行動だ。どうする?
 ホリンくんを探すか。一度学校まで戻るか。この二択かな。

「うん、ホリンくんを探そう」

 たぶんホリンくんだってわたしがいなくなったことに気づいて探しているはずだ。だったら学校に帰るわけにはいかない。
 よし、と気合を入れて立ち上がる。いきなり出鼻をくじられた感はある。だからってこのまま落ち込んでいるわけにはいかないのだ。

 さて、この噴水の広場からだとたくさんの道がある。つまり選択肢がいっぱいだ。
 どこを行くべきか。というか来た道ってどこだっけ? 人の多さに目が行ってしまって建物の特徴とか憶えてなかった。不覚なり。
 来た道がわからないならわたしの好みで選んでしまおう。
 そうだなぁ。やっぱり人通りの少ない通りがいいな。
 そんな理由で一番人通りの少ない道を選択する。

 その通りはちょこちょこと人がいる程度だった。肩をぶつけられる心配もない。スリの心配もないということだ。
 せっかくなのでキョロキョロしながら進む。
 酒場を発見。それらはいくつか並んでいた。今は明るい時間帯なのもあって開いてはないようだった。
 きっと夜になったら賑わいを見せる通りなのだろう。
 しばらく歩いてもホリンくんは見つからなかった。ていうか道の端っこにも辿り着かない。どんだけ広いんだよ。
 これでも王都の一部分にすら至っていないのだろう。王都を制覇しようと思ったらどれだけの日数がかかるのか。

「おっ、冒険者ギルド発見」

 でかでかとした看板に冒険者ギルドと書かれたひと際大きな建物だった。
 異世界ファンタジー定番の冒険者ギルド。生で見るとなんというかすごいもんですな。
 感嘆の息が止まらない。自分で思っていた以上に男的な部分が残っていたようだ。どうしても心躍ってしまう。
 やっぱり将来は冒険者になってみたいもんだ。仲間と冒険して友情を深める。時に戦い、時に騒いで、時には大きな宝をゲットする。いやはや夢の職業ですな。
 じーっと冒険者ギルドの建物を眺めていたからか、冒険者風の男に話しかけられた。

「ようお嬢ちゃん。冒険者に興味があんのか?」

 皮鎧を身につけた若い男だった。冒険者らしく見た目はちょっと荒くれ風だ。

「ああいえいえ、ちょっと眺めてただけですよー」

 荒くれ者に対しては領内で慣れたとはいえ、知らない人に話しかけられるのはまだまだ苦手だ。
 ここは退散ですな。ホリンくんもいないようだしね。そうそうホリンくんを探さなきゃ。
 わたしが踵を返した時、男に腕を掴まれた。

「せっかくだ。これから仲間と飲むからよ。冒険者のこと、いろいろ教えてやんぜ」

 男がくいっと親指を向けた先、そこには五人の男がいた。どいつもこいつも荒くれ者って感じの、言ってしまえばガラの悪そうな連中だった。

「いえその、わたし人を探さないといけないので」
「じゃあ行こうか。もちろん酌はしてもらうぜ」

 おい聞けよこの野郎!
 わたしの言葉なんか聞かずにぐいぐいと引っ張ってくる。こいつ強引すぎるにもほどがあるぞ。
 仲間の男連中も顔をニヤニヤさせていた。
 この野郎ども。女一人だと思って舐めてるのか?
 腕力に自信がある連中ってのは無駄に物事がうまくいくとか思っている節がある。世界が変わってもこういった性根の奴はいるってことか。
 今のわたしは、力ずくに対しての抵抗する手段がある。

「あの、離してください」
「いいからいいから」

 掴まれる手の力が緩む様子はない。
 わたしはちゃんと離してって言ったからな。警告はしたからな。
 無詠唱で魔法を行使する。倒すわけじゃない。ただその手を離してもらうだけだ。

「どわあああああああぁぁぁぁぁぁーーっ!?」

 風魔法で男をふっ飛ばした。飛んだ勢いのまま仲間連中がいるところへと着弾。全員仲良く転がった。ストライクだ。
 さて、逃げるか。

「待てコラァァァァァァーーッ!!」

 怒声が響いた。なんかバガンを思い出すなぁ。

「……なんでしょうか?」
「俺らにこんなことしてタダで済むと思ってんじゃねえだろうなっ」

 最初の男とは違うヒゲ面の男が前に出る。他の仲間連中も怒りの表情だ。

「わたしはその人を振り払っただけですよ。それでふっ飛んだのはそっちでしょう。そんなやわな鍛え方でよく冒険者なんてしてますね」

 おっと、ちょっと毒が混じってしまった。思った以上にイライラしてたみたい。
 指摘された男は青筋立てている。そりゃあ華奢な女の子にこんなこと言われたら面目丸潰れだろう。わかってて周りに聞こえるように言いましたけどね。あはっ☆
 狙い通りに周囲の何人かはくすくす笑っている。へっ、ザマーミロ。

「俺達『猛虎の爪』をバカにする奴はたとえ女でも許さねえ! 泣いたってもう許してやらねえからなっ」

 え、『猛虎の爪』って何? パーティー名とか? そんなのもあるんだ。
 やばいかっこ良い。中二の病が発症しちゃいそう。パーティー名か。今の内に考えとこう。
 とか考えている間に六人のパーティー『猛虎の爪』が陣形を組んでわたしに狙いを定める。ガチでやる気だ。女の子一人相手に全員でやる気だ。
 まさかただのお出かけでこんな連中にからまれるなんて、わたしってついてないのか。
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