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二章 魔道学校編
第16話 アルバート魔道学校に入学したわたし
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アルバート魔道学校。それがわたしの通う学校の名前である。
その学校は王都、つまり国のお膝もとにあった。
学校というだけあって制服を支給された。なんと前世での高校生みたいなブレザータイプの制服である。プリーツスカートですわよ。
ブレザーは赤を基調としたおしゃれな感じになっている。肌ざわりだってそん色ない。
こんなファンタジー世界になぜ? というツッコミはよしといた方がいいだろう。だってこれ、魔法の糸で編まれたんだってさ。
魔法には衣服を作る技術もあるらしい。わたしは驚愕したね。しかも魔法防御力を上げる制服だとか。さすがはファンタジー学校。すごい物を用意していらっしゃった。
とまあ、初っ端から驚きの連続だった。
でも、驚くだけじゃなくて恥ずかしいこともあったのだ。
恥ずかしいってのは無知ってことで。一般常識がちょっとばかし怪しかった。
ここでようやくわたしが住んでいる国の名前が『マグニカ』というのを知った。この歳まで知らなかったって一体両親はどういう教育をしていらっしゃるのかしらね? ……本当にお父さんお母さん、お願いですから国の名くらい教えておいてくださいよ。いや、聞かなかったわたしも悪いんだろうけどさ。
まさに田舎者丸出しである。これを指摘された時は恥ずかしかった。日本人なのに住んでる国が日本だって知らないみたいな。わたしもう十五歳なのにっ。
現代日本でいえば地方の人が東京進出するくらいの出来事だ。なんて大事。『俺』なんて地方育ちで最後まで東京に行こうとすら思わなかった。
住む場所が変わればがらりと生活も変わるものだ。
アルバート魔道学校に入学してからわたしの寮生活が始まった。
とはいえ、食事は出してくれるし部屋の掃除だってしてくれる。うちと比べたくはないけれど、どう考えたってメイドの質が違いすぎた。まあシエル家には一人雇うのが精一杯だったけれど。雇っていただけですごいと思うべきだったのか、微妙なところだ。
そう、メイドがいるというのもあってアルバート魔道学校には貴族が多い。ていうか貴族しかいない。
王都にはいくつか魔道学校が存在しているようなのだが、このアルバート魔道学校は中でも貴族が通う学校として有名だったようだ。
さすがはお母さん。わたしが婿探しができるように貴族連中が通う学校を選びやがった。
ちなみにアルバート魔道学校が極端なだけで、他の学校は平民がけっこう多いらしい。まあもともとの数が平民の方が多いのだ。学問を学ぶ権利さえあればそうなってもおかしくないだろう。
今のところこの世界での貴族と平民の格差がどれほどあるのかわかりづらい。まったくないわけではないだろうけれど、なんでもありとか思っている貴族が多いわけではないらしい。
シエル領にいた時はよくわかんなかったし。敬われているような、舐められているような、どっちも考えられそうな気がしなくもない。
まあこの辺の問題はあまり考える必要もないだろう。わたしが平民なら気をつけるところなのだけど、わたしは貴族なのだ。馴れ馴れしくしたって罰を受けたりなんてしないもんね。
……でもね、シエル家って貴族とはいえ最下級なんだよ。なんちゃって貴族ですからね。その点は肝に銘じておかねばなるまい。そう強く思っている。
※ ※ ※
「やあホリンくん。勉強に精を出しているようですなー」
「なんだよエルか」
なんだよとかあいさつとしてどうなんでしょ? 文句言ったりはしませんがね。
ここはアルバート魔道学校の図書館である。そう、学校の敷地内に図書館があるのだ。それもでかいやつ。まるで大学みたいだ。
家に本なんて上等なものがなかった。それから思えば周囲を本で囲まれたこの空間は別世界のようだった。
本は読んでこなかったけれど、ちゃんと読み書きはできるようになっている。読み書きができなかったらたくさんの本だって宝の持ち腐れになるところだった。
前世は別に読書家ではなかったけれど、今は知らないことを知れるのが楽しい。魔法の技術向上にもつながるしね。やっぱり好きなことを勉強するのが一番ってことかな。
そんなわけで図書館で勉強しに来たところ、この学校でできた友人のホリンくんに会ったのであいさつをしたのが先ほどのやり取りである。
ホリン・アーミット。同級生の男子生徒だ。
真っ赤な髪と目つきの悪さが特徴の男子である。イケメンではあるがウィリアムくんの中性的な顔立ちとは対照的で、彼はワイルドな感じである。目つきの悪さも相まって、初対面なら怖い印象を抱かせる。
それでも根は良い奴なのだ。入学して半年の付き合いでそう感じる。わたしの友達になってくれたのがその証拠だ。
そう、わたしがこのアルバート魔道学校に来て初めてできた友達である。
領内での友達はウィリアムくんだけだった。そういうのもあって同性の友達が欲しかったのだけど、そううまくはいかなかったのだ。
入学早々の試験が問題だった。
生徒の魔法がどれほどのものなのか確認するための試験だった。ただそれだけのものだったのに「試験」と言われてわたしは身構えてしまったのだ。
赤点を取るわけにはいかない。そういった気持ちがいけなかったのだろうか。
試験の時、順番もよくなかったのだが、わたしはトップバッターに選ばれた。
後々聞いたら身分の低い順番に試験を行うことになっていたのだ。この時点で、わたしが貴族の中で一番身分が低いことが証明されてしまった。
同世代のレベルなんて知らなかった。わたし以外で魔法が使えたのはアルベルトさんとウィリアムくんだけだったのだ。
偉い貴族なんて幼少の頃から家庭教師みたいなのも雇っていると聞いていただけに過大評価してしまっていた。
つまり問題点が何かと問われれば、最下級のわたしが入学生トップの成績を収めてしまったことである。
わたし以外で四大属性すべてを扱える生徒はいなかった。それどころか中位レベルですら一属性でようやく行使できる生徒が数名いる程度だったのだ。わたしのように四大属性全部が中位レベルなんて一人もいなかった。しかも土属性に関しては上位レベルの魔法だって見せてしまったのだった。
これで羨望の的にでもなればわたしだって失敗しただなんて思わなかっただろう。でも違うのだ。
貴族連中はプライドが高い。
それが身に染みて理解させられたのはその後だった。
羨望の的になれなかったわたしは嫉妬と憎悪の的となった。
とくに女子はひどい。無視は当たり前、わたしに聞こえるような絶妙な小声で悪口を言う。何回か物が失くなったこともあった。
いじめの仕方なんて異世界でも変わらないのだろうか。きっついなー。
「ちょっとアンタ! 貴族の面汚しのくせに生意気なのよっ」
一回女子連中に取り囲まれたことがあった。人数は十人ほど。この数の差はひどいんじゃないですかね。
これ校舎の裏での出来事なんだよね。本当にいじめっ子といじめられっ子の構図そのままであった。
わたしの魔法のレベルならこのくらいの奴等なら十人二十人集まったって敵じゃないだろう。それでもまともな抵抗はできなかった。
これだけたくさんの人達から向けられる敵意というのは経験がなかったのだ。前世でもここまでされることはなかった。人から注目されない人生だっただけにこうやって取り囲まれるのは体が強張る出来事なのだ。
「ちょっと聞いてるの!」
一人が大声を上げればその後に二人三人と続いていく。数秒後にはわたしを責める暴言の数々が襲ってきていた。
こんなのどうすればいいのかわからない。対処法が全然思いつかなかった。
魔物相手だったら却って楽だろう。何も考えずに倒せばいいだけなのだから。
だけどこの連中はそういうわけにもいかない。
相手は貴族。しかも身分が高い奴だっている。滅多なことはできない。
たぶんそれは相手もわかっていたのだろう。数が多いとはいえ実力が高いわたしに面と向かってここまで暴言を吐きまくるのだ。安全地帯にいると思っていないとできないことだ。
実際その通り。わたしは言い返すこともできず、ただ黙っていることしかできなかったのだ。
そんな時である。
「うるせえな。お前等何やってんだ?」
固まる女子連中。横合いからそう声をかけたのはホリンくんだったのだ。
「あ、あの……」
「ウゼェことしてんなよ。散れ」
ホリンくんの言葉で本当に女子連中が散って行った。目つき怖いから仕方ないね。でも、爽快だった。
これがわたしとホリンくんの馴れ初めである。なんちゃって。
でも、彼に助けられてものすごく感謝したのは事実である。
これをきっかけにホリンくんとしゃべるようになった。彼も面倒そうな態度をとりつつも相手をしてくれた。わたしが話しかければ反応してくれる。それだけで嬉しかった。
それまでの扱いがひどかっただけに、わたしはホリンくんに懐いてしまったのである。チョロインとかゆーな。
その学校は王都、つまり国のお膝もとにあった。
学校というだけあって制服を支給された。なんと前世での高校生みたいなブレザータイプの制服である。プリーツスカートですわよ。
ブレザーは赤を基調としたおしゃれな感じになっている。肌ざわりだってそん色ない。
こんなファンタジー世界になぜ? というツッコミはよしといた方がいいだろう。だってこれ、魔法の糸で編まれたんだってさ。
魔法には衣服を作る技術もあるらしい。わたしは驚愕したね。しかも魔法防御力を上げる制服だとか。さすがはファンタジー学校。すごい物を用意していらっしゃった。
とまあ、初っ端から驚きの連続だった。
でも、驚くだけじゃなくて恥ずかしいこともあったのだ。
恥ずかしいってのは無知ってことで。一般常識がちょっとばかし怪しかった。
ここでようやくわたしが住んでいる国の名前が『マグニカ』というのを知った。この歳まで知らなかったって一体両親はどういう教育をしていらっしゃるのかしらね? ……本当にお父さんお母さん、お願いですから国の名くらい教えておいてくださいよ。いや、聞かなかったわたしも悪いんだろうけどさ。
まさに田舎者丸出しである。これを指摘された時は恥ずかしかった。日本人なのに住んでる国が日本だって知らないみたいな。わたしもう十五歳なのにっ。
現代日本でいえば地方の人が東京進出するくらいの出来事だ。なんて大事。『俺』なんて地方育ちで最後まで東京に行こうとすら思わなかった。
住む場所が変わればがらりと生活も変わるものだ。
アルバート魔道学校に入学してからわたしの寮生活が始まった。
とはいえ、食事は出してくれるし部屋の掃除だってしてくれる。うちと比べたくはないけれど、どう考えたってメイドの質が違いすぎた。まあシエル家には一人雇うのが精一杯だったけれど。雇っていただけですごいと思うべきだったのか、微妙なところだ。
そう、メイドがいるというのもあってアルバート魔道学校には貴族が多い。ていうか貴族しかいない。
王都にはいくつか魔道学校が存在しているようなのだが、このアルバート魔道学校は中でも貴族が通う学校として有名だったようだ。
さすがはお母さん。わたしが婿探しができるように貴族連中が通う学校を選びやがった。
ちなみにアルバート魔道学校が極端なだけで、他の学校は平民がけっこう多いらしい。まあもともとの数が平民の方が多いのだ。学問を学ぶ権利さえあればそうなってもおかしくないだろう。
今のところこの世界での貴族と平民の格差がどれほどあるのかわかりづらい。まったくないわけではないだろうけれど、なんでもありとか思っている貴族が多いわけではないらしい。
シエル領にいた時はよくわかんなかったし。敬われているような、舐められているような、どっちも考えられそうな気がしなくもない。
まあこの辺の問題はあまり考える必要もないだろう。わたしが平民なら気をつけるところなのだけど、わたしは貴族なのだ。馴れ馴れしくしたって罰を受けたりなんてしないもんね。
……でもね、シエル家って貴族とはいえ最下級なんだよ。なんちゃって貴族ですからね。その点は肝に銘じておかねばなるまい。そう強く思っている。
※ ※ ※
「やあホリンくん。勉強に精を出しているようですなー」
「なんだよエルか」
なんだよとかあいさつとしてどうなんでしょ? 文句言ったりはしませんがね。
ここはアルバート魔道学校の図書館である。そう、学校の敷地内に図書館があるのだ。それもでかいやつ。まるで大学みたいだ。
家に本なんて上等なものがなかった。それから思えば周囲を本で囲まれたこの空間は別世界のようだった。
本は読んでこなかったけれど、ちゃんと読み書きはできるようになっている。読み書きができなかったらたくさんの本だって宝の持ち腐れになるところだった。
前世は別に読書家ではなかったけれど、今は知らないことを知れるのが楽しい。魔法の技術向上にもつながるしね。やっぱり好きなことを勉強するのが一番ってことかな。
そんなわけで図書館で勉強しに来たところ、この学校でできた友人のホリンくんに会ったのであいさつをしたのが先ほどのやり取りである。
ホリン・アーミット。同級生の男子生徒だ。
真っ赤な髪と目つきの悪さが特徴の男子である。イケメンではあるがウィリアムくんの中性的な顔立ちとは対照的で、彼はワイルドな感じである。目つきの悪さも相まって、初対面なら怖い印象を抱かせる。
それでも根は良い奴なのだ。入学して半年の付き合いでそう感じる。わたしの友達になってくれたのがその証拠だ。
そう、わたしがこのアルバート魔道学校に来て初めてできた友達である。
領内での友達はウィリアムくんだけだった。そういうのもあって同性の友達が欲しかったのだけど、そううまくはいかなかったのだ。
入学早々の試験が問題だった。
生徒の魔法がどれほどのものなのか確認するための試験だった。ただそれだけのものだったのに「試験」と言われてわたしは身構えてしまったのだ。
赤点を取るわけにはいかない。そういった気持ちがいけなかったのだろうか。
試験の時、順番もよくなかったのだが、わたしはトップバッターに選ばれた。
後々聞いたら身分の低い順番に試験を行うことになっていたのだ。この時点で、わたしが貴族の中で一番身分が低いことが証明されてしまった。
同世代のレベルなんて知らなかった。わたし以外で魔法が使えたのはアルベルトさんとウィリアムくんだけだったのだ。
偉い貴族なんて幼少の頃から家庭教師みたいなのも雇っていると聞いていただけに過大評価してしまっていた。
つまり問題点が何かと問われれば、最下級のわたしが入学生トップの成績を収めてしまったことである。
わたし以外で四大属性すべてを扱える生徒はいなかった。それどころか中位レベルですら一属性でようやく行使できる生徒が数名いる程度だったのだ。わたしのように四大属性全部が中位レベルなんて一人もいなかった。しかも土属性に関しては上位レベルの魔法だって見せてしまったのだった。
これで羨望の的にでもなればわたしだって失敗しただなんて思わなかっただろう。でも違うのだ。
貴族連中はプライドが高い。
それが身に染みて理解させられたのはその後だった。
羨望の的になれなかったわたしは嫉妬と憎悪の的となった。
とくに女子はひどい。無視は当たり前、わたしに聞こえるような絶妙な小声で悪口を言う。何回か物が失くなったこともあった。
いじめの仕方なんて異世界でも変わらないのだろうか。きっついなー。
「ちょっとアンタ! 貴族の面汚しのくせに生意気なのよっ」
一回女子連中に取り囲まれたことがあった。人数は十人ほど。この数の差はひどいんじゃないですかね。
これ校舎の裏での出来事なんだよね。本当にいじめっ子といじめられっ子の構図そのままであった。
わたしの魔法のレベルならこのくらいの奴等なら十人二十人集まったって敵じゃないだろう。それでもまともな抵抗はできなかった。
これだけたくさんの人達から向けられる敵意というのは経験がなかったのだ。前世でもここまでされることはなかった。人から注目されない人生だっただけにこうやって取り囲まれるのは体が強張る出来事なのだ。
「ちょっと聞いてるの!」
一人が大声を上げればその後に二人三人と続いていく。数秒後にはわたしを責める暴言の数々が襲ってきていた。
こんなのどうすればいいのかわからない。対処法が全然思いつかなかった。
魔物相手だったら却って楽だろう。何も考えずに倒せばいいだけなのだから。
だけどこの連中はそういうわけにもいかない。
相手は貴族。しかも身分が高い奴だっている。滅多なことはできない。
たぶんそれは相手もわかっていたのだろう。数が多いとはいえ実力が高いわたしに面と向かってここまで暴言を吐きまくるのだ。安全地帯にいると思っていないとできないことだ。
実際その通り。わたしは言い返すこともできず、ただ黙っていることしかできなかったのだ。
そんな時である。
「うるせえな。お前等何やってんだ?」
固まる女子連中。横合いからそう声をかけたのはホリンくんだったのだ。
「あ、あの……」
「ウゼェことしてんなよ。散れ」
ホリンくんの言葉で本当に女子連中が散って行った。目つき怖いから仕方ないね。でも、爽快だった。
これがわたしとホリンくんの馴れ初めである。なんちゃって。
でも、彼に助けられてものすごく感謝したのは事実である。
これをきっかけにホリンくんとしゃべるようになった。彼も面倒そうな態度をとりつつも相手をしてくれた。わたしが話しかければ反応してくれる。それだけで嬉しかった。
それまでの扱いがひどかっただけに、わたしはホリンくんに懐いてしまったのである。チョロインとかゆーな。
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