根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

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一章 領地編

第11話 道は開かれた

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 さっそくわたしは作業に取り掛かった。
 道を整備するのだって簡単じゃないだろう。なんせ馬車でも隣町まで丸一日かかるのだ。
 それでもやるだけの価値はあるはずだ。

「まったくもうっ。精霊使いが荒いったらないの」

 アウスがぷりぷり怒っている。
 わたしだけじゃあ魔力が持たないのでアウスに協力してもらっているのである。あとでしっかり労ってあげよう。

「こりゃすげえな」
「マジかよ……」

 ベドスとバガンが口を半開きにしている。おっさんコンビはただついて来ている置物と化していた。
 彼等の目の前ではガタガタの地面がどんどん舗装されているように見えるだろう。視認できないところでアウスががんばってるんだけどね。
 アスファルトを作ることはできなかった。代わりに石を滑らかにして道なりに敷き詰める。それに固定化という魔法をかけてしまえば完成だ。
 固定化は傷つけられたり壊れたりしないようにする魔法だ。これでちょっとやそっとじゃあ舗装された道がダメになったりしないだろう。

「エルもちょっとは働くの」
「は、働いてるよ、これでもさ」

 アウスの力がすごすぎてちょっと追いついてない感が否めないけれども。
 作業はアウスに道を作ってもらって、わたしが固定化の魔法をかけるといった具合である。アウスの仕事が速いのでわたしの固定化がちんたらやっているように見えるが(他の人には見えてないけど)これでもがんばってるのだ。
 これだけのこと、魔法がなけりゃやってられないよね。現代日本のように工事する機械があれば別だが。もちろんそんな物はない。手作業でなんてやってられない。
 そう思いつつせっせと働く。とはいえ限界はあるものだ。大精霊であるアウスはともかく、わたしは普通の人間なのだ。
 マナ保有量は肺活量みたいなもんなのかね。なんか苦しくなってきたよ。
 あー、無限の魔力がほしい。

 一日じゃあ終わらず、一週間経っても終わらない。そんないつ終わるかもわからない作業を延々と続けた。
 獣道みたいなところもあったし、いつ崩れてもおかしくないような吊り橋なんかもあった。それらもしっかりとした道へと変えた。
 単純作業は没頭するとけっこうはまるもんだった。毎日日が暮れるまでわたしは繰り返し固定化の魔法を使い続けた。
 フラフラになるまで魔法を使う日々だった。何度バガンに抱きかかえられただろうか。一人じゃ帰ることすらままならない。
 そうして、わたしが十二歳になった頃。ついに隣町まで続く道が出来上がったのである。


  ※ ※ ※


 隣町まで馬車で丸一日かかっていたのに、半日足らずで辿り着くようになった。
 やっぱり道が険しすぎたのだ。伊達に辺境の地とか言われてないのだよ。

「ここがお隣さんの町か。なんかうちと違ってすごく活気に溢れてるね」

 せっかく道を舗装したのでわたしはベドスにくっついて隣町に来ていた。ついでにバガンもついて来ている。本人いわく保護者とか言ってるけど、わたしに言わせればどっちが保護者になるかわかったもんじゃない。

「俺は店に作物を売りさばいてくるからよ。バガン。エル様のこと、頼んだぞ」
「へっ、ガキのお守をするくらいどうってことねえぜ」
「……エル様。バガンの奴が変なことしでかさねえように見てやってください。お願いします」
「任せなさいな」
「おいっ! 何言ってやがるベドスこの野郎!」

 わたしがバガンをどうどうと押さえている間に、ベドスは仕事へと行った。
 ベドスの姿が見えなくなってからぐるりと見渡してみる。
 道なりに露店がいくつも並んでいた。店の多さは人の多さと比例するようだ。客を呼び込もうとする店主の声が重なる。道一本だけでも賑やかさが伝わってくる。
 建物だってうちとは違ってどこもしっかりとした造りをしていた。シエル家の屋敷よりも立派な建物も探せばあるだろう。……わたし、貴族ですよね?
 何もかもが違っている。お隣さんってだけでこんなにもレベルが違うものなのか。

「あっ、おいしそうなにおい。何か食べる?」
「なんだよ。おごってくれんのか?」
「……しょうがないなぁ」

 自分でガキだとか言ってたのにたかるのかよ。別にいいけどね。
 露店で焼き鳥を買ってバガンといっしょに食べ歩き。鳥は鳥らしいけどなんの鳥の肉なんだろうね。まだまだ異世界の生物の勉強が足りないね。

「ここで露店開いて商売するってわけにはいかないのかな」
「勝手にそんなことできるわけねえだろうが。商売すんのも領主様ってのに許可取らねえとダメなんだろ」

 そう、ここはシエル領の外である。場所が変わればルールも変わる。
 勝手に商売ができるんならベドスだってそうしてるか。わざわざ店に売りつけるなんて効率悪いし。この辺はおじさん二人ともルールは守るんだ。
 まあ普通に考えれば領主をやるような貴族に逆らおうなんてこと思わない。それほどに権力の力は偉大なのだ。
 逆説的に考えればシエルの名に貴族としてのブランドは薄いってことなんだろうけど。ああ、悲しい。

「でも、こっそりやればばれないんじゃない?」
「……テメー、仮にも貴族のくせに怖いもん知らずだな」
「仮にもってゆーな。わたくし立派な貴族ですのことよ」

 バガンに呆れた目を向けられる。解せぬ。

「つーか、なんか商売するアテでもあんのかよ?」
「わたしの魔法があればいろいろやりようはあると思うんだよね」
「……まあな」

 わたしの実力は認めているようだ。バガンの態度は相変わらずだけど、ベドスのわたしに対する態度はけっこううやうやしいものになっているからね。ウィリアムくんを救ったのが変化の大部分を占めているんだろうけど。道を舗装したのが決定打になった感じ。

「これだけ人がいたら、お医者さんを求めてる人だっているよね」
「テメーは医者のマネごとでもする気か?」
「マネごとなんてゆーな。わたしの治癒魔法なら大抵の傷は癒せる。それはバガンも知ってるでしょ?」
「テメーのおかげさんでな」

 わたしの魔法の的になることの多いバガンである。わたしの治癒魔法の世話になっているのも実は彼が一番多い。

「治癒魔法を受けるのだって高いんでしょ? それを格安でやれば儲かるんじゃないかな」

 バガンは焼き鳥をもしゃもしゃ食べながら考えているようだ。完食するとバガンは路地裏へと足を向けた。

「ついて来い」

 わたしは素直にバガンの後を追った。
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