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一章 領地編
第10話 金もうけのやり方
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「清らかなる水よ、集え」
ウィリアムくんが詠唱すると、彼の手に小さな水の球ができた。
ウォーターボールである。わたしが最初にできた魔法でもある。
小さいけれど、確かに成功していた。
「あ、できたよエル!」
「ちゃんと集中しなきゃダメ――遅かったか」
ウォーターボールは形を保てずパシャンと音を立てて地面へと落ちた。
魔法が成功して嬉しいのはわかるけれど、まだまだ集中力が足りないようだ。子供なんだし当たり前と言えばそうなんだろうけどね。
「うぅ……せっかく成功したと思ったのに」
「それでもすごいよ。ちゃんとウォーターボールができてた。あとはあれを維持するだけだよ」
ウィリアムくんは本当に成果を出している。わたしはウォーターボールができるようになるまでに五年かけたのだ。それを彼は半年で成功しようとしている。
……あれ? ウィリアムくんの方が才能あるんじゃない? 転生までしてわたしはこんなに小さい子に負けるのか。
ちょっと落ち込んじゃいそう。で、でも今のわたしはレベルが違う! 何よりウィリアムくんの師匠だしね。
ふんっ、と元気を出す。
「じゃあ今の感覚を忘れない内に反復練習しようか」
「うんっ」
ウィリアムくんは真面目で良い生徒だ。やっぱり素直が一番。教え子はそうでなくてはいかんね。
魔法をたくさん行使することはイコール魔力をたくさん使うことだ。肉体疲労とは違うのだろうが、これがけっこう疲れる。
魔力イコール精神力。よくある考え方だ。でも実際にやってみるとあながち間違った考え方ではないのだろう。この疲労感というか脱力感というか、なんか精神的にしんどくなる感じだ。
魔力は使えば使うほどマナ保有量アップに繋がる。
あれだな。走れば走るほど長距離を走れるようになるみたいな。超回復とかでも例にしやすいか。
だからウィリアムくんには成功失敗問わずフラフラになるまで魔法を使わせるようにしている。
失敗したとしても体の中では取り込んだマナを変換しようとがんばっている。それはしっかりと魔力を使ったことになるのだ。
最初、わたしはその辺できてなかったみたいだしね。もっと早くアルベルトさんに会っていれば正しい努力ができていただろうに、もったいない。
さて、わたしもがんばらねば。
ウィリアムくんは筋がいいからなぁ。追いつかれないようにしなければ。師匠の意地として。
「エルはさすがだね。杖なしで、それも無詠唱で魔法が使えるなんてすごいよ」
ウィリアムくんの横でわたしはゴーレムを生成した。それを見た彼に褒められて悪い気はしない。
「まあね。キミの先生はすごいのだよ」
ゴーレムをくるくると躍らせながら自慢げに胸を張ると素直に褒めてくれる。ウィリアムくんってば褒め上手。わたしもっとがんばっちゃうぞ☆
ちなみにウィリアムくんの杖はわたしのおさがりだ。彼が言うには杖がないと魔力の流れが全然わからないとのこと。
何回かは杖を持たせずにやってみたり、無詠唱で魔法を使わせようとしてみたけれどうまくいかなかった。わたしも感覚でやっているだけになかなか説明できなかったから仕方がないっちゃそうなんだけど。
教えるにしても試行錯誤ばかりだ。魔法の教本なんかがあれば便利なんだけども。どうやらシエル家に本なんて上等な物は置いていないようだった。
この異世界での本はなんにしても高価だからね。やっぱり大量生産するなんて難しいのだろう。
シエル家に本がないのはお金がないのか興味がないのか、たぶんどっちもだろうけど。なんにしても不便なことこの上ない。
前世では読書家ってわけでもなかったけれど、それはネットがあったからだろう。何かをやろうとすれば知識が必要なのは当然のことだった。
アルベルトさんがいなくなった今、魔法のことで頼れるのは大精霊様であるアウスだけだ。
……ただ、アウスはよく寝てるんだよなぁ。あの眠たげな目は本当に眠たがっている目だったようで、今だって存在を消して眠っている。
起きるまで呼んでも姿を現さないからなぁ。さすがは精霊。フリーダムだな。
それでも順調にわたしの魔法のレベルは上がっている。
ウィリアムくんもそうだ。わたしが学校に行くまでには下位魔法は使えるようになるかもしれない。
そう、学校に行くために。そのための準備も始めなければならないだろう。
※ ※ ※
お金と領地の安定。それがわたしのやらなければならないことだ。
現在、わたしは医者のマネごとなんかしてたりする。病気で伏せている人を魔法でぱぱっと治すだけの簡単なお仕事だ。現代のお医者さんが聞いたら怒られそうなくらい簡単にできてしまう。
おかげで領内ではわたしを「エル様」と崇める人が続出。まあお金をもらわないボランティアでやっているのだからそういう反応もされるだろう。
普通だったら医者にかかるなんてかなりのお金がかかることなのだそうだ。それも魔法使いのとなると法外なお値段を請求されるとか。
それをタダでやっているのだから感謝されるのは当然か。もともとこの領地で医者なんかいないからどれくらいかかるかとかも知らないんだけどね。
シエル領には貧乏人しかいない。類は友を呼ぶじゃないけれど、貧乏人の元には貧乏人が集まるのだろう。つらい。
だからここでお金を稼ごうだなんて思わない。
考えるのは領地にいる人みんなでお金を稼ごうということだった。
わたしの働きで病人はほとんどいなくなった。それに、作物も育つようになり食べ物にも困らなくなった。
領内だけならほとんど問題がないと言っても過言じゃないだろう。
今度はそれを外に向けるのだ。
※ ※ ※
「街道を作る? 正気か?」
「そこは『本気か?』って言ってよ!」
わたしの案を聞いたベドスが怪訝な顔をする。
ウィリアムくんの家に遊びに行ったらちょうどベドスがいたので、隣町まで道を整地しようと思うのだと言ったらこの反応である。
ベドスはお金を稼ぐために隣町まで仕事に行っているのだ。隣町と言ってもこのシエル領からだとかなりの距離である。泊まりがけになることなんてしょっちゅうだったりする。
ちなみにベドスの仕事は領内でできた作物を売りに行くことである。そうやってできるほどには食料は豊富なのだ。
それにうちの領内で取れた作物はみずみずしくてどれも栄養満点。さすがは大精霊様。ほとんどアウスの力である。
「道が整備されればもっと行き来が楽になるでしょ。そうしたらベドスだってもっと家族との時間が取れる。お父さんできるんだよ」
「エル様……私達のことを思ってくださるのですね」
「僕も賛成! もっとお父さんが家にいてほしいよ」
わたしの言葉に奥さんとウィリアムくんが賛同する。
「……そんなこと言ったってどうやってそんなことするんだ?」
家族の賛成票には勝てなかったのだろう。ベドスは否定的なことは口にしなかった。
ベドスだって父親だ。本当はもっと家族サービスしたいと思っているのだろう。『俺』の時は父親に遊んでもらった記憶はないんだけどな。
おっとネガティブ禁止。
今はベドス一家のことだ。そう言いつつも得があるのは彼等だけじゃないはずだ。
現在、シエル領を出て商売をしているのはこのおっさんベドスだけだ。それは馬車を持っているのがこのベドスだけというのもあるし、隣町までの道のりが危険だというのもある。
このベドス、けっこう強いのだ。わたしの魔法を斬り裂いたのは伊達じゃない。
剣の腕なら一流らしく、武器を持った野盗程度なら十数人くらい簡単に倒せちゃうのだ。わたしはまだ遭遇したことはないけど、その辺の魔物相手でも楽勝らしい。
アルベルトさんには完封されてたけどね。それでもアルベルトさんもベドスの剣の腕前は一流だと言っていた。だからそうなのだろう。
でも、ベドスは一人だ。彼一人だけでは限界がある。
道を作ってみんなの行き来を簡単にするのだ。そうすれば領民の懐はもっと潤う。
これは、領民のみんなにもっと働いてもらってお金を稼ぎましょう大作戦なのだ!
そして、ここからが本題だけれど、領民に税金を支払わせる。それが目的だったりする。
他の貴族は当たり前のように領民から税金を徴収している。それは当然の権利であり、義務なのだ。
それがここではできていなかった。なぜなら領民にそんな余裕がないのはわかっていたし、あまりまっとうな人がいないシエル領で「税金払え」なんて言えば屋敷を襲撃されてもおかしくなかったのである。
でも今は違う。少なくともわたしに恩義を感じている人は多い。それに懐が潤えば少しばかりの税金くらいで腹を立てたりはしないだろう。
これを確立すれば、領民はお金を稼げてハッピー。わたしの両親は安定して領地経営ができてハッピー。そして、わたしは税金から学費を払って学校に行かせてもらってハッピー、となる。
ふふふ、完璧だぜ。わたしの作戦にわたしが酔いしれちゃうぜ!
わたしはどん、と胸を叩いた。
「わたしの魔法に不可能はない! ベドスはそれがわかってるんじゃなかったのかな?」
ベドスは「お、おう」と言って頷くことしかできなかったのだった。
ウィリアムくんが詠唱すると、彼の手に小さな水の球ができた。
ウォーターボールである。わたしが最初にできた魔法でもある。
小さいけれど、確かに成功していた。
「あ、できたよエル!」
「ちゃんと集中しなきゃダメ――遅かったか」
ウォーターボールは形を保てずパシャンと音を立てて地面へと落ちた。
魔法が成功して嬉しいのはわかるけれど、まだまだ集中力が足りないようだ。子供なんだし当たり前と言えばそうなんだろうけどね。
「うぅ……せっかく成功したと思ったのに」
「それでもすごいよ。ちゃんとウォーターボールができてた。あとはあれを維持するだけだよ」
ウィリアムくんは本当に成果を出している。わたしはウォーターボールができるようになるまでに五年かけたのだ。それを彼は半年で成功しようとしている。
……あれ? ウィリアムくんの方が才能あるんじゃない? 転生までしてわたしはこんなに小さい子に負けるのか。
ちょっと落ち込んじゃいそう。で、でも今のわたしはレベルが違う! 何よりウィリアムくんの師匠だしね。
ふんっ、と元気を出す。
「じゃあ今の感覚を忘れない内に反復練習しようか」
「うんっ」
ウィリアムくんは真面目で良い生徒だ。やっぱり素直が一番。教え子はそうでなくてはいかんね。
魔法をたくさん行使することはイコール魔力をたくさん使うことだ。肉体疲労とは違うのだろうが、これがけっこう疲れる。
魔力イコール精神力。よくある考え方だ。でも実際にやってみるとあながち間違った考え方ではないのだろう。この疲労感というか脱力感というか、なんか精神的にしんどくなる感じだ。
魔力は使えば使うほどマナ保有量アップに繋がる。
あれだな。走れば走るほど長距離を走れるようになるみたいな。超回復とかでも例にしやすいか。
だからウィリアムくんには成功失敗問わずフラフラになるまで魔法を使わせるようにしている。
失敗したとしても体の中では取り込んだマナを変換しようとがんばっている。それはしっかりと魔力を使ったことになるのだ。
最初、わたしはその辺できてなかったみたいだしね。もっと早くアルベルトさんに会っていれば正しい努力ができていただろうに、もったいない。
さて、わたしもがんばらねば。
ウィリアムくんは筋がいいからなぁ。追いつかれないようにしなければ。師匠の意地として。
「エルはさすがだね。杖なしで、それも無詠唱で魔法が使えるなんてすごいよ」
ウィリアムくんの横でわたしはゴーレムを生成した。それを見た彼に褒められて悪い気はしない。
「まあね。キミの先生はすごいのだよ」
ゴーレムをくるくると躍らせながら自慢げに胸を張ると素直に褒めてくれる。ウィリアムくんってば褒め上手。わたしもっとがんばっちゃうぞ☆
ちなみにウィリアムくんの杖はわたしのおさがりだ。彼が言うには杖がないと魔力の流れが全然わからないとのこと。
何回かは杖を持たせずにやってみたり、無詠唱で魔法を使わせようとしてみたけれどうまくいかなかった。わたしも感覚でやっているだけになかなか説明できなかったから仕方がないっちゃそうなんだけど。
教えるにしても試行錯誤ばかりだ。魔法の教本なんかがあれば便利なんだけども。どうやらシエル家に本なんて上等な物は置いていないようだった。
この異世界での本はなんにしても高価だからね。やっぱり大量生産するなんて難しいのだろう。
シエル家に本がないのはお金がないのか興味がないのか、たぶんどっちもだろうけど。なんにしても不便なことこの上ない。
前世では読書家ってわけでもなかったけれど、それはネットがあったからだろう。何かをやろうとすれば知識が必要なのは当然のことだった。
アルベルトさんがいなくなった今、魔法のことで頼れるのは大精霊様であるアウスだけだ。
……ただ、アウスはよく寝てるんだよなぁ。あの眠たげな目は本当に眠たがっている目だったようで、今だって存在を消して眠っている。
起きるまで呼んでも姿を現さないからなぁ。さすがは精霊。フリーダムだな。
それでも順調にわたしの魔法のレベルは上がっている。
ウィリアムくんもそうだ。わたしが学校に行くまでには下位魔法は使えるようになるかもしれない。
そう、学校に行くために。そのための準備も始めなければならないだろう。
※ ※ ※
お金と領地の安定。それがわたしのやらなければならないことだ。
現在、わたしは医者のマネごとなんかしてたりする。病気で伏せている人を魔法でぱぱっと治すだけの簡単なお仕事だ。現代のお医者さんが聞いたら怒られそうなくらい簡単にできてしまう。
おかげで領内ではわたしを「エル様」と崇める人が続出。まあお金をもらわないボランティアでやっているのだからそういう反応もされるだろう。
普通だったら医者にかかるなんてかなりのお金がかかることなのだそうだ。それも魔法使いのとなると法外なお値段を請求されるとか。
それをタダでやっているのだから感謝されるのは当然か。もともとこの領地で医者なんかいないからどれくらいかかるかとかも知らないんだけどね。
シエル領には貧乏人しかいない。類は友を呼ぶじゃないけれど、貧乏人の元には貧乏人が集まるのだろう。つらい。
だからここでお金を稼ごうだなんて思わない。
考えるのは領地にいる人みんなでお金を稼ごうということだった。
わたしの働きで病人はほとんどいなくなった。それに、作物も育つようになり食べ物にも困らなくなった。
領内だけならほとんど問題がないと言っても過言じゃないだろう。
今度はそれを外に向けるのだ。
※ ※ ※
「街道を作る? 正気か?」
「そこは『本気か?』って言ってよ!」
わたしの案を聞いたベドスが怪訝な顔をする。
ウィリアムくんの家に遊びに行ったらちょうどベドスがいたので、隣町まで道を整地しようと思うのだと言ったらこの反応である。
ベドスはお金を稼ぐために隣町まで仕事に行っているのだ。隣町と言ってもこのシエル領からだとかなりの距離である。泊まりがけになることなんてしょっちゅうだったりする。
ちなみにベドスの仕事は領内でできた作物を売りに行くことである。そうやってできるほどには食料は豊富なのだ。
それにうちの領内で取れた作物はみずみずしくてどれも栄養満点。さすがは大精霊様。ほとんどアウスの力である。
「道が整備されればもっと行き来が楽になるでしょ。そうしたらベドスだってもっと家族との時間が取れる。お父さんできるんだよ」
「エル様……私達のことを思ってくださるのですね」
「僕も賛成! もっとお父さんが家にいてほしいよ」
わたしの言葉に奥さんとウィリアムくんが賛同する。
「……そんなこと言ったってどうやってそんなことするんだ?」
家族の賛成票には勝てなかったのだろう。ベドスは否定的なことは口にしなかった。
ベドスだって父親だ。本当はもっと家族サービスしたいと思っているのだろう。『俺』の時は父親に遊んでもらった記憶はないんだけどな。
おっとネガティブ禁止。
今はベドス一家のことだ。そう言いつつも得があるのは彼等だけじゃないはずだ。
現在、シエル領を出て商売をしているのはこのおっさんベドスだけだ。それは馬車を持っているのがこのベドスだけというのもあるし、隣町までの道のりが危険だというのもある。
このベドス、けっこう強いのだ。わたしの魔法を斬り裂いたのは伊達じゃない。
剣の腕なら一流らしく、武器を持った野盗程度なら十数人くらい簡単に倒せちゃうのだ。わたしはまだ遭遇したことはないけど、その辺の魔物相手でも楽勝らしい。
アルベルトさんには完封されてたけどね。それでもアルベルトさんもベドスの剣の腕前は一流だと言っていた。だからそうなのだろう。
でも、ベドスは一人だ。彼一人だけでは限界がある。
道を作ってみんなの行き来を簡単にするのだ。そうすれば領民の懐はもっと潤う。
これは、領民のみんなにもっと働いてもらってお金を稼ぎましょう大作戦なのだ!
そして、ここからが本題だけれど、領民に税金を支払わせる。それが目的だったりする。
他の貴族は当たり前のように領民から税金を徴収している。それは当然の権利であり、義務なのだ。
それがここではできていなかった。なぜなら領民にそんな余裕がないのはわかっていたし、あまりまっとうな人がいないシエル領で「税金払え」なんて言えば屋敷を襲撃されてもおかしくなかったのである。
でも今は違う。少なくともわたしに恩義を感じている人は多い。それに懐が潤えば少しばかりの税金くらいで腹を立てたりはしないだろう。
これを確立すれば、領民はお金を稼げてハッピー。わたしの両親は安定して領地経営ができてハッピー。そして、わたしは税金から学費を払って学校に行かせてもらってハッピー、となる。
ふふふ、完璧だぜ。わたしの作戦にわたしが酔いしれちゃうぜ!
わたしはどん、と胸を叩いた。
「わたしの魔法に不可能はない! ベドスはそれがわかってるんじゃなかったのかな?」
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