根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

文字の大きさ
上 下
6 / 127
一章 領地編

第5話 なんのために許すのか

しおりを挟む
「……は?」

 誰かの呆けた声が聞こえた。わたしのじゃないのは確かだ。

「おいガキ。今なんて言った?」
「だから、あなた達は無罪ですって言ったの。難聴?」
「難聴じゃねえよ! テメー自分が何言ってんのかわかってんのか!?」

 なんで無罪って言ってるのに怒鳴られないといけないんだろうか。理不尽だ。

「俺たちゃ誘拐犯だぞ! わかってんのか!? テメーを誘拐しようとしてたんだぞ!」
「そりゃあわかってるよ。未遂だったけど」
「そういう問題じゃねえだろ!」

 だから怒鳴らなくてもいいのに。思わず耳を塞いでしまった。
 ぽんと肩を叩かれる。アルベルトさんだ。

「まあなんて言うか……こいつらの肩を持つわけじゃねえが、俺もそれはどうかと思うぜ」

 わたしの決定にアルベルトさんもやんわりと反対する。
 その反応は正しいと思う。わたしだって他人事ならそう思っていたはずだ。犯罪者は罰せられて当然。当たり前の常識だ。
 けれど、これはわたしの問題で、彼等は領民なのだ。

「アルベルトさん。あなたには感謝しています。すっごく感謝しています。でも、わたしはこの決定を取り下げる気はありません」
「お、おう。ちっちゃいのに意志がしっかりしているようで……、お兄さんびっくりだー」
 アルベルトさんをたじたじにさせてしまった。でもそれだけで、アルベルトさんからそれ以上言葉を重ねられることはなかった。
 男達の方を改めて向く。やっぱり睨まれている。
 負けちゃダメだ。これでもわたしは貴族で偉いんだから。貧乏だけど。

「あなた達は誘拐という罪を犯してしまった。でも、領民の落ち度はそれを治める領主の落ち度でもある」
「な……にを?」
「罪の理由はわかった。だったら、食べ物に困らない土地を作ればいいんでしょ?」
「そんなの……できるわけが」
「できる!」

 わたしは言いきった。なんの根拠もなく、なんの自信もなく、ただの願望を精一杯口にする。
 ばんっと胸を叩く。あばらの痛みを思い出したけど、歯を喰いしばってなんとか耐える。

「わたしは天才魔道士エルちゃんなんだぜ。わたしの魔法にかかればどんなことだってやってやるさ!」

 男達はしばらく沈黙した。
 ちょっとマズったかなと思ってきた頃、ようやく口を開いたのは剣を持っていた方の男だった。

「頼む! なんとかできるんだったらなんとかしてくれ!」

 頭を下げる姿はまさに土下座であった。彼は頭を地べたに擦りつけ、精一杯に懇願してきた。

「なっ……。こんなガキを信用する気か!?」
「ガキだろうがなんだろうがどうだっていいだろうがっ! もう、時間がねえだろうがっ!」

 男は泣いていた。苦しそうに、悲しそうに、大の大人がぽろぽろと涙を零していた。
 男は地面に頭を擦りつける。縄で縛られているために不格好ではあるが完全に土下座の形だった。

「お願いします! 俺の子供を助けてください!!」


  ※ ※ ※


 誘拐に使われた馬車を再利用してお家へUターンすることとなった。親切心からアルベルトさんも同行してくれている。ついでに彼の回復魔法であばらの痛みは綺麗になくなっている。魔法ってすごい。
 その間に元誘拐犯の男二人から事情を聞かせてもらった。ちなみに名前は剣を持っていた方がベドスで、持っていない方がバガンだ。

 ざっくりと説明しよう。
 ベドスの子供が病気で倒れてしまったそうだ。しかし、シエル領にまともな医者はいないし、それどころかまともな食べ物だって育たない。
 病気のため食欲もない。このままでは衰弱死してしまう。それに焦りを覚えたベドスはちゃんとした医者と食べ物を求めていた。
 けれどベドスはこんな辺境の地に住んでいるような人物だ。やっぱりというべきか、まっとうな働く場がなかった。

 そんな時だった。
 劣等貴族のシエル家から天才少女が現れたという話を耳にしたのだ。つまりわたしのことである。
 昔の悪い仲間であるバガンと手を組んでわたしの誘拐計画を実行したというわけだ。計画ではわたしを売り払って金をゲット。その足で医者と食料を調達して子供を治してもらう。子供の体力が回復してからシエル領から脱出しようとしていたそうだ。
 そんな悠長な計画で捕まりはしないのか。そう尋ねたところ、劣等貴族のシエル家じゃあそこまでの行動力はないとのこと。おろおろして体裁のため助けを求めることさえできないだろう、と言われた。お父さんお母さん、ごめんなさい。言い返せないわたしを許してください。

 まあそれはともかくとして、だ。
 重要なのはベドスの子供の病気を治すこと。それとこの枯れてしまった土地から食料を確保できるようにすることである。

 正直、難題にもほどがある。
 わたしは医者でもないし、枯れた土地をなんとかできる知識もない。前世でもっと勉強していれば違ったのだろうが、今言ったところで遅いにもほどがある。

 でも、今のわたしは魔法が使えるのだ。のだー!
 きっと奇跡は起こせる……はず。はずなのだ!
 魔法に大切なのはイメージだ。これは幼少の頃からやってきたことであり、その上達具合を見れば正しいのだろう。
 イメージ。そう、イメージするのだ。わたしがベドスの子供が元気になる姿や食物に満ちた大地を想像することができれば、きっとその通りになるはず。……何それわたし神様みたい。
 なんか自分の気持ちに正直になりすぎて安請け合いしちゃったかも。だ、大丈夫だよね?

「あ、あのよ……」
「ひゃいっ!?」

 急にベドスに話しかけられてちょっとだけ飛び上がってしまった。見ると頭をポリポリかいているおじさん。その顔は複雑なものだった。ちなみに剣はアルベルトさんが預かっている。一応ね。
 ついでにバガンが馭者をしている。あの人乱暴だから、離れてくれてほっとしたのは内緒だ。
 わたしの隣にいてくれるアルベルトさんは興味なさげにあくびなんかしてる。そう警戒するところでもないようだ。

「……怖い思いさせて、悪かったな」

 そう言って頭を下げるベドス。そこには真摯さがあった。ちゃんと心から謝ってくれているようだ。
 けれど、怖かったのは事実だし、ここで下手に気をつかうのは違うと思う。

「そうだね。怖かった、超ビビリました」
「……すまん」
「その罰はまた受けてもらうことにするよ。わたしのお願いなんでも一つ聞くとか」
「なんでも、か」
「そりゃあなんでもでしょうよ。覚悟することだね」
「ああ、なんでも聞くよ」

 それで会話終了。それから無言のままわたしは愛しの領地へと帰ってきたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したもののトカゲでしたが、進化の実を食べて魔王になりました。

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
異世界に転生したのだけれど手違いでトカゲになっていた!しかし、女神に与えられた進化の実を食べて竜人になりました。 エブリスタと小説家になろうにも掲載しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...