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一章 領地編
第2話 誘拐されたわたし(冒頭編)
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ガタンッ! 地面が揺れた衝撃で目を覚ました。
寝惚け目で起きようとすると体がうまく動かせないことに気づく。ていうか手足が縄でぐーるぐるに縛られていた。
「む、む? むぐっ。むー! んんー! むぐー!」
口を開こうとしてもうまくできない。ていうか何かさるぐつわみたいなもので縛られていた。
え、何これ? どういう状況?
混乱する頭を必死に働かせる。とにかく現状把握だ。
暗い場所だ。目を凝らしても周りに何があるかはっきりとはわからない。ただ、隙間からわずかに光が入ってきている。日光だろう。時間帯は昼間のようだった。少なくとも夜ではないようだ。
断続的な振動が体を揺らす。縛られて身動きとれないから地味に振動が堪える。
この振動。ちょっとしか乗ったことないけど馬車の振動に似ている。
縛られているわたしが馬車に揺られてどんぶらこ。これはつまりドナドナーってことですかね?
……うん。ちょっと待って。今考えるからちょっと待って。
記憶を掘り返す。どうしてこうなった?
今日は……そうだ! 確かいつも通り魔法の訓練をしようと家を出たのだ。
それから領内の村のはずれで訓練を始めようとして、……そこから記憶が途切れている?
これは、つまり、う~ん……。
答えを出そうか出すまいか悩んでいると、急に光が入ってきた。反射的に目をつむり寝たふりをする。
「……まだ寝てるようだな」
知らない男の声だ。どちら様?
寝たふり続行で耳をそばだてる。
「このまま起きてくれるなよ。せっかくの金ヅルだ。できるだけ乱暴はしたくねえからな」
げへへと笑う知らないおじさん。そう言われるといろんな意味でわたしってピンチだろうかと思ってしまう。
……いや、冗談じゃなくてこれって本当にピンチだ。
さっと暗がりが戻ってきた。男は確認を終えて満足したらしい。
遠ざかったことを確認し、わたしは目を開いた。額に汗が滲んで前髪が貼り着く。
考えないなんてことはできない。むしろこれから考えねばなるまい。
わたしは誘拐された。まずはそれを認めよう。
男はわたしが金ヅルになると言っていた。身代金を要求するわけではないだろう。だってうちにお金なんてないんですもの。うふふ、これでも貴族ですのよ。
そうなると、わたし自身を売り飛ばしてしまおうということだろう。たぶん奴隷市場にでも流されるのではなかろうか。異世界で奴隷制度が根付いているとか、これまた定番ですなー。
貧困を極めているとはいえわたしだって貴族の端くれだ。見た目だって悪くない。さらに付け足せば十歳で魔法を扱えるというのがでかいのだろう。
こんな年齢で魔法を扱えるのは珍しいのだろう。両親は「我がシエル家の希望だ」とか言ってるし。これからののびしろだって期待できる。
う~ん、我ながらなんて優良物件。これはもう誘拐されたっておかしくないね☆
「……」
いやいやいやいや! そんなこと言ってる場合じゃないぞ!
これってかなりのピンチじゃないか! だって手足を縛られて猿ぐつわまでされちゃってる。
抵抗すら許されない状況。どうしろと?
この状況を脱却する手段はあるのか?
……うん。あったね。ハイスペックなわたしだからこその手段。
わたしを誘拐したであろう彼等は理解していないのだろう。わたしは無力化されていないということに。
まあ普通に考えれば、口を封じられ杖もない魔道士に抵抗する手段なんてない。それが常識なのだろう。少なくとも、この状況でわたしじゃなくて両親だったら完全に詰んでいただろう。
けれど、その常識とやらがわたしには適応されなかった。ただそれだけのこと。
彼等には悪いのだが、わたしは杖なし詠唱なしでも魔法が使えるのだ。
ふふ、これがシエル家の神童と呼ばれたわたしの実力さ。そう呼んでくれているのは両親だけだけど。みんな呼んでくれていいのよ?
まあそんなわけなのでちょちょいのちょいで風魔法で手足を縛っていた縄を切断する。両手が自由になれば猿ぐつわを取り去るのは簡単だった。
「ぷはーっ。やっとまともに息ができる。空気がおいちー」
さて、脱出しますか。
「うーむ……、これはなかなかのスピードですなぁ」
馬車の隙間から外をのぞいてみる。けっこうな速さで景色が流れていく。
これを飛び降りるのは危ないのではなかろうか? わたしがいくら天才魔道士とはいえ体は歳相応の十歳の女の子だ。むしろ平均よりもやせているくらい。貧乏ゆえに。
それを考えるとだね。わたしがこの体一つで馬車を飛び降りるなんて無茶な話だってことなのですよ。
よし、ここで作戦会議!
まずはわたしの魔法のおさらいから。
わたしが使える魔法は、四大属性の下位まで。
それがどの程度かというとだね。
火属性。たき火はお任せ。そのくらいしか使ったことがない。火の用心ですよ。
水属性。どこでも飲み水を出せるよ。ウォーターボールで相手をびしょ濡れにだってできるんだぜ!
風属性。エアカッター的なものが使える。スパスパ切っちゃうぞ☆ 空は飛べない。
土属性。土を盛り上げたりできる。やったことないけど落とし穴だって作れちゃう。その落とし穴を戻せるかはこれまた不明。
とまあこんな感じ。どうでしょう? けっこうバランス良い感じじゃないかな。
……わかっているさ。あくまで歳のわりにはできるかなってくらいのレベルだ。
魔法で誘拐犯をぶちのめしたり、こっそり脱出もできなさそう。いや、これだけできるのって本当にすごいんだよ。まず四大属性すべてを扱える魔道士って少ないらしいからね。
だからわたしは天才。本当にすごいのだ。
今回はタイミングが悪かった。ただそれだけ。
たぶん誘拐されるのがあと一年遅ければ、誘拐犯を全員ぶちのめすくらいの魔法を習得していたことだろう。
それくらいの才能がわたしにはあるはずだ。転生者は成長が早いという法則があるのだよ。最初の魔法で五年かかったことはもう忘れました。
ふんっ、運がよかったな誘拐犯ども。今回ばかりは見逃してやろう。
……見逃してくれたらいいなぁ。
寝惚け目で起きようとすると体がうまく動かせないことに気づく。ていうか手足が縄でぐーるぐるに縛られていた。
「む、む? むぐっ。むー! んんー! むぐー!」
口を開こうとしてもうまくできない。ていうか何かさるぐつわみたいなもので縛られていた。
え、何これ? どういう状況?
混乱する頭を必死に働かせる。とにかく現状把握だ。
暗い場所だ。目を凝らしても周りに何があるかはっきりとはわからない。ただ、隙間からわずかに光が入ってきている。日光だろう。時間帯は昼間のようだった。少なくとも夜ではないようだ。
断続的な振動が体を揺らす。縛られて身動きとれないから地味に振動が堪える。
この振動。ちょっとしか乗ったことないけど馬車の振動に似ている。
縛られているわたしが馬車に揺られてどんぶらこ。これはつまりドナドナーってことですかね?
……うん。ちょっと待って。今考えるからちょっと待って。
記憶を掘り返す。どうしてこうなった?
今日は……そうだ! 確かいつも通り魔法の訓練をしようと家を出たのだ。
それから領内の村のはずれで訓練を始めようとして、……そこから記憶が途切れている?
これは、つまり、う~ん……。
答えを出そうか出すまいか悩んでいると、急に光が入ってきた。反射的に目をつむり寝たふりをする。
「……まだ寝てるようだな」
知らない男の声だ。どちら様?
寝たふり続行で耳をそばだてる。
「このまま起きてくれるなよ。せっかくの金ヅルだ。できるだけ乱暴はしたくねえからな」
げへへと笑う知らないおじさん。そう言われるといろんな意味でわたしってピンチだろうかと思ってしまう。
……いや、冗談じゃなくてこれって本当にピンチだ。
さっと暗がりが戻ってきた。男は確認を終えて満足したらしい。
遠ざかったことを確認し、わたしは目を開いた。額に汗が滲んで前髪が貼り着く。
考えないなんてことはできない。むしろこれから考えねばなるまい。
わたしは誘拐された。まずはそれを認めよう。
男はわたしが金ヅルになると言っていた。身代金を要求するわけではないだろう。だってうちにお金なんてないんですもの。うふふ、これでも貴族ですのよ。
そうなると、わたし自身を売り飛ばしてしまおうということだろう。たぶん奴隷市場にでも流されるのではなかろうか。異世界で奴隷制度が根付いているとか、これまた定番ですなー。
貧困を極めているとはいえわたしだって貴族の端くれだ。見た目だって悪くない。さらに付け足せば十歳で魔法を扱えるというのがでかいのだろう。
こんな年齢で魔法を扱えるのは珍しいのだろう。両親は「我がシエル家の希望だ」とか言ってるし。これからののびしろだって期待できる。
う~ん、我ながらなんて優良物件。これはもう誘拐されたっておかしくないね☆
「……」
いやいやいやいや! そんなこと言ってる場合じゃないぞ!
これってかなりのピンチじゃないか! だって手足を縛られて猿ぐつわまでされちゃってる。
抵抗すら許されない状況。どうしろと?
この状況を脱却する手段はあるのか?
……うん。あったね。ハイスペックなわたしだからこその手段。
わたしを誘拐したであろう彼等は理解していないのだろう。わたしは無力化されていないということに。
まあ普通に考えれば、口を封じられ杖もない魔道士に抵抗する手段なんてない。それが常識なのだろう。少なくとも、この状況でわたしじゃなくて両親だったら完全に詰んでいただろう。
けれど、その常識とやらがわたしには適応されなかった。ただそれだけのこと。
彼等には悪いのだが、わたしは杖なし詠唱なしでも魔法が使えるのだ。
ふふ、これがシエル家の神童と呼ばれたわたしの実力さ。そう呼んでくれているのは両親だけだけど。みんな呼んでくれていいのよ?
まあそんなわけなのでちょちょいのちょいで風魔法で手足を縛っていた縄を切断する。両手が自由になれば猿ぐつわを取り去るのは簡単だった。
「ぷはーっ。やっとまともに息ができる。空気がおいちー」
さて、脱出しますか。
「うーむ……、これはなかなかのスピードですなぁ」
馬車の隙間から外をのぞいてみる。けっこうな速さで景色が流れていく。
これを飛び降りるのは危ないのではなかろうか? わたしがいくら天才魔道士とはいえ体は歳相応の十歳の女の子だ。むしろ平均よりもやせているくらい。貧乏ゆえに。
それを考えるとだね。わたしがこの体一つで馬車を飛び降りるなんて無茶な話だってことなのですよ。
よし、ここで作戦会議!
まずはわたしの魔法のおさらいから。
わたしが使える魔法は、四大属性の下位まで。
それがどの程度かというとだね。
火属性。たき火はお任せ。そのくらいしか使ったことがない。火の用心ですよ。
水属性。どこでも飲み水を出せるよ。ウォーターボールで相手をびしょ濡れにだってできるんだぜ!
風属性。エアカッター的なものが使える。スパスパ切っちゃうぞ☆ 空は飛べない。
土属性。土を盛り上げたりできる。やったことないけど落とし穴だって作れちゃう。その落とし穴を戻せるかはこれまた不明。
とまあこんな感じ。どうでしょう? けっこうバランス良い感じじゃないかな。
……わかっているさ。あくまで歳のわりにはできるかなってくらいのレベルだ。
魔法で誘拐犯をぶちのめしたり、こっそり脱出もできなさそう。いや、これだけできるのって本当にすごいんだよ。まず四大属性すべてを扱える魔道士って少ないらしいからね。
だからわたしは天才。本当にすごいのだ。
今回はタイミングが悪かった。ただそれだけ。
たぶん誘拐されるのがあと一年遅ければ、誘拐犯を全員ぶちのめすくらいの魔法を習得していたことだろう。
それくらいの才能がわたしにはあるはずだ。転生者は成長が早いという法則があるのだよ。最初の魔法で五年かかったことはもう忘れました。
ふんっ、運がよかったな誘拐犯ども。今回ばかりは見逃してやろう。
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