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200 閑話 男のロマンを求めて

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#200 閑話 男のロマンを求めて

「今日は山に登ろう!」

俺は朝食の席で宣言した。

「山ですか?この辺で山というと北の山脈でしょうか。ワイバーン狩りでしょうか?」

マリアが不思議そうに聞いてくるが、俺は首を振った。

「いや、今の時期ワイバーンはいないだろう。用があるのは山頂だ。そこに漢のロマンがある」

「男のロマンですか?私たちも言ってもいいんでしょうか?」

リリアが聞いてくるが、もちろんいいに決まっている。ダメなら誘わない。

「もちろんだ、全員で行くぞ。漢のロマンを求めて!」


「リリアーナ様、ジン様は大丈夫でしょうか?回復魔法でもかけましょうか?」

セルジュ様が心配そうにリリアに相談している。

「ジン様はたまにああなられます。ああなったらどうしようもありません。付いて行くか行かないかの2択です」

リリアが訳知り顔で答える。


「ジン様、期間はどの位になりますでしょうか?食料を調達しないと」

マリアが効いてくるが、そんな事は気にしない。

「漢のロマンが見つかるまでだ!」

マリアがオロオロしている。
北の山脈まで1日、山頂までと言っているので、もう一日二日見とけばいいと思うんだ。そんなに難しい計算じゃないよ?

「山登りですか。靴とかも揃えた方がいいのか?」

クレアが装備を気にしているが、俺たちならそれほど気にしなくてもいいと思う。普段からそれなりの装備しているしね。


「メアリー、漢のロマンを探すのに必要なのはなんだと思う?」

「え、私に聞くんですの?えっと、男性である事でしょうか?」

「違う!情熱だ!漢のロマンには情熱が必要なんだ!」

俺が強く宣言すると、皆が一様に困惑した。

「その、情熱はどう準備したらいいのでしょうか?」

マリアが几帳面にセリフを拾ってくる。俺の狙い通りだ。

「心を奮い立たせればいい。明日を求めれば自然と情熱に、そしてロマンにたどり着く」

全員が訳がわからないという顔をしている。

「明日の朝出発だ。付いて来る者は準備しておくように」



そういう話の持って行き方で、パーティが別行動する訳がない。翌朝には全員が揃っていた。

「出発!」

俺は全員の先頭に立って出発した。
その後ろからは他の女性陣が乗った馬車が付いてきた。俺が歩いてるんだから、みんな歩こうよ?漢のロマンを求めるときは過程も大事だよ?

途中から馬車に乗り、速度を上げた。
半日で山の裾野に着いたが、これからが大変だ。当然だが、山を登るのに馬車は使えない。置いていくことになるが、西には森があり、魔物も出て来る。なので、馬車の見張りが必要だ。
女性陣での話し合いの結果、クレアが護衛に残ることになった。

俺たちは登山するが、基本全員の体力は中級冒険者並だ。俺に遅れることなく付いて来る。

山の中腹で野営することになったが、マリアはそれも見越して、スープは煮込んだものをマジックバッグに入れてきていた。温めるだけで大丈夫だ。


翌日は日が暗いうちに出発し、朝日が昇る時には山頂にいた。


俺は山頂で目的のものを探していた。日が昇る前に見つけなければ。
女性陣が何を探していいかわからず、ぼーっとしている間に俺は目的のものを発見した。

大きな黄色い花をつけた花だ。

「ジン様、それは薬草ですの?」

メアリーが聞いてくるが、俺は否定した。

「いや、ただの雑草だ」

「???雑草を取りに来たんですの?」

「ただの雑草じゃない。漢のロマンの詰まった雑草だ!」

余計にわからなくなったらしい。
俺はおもむろにアイテムボックスから本を取り出した。しおりの挟んであるページを開けてみせる。


俺たち登山隊はようやく山頂にたどり着いた。
ちょうど日が昇り、朝焼けが美しい。俺たち登山家にとって、この景色は何物にも代えがたい魅力がある。
山になぜ登るのかと聞かれれば、そこに漢のロマンがあるからだと答えるだろう。そう、この朝日はロマンの象徴なのだ。
そしてもう一つロマンの象徴がある。
山頂に咲く、一輪の花だ。朝露をたくわえた一輪の花。その朝露を疲れた体に含むと大自然を感じる。朝焼けの中、その一滴の水がなんと神々しいことか。


というような話が載っている。タイトルは『なぜ山に登るのか』。

「もしかして、この話のストーリーをなぞっていましたの?」

「そうだ!漢のロマンだろう!」

他の女性陣も呆れていた。
ただ、気に入った本の主人公と同じシチュエーションを体験したかっただけなのだ。呆れるのも当然だろう。
しかし、ロマンに酔っている俺にはそんな事はわからない。
花にたくわえられた水滴を飲み干す。

満足だ。俺は漢のロマンを身体中に感じている。
朝焼けの中、俺は太陽に向かって大声で叫ぶ。

「俺は漢だー!」

女性陣は引きに引きまくっている。漢のロマンを理解しない奴らだ。


「それで満足されましたか?」

セルジュ様は大人だね。気遣いができる女だ。

「ああ、満足だ。帰ろう」


山の下は早かった。その日の内に裾野まで戻り、クレアと合流した。



メアリー「それで結局男のロマンってなんだったんですの?」
リリア 「さあ?でもジン様は満足されてますし、いいのでは?」
セルジュ「まあ、知らなくても問題ないんじゃないでしょうか。殿方は時々おかしくなりますし」
マリア 「ジン様ですから!」
クレア 「私は馬車で待っていたので、何があったのかわからないのだが。。。」

とかいう話があったとか。

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