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069 ネックレス
しおりを挟む#069 ネックレス
オーユゴック家の執事のクリスさんから、パララッチに関する報告書が届いた。
それによると、侯爵家をバックに好き放題しているらしい。
取り巻きを複数連れて歩き、美人と見れば、声をかけ、振られると、侯爵家の名前を出して無理やり付き合わせたりするらしい。
平民は貴族に仕えるのが当然で、何をしても良いといった考えを持っているそうだ。
イジメなどもひどく、平民を見るたびに、殴る蹴るしたり、人前でバカにしたりするとか。
授業もまともに聞いておらず、試験は教師を脅して、事前に試験内容を確認したりするらしい。
これらは、全て侯爵家によって隠蔽されており、みな、泣き寝入りするしかないのが現状だ。
しかし、侯爵家が揉み消してはいるが、侯爵家の中での立ち位置は非常に悪い。
長男は優秀で、領民の人気もあり、次男が入る隙はない。
なぜパララッチが生かされているかというと、侯爵家には他に血を継ぐものがいないせいだ。
もし、長男に何かがあった場合、血が途絶えるのだ。
長男は成人しており、結婚もしているので、いずれ子供も生まれるだろうが、それまではパララッチに生きていてもらわないと困るのだ。
侯爵様本人は王家に忠実で、領民の人気も高い、人格者なので、長男に子供ができれば、パララッチは、『病死』するかもしれない、と言われている。
パララッチもその話は知っており、学院を卒業したら、長男を暗殺して当主に就任するんじゃないかと噂されている。
そんなパララッチだが、先日、リリア様に言い寄って、腕を掴んで自分のいう事を聞いていればいいんだと、無理やりキスを迫ったという。
リリア様は手を振りほどいて、パララッチに平手打ちを行い、2度と顔を見せるなと啖呵を切ったらしい。
パララッチは、伯爵家ごときが侯爵家に逆らうのか、と喚いていたらしいが、リリア様はすぐに立ち去ってしまったという。
それで最近、元気がないのか。
マリアから報告されてようやく原因がわかった。
だが、パララッチの行動報告と連動してみると、とてもまずい。
下手すると、攫われて、無理やり既成事実を作った上で、捨てられる可能性もある。
まあ、責任取られても困るんだが。
そこで、マリアにはパララッチに関しての報告も話して、リリア様から離れないように、改めて指示した。
しばらくした頃、リリア様がいつもの時間に帰ってこなかった。
友人とカフェでも行っているのかもしれないと、それほど深刻に捉えてなかったが、兵士が一人駆け込んできた。
「ご、ご報告します!
お嬢様が何者かに攫われました!」
俺の脳裏にはパララッチの名前が浮かんだ。
「状況を説明してください」
「はい。
いつも通り学院前で馬車を待たせていますと、お嬢様とマリア様が学院から出てこられました。
そして、馬車の方に歩いてこられたのですが、その途中にあった馬車に連れ込まれました。
馬車はすぐに発車しました。
あとを追ったのですが、スラムの方に向かうのは確認できたのですが、見失ってしまいました」
「マリアも一緒にさらわれたのですか?」
「は、はい」
マリアも一緒なら、最悪の事態は避けられるだろう。
しかし、救出が遅れた場合、この場合、今日中に救出できなかった場合、貴族の子女としてまずい立場になる。
何もなくても、何かあったことにされるのだ。
これは何もリリア様に限った話ではない。貴族の子女全般に言えることだ。
だから馬車に護衛をつけて、送り迎えしているのだ。
「他の兵士はどうしましたか?」
「はい、私以外はスラムの中の捜索に回っています」
俺はこういう時のために、仕込んであった策が使えるか確認することにした。
「ルナ、今日リリア様は、俺がプレゼントしたネックレスを着けていたか?」
「はい。毎日つけて行っていますので、今日も着けられているかと」
なら、なんとかなる。
俺は、<魔力感知>の範囲を広げる。
探すのは『俺の』魔力だ。
実はリリア様に渡したネックレスには俺の魔力が込めてある。
魔石が付いているわけではないので、それほど濃くはないが、印にはなる。
まあ、効果は保って1年と行ったところだが。
<魔力感知>に引っかかった。
南の方だ。スラムだな。報告どおりだ。
「あなた方は詰所に行って、衛兵を連れてきてください。
これからリリア様を救出に向かいます。
衛兵には証人になってもらわないと行けませんからね」
「あの、場所はわかるので?」
「ええ、俺と一緒に行けば大丈夫です。
急いでください。リリア様に何かあってからでは遅いんです」
「はい!」
貴族街なので、衛兵は巡回しているはずなので、すぐに連れてくるだろう。
実際すぐに来た。
「伯爵家のお嬢様が誘拐されたと聞きましたが?」
「ええ、それでこれから救出に行くので、同行してもらえますか」
「場所はわかっているのですか?」
「これから向かいます」
「わかりました」
俺は衛兵を連れてスラムへ向かった。
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