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第6章 マルモス王国編

116 オークション(1)

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#116 オークション(1)

 4日のダンジョン探索で俺は一つ大事な事を思い出した。魔石の話ではない。あれは墓場まで持っていくつもりだ。
 荷物についてだ。

 俺はグリッドさんに頼めば大概のものは手に入れられるはず。だが、最初は願いもしていないうちに先回りして出てきたお金なども最近は出てこなくなった。まあ変に気を遣わなくて済むので有り難い変化だとは思っていたのだが、リリアーナさんに化粧品をあげようとして願っても出て来なかった。
 その頃からだと思うのだが強く願っても、呼び掛けても反応が無い。会話ができていたわけでは無いのでたまたまかと思っていたが、どうやら本格的にお願いを聞いていないようなのだ。

 勿論ハンバルニ王国の奥殿でリスモットさんにお願いすれば手に入るのだが、ここはマルモス王国だ。この国にも奥殿は有るのだろうが、婚約者を断った手前、使わせてくれとも言いにくかった。更に今居るのは海棲のダンジョンの最寄りの街ハイティーナだ。女神様と連絡を取る手段がない。

 つまり何が言いたいかというと、荷物は全て事前に用意する必要があるという事だ。

 基本マックスさんや騎士さん達が調達してくれるし運んでもくれるのだが、何かあった時のために自分でも最低限のものは持っていたい。
 ただ俺の体力は平和な日本の男性よら低いくらいなので何十キロというテントや水などを持ち歩くのは不可能だ。短時間なら可能だろうけど、間違いなく他の人に迷惑をかける。

 そんな時に思い出したのがアイテムバッグという魔道具だ。ファンタジーに良くある沢山の物が入れれて重さも感じない素敵アイテムだ。勿論この世界にもある。

 希少なので滅多に出回らないのでマックスさん達ですら持っていない。

 だが、最近ダンジョンで発掘された中にあったらしく、今度のオークションに出品されるらしい。

 噂ではクローゼットサイズの物が入れれるとのことだが、最低限の荷物を入れれれば良い俺にとっては問題ない。

「俺も欲しいがお前が狙うなら参加しないほうがいいな。ダンジョンの探索が終わったら譲ってくれ。高く買い取るぜ」

 マックスさんは仲間内で値段を競り上げる意味がないのでチャンスを譲ってくれるそうだ。
 問題は俺の資金面だ。
 グリッドさんが願いを聞いてくれる状態なら実質無制限に使えるのだが、今の手持ちは金貨数枚だ。何かあっても半年は生活できる金額なのだが、マジックバッグの資金としては心許ない。特に今回は久々の出品ということで狙っている人は多いらしい。

 これはいざという時のためにリリアーナさんにも秘密にしていた裏金を使うときかもしれない。

 実はグリッドさんに出してもらったお金の殆どはリリアーナさんに預けていたのだが、白金貨一枚だけ服に縫い付けてあるのだ。お守り程度に考えていたんだけど使うべき時が来たのかもしれない。

 白金貨は日本円にして1億円相当。流石にこれで足りないことはないと思う。今までの相場が当てになるかは分からないが白金貨を越えたという話は無かったそうなので大丈夫だと思っている。




 さて、オークション会場だ。参加費の大銀貨1枚を払って会場に入る。
 ちょっとしたパーティーが開けるくらいの広さの部屋に50人ほどの人が集まっている。当然ながらお金を持ってそうな人達ばかりだ。

 壁の一角にドリンクサービスがあったのでワインをチビチビとやりつつ時間を待つ。付き添いが一人認められていたのでマックスさんにお願いした。オークションは何度も参加したことがあるということで頼もしい。

「本当に白金貨まで上がっても落札するんだな?ダンジョンの攻略が終わってから譲り受ける時にはそんなに払えないぞ?」

 マックスさんにはダンジョン攻略後に譲り渡すと約束したが無料ではない。基本的には落札の9割の金額で、と話していた。
 だけど俺が白金貨までは上げても良いと言ったら流石に心配された。

「まあ白金貨まで競る事はないとは思うが、本当にどうなっても知らないからな」

 忠告は有り難く受け取っておくが、このお金はグリッドさんから貰ったものという事と、金額が大き過ぎて実感が湧かないので使うことに抵抗は感じなかった。これが金貨なら必死に収支を考えたんだけどね。お金持ちはこんな気持ちで買い物をしているのだろうか。

 社畜とはブラックな会社で会社のために滅私奉公してそれを当然と考えるようになった洗脳された人間のことを言う。

 今更何を言うのかと思うだろうが、俺のいた会社では備品は個人で揃えるのが常識だった。経費なんて物は無かったのだ。
 そんな俺が安い給料を貯めたのが数百万。15年も働いてそれだけだ。
 今はその金額並みの金貨を持っているが、その100倍もの金額の買い物なんて雲の上の話だった。

 いざそれだけの金額を使うとなると普通は怖気付く物だが、もはや雲の上すぎて宇宙まで行ってしまっている感じだ。金銭感覚なんて何処かに消えてしまっている。

 この時の俺の頭にはファンタジーのお約束のマジックバッグを手に入れる事で一杯だった。人生でこれ程物に執着したのは初めてかもしれない。
 落ち着いて考えれば基本的に必要なものは人任せなので、俺が持ち歩きたいと思っているのはいざと言う時の安心感のためだ。ただそれだけの為に1億?普通ならそんな買い物はしないだろう。
 多分この時はダンジョンの雰囲気に当てられていたんだと思う。

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