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第4章 アレグスト帝国編

092 帝都

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#092 帝都

 帝都の壁は高く、街は大きかった。さすがは大国の首都だ。あの高さなら低空を飛行する魔物にも対応できるんじゃないだろうか。
 入り口の門には長い列が出ていて、馬車が大量に並んでいる。あれだけいて今日中に中に入れるんだろうか。

 俺たちは貴族専用の門から入れたから並ばなかったのは良かった。貴族の権力ってこう言う場所でも機能するんだね。

 俺はハンバルニ王国発行の身分証明書で門を通過したが、俺が書類を見せた途端に伝令が走っていた。どうやら城に連絡が行くようになっているらしい。

「帝都アレグレアへようこそ。このまま帝城にお進みください」

 門で身分の確認が行われた後、言われたのだが、いきなり行っても良いものだろうか。ここはアポを取るのが礼儀では?

「ジン様、帝宮ではすでに出迎えの準備は終わっているはずです。いつきても良いように準備してると思います。
 小さな領地だとそんな余裕はないですが、帝宮ではその程度の準備は当たり前に行われています。先ほど門兵が伝令に走っていましたし、問題ないでしょう」

 途中の下級貴族の時には急に押しかけても対応できないからまずは宿を取って、とやっていたのだが、帝宮ともなると事前準備は当たり前らしい。

「私は自分の屋敷に向かいますのでジン様はこのまま帝宮に向かってください。多分晩餐会か何かで会う事になるかと思いますが」

「今までありがとうございました。楽しい旅になりました。また色々と話を聞かせてください」

「ええ、時間があれば私の屋敷も訪ねてきてください。いつでも歓迎しますぞ」

 オルマン侯爵と定形分のような挨拶を交わし、帝城に向かう。

 入り口で再度身分の確認があったけど、身分証を確認されただけで簡単に入れた。多分話が通ってたんだろうね。



「ようこそおいでくださいました。私は帝城を管理する執事長のコマイネと申します。よろしくお願いします」

 白髪の縦ロールの髪をしているが、アレは地毛だろうか?それとも中世ヨーロッパみたいにカツラだろうか?

「しばらくお世話になります」

「お部屋を用意しておりますのでまずはゆっくりとお休みください。陛下との謁見は数日後になりますので」

「承知しました」


 部屋に案内されるとそれはもう豪華な部屋だった。なんかツボとか飾られてるし。これってもう客室の応接間じゃなくて皇帝陛下が使う応接室とかじゃないの?

「ジン様がこちらにおられる間、お世話をさせていただきますパルメと申します。しばらくの間ですがよろしくお願いします」

 なんか俺専用のメイドまでついてるし。胸がでかいのは仕事の邪魔にならないのかね。
 あ、もちろんクレアもいるよ?ただここでは使用人というよりもお客様の付き人みたいな扱いで、半分は客だ。俺自身の用事以外はパルメさんに頼む事になる。

「とりあえずお茶をもらえますか?出来れば気分の落ち着くハーブティーで」

「かしこまりました。しばらくお待ちください」

 そう言って出ていくが、リラックスのハーブティーあるんだ。ハンバルニでは紅茶くらいしかなかったけど。ああ、山が多いんだっけ。香草とかも取れそうだな。

 淹れてもらったハーブティーはほんのりと果物の味がして、香りも柑橘系だ。多分乾燥した果物でも一緒に淹れたのだろう。

「それでパルメさん、これからの予定を教えてもらっても良いですか?」

「はい、まず明日にはミール様とのお茶会があります。顔見せですね。それから数人の貴族と面会があります。陛下との謁見は時間の都合がつき次第という形になります」

「ありがとう。じゃあミール様とは陛下とお会いする前に会えるんですね?」

「はい。事前に顔見せという意味がいが強いです。ジン様が気に入られるかの確認も含まれています。もし気に入られなかった場合は他の候補者ともお茶会を開いていただきます」

 なるほど。候補は皇女さまだけかと思ってたけど、俺の意見が優先されるのか。まあ政略結婚とはいえ、俺の好みに合わなかったら押し付けてもうまくいかないだろうしね。


「じゃあクレア、帝都の散歩でも行こうか?」

「ジン様、いくらなんでも予定もなしに他国の帝都を散策なんて出来ません。護衛の準備とかもありますし、今日中は難しいのではないでしょうか?ハンバルニ王国でしたら1部隊くらいはすぐに準備させれましたけど、ここは他国です。
 先方もまさか到着した当日に外出するとは思ってないでしょうからすぐに準備できるとは思えません。散策するなら事前に許可をとっておくの良いかと思います」

 あー、そうか。今回は公式な訪問だったね。

「じゃあ、パルメさん、明後日あたりに帝都の街を見て回れるように手配してもらっても良いですか?出来れば地元の特産品とか見れるとありがたいです」

「承知しました。騎士の護衛を手配しておきます。
 今日はどうされますか?沐浴されるようでしたら準備させますが?」

「えっと、この国の沐浴ってバスタブの中で体を洗うタイプですか?」

「ええ、もちろんそうですが?」

「なら夕食の後にお願いします」

 残念。ここでも洗い場はないのか。毎日クリーム塗ってるから減りが速いんだよね。ちゃんとした洗い場のついた風呂に入りたい。

 パルメさんが出ていったので姿勢を崩し、クレアと雑談する。

「確か鍛冶技術が優れてるんだっけ。鉱石の採取で成り立ってるんだよな。でも鉱山見ても面白くないだろうし、鍛冶仕事とかでも見学できるかね?」

「鍛治は職人ですので見学は難しいのではないかと思います。大抵の職人は気難しいと聞きますし。どうしてもというなら皇帝陛下から紹介してもらった方が良いかと思います」

「あー、やっぱりそうか。じゃあ今日は何しようか。まだ昼過ぎだから時間があるんだよね」

「荷ほどきをしませんと。まあ私の方でやっておきますのでジン様がされる事はありませんね。帝城の庭でも見てみますか?その位なら許可が下りるのではないでしょうか?」

「庭かあ。四季に応じて庭園が変わったりするのかな?」

「四季ですか。まあ夏には夏の、冬には冬の花を植え替えるのが普通ですが」

「うん?おんなじ場所で植え替えるの?」

「ええ、他の場所で花を育てて前のが枯れ始めたら植えなおします。なので時期をずらして同じ花を育てたりしています。ハンバルニ王国の庭園もそうしていましたよ?」

 ありゃ、俺が知らなかっただけか。でもそうか。時期をずらして栽培するのか。庭師が必要なわけだ。

「じゃあパルメさんが戻ってきたらお願いしてみようかな」
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