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第2章 ロザリア王国編

069 炊き出し

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#069 炊き出し

 何日か経つと、教会が炊き出しをすると言う話を聞いた。

 教会があれだったので見ることはないと思っていたが、やると言うなら見てみるべきだろう。あれな教会だが、ちゃんとやってるのだろうか?

 炊き出しはスラムの地区でやるそうだ。

 スラムの中でも比較的治安のましな場所を選んでやるそうで、炊き出しの日には何百人と集まってくるらしい。
 俺にも護衛が10人ついてきた。スラムに行くと言うことでもっと増やそうと言う意見があったのだが、刺激すると逆に危険だろうと言う話になって10人で治った。どうやら10人の次は20人になるらしい。1小隊単位での活動となるのでどうしてもそうなるらしい。

 炊き出しをしている場所を少し離れた場所で見る。近くに行くと護衛とスラムの人とで衝突がある可能性があるらしい。スラムに騎士が10人もいたら警戒するわな。

 炊き出しは神官やシスターが中心に、中年のおばちゃんたちが準備している。多分人手が足りないので雇ったのだろう。


 竈門を作り、大鍋にお湯を沸かしていく。その間に野菜や肉を切って準備する。お湯の量に対して具が少ないような気もするが俺の感覚だからこの世界ではこのくらいが普通なのかもしれない。

 鍋に野菜を放り込み煮込んだら塩を入れる。と言うか塩しか入れない。
 あれくらいの野菜じゃ出汁も出ないだろうし、ただの塩水だと思うんだが。

 その頃になると噂を聞きつけたのかスラムの住人たちが集まってくる。並ぶとかの意識はないらしく、思い思いの場所で鍋を眺めている。

 そのうち鍋が出来ると配給が始まる。積み上げられた木製のスープ皿によそってサジと一緒に渡す。渡されたスラムの人は場所を移動してスープを飲む。

「おお、野菜が入ったるぞ」

「俺のなんか肉が入ってたぞ」

 やはりスープの量に対して野菜や肉の量が少ないらしく、入ってるだけで喜ぶようだ。運が悪いと塩スープだけになりそうだが、誰も文句を言わない。
 スラムの人の普段の生活は知らないが、塩スープでも炊き出しと言えるのだろうか。

「久しぶりの塩だな。パンクズにも飽きてたところだ」

 ああ、スラムってそこまでひどいのね。多分残飯とか漁ってるんだろう。パンクズが普段の食事なら塩味だけでも十分豪勢なのかもしれない。もっと塩分とならないと体がもたないよ?

 護衛の騎士に聞くと、スラムにもある程度の仕事を与えているそうだが、そういったのはごく一部の運の良い人だけがなれるらしい。仕事は大抵は肉体労働で荷運びや水汲みなどの辛い仕事らしい。それを銅貨数枚でやると言うのだからスラムの貧困度がわかる。

 スープ皿は返却が基本らしく、食べ終わったら返しに行く。その皿は洗いもせずに次の人に回しているようだ。衛生的にどうかとは思うが、食器を洗うのには結構な量の水が必要だ。こんな井戸すらないような場所で潤沢に水が使えるわけがない。

 だけど使い差しの器に文句を言う人はいない。本当にありつけるだけでも十分なようだ。

 大鍋2杯で終わりらしい。まだ欲しそうにしている人たちを尻目に片付けを始める。
 そうすると終わりなのがわかるのか、スラムの人たちも解散し始める。食べれたのは集まった人の半分くらいか。

 護衛の人が言うには、ここでもっと寄越せと言うと、次の炊き出しがなくなる事があるらしく、みんな大人しいそうだ。


「おいおい、俺はまだ食ってねーぞ。ババア、俺にもよこせや」

 若い男が数人やってきてイチャモンをつけてきた。

 今まで大人しくしていた人たちに緊張が走る。そりゃそうだ。あんな奴のために次の炊き出しが無くなったら困るのだから。

「うるさいよ。食べたかったらもっと早くくるんだね。遅れてきといてそれは通らないよ」

 おばちゃんも慣れてるのか適当にあしらう。普段なら問題なかったのだろう。これで終わりのはずだ。だけどよっぽどお腹が空いていたのか、それともただ単にムシャクシャしていたのかは知らないが、引こうともしない。

「片付けの邪魔だよ。どっかいきな」

 おばちゃんつよし。それにもう持ってきた材料もないようだし、作れと言われても困るだろう。

「ばばあ、俺がだれか分かってて言ってるのか?俺は・・・」

「盗賊ギルドのお偉いさんだろう。分かったからどっかいきな」

 盗賊ギルドというのが存在するらしい。裏社会でも牛耳ってるのだろうか。盗賊ギルドがどんなものかは知らないが、偉いさんが炊き出しにたかりにくるとは思えないので男が言ってるのはホラなんだろう。おばちゃんも相手にしてないしね。

「ババア、大人しくしてりゃつけ上がりやがって、盗賊ギルドが黙っちゃいねえぞ」

「あんたごときに盗賊ギルドが動かせるならやってみな。本当にギルドが動いたら考えてやるよ」

 適当にあしらいながらも片付けは済んでいく。荷馬車に大鍋を積み込んで引いていく。多分教会に戻しにいくのだろう。あれだけ大きな鍋だとさぞかし洗いがいがあるだろう。

 イチャモンつけた男たちは顔を真っ赤にしているが、何も言おうとしない。多分本当に盗賊ギルドが動かせるわけではないのだろう。

「盗賊ギルドって何やってるんですか?」

「スラムの管理が主でしょうか。スラムの治安にも一役買ってますので国からも多少の支援があったはずですよ」

「犯罪者の集団というわけじゃないんですね?」

「まあスラムの住人ばかりなので犯罪をしてるものもいるでしょうが、給料は少なくても公務員です。バレたら首になるだけじゃなくて牢屋行きですから無茶なことはしませんよ」

 なるほど。鍵開けとか罠外しとかの盗賊とは違うようだ。

「なんで”盗賊”ギルドなんですか?スラムの顔役とかでもいいと思うんですけど」

「今でこそ準公務員で国から予算が出てますが、昔は本当に犯罪者の集団だっんですよ。万引きやスリ、恐喝や強盗。今の体制になるまでかなり時間がかかったようですよ」

 なるほど。言うなれば元盗賊ギルドって感じか。

「まあたまに盗賊ギルドを名乗って悪さする奴らはいますが、本物の盗賊ギルドにお仕置きされるでしょうね。盗賊ギルドも自分たちの悪名が広がったらまずいのは分かってますから。
 だからさっきの女性も強気だったでしょう?」

 という事はさっきの奴らは盗賊ギルドの現状を知らず、ただ単にスラムをまとめているスラムの味方とでも思っている勘違い者なんだろう。


 これ以上ここにいても炊き出しは終わったし、見るものはないかな。
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