上 下
64 / 124
第2章 ロザリア王国編

064 回復魔法の価値

しおりを挟む
#064 回復魔法の価値

「申し訳ありません、帰還のための護衛のために騎士団に要請したのですが、なんやかんやと理由をつけられて時間稼ぎをされてしまって」

 どうやらまだ俺を返したくないらしい。まだ何か企んでるのだろうか。

「それでいつごろになりそう?」

「少なくとも1週間以上はかかるかと思います」

「そう。まあ仕方ないか。逃げる訳じゃないから冒険者を雇って無理やりって訳にもいかないからね。
 王宮側に何か動きはある?」

「詳細は分かりませんが、晩餐会が終わったのに貴族が戻る様子がありません。まだ貴族たちが集まる何かがあるかと思われます」

 貴族達の中には領地を持ってるものもいる。なので用事が済んだら各地に帰るはずだ。なのに戻ってないってことはまだ何か公の行事が残っているということ。
 使用人のクレアでは貴族の予定は調べられない。
 これがハンバルニ王国なら使用人のネットワークで何らかの情報が得られたんだろうけど、この国ではよそ者だ。そう簡単に使用人からも情報は得られない。



 翌日、教会からお呼び出しがあった。非常に丁寧な手紙で、よそしければ来て欲しいと言ってきた。もちろん断ることも可能だけど、この国の教会の奥殿には興味がある。果たしてこの国の奥殿でも女神様と交信できるのか?

 出来れば女神様からも俺に結婚や婚約の動きを牽制してもらいたいんだけどね。神託でするような内容じゃないのは重々承知してるけど、期待してもいいと思うんだ。

 招待に応じて教会に行くと、司教だと名乗るおっさんと会った。司教さんはでっぷりとしていて指輪をゴテゴテとつけている。いわゆる成金的な格好だ。あまり好きにはなれないタイプだな。

「ようこそ。ハルフェ殿下と婚約おめでとうございます。招待に応じていただき感謝します。
 当教会では貧民対策に力を入れておりましてな。スラムへの炊き出しを初めてとして、教会での清掃活動などにも積極的に雇っております」

 どうやらこの神殿では司教様が一番偉いらしい。
 そして司教様が話す内容は全て自慢だった。いや、活動内容は誇るべき内容なんだけどね。なんか本気と言うよりもポーズ的な感じがすると言うか。司教様の言葉の端々から自慢の色が見える。

「それは素晴らしい活動ですね。ですが先ほどから見てる限りスラムの方が働いている様子が見られませんが」

「ええ、基本は忙しい時に雇うだけですので。水汲みなどの一部は毎日雇っていますが」

 つまり日常的に雇ってる訳じゃないと。それって貧民対策でもなんでもなく、ただ労働力を安く済ませてるだけじゃ?

「スラムの炊き出しなどはどの位の頻度で行われているのですか?」

「不定期です。教会の予算も潤沢ではありませんからな。余裕のある時にする感じです」

 司教様の指輪とかを見る限りでは資金は十分にあると思うんだけど。と言うかその指輪とかまさか教会の資金で買った訳じゃないよね?

「はっはっは、私も一日一本しかワインを飲めませんでな。もう少し国からの援助があれば助かるのですが」

 え、一日一本も飲んでるの?しかも言い方らからして一人でだよね?

「ジン殿からも陛下に教会への資金援助を話してみてくださりませんか?そうすればもっと頻繁にスラムへの炊き出しなどが行えるのですが」

 つまり俺が呼ばれたのは国に教会への予算を増やすように依頼して欲しいと言う理由か。教会の維持に金がかかるのは分かるんだけどね。援助の依頼を俺に頼むって事は、直接言っても断られたって事だよね?
 多分国の計算では十分に予算は配分されてるはず。なのに炊き出しの資金が十分に確保されてない。
 つまりどこかで金が流れてるのだ。例えば司教の指輪やワインなんかに。個人的資産から捻出されてるなら良いけど、さっき予算が少ないからワインが十分に飲めないって言ってたから教会のお金でワインを飲んでるのは確定。安酒なのか高級なものなのかまでは分からないけど、この流れだとそこそこのを飲んでると考えざるを得ない。

 教会の腐敗ってのはいつの時代もあるものだけど、この程度で済んでるのは喜ぶ事なのか?

「司教様、重症者が運び込まれました。司教様にハイヒールをお願いしたいとのことですが」

 シスターさんが飛び込んできて早口で報告する。

「今は来客中だ。後にしなさい」

 え?いや、重症だって言ってたよね?しかもハイヒールが必要なほどの。俺との面会を優先するの?

「しかし」

「でももクソもありません。待たせておきなさい」

「司教様、俺はこれで失礼します。重症者の治療を優先してください」

 どうも俺がいると治療しない雰囲気だったからお暇を告げた。

「そうですか。もう少し話がしたかったのですが、残念ですな。入り口まで見送りしましょう」

「いえ、それには及びません。治療を優先してください」

 どうやら徹底的に俺を優先するようだ。そんなに援助が欲しいのかね。

「分かりました。お気遣い感謝します」

 俺はそのまま帰ろうと思ったが、気になったので重傷者というのを確認することにした。
 教会の入り口から少し入ったところで寝かされているのだが、血塗れで生きてるのが不思議なくらいだ。

「ハイヒールは金貨1枚ですが、よろしいですかな?」

 は?いやいや、確かにハイヒールは貴重なんだろうけど、一回金貨1枚?誰が払えるんだ?

「そんな!これで全財産です。これでお願いします!」

 布袋を逆さにして硬貨を山にするが、銀貨10枚ほどだろうか。

「話になりませんね。ヒールを数回ですね。シスター、誰かヒールの使えるものを呼びなさい。全くせっかく私が出てきたと言うのに貧乏人が」

 ヒール数回?いや、教会の方針に口を出すつもりはないけど、全然市民の味方じゃないよね?
 俺の感覚で言えばお布施に値段をつけるのは間違ってるのだが。この世界ではこれが普通なんだろうか?

<ヒール>

 ヒールを数回かけると一応落ち着いたようで、激しい出血はなくなっている。だけどやはりヒールでは治りきらないようで、一回ヒールをかけるたびに取られていく銀貨がどんどん減っていき、なくなった途端にヒールをかけなくなった。
 確かに重傷から軽傷くらいには治ってる感じだが、ここまで回数にシビアにする必要があるのかね。

 それでも冒険者は感謝して出て行った。

 俺を出口に案内してくれていたシスターさんに話を聞くと、本来ヒールのお布施の金額は気持ち程度だったそうだ。だけど今の司教になってから明確に金額が決められ、払えない人にはかけなくなったらしい。

「ポーションなどは出回ってないのですか?」

「ポーションは治癒を促進しますが、魔法ほどには効果がありません。上級のポーションは存在しますが、教会のヒールの方が安くなります。なので重傷者は低級のポーションで時間稼ぎをして教会で魔法を使うような形になります」

 そうか、ポーションは魔法ほど便利じゃないのか。でも冒険者にも治癒魔法が使える人はいるよね?

「冒険者にも確かにいますが、数が少ないです。大概は上級のパーティーに所属してますので、あまり一般的ではありません」

 冒険者的にも治癒魔法使いは少ないのか。

「ハイヒールというのは希少なのですか?」

「そうですね。この教会では司教様しか使えません。司教様の魔力も有限ですので金額を高く設定してあります」

 いや、司教様暇そうだったよ?援助の無心に俺を呼ぶくらいだし。それに面会中を理由に断ろうとしたよね?治療優先じゃないの?

「さっき、司教様は面会を理由に待たせようとしてましたけど」

「司教様はお忙しい・・・のです。多分。部屋からあまり出てこられないのでよく分かりませんが」

 それって多分昼間からワイン飲んでるよね?あの腹の出具合から想像するに食べ物も相当良いの食べてるよね?

「シスターさんたちは普段どんなのを食べてるんですか?」

「芋のスープに堅パンが普通でしょうか。たまに肉が入りますが」

「それは司教様も一緒なんですか?」

「いえ、司教様の食事は外から配達されてくるのでどんなものを食べられているのかは知りません」

 外から配達されてるって、絶対良いもの食べてるよね?!

「なるほど。司教様には教会の現状を正しく伝えるので安心してくださいとお伝えください」

「承知しました。今日はご訪問いただきありがとうございました」

 シスターさんに頭を下げられながら俺は教会を出て行った。奥殿を使わせてもらうような雰囲気でもないからね。



ーーーー
今月は奇数日投稿です

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

捨てられ令嬢の恋

白雪みなと
恋愛
「お前なんかいらない」と言われてしまった子爵令嬢のルーナ。途方に暮れていたところに、大嫌いな男爵家の嫡男であるグラスが声を掛けてきてーー。

[完結]病弱を言い訳に使う妹

みちこ
恋愛
病弱を言い訳にしてワガママ放題な妹にもう我慢出来ません 今日こそはざまぁしてみせます

少女を胸に抱き「可愛げのない女だ」と言う婚約者にどういう表情をしたら良いのだろう?

桃瀬さら
恋愛
大きな丸いメガネ越しにリーリエは婚約者と少女が抱き合っているのを見つめていた。 婚約者が"浮気"しているのに無表情のまま何の反応もしないリーリエに。 「可愛げのない女だ」 吐き捨てるかのように婚約者は言った。 どういう反応をするのが正解なのか。 リーリエ悩み考え、ある結論に至るーー。 「ごめんなさい。そして、終わりにしましょう」

ヒロインが迫ってくるのですが俺は悪役令嬢が好きなので迷惑です!

さらさ
恋愛
俺は妹が大好きだった小説の世界に転生したようだ。しかも、主人公の相手の王子とか・・・俺はそんな位置いらねー! 何故なら、俺は婚約破棄される悪役令嬢の子が本命だから! あ、でも、俺が婚約破棄するんじゃん! 俺は絶対にしないよ! だから、小説の中での主人公ちゃん、ごめんなさい。俺はあなたを好きになれません。 っていう王子様が主人公の甘々勘違い恋愛モノです。

自重知らずの転生貴族は、現在知識チートでどんどん商品を開発していきます!!

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
無限の時空間の中、いきなり意識が覚醒した。 女神の話によれば、異世界に転生できるという。 ディルメス侯爵家の次男、シオン・ディルメスに転生してから九年が経ったある日、邸の執務室へ行くと、対立国の情報が飛び込んできた。 父であるディルメス侯爵は敵軍を迎撃するため、国境にあるロンメル砦へと出発していく。 その間に執務長が領地の資金繰りに困っていたため、シオンは女神様から授かったスキル『創造魔法陣』を用いて、骨から作った『ボーン食器』を発明する。 食器は大ヒットとなり、侯爵領全域へと広がっていった。 そして噂は王国内の貴族達から王宮にまで届き、シオンは父と一緒に王城へ向かうことに……『ボーン食器』は、シオンの予想を遥かに超えて、大事へと発展していくのだった……

デブでブサイクなブタを溺愛するのは……

くろいひつじ
恋愛
町娘のネラは、父から受け継いだ体質でいつもはらぺこ いつでもお腹を鳴らして、他人の何倍もご飯を食べるネラを馬鹿にしない、同級生のポウゼが好きだった けれど、勢いで告白した翌日に「大食いのブタ」と笑っているのを聞いてしまい、逃げだす 母に「面倒臭い娘」と言われ、嫁いだ姉に「婚家に紹介できない妹」と責められ、弟は他人のふり 父と兄は仕事が忙しくて話す時間がない 帰らずの森に入ったネラを助けてくれたのは……

加護がなくなっても、私には関係ありません。~二人の愛の力で、どうにかしてくださいね?~

猿喰 森繁
ファンタジー
「オリビエ。お前とは、婚約破棄をする」 「あなたは、存在が粗相なの。早くこの国から出ていきなさい」 ある日、私はこの国を追い出されてしまいました。 私は、魔女の血筋を持つ母から生まれました。 そのおかげか、小さいころから妖精や精霊の姿を見ることが出来ました。 彼らの姿を絵や文字に書き起こすことによって、人外なる存在の力を借りることが出来たのです。 それを知った父は、「神の宿る絵」として、私の絵を売り、その噂を聞きつけた陛下が、「我が軍が勝利できるよう、軍神の加護込められた絵を描け」と言われ、書いたところ、軍は大勝利を収めました。 そして、神の加護を永遠にしようと、陛下は自身の子どもである王太子殿下と私を婚約させましたが、それが面白くないのは、殿下と、その恋人でした。 どこの生まれかも分からない女が、突然、王太妃になったのですから、当然のことかもしれません。 ですから、愛し合う二人は、私が二人の仲を引き裂く悪者に見えたのでしょう。 仕方ないので、人外の友人たちの力を借りて、ほかの国に渡ることになりました。 私がいるから、という理由で力を貸してくれていた、神様、妖精、精霊たちは、一気に国から離れることになりましたが、二人の愛の力で、どうにかしてくださいね?

俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話

猫野 ジム
ファンタジー
会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。 バレないようにこっそり使っていたけど、後輩の女性社員にバレてしまった。なぜなら彼女も異世界から帰って来ていて、魔法が使われたことを察知できるから。 『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか? ※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です ※カクヨム・小説家になろうでも公開しています

処理中です...