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第1章 召喚編

041 実戦

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#041 実戦

 ここ一月ほど剣を振ってきた。ある程度慣れたと思う。もちろんビシバシ魔物と戦っている冒険者とは比べものにはならないだろうけど、身を守る程度の腕は身に付けたと思う。

 そこで今日は決戦の日とすることに決めた。

「クレア、リズ、今日はゴブリンを倒しに行こうと思う」

「ジン様?まだ早いのでは?未だにリズにも一撃すら与えれてないでしょう?」

「うん、だけど、いつまでも素振りしてても強くなれないと思うんだ。どこかで思い切りを付けないと」

「まあ言いたいことはありますが、分かりました。護衛は私たちにお任せください。ゴブリンが出てきたら間引きますので1対1で戦ってください」

「うん、頼むよ」

 剣が振れるようになってきたからと言って魔物に勝てるとは限らない。ゴロツキに勝てるというレベルのリズにも一撃も当てれてないしね。

 ただまあ、これは一種のけじめかな。勝てるなら目標達成。ダメなら剣は諦める。



 西の森に来ていた。少し奥に入ればゴブリンはいるらしいのでまずは探すところからだ。

 冒険者がよく通る道なんだろう、獣道のような道ができていた。
 その道を奥へ進んでいく。あまり奥に進みすぎるとゴブリンどころかオークとか出てくるからある程度で横に向かって進む。

 いた!

 ギョゲェ

 ゴブリンの鳴き声なんて初めて聞いたがこんな鳴き声なのか。出来るだけ音を立てないように近づくと3匹のゴブリンが歩いていた。

 後ろからついてきていた二人が一斉に飛び出す。

 なぜ走り過ぎたと思ったらゴブリンの頭が落ちてるんだ?それもそれぞれ1匹ずつ。メイドさんの戦闘力こええよ。クレアは騎士団にいたとか言ってたからまだ分かるけど、リズってゴロツキに勝てる程度って話だったじゃん。

 でもとにかく残りのゴブリンは1匹。つまり俺の望み通り1対1の状態だ。

 俺も影から出て、ゴブリンの前に立った。奇襲で斬りつけるのが本来の冒険者の戦い方なんだろうけど、俺はゴブリンより強いのを証明したいのだ。ならば正面から堂々と。

 俺は短剣を持って構える。

 ゴブリンは突然倒された仲間に動揺しているようだが、俺は動揺が治るまで待つ。

 クレアとリズはすでに森の中に隠れているのでゴブリンが視認できるのは俺だけだ。

 よし、ゴブリンのターゲットが俺に向いた。

 俺はいつでも戦えるように膝を軽く曲げ、腕から力を抜く。力が入っていると硬くなってしまって、素早い動きが出来ないのだ。
 まあ初の実戦ということで力を抜いた気になってるだけでガチガチに緊張してるんだけどね。

 ちょっと太めの枝を持ったゴブリンは俺に枝を叩きつけてきた。

 俺はそれを華麗に避けて・・・避けられずに肩で受けた。

 くそ、このくらいの攻撃はクレアとの模擬戦では避けれたのに。体がいう事を聞かない。これが実戦か。

 ゴブリンが持ってるのが剣じゃなくて良かった。剣だったら結構な重傷を負っていただろう。

 だけどこの一撃を受けてみて分かった。攻撃を受けても革鎧の上からなら痛いだけで大したダメージは受けない。

 俺はそれにほっとしながら力が抜けるのを感じた。

 殺される可能性が低くなったのだ。ならば攻撃あるのみ。

 短剣で肩を斬りつけると、半歩引いて避けられた。そこは予想済みなので、そのまま横なぎに移行する。

 よし、二の腕にダメージを与えた。

 おっと危ない。また枝で殴られるところだった。大したダメージがないとはいえ、痛いものは痛いんだ。受けないに越したことはない。

 それからも互角の戦いは続いた。俺の方がだんだんと息が上がってくるが、ゴブリンの方も傷だらけで身体中が血塗れになっている。
 もう気力と体力の勝負になっている。

 実はゴブリンは一度逃げようとした。

 だけど、木々の間に逃げ込もうとしたところで、メイド服から伸びる足に蹴り返されて俺の前に戻ってきた。

 どうやら俺のメイドさんは逃げることも許さないらしい。助かるけどね。



「ハァ!」

 ゴブリンの動きが雑になって動きが緩慢になったところで俺は首を斬りつけた。ゴブリンも人形であるかぎり、首は弱点だ。

 うまく血管を切り裂けたようで、血が吹き出した。ゴブリンが手で血を止めようと抑えるが、俺はその隙に反対側の首も切り裂く。

 これで両手で傷口を抑えれば反撃はないし、抑えなければ出血過多で死ぬ。

 ゴブリンは首から手を離して、最後に俺を倒す事を選択したようだ。枝を大振りで振り回してくる。
 軌道がわかりやすいので剣で受けていると、ゴブリンはすぐに倒れた。どうやら首の血管からの出血は思ったよりも早く死に至るようだ。

 一応心臓にも一刺しして止めを入れると、クレアとリズが木陰から出てきた。

「おめでとうございます。これでゴブリンスレイヤーを名乗れますね」

 嫌味か?

 剣術は互角、体力は向こうのほうがあった。こっちが勝っていたのはちゃんとした刃のついた短剣を使っていたことだけだ。そうでなければ最初の一撃で重傷を負って王都に担ぎ込まれていただろう。

「それでジン様は納得できたのですか?」

「ああ、もう剣はいいや。魔物と戦う危険性も実感できたし、今回のは色々と学べたと思う」

「それはようございました」

 そう言ってタオルを差し出してくれた。

 そういえば返り血で酷い事になってそうだな。

 顔を拭いていると、リズが水を渡してくれた。

「ジン様、カッコ良かったです」

 ありがとう。お世辞だと分かってても嬉しいよ。

 一息ついて思い出した。ゴブリンって魔石があったんだっけか。

「クレア、ゴブリンの魔石ってどこにあるんだ?」

「心臓のあたりですね。大きさは小指の先ほどですから心臓の上に切り込みを入れて手探りで探します」

 う、戦ってる時は感じなかったけど、改めて見ると、人形の生き物を殺したんだよな。その心臓の周りに手を入れて素手で探す?ちょっと無理かなぁ。

「リズ、魔石を回収してください。それと討伐証明の右耳を。
 ジン様、ゴブリンには魔石以外の素材はありません。どこかの部位を記念に持って帰りますか?」

 いや、いらない。人型の魔物の体の一部だと思っただけで持って買える気が失せる。多分ドラゴンとかだったら喜んで鱗の一つも持って帰るんだろうけど。

「承知しました。では街に戻りましょうか」

「そうだな」

 俺も息が上がってるし、もう戦いは十分だ。
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