上 下
39 / 124
第1章 召喚編

039 リズ

しおりを挟む
#039 リズ

 長い説教だった。

 ルナとの買い食いでクレアを置き去りにしてから、見つかって数時間。外では簡単に怒られて終わったのだが、リリアーナさんの説教が長かった。

「だからジン様は自分の重要性を分かっておられません!
 この世界で女神様と直接お話しできる人なんて歴史的に見てもいないんですから!」

 うん、この話すでに何度目だろうか。ループしてるようで、毎回表現を変えて同じような話が続いている。
 もしかしてリリアーナさんも何か鬱憤でもたまってるのだろうか。

「リリアーナさん?」

「なんですか?!今は説教の最中ですよ!」

「今度一緒に買い食いにいきましょう」

 まずは話を逸らすのが重要だ。そしてその間にヒートアップした気分を落ち着けてもらう。

「え、えぇ?!わ、私がジン様とですか?!いえ、嫌なわけではありませんけど、いきなりなんて、そういうのはもっと仲良くなってからで・・・」

 うん?ただの買い食いだよね?リリアーナさんも仕事で忙しそうだから気晴らしにいいかと思ったんだけど。もちろん話を逸らすのが目的だけどね!

「屋台とか回ると面白いと思うんですよ。今日も魔道具なんかを扱ってる屋台とかがあったりして楽しかったですよ」

「そ、そうですね。ジン様がよければ一度くらい行くのもありかと・・・」


「ごほんっ」

 マリーさんだ。どうやら話にひと段落つくのを待っていたらしい。

「お出かけも結構ですが、そろそろ夕食の時間です。お嬢様、お仕事は大丈夫ですか?」

「あ、いけません。今日の分がまだまだ残っていました。ジン様申し訳ありません。まだまだ言いたいことは沢山ありますけど、仕事に戻らせていただきますね」

 いや、ここ1時間ほどは同じことしか言ってなかったから。



「えっと、クレアさんや、その子は誰かな?」

 まだ10代だろう女の子が部屋にいた。

「ジン様付きのメイドです。今日から私だけでなく、この子も一緒に担当する事になりました。
 ええ、どうやら私がトイレに行ってる間も気を抜けないようですので、増やしました。この子はメイドとしてはまだ新米に当たりますが、ゴロツキ程度には負けませんのでご安心ください」

 どうやらかなりの信用を無くしてしまったようだ。

「リズ、ご挨拶を」

「はい、ジン様、今日からジン様付きのメイドに就任しましたリズと申します。末長く可愛がってください」

 ん?なんか挨拶がおかしいような?

「もしかして外出時も?」

「むしろそっちの方がメインです」

 なるほど。これはまた窮屈になりそうだな。





 うーん、やっぱりメイド二人連れだと街を回るのも面倒くさいな。店に入っても小さな店だといっぱいになるし。

「ですから馬車で移動すれば問題ありません。今からでも戻って馬車を使いましょう。公爵家の紋章が入ってる馬車を使えば変な輩も寄ってきませんし」

 うん、二人とも美人でメイド服着てるから周りから何事かと見られるんだよね。普通メイドを連れて行くような人は馬車を使うから。歩いてメイドを連れて行くのは非常に珍しいらしい。

「だからどっちかだけでも十分だってば。街中にそんなに危険なんかないでしょう?」

「ジン様、お忘れかもしれませんが、ジン様は一度スラムで危険に遭ってますよね?」

 あ、そんな事あったな。まだ道がわからない頃にスラムに迷い込んで身ぐるみ剥がされそうになったんだった。

「それに先日は私がトイレに行ってる間に行方不明になりました」

 うん、ごめんよ。ルナが連絡したっていうから信用したんだけど。ちょっと問題がある伝達手段だったね。

「なので最低二人は必要なのです」

 はい。ごめんなさい。全部俺のしでかした結果ですね。

 でも馬車で街を移動するのってなんか違うんだよな。目的地に行くだけならそれでもいいんだけど、その過程が大事っていうか。街の雰囲気も楽しみたいし。

「せめてメイド服着替えてくれない?」

「戦闘服の方が良かったですか?」

 あるのか戦闘服。

「戦闘に特化したメイド服になります」

 戦闘服もメイド服かよ!
 とまあ突っ込んでも仕方ないんだよね。

「いや、普通に一般の女性が来てるワンピースとかあるでしょう?」

「メイド服はメイドのアイデンティティーです。仕事中にメイド服を脱ぐなどあり得ません」

「でもリズとか可愛い服着せたら似合うと思わない?」

「新米のメイドを甘やかすのはやめてください。メイドにはメイドの心得というのがあります。甘やかされて育つのは彼女のためにもなりません」

「まあそうかもしれないけど・・・」

「それよりも今はどちらに向かってるのでしょうか?」

「ああ、俺も短剣くらい持っておこうかと思ってね。こないだ狼に襲われただろう?やっぱり採取用のナイフだけじゃ心配でさ」

「護衛なら私達で十分ですのに。それとも奥に入っていかれるつもりですか?」

 なんかクレアの目が光ったような幻覚げ見えた。

「いや、念のためだよ。剣の訓練はしてるからね。逆に何も持ってないと不安になってくるんだよ」

「そうですか。護身のためなら仕方ないですね。公爵家の御用商人がおります。そこで買いましょう。運が良ければエンチャントのかかった武器があるかもしれません」

「エンチャント?」

「属性を武器に付与する事です。魔物によっては苦手属性などがありますので上級の魔物と戦うには相手の苦手属性の武器を使うのが通常です」

「えっと、俺の剣の腕だとそんな高価なのいらないと思うんだけど?」

「ええ、ですが、ジン様はお金をほとんど使われません。なので予算が余りそうなんです。それくらいなら何か必要なものにお金を使った方が助かります」

 お金を使った方が助かるって・・・予算ってもしかして繰越出来ないのかな?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...