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第1章 召喚編

036 魔法

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#036 魔法

 今は毎日剣を振って過ごしている。俺には決定的に体力や筋力が不足しているようで、毎日鍛えないと新米冒険者よりも体力がない。

 冒険者になるような村人Aでも小さい頃から畑仕事などをしていて結構体力があるのだ。
 それに比べて俺は15年間社畜として会社との往復くらい、いや往復すらしてなかった日も多いくらいだった。そんなもやしの俺に体力があるわけがない。

 クレアさんからは暗にこの年齢から体力を鍛えても大して効果はないと言われたんだけど、もう俺は意地になっている。

 毎日朝晩クレアに付き合ってもらって剣を振っている。他にもスクワットをしてみたり腹筋をしてみたり。
 だけどまあ数日で筋肉なんて付く訳がなくて。日中は暇な訳だ。朝に剣を振ったりしてるので筋肉は疲れてるが、体力が回復する夕方まで時間がある。
 一応本を読んだりしてはいるが、この屋敷にある本は歴史書などばかりで物語性のあるものが少ないのだ。

「クレア、街になら物語の本とか売ってるかな?」

「もちろん売ってますが、高いですよ?」

「昔の勇者の話とかだといくらくらい?」

「そうですね。上中下巻構成で全部で金貨五枚ほどでしょうか」

 え、そんなに高いの?一冊100万R以上?それって魔道具とかじゃないよね?

「普通の本でしたら銀貨数十枚あれば足りますが、勇者の物語は長いんです。分厚い本になりますので当然高価になります。
 筋書きだけ書かれたような物でもよろしければ銀貨十枚ほどで手に入るかと思いますが」

 筋書きだけって、そんなの面白くないじゃん。そんなのに10万Rって。

「じゃあ、この屋敷にあるような歴史書とかも高いの?」

「もちろんです。一冊で金貨が数枚必要です。代々買い揃えて増やして今の数になってるのであって、すぐに全部揃えようと思ったら全財産出しても難しいです」

 こえぇ。気楽に持ち出して読んでたけど、そんなに高価な物だったのか。活版印刷以前の本は高価だったって聞いたことあるけど、ここまでだったとは。

「ジン様なら王宮の図書室が利用出来るんじゃありませんか?あそこには貴重な歴史書などもありますので許可が必要ですが、ジン様なら許可がおりるかもしれませんよ」

 あ、ウィスキーの報酬に図書室の閲覧権限もらえないかな?それなら許可してもらえそうな気がする。

「しかし、ジン様」

「ん?」

「毎日朝晩熱心で結構ですが、それだけ疲れ切ってて毎日王宮に行けるんですか?閲覧できたとしても持ち出しは禁止ですよ?」

 あ・・・。

「それとも朝から本を読みに行って、剣の訓練は夕方だけにされますか?」

 う・・・。

「それとも剣の訓練自体をやめられますか?」

 暇だけど、ゴブリンには勝ちたい。一度でいい。自分の力だけで倒せたら満足できると思うんだ。

「冒険者を雇ってゴブリンを生け捕りにして来させましょうか?
 ・・・多少毒でも盛っておけばいくらジン様でも・・・」

 なんか後に言葉を付け足したような気がするけど、気のせいかな?

「それはなんか負けた気がするからやだ。ちゃんと森で倒したい」

「それならまずは体力作りからですね。朝晩頑張りましょう」

 それしかないか。




「クレア、俺って魔法使えないのかな?」

「どうしたんですかいきなり。ジン様は加護がないのだから使えないのではないでしょうか?異世界人ですのでなんとも言えませんが」

「いや、体力はすぐに付かないだろうけど、魔法ならすぐに使えてもおかしくないかなって」

「確かに勇者様は比較的すぐに魔法が使えるようになったようですね。ジン様にも適性があれば使えるようになるんじゃないでしょうか。
 あ、でもこの世界では数年学校に通って学ぶのが一般的ですよ?中には小さい時から弟子入りして学ぶ人もいるようですが。
 それも異世界人なら不要かもしれませんね。確認だけでもしてみますか?宮廷魔術師に頼めば確認してもらえると思いますが」

「あ、お願い」

 あの女神パワーを使った魔法っぽいやつなら使えるんだけど、あれって多分普通の魔法じゃないよね。あの女神パワーは便利だけどあれは俺の力じゃないんだよな。女神様が代理でやってくれてるだけで。

 剣もそうだけど、俺は自分の力でゴブリンを超えたいんだ。剣でなくても魔法でもいい。なんでも良いから”俺の力”で最弱じゃないことを証明したいんだ。

 おっさんが何夢を語ってるんだって言う人もいると思う。
 だけど、こんな剣と魔法のファンタジー世界に来て、最弱のゴブリンより弱いから常に護衛に守られてるってのは納得がいかない。
 ちゃんと戦えるけど立場的に守ってもらうのなら許容範囲内だけどね。

 その証明のためにも俺は剣の訓練をしているし、魔法の可能性も探りたい。



「宮廷魔術師が適正をみてくれるそうです。これからよろしいですか?」

「ああもちろんだ。
 それで魔法が使えるかわかるんだよね?」

「正確には魔力がどの程度あるかが分かります。大まかな量しか測れませんが、魔法と呼ばれるほどの影響を世界に与えられるかはわかると思います」

 うん?影響を世界に与える?

「ジン様はご存知ありませんでしたか?
 魔法とは魔力を使って世界の法則をねじ曲げる力です。普通火種もないのに火は存在できませんよね?その法則を曲げるのが魔力です。
 魔力が一定以上ないと世界に干渉できません。なので魔力が低い者は魔道具と魔石を使って補填するのです。
 この世界では全員が加護を持ってますので最低限の魔力は皆持ってますが、異世界人のジン様ですと全くない可能性もあります」

「それって灯りの魔道具とか使ってみれば分かるんじゃないの?」

「魔道具を使うにもコツがあります。魔力の存在を感じられなければ使えません。
 この世界の人間であれば自然とその存在を感じられるんですが、確かジン様は特別な力を感じたりしなかったと召喚されたおりに聞いた覚えがあります。
 なので魔力がない可能性も検討する必要があります」

「ちなみに勇者たちはどうだったの?」

「一流と言われる程度には魔力があったと言われています。又聞きですので詳細は不明ですが、無いと言うことはないはずです」

「問題は俺に加護がない事?」

「そうですね。加護のない方は初めてですのでそれだけが条件かは分かりかねますが。加護が少ないほど魔力が小さい傾向にあるのは間違い無いです。絶対ではありませんが。
 それに魔力を持っていても得意な属性というのもあります。適正とは別に属性と呼んでいますが、火魔法が得意だとかそう言った感じです。同じだけの魔力を使ったつもりでも威力に差が出たりします」

 なるほど。魔力を一定以上持っている=適性がある、ということか。
 属性はこの際なんでも構わない。火でも水でも。ゴブリンが倒せれば良いんだから。


 
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