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第1章 召喚編

015 手土産

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#015 手土産

 あー、やっぱり手土産くらい持ってくるんだった。

 メイドさんが紅茶を入れてくれて、お茶菓子としてクッキーを置いてくれる。普通はこういう時に客が持ってきた手土産も一緒に出してくるもんなんだけど。

 街で何か買ってくるべきだったか?いやでも店とか知らないし。やっぱりこういう時ってお酒が無難だったかな?お菓子って言うてもあるけど。


 ・・・なぜ目の前に見覚えの無い箱が置かれている。それも丁寧に包装されて。

「む?それはどうした?さっきまでなかったはずだが?」

「えっと、そう、手土産です。サプライズです」

 リリアーナさんの目が座ってるがここはなんとか誤魔化さないと。

「む、そうか。わざわざすまないな。客人に余計な心遣いをさせたようだ。おい、開けてくれ」

 メイドさんに渡すと、丁寧に包装を開けて中身を出してくれた。

 何が入ってるんだろう?

「む、これは・・・リスモットウィスキーか。それも十年もの?良く見つけられたな」

「えっと、たまたまです。ははは」

 神様の名前を冠してるし、十年ものとか言ってるし、高価なモノなんだろうなぁ。もっとお菓子とかでよかったのに。あ、望んでませんよ?出さないでいいですからね?

 一応頭の中で出さないように注意しておく。誰が出してるのかは知らないけど、思っただけで出しちゃうからね。

「うむ、本当ならこの場で飲むのが礼儀なんだが・・・今度の国際会議で賓客に出しても構わんか?これほどの酒となるとこの場で飲むのは惜しい」

「それはもちろん構いませんが、それほどの酒なんですか?」

「うむ。毎年女神様には奉納品として多くの物を捧げているが、その見返りとして帰ってくるのがこのウィスキーだ。年に10本しか与えられない稀小品だ。それも十年ものとなると存在すら怪しい」

 本当に女神様からの下賜品だったよ!
 いや、多分今回出現させたのも女神様からなんだろうけどさ!


「ううむ、これだけの物をもらっておいて何も返さんわけにもいかんな。テンパ、何かないか?」

「今度の晩餐会への招待とかはいかがでしょうか?そこでこのウィスキーの献上品の件を紹介すればジン殿のためにもなるかと」

「うむ、それは良い。ジン、8日後に国際会議があるが、その後に晩餐会がある。それに出席を許可しよう。その席でこの酒の献上の件を発表して皆に飲んでもらおう」

 いや、俺なんかが晩餐会って。晩餐会ってあれだよね?食事した後に踊るやつだよね?夫人同伴じゃなかったっけ?

「リリア、エスコートを頼むぞ」

「承知しましたわ。もともと参加する予定でしたし問題ありませんわ」

 え、リリアーナさんがエスコートしてくれるの?え、でもそういうのって夫婦とか婚約者じゃ無いの?

「リリアにはまだ婚約者もおらん。
 もちろん一緒にいれば注目はされるだろうが、無視して構わん」

 注目されるの前提?!出来れば参加自体なかった事になりませんかね?

「フォンビ殿下、なんとかなりませんかね?」

 俺を哀れそうな顔で見ていた王太子様に仲介を頼んでみる。

「諦めよ。あんな凄い物を土産にした其方が悪い」

 俺じゃ無いんだよー。



 それからも俺の世界の話や、この世界との違いなんかについて談笑して1時間ほどで辞去した。国王様も忙しいだろうしね。
 フォンビ殿下からはいつでも会いに来てくれと言われたけど、社交辞令だろうしな。本当に行くとなったら今度こそちゃんとした手土産持っていかないとね。

 リリアーナさんも王妃様と仲良く話していたので良い時間だったんじゃ無いだろうか。

「ジン様、お父様にはジン様の力の話と女神様の話をしました」

 え、黙ってるって話じゃなかったっけ?

「ジン様のせいですよ。あんな目の前でいきなり出現させるから。
 ジン様の手前追及されませんでしたが、あのあと私だけ呼び出されて詰問されたんですから。そもそもリスモットウィスキーなんて出すのが悪いんです。私は悪く無いです」

 うーん、やっぱり俺が悪いのか?

「知ってるのはお父様と宰相様の二人だけです。他の方は知りませんので注意してくださいね」

「はい・・・」

 まあ目の前でいきなり伝説級の酒が現れたら不審にも思うだろうな。
 それに多分あの場で飲まなかったのは毒を警戒したんだと思う。なかったはずの場所にいきなり物が現れ、それが存在するかも分からない伝説級のウィスキーだったのだ。警戒するのは当然だ。
 ラベルだけ真似した偽物っていう可能性もあるだろうからね。

 俺への礼儀として疑う真似はしなかったけど、後できっちりと確認されているだろう。もし毒が入っていたら俺を殺せば済むし、もし本物なら本当に客に振る舞えばいい。晩餐会への参加許可ってのはそういう事だろう。

 この世界鑑定とかっていうスキルはあるのかな?ステータスのない世界だからスキルって言ってもわからないか。魔法とかでならあるかもね。

「リリアーナさん、陛下はあの酒の真贋をどうやって見分けるんでしょうか?ラベルなんていくらでも偽造できるでしょうし、そもそも存在してたとしても俺なんかが所持してるのがおかしいでしょう?」

「普通のお酒ならそうなですけど、リスモットウィスキーなら話は別です。嘘のラベルを貼った瞬間にその犯人は死にますから。もちろんお酒もラベルごと消滅します。
 なのでリスモットウィスキーのラベルが貼ってあるお酒は間違いなく本物なのです」

 神様パワー出たよ。
 自分の下賜した物を貶めるのは許さないって感じなのかな。なんかお金の偽造とかでもそんなのありそうな気がしてきた。

「でもあのお酒まで出せるなんてジン様のお力は凄いですね。さすがは異世界の女神様でしょうか」

 いや、多分この世界の女神様です。
 あの本人が俺のことをずっと見てるとも思えないから、下級神?が見張ってるんだろうね。多分俺専属で24時間とか。ブラックだよね。

「今度の晩餐会では私もあのお酒が飲めるのが楽しみですわ。実は私もリスモットウィスキーは飲んだことがありませんの。王宮には毎年数本は納品されているはずなんですけど、賓客に振舞うだけでなくなってしまって。こんな機会でもないと飲めませんわ」

 なるほど。確かに外交に使うには良い物かもしれないな。なんせ女神様からの下賜品だしな。誰にも文句が言えない。


 ふう、でもなんとか謁見は無事終了したな。晩餐会は憂鬱だけど「明日に出来る事は明日やる」んだ。もう社畜時代の「とにかくやる」はやめたんだ。



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