上 下
9 / 124
第1章 召喚編

009 不思議な力

しおりを挟む
#009 不思議な力

 馬車で屋敷に戻り、リリアーナさんの執務室に向かう。
 買い物の最中に起きた、何故か現れるお金に関して相談するためだ。明らかにあれはおかしい。と言うかあれが異世界の通常だったら経済がおかしくなる。

 コンコン

「どうぞ」

 クレアがノックすると中から入る許可が出た。

「おや、カンザキ様何か問題がありましたか?確か今日は冒険者ギルドに向かわれたんですよね?」

「ええ、それなんですけど、冒険者ギルドでの登録は問題なかったんですけど、その後寄った買い物に問題があったと言うか」

「お金が足りませんでしたか?クレアにお金は預けてあったはずですが」

「いえ、お金が足りなかった訳ではないです。むしろお金が生まれたって言うか・・・」

「はい?」

「えっと、これを見てもらえますか?
 リリアーナさんに生活費を見てもらうのは悪いなー、金貨1枚くらいは払いたいなー」

 わざとらしい棒読みのセリフだが、そのセリフが終わった瞬間に俺の手には金貨が1枚乗っていた。

「は?え、ええ?!なんですかそれ!?」

「俺にもよく分からないんですけど、俺がお金が欲しいなって思ったらお金が出てくるみたいで」

「そんなばかな!?
 そんな話聞いたことないですよ?!」

「ええ、でも今の見ましたよね?今日買い物に行ったときにもこれが起きまして。それでリリアーナさんに相談しようと思って戻って来ました」

「そ、それはいくらでも出るんでしょうか?」

「さあ?でも怖くて試してません。もし白金貨とか出たら怖すぎて」

「それは確かに怖いですね。何もない所から白金貨が出てくるなんて。カンザキ様は向こうの世界では一般人でしたよね?向こうの世界ではお金が出てくるのが普通なんですか?」

「そんな訳ないじゃないですか。
 こんな能力があったら社畜なんかしてませんでしたよ」

「シャチク?ですか?よく分かりませんが、とにかくカンザキ様の能力ではないんですね?」

「ええ、少なくとも今日までこんな事はありませんでした」

 リリアーナさんは呆けた顔をしているが、少しすると復活したみたいで、ぶつぶつ呟きながら考えをまとめていた。

「何もない所からお金が?カンザキ様はマジックバッグも持ってないはずですし、そうするとこの世界に来てから得た能力?でも加護は無かったはず。では加護でない能力を得た?でも加護を持ってないで魔法を使うなんて聞いたことが・・・いえ、異世界人なら加護がなくても使えるのかも・・・」

「リリアーナさん?」

「ああ、すいません、少し考えに集中してしまいました。
 その能力ですが、誰にも言わないでください。知られたら誰に何をされるか分かりません。もし限界が無いなら経済が破綻します。国も放っては置かないでしょうし。最悪殺されますよ?」

 げ、そんなに酷いのか。経済的なものは考えたけど、殺されるとは思ってなかった。

「カンザキ様、確認ですが、出てくるのはお金だけですか?」

 あ、そうか、お金以外にも出てくる可能性はあるのか。

「あー、お掃除したいなぁ、雑巾でもあればいいんだけどなぁー」

 相変わらず棒読みだが、手には綺麗な雑巾が乗っていた。

「お金でなくても出てくるんですね。それってなんでもありじゃないですか。カンザキ様、どうなってるんですか?私の胃をぶち破る気ですか?!」

 いや、リリアーナさんに迷惑をかけるつもりは無かったんだけど。でも本当にこれってどうなってるんだろうか。

「加護はないはずなのにこんな不思議な能力があるだなんて。こんなの知られたらお父様でも持て余すわ。白金貨1万枚とか出て来たらインフレが起きるわ。そうなったら国の財政基盤も・・・」

 リリアーナさんや?また思考の海に埋没していますよ?

「分かりました。今のは知らなかった事にします。
 私は何も見てませんし、知りません。クレアも何も見てませんよね?」

「あ、はい。もちろんですお嬢様。今日のお代は私が払いましたです」

「カンザキ様ももうその力は使わないでくださいね?絶対ですよ?」

「いや、使おうと思って使ってる訳じゃあないんですが。まあ努力します」

「はぁ、クレア、胃薬を持って来てください。私は疲れました。今日の仕事は終わりです。胃薬を飲んだら寝ます」

「お嬢様、まだ寝るには早いかと・・・」

「眠って夢だった事にするんです!早く胃薬を持って来てください!」

「は、はい!いますぐ!」

 クレアが走って部屋を出て行ったが、俺のことで申し訳ない。

「カンザキ様、本当に覚えがないんですね?」

「えっと、教会に行ったときに加護をもらったみたいな?」

「え、でも神像は光りませんでしたよね?」

「ええ、あの祀られている女神様とは違う女神様だそうで」

「待ってください! リスモット様以外の女神様?!そんな方がいらっしゃるんですか?!」

「まあ本人がそう言ってましたし。もしかしたらこの世界の神じゃないのかも」

「異世界の神ですか。確かにカンザキ様は異世界人ですし、異世界の女神様の加護があってもおかしくない?違う女神様の加護だったから反応しなかった?
 でも異世界の女神様がこの世界で力を発揮するなんてことが・・・」

 リリアーナさんや、また思考の海に埋没していますよ?

「分かりました」

「何か分かりましたか?!」

「理解できないのが分かりました。私は今日は悪い夢を見たんです。カンザキ様も今の話は誰にもしないでください。この世界に干渉できる他の女神様の存在なんて知られたらお金が出てくるどころの話ではなくなります」

 まあそうだねえ。一神教みたいだし。異世界の神ってことにしとくのが無難かな。

「カンザキ様、お金は十分にお渡ししますので、お金が欲しいなんて考えないでください。物もそうです。
 私はこれでも公爵です。大概のものは揃えてみせます。なのでお願いですからその力は使わないでください」

 ああ、リリアーナさんの目から力が無くなっていく。淀んだ目になってるよ。


 コンコン

「お嬢様、胃薬をお持ちしました」

 クレアが戻って来た。

「クレア、もう一度言います。カンザキ様の能力に関しては他言無用です。もし漏れたりしたら命がないと思いなさい」

「は、はい、承知しました」

「カンザキ様、私は夢から覚めるために今から寝ます。明日お会いしましょう」

 リリアーナさんは胃薬をグイッと飲み干すと部屋から出て行った。

 困ったもんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...