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本編と無関係のおまけ番外編

番外編 正月の朝に

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 ※お正月に、天祐は碧玉に紅包で貢ぎそうだよなあと思ったので、なんとなく番外編にしたためました。
  爆竹の由来や竹の意味などは、ネットで軽く調べた程度の知識で書いたので、なんか違ってたらすみません。
  時期的には、一巻は終わってるくらいの謎時空です。

 ※紅包、ホンバオって読むらしいけど、訓読みで統一してるから訓読みにしてます。
 ※爆竹の由来は、山魈の伝説からです。


 ◇  ◇  ◇



「兄上、明けましておめでとうございます」

 よく冷えた早朝、碧玉が目を覚ますと、隣で寝ていた天祐があいさつをした。
 遠くでパチパチと竹がぜる音がする。竹を燃やして音を立てるのは魔除けであり、正月の風物詩だ。
 言い伝えによれば、普段は山にいる一本足の怪物が、正月になると里に下りてくる。その怪物に会うと、高熱を出して苦しみながら死んでしまうのだという。その怪物は、竹の爆ぜた音に驚いて逃げていくため、正月には竹を燃やす風習があるそうだ。

「ああ、明けましておめでとう。今年も良い年になるとよいな」
「ええ、兄上も」

 天祐は碧玉に口づけを落とすと起き上がり、衾から抜け出した。そわそわした様子で、衣を着替え始める。

「宗主は正月も忙しいことだな」

 碧玉には新年のあいさつをする用事もないので、このまま寝なおすのもいいかと目を閉じようとした。

「兄上、どうぞ、紅包こうほうです!」
「は?」

 気づけば、天祐が碧玉の前に紅色の封筒を差し出している。金泥きんでいで蓮の絵が描かれた美しいものだ。

「なぜ……?」

 寝起きだったこともあり、碧玉はそう短く問うた。

「年長者にあげてもいいでしょう? あ、大丈夫です。銀子はこちらの箱に詰めていますので! 好きなだけお使いください。それから、絹の反物に、翡翠で作った玉佩ぎょくはいに……。いろいろとご用意しましたので」

 碧玉はのそりと起き上がる。近くに火鉢が用意されており、思ったよりも暖かい。
 紅包はお祝いを渡す時に使う。とはいえ、正月ならば年長者が年少者に用意するものだ。天祐から紅包を渡されたことにも面食らっているのに、どこに隠していたのか、天祐が贈り物を山のように積み始めたので、さしもの碧玉もあ然としている。

「誕生日でもないのに、どういうことだ」
「せっかく兄上に貢ぐ機会があるのですから、逃せませんよ!」
「……」

 碧玉は呆れた。
 天祐ときたら、何かと時機をみはからい、碧玉に贈り物を持ってくる。宗主に割り当てられている予算から出ているので、いわば天祐のお小遣いの範囲以内だと分かっているが、隠居している身には無駄に思えた。

「天祐……」

 碧玉は頭痛を覚え、天祐に小言を言おうかと思ったが、天祐は期待にあふれる目をこちらに向けている。碧玉はため息をついた。

(正月の朝から文句を言うものでもないか)

 結局、小言はやめにした。

「気持ちはありがたくもらうとしよう。そなたにも紅包だ」

 碧玉も天祐には紅包を用意している。
 寝床を抜け出し、櫃から紅包とお守りの飾りを取り出して天祐に渡す。

「ありがとうございます、兄上。あの……このお守り、もしや兄上の手作りですか?」

 楕円に切った布に刺繍をして縫い合わせ、房飾りを付けた簡素なものだ。竹の刺繍をしてあり、中には守護の呪符を入れておいた。

「白家の道士が作ったお守りゆえ、大事にするのだな」
「兄上が刺繍まで! 俺のために! うれしいです。大事にします!」

 天祐は大喜びでお守りを観察し、帯に飾りとして下げた。

「竹には何か意味があるのですか?」
「純粋で正直な品格が、そなたを思い出させるゆえ」
「ああ、そちらの意味ですか。竹は夫婦愛の象徴――子孫繁栄を意味するので、遠回しに愛を告げてくださったのかと」

 碧玉は眉を寄せ、天祐の額を指で弾く。

「兄からの贈り物に、何か不満でも?」
「ありませんとも!」

 天祐は即座に否定する。頬をゆるませて、へへっと照れまじりに笑った。

(まあ、その意味くらいは知っているが……)

 後継者教育をみっちり受けている碧玉なので、草花にこめられている暗喩は理解している。

「天祐、風雪にあおられても折れることなく、青々としている竹のように、健康に過ごしなさい」
「いたわってくださり、うれしい限りです。しかし、兄上のほうこそ、長生きしていただかなければ」
「そうか。ではまず、朝食の前に竹を燃やしてこねばな」
「ええ、そうですね。俺が燃やしてきますので、朝食をご一緒しましょう」

 正月には朝食の前に竹を爆ぜさせて、魔除けをする風習がある。
 天祐は弾んだ足取りで離れを出ていき、残った碧玉は贈り物の山を眺めて、ひとまず見なかったことにした。

「はあ、まったく。正月早々、しかたがない奴だな」

 後で灰炎に片付けさせようと考えながら、碧玉は薄く笑った。



 番外編、終
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