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本編

二章3 <お題:メスシリンダー>

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 朝食が済むと、ユーフェとともに塔の外に出た。
 ついでに、ユーフェが雨どいを使った雨水タンクを見せてくれた。煉瓦れんがを積んだ土台の上に、小さな浴槽みたいな石組みの箱が置いてある。ユーフェは一つずつ説明する。水漏れしないように、中は漆喰が塗られているとか、ゴミが入らないように木蓋がしてあるが、たまに栓を抜いて中を洗うとか。
 風呂場の焚口も見せてくれた。四角い穴の中で薪を燃やすそうで、焚口の傍だけ屋根があり、雨の日でも濡れないようになっている。

「一階だけだが、床に細い煙道えんどう……煙が通る穴があってな、ここで出た煙が循環して、部屋を温めるようになっている。だから冬場は、焚口は蓋をしておかないと、風が通るから寒いぞ」
「今、開けてるのは、夏だから?」
「ああ。あまり開けっ放しも良くないがな。ネズミが棲みつくことがある」
「へえ、ネズミ……」

 都会育ちの剛樹は、ネズミは動物園かペットでしか見たことがない。

(獣人とは別に、動物もいるのか……。それって共食いにならないのかな?)

 聞いてみたいが、怒られる予感しかしないのでやめておいた。

「床暖房ってやつですか?」
「さあ」
「さあ……」
「王宮では見なかったからな。私はそこまで建築には詳しくない」

 ユーフェは分からないことは分からないと、はっきり返した。

(この人、なんでもはっきり言うタイプなんだな)

 考えていることはもちろん、自分の状況も伝えるみたいだ。

「ユーフェ様、床暖房であってますよー」

 話が聞こえていたのか、井戸で水汲みをしていたイルクが大きな声で言った。

「だ、そうだ。ありがとう、イルク」
「どういたしまして!」

 床暖房というのだな、と、ユーフェは興味深げに煙道を見ている。

「ユーフェさんって、いつもそうなんですか?」
「何が?」
「なんでもはっきり言うので。俺、誰かと話すのってあんまり得意じゃないから、すごいなあ、と」
「ふむ。私は兄には言い方がきついと言われるが、お前にはそんなふうに聞こえるのか?」

 ユーフェの問いに、剛樹はしばし返事に迷う。結局、頷いた。

「きつく聞こえることもありますけど……、意見を言えるのはいいなと思います」
「だが、正論ならばなんでも言っていいわけでもない。正論は正しいがゆえに、刃にもなる。私のような者ばかりになったら、窮屈ではないか? お前はお前でいいだろう」
「そう……ですか?」
「ああ。それから、私がはっきり言うのは、私が命令する立場の人間だからだ。自分の状況を伝えた上で、どうして欲しいのかを分かりやすく伝えなければならない。言葉を惜しんで、相手が分からずにミスをしたら、私が悪いのだ。だからできるだけ、こんなふうに言っているわけだ」
「はあ」

 感嘆とも溜息ともつかない相槌をして、剛樹はユーフェを眺める。

(この人、本当に『王子様』なんだなあ)

 ユーフェは雨水タンクに蓋をしなおして、倉庫のほうへ歩き出す。

「さあ、こっちだ」
「はい」

 改めて見ると、広々とした倉庫だ。
 両開きの扉の鍵を開けると、ユーフェは中に入っていく。剛樹も倉庫に入り、目を丸くした。

「わあ」

 小さな採光窓さいこうまどから光が降り注ぐ中、壁の両側には棚が並び、中央にも二列、ユーフェの腰くらいの高さをした棚が並んでいる。
 出入口付近には流し台と水瓶があり、倉庫の真ん中には薪ストーブが置いてある。煙突が天井に伸びていた。ストーブより向こうは、棚との間を木製の衝立ついたてが遮っており、本棚やテーブル、椅子、長椅子や低く小さなテーブルもある。

「そこが集めた物を保管している場所で、ここが研究室だな。と言っても、毎日、聖なる泉の様子を日誌につけ、拾った物を記録するだけだ。使い方が分かればそれも書くが、それ以外は推測になる」

 それで、とユーフェは一番奥の扉を示す。頑丈な鉄製の扉の取っ手には鎖が巻きつけられ、頑丈そうな錠がしてあった。

「この向こうは、危険物や貴重品を保管している場所だ」
「危険物ですか?」
「刃物だとか、よく分からない薬品だとか、なんだか分からないが嫌な感じがする物なんかだな。獣人は感が鋭いからな、危ないものはなんとなく分かるのだ」
「そうなんですか」

 便利でいいなあと、剛樹は扉を眺める。

「そのうち見せてやろう。お前の部屋を、ここにしようと思う。そこの長椅子なんかを片付ければ、ベッドや身の回りの品は置けるだろう? 衝立で囲めば、目隠しにもなる。ここが嫌なら塔の二階しかない。それとも、村に住むか?」

 ユーフェの質問に、剛樹は即座にぶんぶんと頭を振って拒否を示す。

「……だと思った。この場所は塀に囲まれているし、私が傍にいるから安全だぞ。王族を襲う馬鹿はめったといない。兄に勝った試しはないが、その辺のごろつきには負けぬ。安心しろ」
「よろしくお願いします」

 剛樹はぺこっと頭を下げる。そうしながら、なんだか引っかかるものがあった。
 兄のことを口にする時、ユーフェの目が暗くなった気がしたのだ。しかし顔を上げた時には、ユーフェから陰は消えていた。

(気のせいかな?)

 さすがに初対面で家族について口を突っ込めるほど、剛樹は図太くはない。とりあえず見なかったふりをした。



 好きに見て回っていいとユーフェが言うので、棚を見ていた剛樹は声を上げた。

「あーっ、俺のスマホ!」

 スマホを掲げて叫んだせいで、ユーフェが毛を逆立てていた。

「突然、叫ぶな。驚くだろう!」
「すみませんっ」
「危険物でもあったのかと……。なんだ、その四角い板は、お前のものか? そういえばお前を拾った後に、泉の底に沈んでいたのを見つけたのだったな。これは何に使うんだ?」

 ユーフェが興味津々で問う。

「うーん、使えるかな。完全に水没してたなら、壊れたかも……。でも乾かせば復活したこともあるっていうし」

 剛樹はぶつぶつと呟いて、スマホを軽く振ってみる。水が落ちてくる様子はない。

「三日、ずっとここに?」
「ああ」
「よし、付けてみよう」

 電源ボタンを長押ししてみる。だが、スマホはうんともすんともいわなかった。剛樹はテーブルに手をついて、がっくりとうなだれる。

「壊れています。ここに画面が出て、光って、遠くの人に手紙を送れたり、電話……話をできたり、本の代わりになったり、そういう道具です」
「こんな小さな板でか? 仕組みは?」

 少し迷った後、剛樹はユーフェにも伝わるように噛み砕く。

「とても精密な機械なので、俺には分かりませんし、どうもできません。ユーフェさんが家を使えても、家を建てられないのと同じことです」
「なるほどな。お前の話は丁寧で分かりやすい。もしかして違う世界にいても、会話ができたかもしれないのか?」
「いや、それはどうでしょうね。こっちには電波がないし……」
「デンパ?」
「うーん、目印、みたいなものかな。高い塔にめがけて、この機械からデンパが出て、それを塔が受信して、他の塔に送って、そこからまた他の機械の持ち主に送る感じですね。一台ずつ、番号が振られてて。ええと、住所みたいなもので、知っていないと送れません」
「なんだか複雑なのだな」
「ええ」

 改めて説明すると、ものすごく難しいと思う程度には複雑だ。それをほんの数秒で実現する携帯電話ってすごいなあと、日常から切り離されると、急にすごさが見えてくる。

「あの……これ、もう使えないけど、もらってもいいですか?」
「当然だ。お前の持ち物なんだろう。故郷の思い出の品だ。記録からは消しておこう。しばらくたいしたものを拾っていないから、ページを破るだけでいい」

 ユーフェはそう言うと、分厚い日誌帳を取り出して、ページを引っ張って破いた。新しいページにいくつかメモをとると、破いたページをくしゃくしゃにして、ゴミ箱に捨てる。

「これでよし、と」
「ちょっと分厚いけど、普通の紙だ」

 本の形をしている。魔法学校の児童文学みたいに、羊皮紙ようひしをくるくると巻いて使っているのかなと思っていたから、うれしい誤算だ。

「ん? どうした?」
「ここでは羊皮紙っていうものを使ってるのかなって」
「あれは長年の保管に向いているから、重要な書類では今でも使っているが、大部分はこちらの紙だぞ。あとは、芸術扱いの本に使われていたはずだ」

 ペン先も、漫画のつけペンみたいなものだ。インク壺にペン先をつけて書くみたいだ。

「インクは太陽の光に弱いから、書いたものは日陰か本棚や棚にしまうのだぞ。もし私が書類を出しっぱなしにしているようなら、ここの引き出しにまとめて突っ込んでおいてくれ」
「はい」

 大きなテーブルには、引き出しが二つついている。一つは鍵付きで、もう一つは何もついていない。ユーフェは何もついていないほうの引き出しを示していた。

「ここの仕事はほとんど道楽のようなものだが、たまに役立つことがあってな。このペン先とかな。私は王宮にいたくなくてな、ここの仕事を引き受けて、塔で暮らしている」
「王子様なら、結婚してるんじゃ……?」

 なんとなく王族は早婚というイメージがあるので、剛樹は恐る恐る問う。

「私には妻子はもちろん、婚約者もおらぬゆえ、気を遣わなくていい」
「分かりました」

 剛樹はほっと息をついた。ユーフェは良い人だが、奥さんがどうかは分からない。剛樹を邪魔扱いするのではと不安だった。

「それだけか?」
「え?」
「どうして王宮にいたくないのかとか、訊かないのか」

 自分から聞き返したわりに、ユーフェはピリッとした空気をまとっている。あまり深く聞かれたくないみたいなのは、剛樹にもなんとなく分かった。

「訊きません。俺、ユーフェさんとは知り合ったばかりだし……部外者が首を突っ込むのは良くないと思うし。でも、話したいなら、聞きますよ。愚痴とか。俺、それくらいしかできることがないし」
「モリオン、お前、良い子だなあ。……ああ、すまん、また子ども扱いをしてしまったが、頭を撫でても構わんか」
「え? は、はい」

 よく分からない申し出に頷くと、ユーフェは大きな右手をゆっくりと伸ばして、剛樹の頭をわしゃわしゃと撫でた。なんとも不思議な感覚だ。こんな大きな手の持ち主など日本にはいなかったし、剛樹の頭を難なく掴めるだろう。

(肉球の感じがよく分からないな)

 触った時はプニッとしていたけれど、頭ではよく分からない。

「お前となら、問題なく暮らしていけそうだな。それで、ここでいいのか? それとも二階か?」

 ユーフェは満足げに手を離し、改めて問う。
 そういえばどちらに住みたいか聞かれていたのだった。

「俺はここがいいです。その、俺って結構、音に敏感で。階段の上り下りの音でも目が覚めると思うから」
「分かった。では、ここに用意しよう。着替えも買わないといけないな。仕立屋は町に行かないとないのだ。代金は」
「給料から引いてください!」
「分かった、では前払いという形で、いくらか出しておこう。イルクとなら行けそうか?」

 剛樹が顔をこわばらせて黙り込んだので、ユーフェは苦笑する。

「無理か。うーむ、そうだな、大工の伴侶を呼ぼう。人族と一緒なら大丈夫かもしれぬしな」
「でも、俺、外はまだ怖くて」
「分かるが、不便だろう? 私は人族のことはよく分からん。村に住んでいる人族に相談したほうがいい。それから考えればいいのではないか」
「ユーフェさん、一緒に会ってくれますか」

 頼むから一人にしないでくれという気持ちを込めて、じーっと見上げていると、ユーフェは頭をかく。

「分かった、分かった。そんな目をするな」
「よろしくお願いします」

 言質げんちをとったので、肩から力を抜き、剛樹はぺこっと頭を下げた。



 村に住む人族と会うことになったが、今日は倉庫の中を見て回ることにした。

「あれ、メスシリンダーだ」

 ガラス製の計量器だ。
 なんだか見たことがあるものに、花がいけてある。

「おお、さっそく知っているものか? そのガラスの技はすごいよな。その線が何か知らぬが、よくできた花瓶だ」
「いえ、これは花瓶じゃなくて」
「違うのか?」
「水の量を調べるための道具ですよ」

 理科の授業で習って以来だから、久しぶりに見た。花を抜いて、水の入ったメスシリンダーをテーブルに置く。

「これが目盛りで、単位はミリリットルです。液体の体積をはかる道具だったかな? 1ミリリットルが、1立方りっぽうセンチメートルだったはず」
「ふむ。そちらの世界での単位か」
「今だと、えーと、43.5ミリリットルかな……。水平な場所に置かないと、正確に出ないので気を付けてください」
「数字はこちらにもあるが、単位が聞いたことがないな。まあいい、とりあえず試しに……」

 剛樹が水平に見るのだと教えたが、ユーフェは眉間にしわを刻む。

「むう。少し角度がつくだけで、目盛の位置が変わる……」
「水平に見なきゃ駄目ですよ」

 ユーフェはメモ帳を出して、見えた物を記す。

「こう、端が三角に盛り上がるのだが、どこを見るのだ?」
「ここの水平のところです。目盛と目盛の間は十分の一まで読むっていう決まりがあります」
「ああ、この一番広い水平の部分が真ん中に来るから、43.5と言っていたのだな。なるほど」

 分かったことだけ、ユーフェはノートに書いていく。

「例えば、どういったことに使うのだ?」
「そうですねえ。えーと、ここに入るもので、何か沈めていいものは?」

 ユーフェは倉庫を出ると、小石を拾って戻ってきた。

「今は43.5ミリリットルですけど、この小石を入れると、53.5ミリリットルになりました。引いてみると、この小石の体積は10ミリリットル……ええと、10立方センチメートルですね」
「なるほど。つまり、物の大きさが分からない時に、調べられるわけか。私にはこれといった使い方が思い浮かばないが、計量を使うような部署に回してみるか。良い使い方が分かるかもしれぬ」

 しかし、とユーフェはうなる。

「これほどの精密なガラス工芸技術はないからなあ。製造は難しい気がする。むむ。父上と兄上に報告だけしておくか」

 ユーフェは椅子に座って、考え事を始めてしまった。これからすることを、メモ用紙に書き殴っていく。
 中学の理科以来だし、普段は体積なんて使わないので、剛樹もいまいち何に使えるか分からないのだが、分かる人は分かるだろう。

「いいなあ、紙とペン……」

 ユーフェを見ていて、剛樹はぽつりとつぶやいた。

「なんだ、筆記具が欲しいのか?」
「俺、絵を描くのが好きなんです。コミックアートっていうんですけど……。芸術のほうも少しはかじっているので、そちらも描けないことはないですが」
「欲しいなら、やるぞ。画材はないから、とりあえずこのメモ用紙とペンとインクでいいか? 使い方は分かるか?」
「えっと、このインクは染料のほうですか?」
「そうだ」
「なら、分かります。ペン先をたまに水につけて、インクを溶かして乾燥させればいいんですよね。服についても、洗えばとれるのかな」
「ああ。時間がたつと取れにくいから、服についた時は早めに洗うことだ」

 備品置き場から予備の品を取り出すと、ユーフェは剛樹の前に置いた。剛樹が無言のまま目を輝かせて、ペンとインクを撫でていると、ユーフェがふっと笑う。

「なんだ、嬉しそうだな。楽しみがあるのは、良いことだ。仕事が一段落したから、泉のほうに行こう。少しは運動して、体力をつけたほうがいい。人族にしたって、腕が細いぞ。これで十八とは、信じられないな」
「はあ……」

 これでも、現代人は昔よりも栄養豊富なので、健康なほうなのだが。剛樹は運動音痴だが、病弱でもなく健康優良児だ。ここに来た時に寝込んだのは、精神的なショックのほうが大きい。体は健康でも気が弱いので、精神的な打撃を受けやすいのだ。
 ユーフェと泉を見に行った後、少しは体を動かそうということで、草むしりや畑の世話もすることになったが、帰り際にイルクが菓子を出してくれた。プラムを使ったプラムゼリーだ。
 壁のない小屋――薪置き場の下に地下室があって、夏場でもひんやりしているらしく、そこが食料や種の保管庫らしい。イルクの奥さんが作ってくれたゼリーを、そこに置いて冷やしてくれていたようだ。

「王宮になら、氷室ひむろがあるから、冷蔵室れいぞうしつに氷を入れておけば夏場でも冷やせるのだがな。ここでは井戸水で冷やすのがせいぜいだな」
「はは。王宮に比べたら、ここは不便でしょうなあ。ですが食べ物は豊富なので、殿下にもご満足いただけると思いますよ」
「ああ、そうだな。モリオン、イルクの伴侶は、王宮に奉公に来ていたことがあってな。料理の腕は、ここいらでは一番だ。金さえ払えば、だいたいなんでも作ってくれる」
「俺も残り物で良い思いをさせてもらってますよ」

 イルクは白い牙を見せて、にんまりと笑う。

「朝ごはんもおいしかったです」
「簡単なものでよければ、俺も作れるから、お前にも教えてやろう。故郷の味というのは、本人にしか分からんものだろう?」

 イルクは見た目は怖そうだが、結構、世話焼きな人みたいだ。剛樹がぺこっと会釈をすると、うんうんと頷く。

「イルク、大工の伴侶に、モリオンの相談に乗ってほしいと伝えておいてくれ」
「ああ、そうですね。その変わった服だと目立つでしょうし、早いところ仕立屋に連れていったほうがいいですな。しかし、変わった格好だな。その靴はなんだ? 不思議だなあ。靴屋に見せたら喜びそうだが、材質はなんだ? ん~?」

 イルクはしゃがみこんで、剛樹のスニーカーを眺める。

「イルクさんの本業は靴屋さん?」
「いや、俺は農民だよ。ラズリアプラムと大麦、他にもこまごまと作っていてな。ハーブなんかもあるぞ。税物以外は、町で開かれる市で売ってるんだ。それから鋼木と、家畜も数頭。家で食べる分なら、チーズやバターなんかも作ってる。村内で余分なものを買い取って、ユーフェ様に料理や食料として出しているわけだな」
「そんなにいろいろしていたら、忙しいんじゃ?」
「ははっ、俺は体力だけは人一倍あるからな。どうってことないよ。ここに来るのは二日に一度だから、用がある時は早めに言うんだぞ」

 思わずというようにイルクが手を伸ばしたが、剛樹が首をすくめると、手を引っ込めた。

「ああ、悪い。なーんかお前を見てると、うちのチビみたいに頭を撫でたくなるんだよな」
「分かるが、もう少し慣れてからにしてやれ」
「はい、分かりました。ユーフェ様」

 なんだかよく分からないが、彼らは剛樹を子ども扱いしている。庇護ひごの対象として見ているということなんだろう、たぶん。

「では、俺は帰りますね。明後日、大丈夫なら大工の伴侶も連れてきます。たぶん、大工もついてきますよ」
「分かった。私も立ち会う」
「はい」

 イルクはお辞儀をすると、鍋や容器を入れた木箱を抱えて塔を出ていく。
 イルクが外に出ると、ユーフェは木の板を渡して、門に鍵をかけた。

「モリオン、誰かが訪ねてきても、お前は出なくていいからな。イルクのような良い者ばかりではないし、獣人を怒らせると、人族はあっという間に殺されてしまう。もちろん、殺人は罪になるが、短絡的な者もいるから警戒していたほうがいい」
「わ、分かりました」

 そんな注意をされると、余計に外が怖い。不安で顔を引きつらせる剛樹を見て、ユーフェは苦笑する。

「また緑オオトカゲににらまれたコケガエルのような顔を……。悪かった。私は少々大げさに言っているだけだからな?」
「はい」

 その緑オオトカゲとコケガエルっていうのはどんな生き物なのだろうか。
 想像してみながら、いつか見てみたい剛樹だった。

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