千里眼の魔法使い

夜乃すてら

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千里眼の魔法使い4 --囚われの小鳥と盗賊団--

4-7 アレット伯爵領へ

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 よく晴れた日、イスルはエイダが用意してくれた牛車ぎっしゃに乗り込んで、王都を出発した。
 王都に戻らないようにと、南門まで近衛騎士団が見張りという名の見送りに来た。

「まったく鬱陶しい連中だ」

 窓から外をにらんで、エイダが言った。イスルは眉尻を下げて、エイダに言う。

「はは。仕方ありません、アレット様。彼らにも大切な人がいるんです、気持ちは理解できます」
「……そうだな。あ奴らが警戒するのは、恐怖があるからだ。その根っこには大切なものを失うかもしれないという愛情がある。だからこの件は厄介なのだ」

 本質を口にして、エイダは眉間に皺を寄せる。分かっていても腹が立つと顔に書いてあった。
 孤児院から引き取ってきたイスルの小さな仲間が三人、客車に興奮して窓に張りついている。がたがたと揺れるので、イスルは声をかける。

「フェン、ウィル、リズ。気を付けるんだよ」
「はーい」

 生返事が返った。これは聞き流しているなとイスルは苦笑する。
 それぞれ、四歳、五歳、七歳だ。フェンとウィルは幼すぎてよく分かっていないが、リズは村でのことがトラウマになって、たびたび泣いて起きるから気を付けている。
 そしてもう一人、ラナはイスルの左隣にぴったりくっついていた。

「すみませんでした、アレット様。僕の未来を広げたかったのでしょう? 選択肢が増えるのはいいことです。アレット様が、僕を宮廷魔法使いにしようとすすめてくれた理由も理解出来ます。ありがとうございます」

 静かに笑ってイスルが礼を言うと、エイダは目を細めた。

「聡いな、イスル・ブランカ。そうしていると、師匠とそっくりだ。大木のような方だった。静かに寄り添ってくれる」

 そしてエイダは溜息を吐く。

「私こそすまないことをした。お前の言う通りだ。だが、夢を見せただけで、余計なお世話だったらしい」
「白の団の皆さんは良い人達ばかりでした。確かに僕らに世間は厳しいけれど、ああいった人達もいると知れたのは、良い経験です。この子達も、孤児院で伸び伸びしていましたし」

 ここで急に、ラナがずいっと顔を出した。

「よく分かんないけど、私が師匠に会えたのはおじさまのお陰なんだよね? ありがとう、おじさま」

 無垢なお礼に不意打ちをくらい、エイダは目を丸くする。そして、噴き出した。

「ああ、そうだな、ラナ。全てが悪かったわけではない」
「これが良いことに繋がっているかもしれませんよ」
「そう言おうとしたのだ。師匠の口癖だったな」

 イスルとエイダは笑い合った。ラナも一緒に笑うと、つられた子ども達もはしゃぎ声を上げる。
 しばらく笑ってから、イスルは気を取り直してエイダに問う。

「ところでアレット様、僕の王都での部屋ってどうなっているんです?」
「あっちはウォルリードに頼んである。遅れて荷物を運ぶ手筈になっているぞ」
「そうなんですか、ウォルさんにお礼を言わないと……」

 またあの従者に嫌味を言われるのだろうと予想しつつ、イスルは肩をすくめる。

「ご近所さんと仲良くなったところだったんですが、仕方ないですしね」
「また築き直せばいい。お前は人付き合いが上手だから、大丈夫だろう」
「そうですね、仕切り直します。とりあえずの目標は、仕事と定住地を見つけることですね」
「屋敷で暮らせばいい。気が進まんが、私的に雇っている魔女と、仕事をしてくれれば助かる」

 渋い顔をするエイダに、ラナが不思議そうに問う。

「どうして気が進まないの?」
「有能なのだが、ものすごく……変わっているのだ」

 エイダは「ものすごく」をやたらと強調した。

「最終手段として考えていたが、仕方がない。王都を追い出された後だ、屋敷の敷地内にいた方が安全だろうからな」
「ええ、お気遣い嬉しいです。でも、そんなに変わった方、あのお屋敷にいましたっけ?」

 前にも半年ばかり暮らしていたのだが、イスルには思い出せない。

「ほとんど引きこもって研究ばかりしているのだ。夜に活動して、昼に寝ているような者だからな。暗い方が、頭が働くとかなんとか……」
「夜の方が静かでしょうしね」

 首を傾げるイスルに、エイダは付け足す。

「まあ、悪い奴ではない」
「何故かどんどん不安になります」

 良い奴でもないと聞こえて、イスルは苦い顔になる。
 若干の不安も抱えながら、イスルは窓から外を見た。目が合ったサリタスが、馬上で軽く手を振る。
 自然とイスルは微笑み、手を振り返す。
 気持ちが暗くならないのは、理解者が傍にいてくれるからだろう。

「そうだったな。グエン男爵と会えたのだから、お前にとっては良いことでもあったのだろう。しかし、ちと仲が良すぎではないか。見ていて照れる」

 エイダの苦情に、イスルは赤面する。

「師匠、りんごみたい」
「ラナまで」

 イスルは困り果てて、視線を横にそらす。
 熱い顔を手で仰いで冷ますと、傍らでラナが笑った。
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