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千里眼の魔法使い4 --囚われの小鳥と盗賊団--
4-3 騎士さまの奔走
しおりを挟むサリタスはルドとともに走った。
白の団、エイダの部屋に飛びこむと、荷物を片付けていたエイダが怪訝な顔をする。
「どうした、二人とも。悪いが私は今日付けで辞任するのでな、出て行かねばならん」
「イスルが例の盗賊団にさらわれました」
バサバサッと本が落ちる音がした。
エイダが驚いて目を丸くしている。
「どういうことだ?」
「俺の目の前で、赤の魔女と首領に……。申し訳ありません!」
エイダはずかずかと歩いてくると、サリタスの肩を掴む。
「それで、君は怪我は? ニコラを呼ぼう」
「いえ、無傷です」
「大丈夫なのか? 良かった」
エイダはほうと息を吐き、応接用の長椅子に座った。左手をひらつかせ、ルドとサリタスにも座るように示す。
「君に何かあったら、イスル・ブランカが傷つく。あの魔女と会って、殺されなかったのは運が良かった」
「怒鳴られるかと思ってました」
「ふん、能力差も比較せずにか? 君が近衛騎士として立派でも、それをあっさり覆すのが魔法だ」
サリタスの率直な言葉に、エイダは皮肉っぽい返事をする。彼が促すので、サリタスはエイダにも詳細を教えた。
「最悪の事態だな。最も渡してはいけない人材が、奴らのもとにいったか。彼に怪我は?」
「気絶させられていましたが、目立った外傷はありませんでしたよ」
「やはり知っていて利用する気だな」
エイダが眉間に皺を寄せると、ルドが問う。
「どうすりゃあいい。調査中の案件だ、報告はしたが、奴らの情報はほとんど無いから手も足も出ない」
その時、ニコラが慌ただしくやって来た。
「アレット様、大変です。ラナちゃんがどこにも見当たらなくて!」
「何?」
「もしかしたら、イスル君を追いかけて、外に出てしまったのかも……」
「だが、門は閉まっている。千里眼で捜索したのか?」
「はい、イスル君の次に上手い人に頼んだんですけど、どこにも見当たらないんです!」
ニコラは涙目で口元に手を当てる。
「私がちゃんと見ていなかったから……ごめんなさい」
わっと泣き出してしまったので、エイダは席を立ってニコラを慰める。
「お前を責めたりはしない。落ち着かないか」
「そうですよ、皆、ラナの動きが分からないくらい、動揺していたんです。状況が悪かったとしか言えません」
サリタスも声をかけ、しばらくニコラに付き添っていると、また魔法使いが飛びこんできた。
「失礼します。アレット様、こちらにニコラは? あ、ニコラ。目撃情報があったんだ」
「ラナちゃんを見た人が?」
青年に、ニコラは掴みかからんばかりに飛びついた。
「うおっ。ああ、赤い髪の綺麗な女性が迎えに来たって門番が……」
「赤い髪? あの赤の魔女も、赤い髪をした貴婦人みたいでしたが」
サリタスがまさかと思いながら口にすると、エイダとルドは険しい顔になっていた。
「赤の魔女が現われたのなら、ラナが見つからないことにも納得がいく」
「だが、その魔女は王都の外でサリタスが見たんだろう? 距離が離れすぎてる」
「いや、ルド殿。風乗りの魔法を使えるのならば、この程度の距離はなんてこともなかろう。城には結界が張られているが、城下町は広すぎるからな、せいぜい城壁に侵入防止の防犯魔法がかけられている程度だ。だが空を飛ばれたら、意味が無い」
「確かにな」
サリタスは嫌な予感がして、口を挟む。
「もし赤の魔女が王都を出入りしているとしたら……もしやあの盗賊団の拠点は、王都にあるということになるのでは?」
部屋は静まり返った。
ルドが顔を引きつらせる。
「灯台下暗しか……やりやがる」
「王都は広い。人の出入りも多いからな、紛れ込みやすい。だが怪しい者の動きには、我ら白の団も注意している」
「ああ。しかし、場所を絞りこめたのは助かる。まずは第一区画からしらみつぶしに当たってみるか」
「空き家になっている屋敷を見てみるが良かろう」
エイダはすっと立ち上がる。
「誤って外に出たラナをすぐに捕まえるとなると……奴らには千里眼が得意な者か、もしくは何らかの伝手があるのだろう。あの娘の利用価値は高いから、殺されることはあるまい。ニコラ、意識を切り替えて、救出の方に専念せよ」
「はいっ、畏まりました、アレット様」
敬礼するニコラに、エイダは頷き、机の整理に取り掛かる。
「私はどちらにせよ、退団せねばならん。指揮は団長に頼むように。私は町屋敷に拠点を移して、イスル・ブランカを探す。私兵も出そう。――ルド殿、用がある時はいつものように頼む」
「分かった」
ルドは頷いたが、渋い顔をしている。
「なあ、こんな状況なのに、本当に出ていっちまうのか?」
「当然だ。王には愛想が尽きた。仕える気にもならん」
エイダはさらっと言って、作業を続ける。
「グエン男爵、用がある時は町屋敷に来るといい、場所はルド殿に聞いてくれ。こちらから連絡する時は、手紙鳥を寄越す」
「分かりました」
サリタスは頷いた。手紙を風に乗せて飛ばす魔法だが、高レベルなので誰もが使えるものではないらしい。
(本当にすごい魔法使いなんだな、この人……)
感心していると、ふとエイダがじっとサリタスを見つめてきた。サリタスはひやりとする。
「な、何か……?」
「いや、そういえば礼を言い忘れていた」
「え?」
なんの話だときょとんとするサリタスに、エイダは微笑を浮かべて言った。
「イスル・ブランカを受け入れてくれてありがとう」
死の風の生き残りのことだ、とサリタスはすぐに分かった。
「はい」
頷いたが、その後のエイダの言葉には瞬時に凍りついた。
「まあ、もし拒絶して、ひどい言葉を浴びせていたら、私が直に処刑してやるところだったがね」
「は、はは……」
冗談と流すには本気の声音だったので、サリタスは乾いた笑いを返す他ない。
だが、部屋にいた他の魔法使いも、うんうんと頷いているところを見るに、もしかすると敵に回したのはエイダだけではなく、白の団の魔法使い全てなのかもしれない。
彼らがソネス侯爵に向けていた敵意を思い出すに、あながち外れでない気がした。
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