千里眼の魔法使い

夜乃すてら

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千里眼の魔法使い2 --騎士さまの小鳥--

2-5 盗賊団の影

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 翌日、出勤するなり、サリタスは小隊長であるルドに、少女の件を相談した。

「イスル・ブランカなら探せるって? 本当か? 全く手がかりが無いんだぞ」

 ルドは信じられないと問い返す。

「はい、記憶を読み取って、それを目印に探せるそうです。俺は出来ればあの子を助けたいので、許可を頂きたくて」
「そりゃあ、もちろんだ。魔法使いは国の財産。保護する義務がある。しかしお前、いつイスル・ブランカに相談したんだ? あの後、忙しかったろ」

 ルドの問いに、サリタスはあっさり返す。

「彼とは交際中なので、家で聞きました」
「ぶはっ」

 ルドは思い切り咳き込んだ。
 第二小隊には、他に三人の隊員がいる。その中で一番優しいレダ・オルフェンが、ルドの背中を叩いてあげていた。背が高く、銀髪碧眼の美貌の青年だ。女顔なので、尚更優しそうに見える。

「へえ、お前が男と付き合うなんて驚きだな」

 サリタスと親しいシディ・バイオスが、意外そうに口を挟んだ。
 赤茶色の髪を、前髪だけ上げていて、野性味あふれる顔立ちをしている。若干垂れ目がちな茶色の目で、サリタスをうろんに見つめた。

「今まで、適当に寄ってきた女としか付き合ってなかったくせに、どういう風の吹き回しだよ」
「俺が意識不明だった時に、生霊で外に出てたらしくてね、それがきっかけで彼が起こしてくれたんだ。命の恩人だよ」
「は? 意味が分からねえ」

 シディは眉を寄せる。

「彼は千里眼の才があるから、見えすぎて幽霊も見えるらしい」
「ふうん、あれだけの才能ならありえるかもな。……って嘘だろ?」
「なんでこんな嘘をつかなくてはいけないんだ。それに他にも理由がある、イスルはパンドリにそっくりだ」

 サリタスはこれぞ最強の理由だと胸を張ったが、シディは微妙な顔で問う。

「地味でどこにでもいるって意味?」
「色白で可愛らしい、に決まってるだろ」
「分かんねえよっ」

 ツッコミを入れるシディを、ロウェン・バートがまあまあと宥める。黒髪黒目をした彼は、でかい図体のわりに大人しい。だが体格のせいか、どっしりとした存在感があった。
 そこで、ようやくルドが復活した。

「おい、のろけ……これはのろけてるのか? 分からんが、そこまでにしろ。とにかく、個人的に相談したら、確実に出来ると分かったわけだな?」
「そういうことです、隊長」
「うん、よし。すぐに上に許可を取ってくる、もしかするとあの件と関係してるかもしれねえからな」

 ルドはばたばたと第二小隊の待機室を飛び出していった。
 サリタスは首を傾げる。

「あの件ってなんのこと?」

 するとレダが、自分の机にあった報告書のファイルを取り上げた。

「サリタスは復帰したばかりだから知らないよね。これだよ」
「ブラッドフェザー盗賊団? なんだか頭の悪そうなネーミングセンスだね」
「はは、サリタスならそう言うと思った」

 レダはふふっと笑ったが、すぐに真剣な目つきになる。

「でも、やってることは結構賢いよ。そして残忍だね」
「簡単に言やあ、幼い魔法使いを捕まえて、飼い慣らして盗みの手助けをさせるんだ。そして、盗みに入った家では、主人一家と邪魔した使用人を殺すんだよ。胸くそわりい」

 シディはぎりっと歯ぎしりする。

「邪魔したってことは、邪魔しなければ殺さないのか?」

 サリタスの問いに、ロウェンが頷く。

「ああ、被害に遭った家のメイドの話ではそうだった。だが警備の位置も把握されていて、そこを崩されたらあっという間だったって」
「ということは、金持ちや貴族が狙われてるんだな?」

 サリタスが確認すると、シディが大きく頷いた。

「そういうこと。しかもその一つは、王の遠縁の家でさ、上の連中は大層お冠だ。珍しく第一小隊が出張ってるぜ」
「第一小隊が……それは本気だな」

 近衛騎士団には五人一組の小隊が六つある。貴族のみで構成され、高難度の試験を勝ち残った、文武ともに秀でたエリートの集まりだが、その中でも第一小隊はとりわけ優秀な人材が揃っている。

「だが、どうやって魔法使いを飼ってるって分かったんだ?」
「最近、内部分裂したみたいでな。前の首領しゅりょうと、新しく出てきた首領がもめてて、新しい方が下手やって、一部が捕まったんだ。それで諸々が発覚した」

 シディの話で、サリタスはなるほどと頷く。

「つまり警戒すべきは、前の首領なんだ? 新しい奴は指揮能力が低いってことだろ」
「そういうことだね。そいつらの話じゃ、金髪の美丈夫で、首に黒い死神のタトゥーがあるって話だけど、詳しく聞く前に殺されたよ。相当、有能な魔法使いが付いてるらしい。赤の魔女の仕業じゃねえかって見立てだな」

 サリタスは頬を引きつらせる。

「おいおい、それは本当か? 随分な大物じゃないか。戦場の悪魔だろ? 金さえ出せば、どこにでもつくっていう……」

 ライトマール王国では、魔法使いは国に保護されるべき存在だが、それを束縛と嫌がって、独立して働いている者もいる。そのだいたいが傭兵だ。
 レダが肩をすくめる。

「だけど、今、フリーの魔法使いで、禁句を口にした途端自爆するような魔法を仕掛けてのけるような、繊細な魔法を使えるのは、赤の魔女くらいだ。次点で月の猟犬ってところだけど、隣国の王子に惚れて、でれでれの忠犬状態らしいよ」
「レダ、君、いったいどこからそんなゴシップを拾ってくるんだ?」

 サリタスが呆れると、レダはふふっと怪しげな笑みを浮かべて、人差し指を唇に押し当てた。女性が見たら黄色い悲鳴が上がりそうだが、サリタスから見るとかなり恐ろしい。

「秘密。ああ、大丈夫だよ。君達の弱味もつかんでるけど、胸に秘めているからね」
「……何をつかまれたのかものすごく気になるけど、分かった。君だけは敵にしない」

 昔やった馬鹿をいくつか思い浮かべて、サリタスはゾッとした。
 レダは違うよと手を振る。

「私とシディだよ」
「……シディ? え? 君達、いったいどういう」
「うるせえ、余計なことを訊くな! なんか知らねえけど、こいつに気に入られてるんだよ、俺。怖すぎるだろ」

 シディは青ざめてぶるぶる震えて言った。
 本気で怖がっているので、サリタスは深く触れないことにした。だがシディには同情の目を向ける。

「おい、その目をやめろ。ぶん殴るぞ」
「ごめん、かわいそうだなあと思って」
「本当にお前、いい性格してるよな。あのチビも何でこんなのと付き合ってんだ」

 サリタスはにっこりと笑う。

「俺は好きな人には優しいからね。それに、逃げられないように頑張ってるところ。その他の奴なんてどうでもいいかな、興味無い」
「こええよ、その笑み。真っ黒じゃねえか」

 シディは青ざめて言った。

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