至宝のオメガ

夜乃すてら

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本編 第二部(シオン・エンド編)

番外編 輿入れ 6 (終)

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 輿入れから一週間して、ようやく主寝室の改装が終わった。
 伯爵夫人のための部屋は、僕の好みを反映し、ロシアンブルーと白をベースにした洗練した雰囲気になっている。こういった費用は全て神殿から出ているのもあって、〈楽園〉の部屋とそう変わらないハイレベルさだ。

「いかがですか、ディル様。最新の断熱材を取り入れたので、厳しい冬でも暖かく過ごせると思いますよ」

 シオンはタルボと話し合い、職人にできるだけのことをさせたと説明した。それでも、心配そうにこちらをうかがう。

「素晴らしい部屋なので、言葉が出てきません。ありがとうございます、シオン」

「お気に召していただけたようで、何よりです。あとは生活しながら、使いやすいように模様替えしてくださいね。相談していただければ、私も立ち会って、使用人に家具を移動させますから」

 家具の移動は、男手がないと厳しい。使用人でも、僕の寝室に男を入れるのは嫌なのか、シオンは付き添うと宣言した。

「シオンってば、過保護すぎやしませんか?」
「いいえ。あなた様はそれだけ魅力的なのですから、これくらいで当然です」

 シオンがきっぱりと言い切ると、部屋のチェックのために立ち会っている神官達が、うんうんと頷いた。

「それから、この内扉は私の部屋につながっています。私はディル様の許可がなければ使いませんが、あなたは自由に使っていいですよ」

 シオンは内扉を開けて、伯爵のための私室を見せる。
 シオンの部屋は灰色と緑をベースに、落ち着いた雰囲気だ。くつろぐためのスペースというのがよく分かる。内扉を挟んで、それぞれ居間があり、奥に更に別の扉があって、寝室や風呂場やトイレがあるようだ。

「東館は主家の私的スペースなので、特にこの二階には許可もなく立ち入れません。もし見慣れない者を見かけたら不審者ですので、すぐに部屋に入って鍵をかけてくださいね」
「分かりました」

 そんなことがあるのだろうかと、僕は驚く。

「ああ、心配しないでください。東館の出入り口と階段前には護衛兵が警備についていますし、使用人待機室に、神官殿が控えていてくださいますが、もしもということはございますから、注意しているだけですよ」

「マリアン様のお部屋はどちらなんです?」
「一階の外れのほうですね。母上は日差しが入る静かな場所がお好きなので。日中は談話室で裁縫をされていることが多いですから、お話をしたい時はどうぞ。ですが、無理して親戚付き合いしなくて結構です」

 とにかく僕のストレスを排除したいようで、シオンは慎重になっているようだ。

「シオン……、僕はそこまでか弱くありませんから」
「分かっておりますよ? 魔獣のスタンピードで、おとりになるべくお一人で飛び出していかれる方だというのは」

 僕は顔を赤らめる。

「もうっ。それ、ずっと言うつもりですね?」
「あれがあるので、私はあなたが突飛なことをして怪我でもしないかと、心配なんですよ。領民達には、あなたの勇敢エピソードとして、酒の席でよく話題になるようですね」

 それだけの行動だったのだと、シオンは釘を刺す。

「止めても、いざとなれば私の注意などお聞き入れくださらないのでしょうから、せめて無茶をする前に私にご相談ください」
「シオンに相談したらどうなるんです?」
「止められれば止めますし、無理ならば助けに行きます」
「ふふっ。そうですか。僕の勇敢な騎士様」

 僕は笑みを浮かべ、シオンに軽いハグをする。
 甘い空気になったのを察して、神官達がお辞儀をして部屋を出て行った。静かに扉が閉まる。

「はあ、まったく。ディルには一生かなわない気がします」
「でしたら僕もそうなので、おそろいですね」

 悪戯っぽく微笑む僕を見下ろして、照れて顔を赤くしたシオンは、観念した様子で身をかがめる。そして、僕に優しいキスをした。
 これからこの地は、厳しい冬が訪れる。

 ――どうかここが、僕にとっての最後の故郷となりますように。

 いまだ遠い春を思い、僕はシオンの背に手を回し、温かな胸元に額を寄せた。




 <番外編 輿入れ おわり>



 ☆彡☆彡☆彡


 先週は体調不良のためにお休みしました。
 もう少し番外編をちょっとずつ書いてから、ネルヴィス編に入ると思います。

 溺愛あまあまってどうやって書くのか、いまだによく分かってなくて。こういう番外編のあまあまってやっぱりよくわかんないですね。ま、書きたいものしか書けないから、そうするだけですが……。
 とりあえず気が向いたら、少しずつ書きます。
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