125 / 142
本編 第二部(シオン・エンド編)
番外編 輿入れ 6 (終)
しおりを挟む輿入れから一週間して、ようやく主寝室の改装が終わった。
伯爵夫人のための部屋は、僕の好みを反映し、ロシアンブルーと白をベースにした洗練した雰囲気になっている。こういった費用は全て神殿から出ているのもあって、〈楽園〉の部屋とそう変わらないハイレベルさだ。
「いかがですか、ディル様。最新の断熱材を取り入れたので、厳しい冬でも暖かく過ごせると思いますよ」
シオンはタルボと話し合い、職人にできるだけのことをさせたと説明した。それでも、心配そうにこちらをうかがう。
「素晴らしい部屋なので、言葉が出てきません。ありがとうございます、シオン」
「お気に召していただけたようで、何よりです。あとは生活しながら、使いやすいように模様替えしてくださいね。相談していただければ、私も立ち会って、使用人に家具を移動させますから」
家具の移動は、男手がないと厳しい。使用人でも、僕の寝室に男を入れるのは嫌なのか、シオンは付き添うと宣言した。
「シオンってば、過保護すぎやしませんか?」
「いいえ。あなた様はそれだけ魅力的なのですから、これくらいで当然です」
シオンがきっぱりと言い切ると、部屋のチェックのために立ち会っている神官達が、うんうんと頷いた。
「それから、この内扉は私の部屋につながっています。私はディル様の許可がなければ使いませんが、あなたは自由に使っていいですよ」
シオンは内扉を開けて、伯爵のための私室を見せる。
シオンの部屋は灰色と緑をベースに、落ち着いた雰囲気だ。くつろぐためのスペースというのがよく分かる。内扉を挟んで、それぞれ居間があり、奥に更に別の扉があって、寝室や風呂場やトイレがあるようだ。
「東館は主家の私的スペースなので、特にこの二階には許可もなく立ち入れません。もし見慣れない者を見かけたら不審者ですので、すぐに部屋に入って鍵をかけてくださいね」
「分かりました」
そんなことがあるのだろうかと、僕は驚く。
「ああ、心配しないでください。東館の出入り口と階段前には護衛兵が警備についていますし、使用人待機室に、神官殿が控えていてくださいますが、もしもということはございますから、注意しているだけですよ」
「マリアン様のお部屋はどちらなんです?」
「一階の外れのほうですね。母上は日差しが入る静かな場所がお好きなので。日中は談話室で裁縫をされていることが多いですから、お話をしたい時はどうぞ。ですが、無理して親戚付き合いしなくて結構です」
とにかく僕のストレスを排除したいようで、シオンは慎重になっているようだ。
「シオン……、僕はそこまでか弱くありませんから」
「分かっておりますよ? 魔獣のスタンピードで、おとりになるべくお一人で飛び出していかれる方だというのは」
僕は顔を赤らめる。
「もうっ。それ、ずっと言うつもりですね?」
「あれがあるので、私はあなたが突飛なことをして怪我でもしないかと、心配なんですよ。領民達には、あなたの勇敢エピソードとして、酒の席でよく話題になるようですね」
それだけの行動だったのだと、シオンは釘を刺す。
「止めても、いざとなれば私の注意などお聞き入れくださらないのでしょうから、せめて無茶をする前に私にご相談ください」
「シオンに相談したらどうなるんです?」
「止められれば止めますし、無理ならば助けに行きます」
「ふふっ。そうですか。僕の勇敢な騎士様」
僕は笑みを浮かべ、シオンに軽いハグをする。
甘い空気になったのを察して、神官達がお辞儀をして部屋を出て行った。静かに扉が閉まる。
「はあ、まったく。ディルには一生かなわない気がします」
「でしたら僕もそうなので、おそろいですね」
悪戯っぽく微笑む僕を見下ろして、照れて顔を赤くしたシオンは、観念した様子で身をかがめる。そして、僕に優しいキスをした。
これからこの地は、厳しい冬が訪れる。
――どうかここが、僕にとっての最後の故郷となりますように。
いまだ遠い春を思い、僕はシオンの背に手を回し、温かな胸元に額を寄せた。
<番外編 輿入れ おわり>
☆彡☆彡☆彡
先週は体調不良のためにお休みしました。
もう少し番外編をちょっとずつ書いてから、ネルヴィス編に入ると思います。
溺愛あまあまってどうやって書くのか、いまだによく分かってなくて。こういう番外編のあまあまってやっぱりよくわかんないですね。ま、書きたいものしか書けないから、そうするだけですが……。
とりあえず気が向いたら、少しずつ書きます。
1
お気に入りに追加
1,201
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる