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本編 第二部(シオン・エンド編)
番外編 輿入れ 2
しおりを挟む城の使用人や神官が荷物を運び込む間、僕はいったん西館の貴賓室に通された。
前回、僕のために用意された部屋だ。
「シオン……? まさか僕をお客様扱いしているのですか?」
静かにショックを受ける僕を見て、シオンは慌てて首を振る。
「いいえ、違います! 先ほど、馬車でお話ししましたが、防寒対策が甘いため、急遽、領主夫妻のための主寝室を改築しているので使えないのですよ。結婚式の前から指示はしていたのですが、まだ完成していなくて」
僕がわがままを言って、結婚式を速めたから、しわ寄せが来ているのか。恥ずかしくなって、顔を赤くした。
「ごめんなさい」
「いいえ、きちんと話しておかなかった私が悪うございました。実は私の部屋も使えないので、完成まで私もこちらを使って構いませんか?」
僕は静かに瞬きをした。僕の態度を、拒絶ととらえたようで、シオンはすぐに言い直す。
「同室のほうがお守りしやすいと思ったのですが、個室のほうがいいですよね。申し訳ございません。では私は、隣室の使用人部屋を……」
「いえ、そうではなく。王族以外は、夫婦は同じ寝室を使うのでは? 僕は当然、あなたと過ごすのだと思っておりました」
「え? いえ、内扉はありますが、領主と領主夫人の部屋は分けられておりますよ?」
「では、せっかくシオンと結婚したのに、その、そういうことをしない日でも、同じベッドで眠らないのですか……?」
ものすごくがっかりしたのが、声に出た。
シオンは顔を赤くして、胸を押さえる。唐突に僕を抱きしめた。
「急に、そのような可愛らしいことをおっしゃらないでください。私の心臓を止める気ですか?」
「はい?」
僕は不思議に思ったが、シオンの腕の中にいるとほっこりして幸せな気持ちになる。すりっと、彼の厚い胸板に頬を寄せた。
「ディル様」
シオンが身をかがめ、僕に顔を寄せる。軽くついばむだけのキスをして、甘く微笑んだ。
「あなた様のその寂しがりで甘えたがりなところを、私はとても愛らしく思っております」
「うっとうしくはありませんか?」
「いいえ。そんなふうに心を許してくださるのが、私だけだと分かっておりますので」
カアッと顔を赤くする。結婚したというのに、僕はいまだにシオンの美しい顔にも、甘く優しい言葉にも慣れない。そわっと身じろぎをする。
「あの……よければディルと呼び捨てにしてください。夫婦なのですし」
「では、二人きりの時だけそうしましょう。他の者がいる時は遠慮させてください。あなたの身分のほうが高いので、私が無礼を働いていると勘違いされてしまいますから」
シオンの表情がわずかに曇る。
「神官がたに誤解されては、あなたと引き離されてしまいます」
「えっ、神殿はそんなに過保護なのですか?」
「ええ」
「分かりました。タルボの書付をしっかり読んで勉強いたしますね」
意気ごむ僕の額に、シオンはキスを落とす。
「ああ、いけない。旅でお疲れでしょうから、夜までお休みいただくつもりでしたのに」
この後、城の謁見室をかねたホールに領民を入れ、顔合わせをかねた披露宴を行う予定なのだ。レイブン家の家臣がはりきって用意してくれている。夕方まで休息をして、身支度の時間をとらなければならない。
「シオンとこうしているほうが、疲れがとれますよ」
シオンの言う通り、愛を自覚してからの僕は、すっかりシオンに甘えている。ただ、どうしても前世の常識があり、恐る恐る距離をはかっていた。僕が勇気を出して近づいていることを、シオンは理解して優しく受け入れてくれる。おかげで、調子に乗ってしまいそうなのが悩みだった。
ふいに、シオンがため息をついた。僕はぎくりとする。嫌だったのかとうかがうと、彼は心底残念そうにつぶやく。
「披露宴がなければ、このまま押し倒していましたよ」
はっきりとした言葉で求められ、僕の心臓は高鳴った。
「ぼ、僕のほうが、心臓が止まりそうです……」
赤い顔を隠すため、僕はシオンの胸に額を押し当てるのだった。
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