至宝のオメガ

夜乃すてら

文字の大きさ
上 下
121 / 142
本編 第二部(シオン・エンド編)

番外編 輿入れ 2

しおりを挟む


 城の使用人や神官が荷物を運び込む間、僕はいったん西館の貴賓室に通された。
 前回、僕のために用意された部屋だ。

「シオン……? まさか僕をお客様扱いしているのですか?」

 静かにショックを受ける僕を見て、シオンは慌てて首を振る。

「いいえ、違います! 先ほど、馬車でお話ししましたが、防寒対策が甘いため、急遽、領主夫妻のための主寝室しゅしんしつを改築しているので使えないのですよ。結婚式の前から指示はしていたのですが、まだ完成していなくて」

 僕がわがままを言って、結婚式を速めたから、しわ寄せが来ているのか。恥ずかしくなって、顔を赤くした。

「ごめんなさい」
「いいえ、きちんと話しておかなかった私がわるうございました。実は私の部屋も使えないので、完成まで私もこちらを使って構いませんか?」

 僕は静かにまばたきをした。僕の態度を、拒絶ととらえたようで、シオンはすぐに言い直す。

「同室のほうがお守りしやすいと思ったのですが、個室のほうがいいですよね。申し訳ございません。では私は、隣室の使用人部屋を……」
「いえ、そうではなく。王族以外は、夫婦は同じ寝室を使うのでは? 僕は当然、あなたと過ごすのだと思っておりました」

「え? いえ、内扉はありますが、領主と領主夫人の部屋は分けられておりますよ?」
「では、せっかくシオンと結婚したのに、その、そういうことをしない日でも、同じベッドで眠らないのですか……?」

 ものすごくがっかりしたのが、声に出た。
 シオンは顔を赤くして、胸を押さえる。唐突に僕を抱きしめた。

「急に、そのような可愛らしいことをおっしゃらないでください。私の心臓を止める気ですか?」
「はい?」

 僕は不思議に思ったが、シオンの腕の中にいるとほっこりして幸せな気持ちになる。すりっと、彼の厚い胸板に頬を寄せた。

「ディル様」

 シオンが身をかがめ、僕に顔を寄せる。軽くついばむだけのキスをして、甘く微笑んだ。

「あなた様のその寂しがりで甘えたがりなところを、私はとても愛らしく思っております」
「うっとうしくはありませんか?」
「いいえ。そんなふうに心を許してくださるのが、私だけだと分かっておりますので」

 カアッと顔を赤くする。結婚したというのに、僕はいまだにシオンの美しい顔にも、甘く優しい言葉にも慣れない。そわっと身じろぎをする。

「あの……よければディルと呼び捨てにしてください。夫婦なのですし」
「では、二人きりの時だけそうしましょう。他の者がいる時は遠慮させてください。あなたの身分のほうが高いので、私が無礼を働いていると勘違いされてしまいますから」

 シオンの表情がわずかに曇る。

「神官がたに誤解されては、あなたと引き離されてしまいます」
「えっ、神殿はそんなに過保護なのですか?」
「ええ」
「分かりました。タルボの書付かきつけをしっかり読んで勉強いたしますね」

 意気ごむ僕の額に、シオンはキスを落とす。

「ああ、いけない。旅でお疲れでしょうから、夜までお休みいただくつもりでしたのに」

 この後、城の謁見室をかねたホールに領民を入れ、顔合わせをかねた披露宴を行う予定なのだ。レイブン家の家臣がはりきって用意してくれている。夕方まで休息をして、身支度の時間をとらなければならない。

「シオンとこうしているほうが、疲れがとれますよ」

 シオンの言う通り、愛を自覚してからの僕は、すっかりシオンに甘えている。ただ、どうしても前世の常識があり、恐る恐る距離をはかっていた。僕が勇気を出して近づいていることを、シオンは理解して優しく受け入れてくれる。おかげで、調子に乗ってしまいそうなのが悩みだった。
 ふいに、シオンがため息をついた。僕はぎくりとする。嫌だったのかとうかがうと、彼は心底残念そうにつぶやく。

「披露宴がなければ、このまま押し倒していましたよ」

 はっきりとした言葉で求められ、僕の心臓は高鳴った。

「ぼ、僕のほうが、心臓が止まりそうです……」

 赤い顔を隠すため、僕はシオンの胸に額を押し当てるのだった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」 授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。 途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。 ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。 駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。 しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。 毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。 翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。 使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった! 一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。 その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。 この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。 次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。 悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。 ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった! <第一部:疫病編> 一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24 二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29 三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31 四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4 五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8 六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11 七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18

処理中です...