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本編 第二部(シオン・エンド編)
番外編 バレンタインデー妄想
しおりを挟む※もしこの世界にバレンタインデーがあったらという妄想を小話にしました。
すでに過ぎ去りましたけど、ふと思いついたので。
さらっと書いたのであっさりしてます。
☆彡☆彡☆彡
「ディル様、おはようございます。贈り物が届いておりますよ」
「贈り物ですか?」
いつものように、ネルヴィスだろうか。
朝の身支度を終えると、タルボとともに一階の居間に向かう。中に入る前に、ふわりと強い香りがした。
「タルボ、なんだか今日は、やたら薔薇の香りがします……ね?」
あ然とした。
部屋いっぱいに赤い薔薇が置かれ、甘ったるくて酔うほどの香りが充満していたのだ。
「何事ですか?」
誕生日ではなかったはずだが。静かに慌てる僕に、待っていたネルヴィスがお辞儀する。
「バレンタインデーの贈り物ですよ、恋人に花を贈る日です。どうぞ」
薔薇の花束を渡され、僕は反射的に受け取った。
「ありがたいですけれど、やりすぎでは?」
「薔薇は増えるほど意味があります。とりあえず、これが私の気持ちということで」
にこりと笑うネルヴィス。
(重い……!)
尻込みしながら、僕はなんとか笑みを浮かべる。
「そ、そうですか。ありがとうございます……」
花には罪がないから受け取るとして、ここにいると花の香りで気分が悪くなりそうだ。
「これから朝食なので、一緒にいかがですか」
「喜んで」
なんとか居間から撤退することに成功し、僕はタルボに花を分散するように頼んだ。
ネルヴィスと朝食をとり終えた頃、シオンが訪ねてきた。
「ディル様、お目通りいただけて光栄です。こちらをどうぞ」
僕の前に片膝をつき、シオンは薄ピンクの薔薇を差し出す。小さく可憐な花は、僕の好みだ。
「ありがとうございます、シオン。うれしいです」
「あなたの笑顔が一番の贈り物ですよ」
甘いことをさらりと言って、シオンは輝くような笑みを浮かべる。
キラキラした善意に、僕の胸はつらぬかれた。
(ううっ。相変わらず綺麗!)
彼の顔の良さと善良さには、いつまで経っても慣れそうにない。
「ディル様、私の時と反応が違いすぎません?」
不満げにネルヴィスが文句を言う。
「ネルの花もうれしかったですよ。ただ……多すぎて圧倒されただけで」
過剰な贈り物は圧迫感がすごいからやめてほしいと言ったのに、ここぞという時は遠慮してくれないようだ。
「三人でお茶にしませんか。僕からはホットチョコレートをプレゼントしますね」
僕の誘いに、ネルヴィスとシオンは快く返事する。
僕はタルボに教わって、ネルヴィスにはビターチョコレートを、シオンには甘いチョコレートのドリンクを作った。
と言っても、鍋にミルクに入れて、チョコレートを溶かしただけだ。
料理などしたこともない僕には、精一杯のお礼である。
それが分かっているのか、二人とも感動していた。
「もちろん、タルボにもですよ。いつもありがとうございます」
家族愛として、タルボにもホットチョコレートを出す。
「わあ、ありがとうございます、ディル様」
タルボは喜んだが、ネルヴィスとシオンは気色ばんだ。
「えっ、待ってください、ディル様! 彼と同じ扱いなんですか!」
「やっぱりその方も恋人で?」
詰め寄られてたじろぐ僕の傍で、タルボは意味ありげに笑う。
「さあて、どうでしょうか」
「「タルボ殿!」」
タルボがからかうせいで、その場にちょっとした混乱が巻き起こり、僕は彼らをなだめるのに苦労したのだった。
<番外編、おわり>
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