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本編 第二部(シオン・エンド編)
95. オペラの夜 ※R18表現あり
しおりを挟む窓の向こうから、かすかにアリーナの歌声が聞こえる。
そんな中、部屋には淫靡な水音が響いていた。僕のシャツをはだけさせて、ネルヴィスは後ろから肩に口づけをしながら、右手は胸を、左手は僕自身を愛撫している。
防護布をしているとはいえ、あんまりうなじに近づかれると、ゾクゾクする。
「ネル……ちょっと」
もぞもぞと動く僕に、ネルヴィスが笑いをこぼす。
「うなじには何もしませんよ」
僕が何を言いたいのか当てて、ネルヴィスは気にせずそのまま続ける。息が肌をなででくすぐったい。ふいに、ネルヴィスの動きが止まり、舌打ちをした。
「え? ネル?」
柄の悪さにひやりとすると、ネルヴィスは面白くなさそうに呟く。
「まったくレイブン卿は分かりやすい人ですねえ」
「はい?」
「キスマーク、肩の辺りについてますよ」
それはかなり気まずいやつだ。僕が固まると、ネルヴィスはそこに吸い付いた。チクリとした痛みに、僕は眉を寄せる。
「痛いです」
「そりゃあ、鬱血ですし」
「もう……」
文句にひょうひょうと理屈を返され、僕は抗議する気がそがれた。
「恋人が二人いる状況は気にしませんけど、こういうのを見るとムカつきますね。レイブン卿にですけど」
僕を横抱きに座らせなおしたネルヴィスは、ふっと歪んだ笑みを浮かべる。
「ネ……んんっ」
僕の背中と右手首を押さえて、ネルヴィスは深い口づけを始めた。息継ぎの暇もなく、苦しくてくらくらする。飲みきれない唾液がつうと口端を伝う。
ようやく離すと、力が抜けている僕を抱きしめる。
「好きです、ディル様」
しぼりだしたような声は、ネルヴィスの本音だと告げている。
「言葉で伝えても、あなたを抱いても、この気持ちが全部伝わる気がしません。本や詩では恋は素晴らしいものだと書いてあるのに、私には痛みのほうが強い」
普段がクールなだけに、そんなふうに弱った顔をされると、僕は動揺する。
「ディル様といると、自分が変わっていく気がします。少し怖いのですが、あなたにはどうでしょうか。私が怖くないといいのですが」
そこで僕のほうを心配する辺り、ネルヴィスの優しさを感じられる。
「あなたの変化は好ましいものですよ」
僕の返事に、ネルヴィスは目を細める。
「ディル様は甘やかすのが上手ですよねえ。私のほうが甘やかしまくりたいのに」
「部屋を贈り物で埋めて、僕を窒息死させようとするのはやめてほしいですが」
「私の愛情表現はお金と物なので。父上も祖父もそうでしたから、そんなものだと思ってましたよ。というか、置く場所がないなら、屋敷をお贈りしましょうか」
「そういうお金の使い方はどうかと思いますよ」
さすがに呆れると、ネルヴィスには心底不思議そうに問われる。
「なぜです。愛する人にお金を使うのは、もっとも有意義なことだと思いますが」
「う……」
堂々と言われると、何も言えなくなる。
「あなたのことを考えて、贈り物を選ぶのはとても楽しいです。でも、もっと他に何か喜ばす方法があるのでしょうね。勉強します」
「変な所で、頭が固いですね。本人に訊くという選択肢はないんですか?」
「……なるほど!」
「ふっ。おかしな人ですね!」
真面目に変なことを言うネルヴィスが面白くて、僕は噴き出した。
「それはおいおい話し合うとして、続きをしましょう」
ネルヴィスは僕の胸の飾りを口に含む。
「んっ」
片方の手が背を撫で、腰骨をたどってそのまま後ろへ向かう。香油の入った小瓶を取り出して、中身を指にまとわせ、後孔をほぐし始めた。もう片方の手が、内ももを怪しく撫でるので、僕は腰を浮かせそうになる。それも、座っている体勢のせいで、大して動けないのだが。
「あ……あっ」
ネルヴィスのシャツをつかみ、僕は首を振る。中を探る指先が、奥の良いところを押すたびに、僕の足がピクッと揺れた。
「待って」
「これだけやわらかいなら、あまり時間をかけなくて大丈夫そうですね。ふふ」
至近距離で、ネルヴィスが悪い笑みを浮かべる。嫌な予感がした。
「ネ……ネル?」
彼は理解があって親切だが、意地悪なのだ。
「心配しないでください。後で椅子を見たら、私を思い出すくらいですよ」
「えっ?」
急にネルヴィスは立ち上がり、僕だけ椅子に座らせた。両足をつかんで、蛙みたいに大きく足を開かせられる。僕がこの格好にぎょっとしている間に、それぞれを手すりに乗せられた。
「な、何っ」
慌てて閉じる前に、ネルヴィスが間に割り込んだ。不安定な体勢なので、思わず僕がネルヴィスの肩にしがみつくと、そのままキスされた。抗議する前に、声を封じられる。
「ふ……あああっ」
腰を抱えられ、ずぶずぶとネルヴィスのものが入ってくる。
「待って。いきなり……っ」
「大丈夫ですよ」
こちらは衝撃を和らげようと必死なのに、ネルヴィスは少し出し入れして具合を確かめてから、僕の腰をつかんで下へ落とした。同時に彼自身を突き入れて、奥を深くえぐる。
「ひゃああっ」
刺激の強さに、たまらずネルヴィスの背に爪を立てる。
(なんで今日はこんなに強引……?)
ちかちかする視界の中、ネルヴィスに激しく揺さぶられながら、僕は混乱している。
「あ、あ、あっ」
ふと、ネルヴィスと目が合う。彼はにこりと微笑んだ。
「ところで、私はあなたに他に恋人がいようと気にしませんが、嫉妬しないとは言ってませんので」
「!」
それは気にしないに入らないのでは? という疑問は、言葉にならない。
「というか、レイブン卿に負けるなんていら立たしいので、頑張らせていただきます」
サーッと青ざめて、僕はぶんぶんと首を振る。
ディルレクシアが「下手」となじっていたせいで、「頑張る」と言っていたネルヴィスとの濃厚な夜を思い出したせいだ。
僕の左足をガシッとつかんで肩に乗せながら、ネルヴィスは悪魔的に笑う。
「一緒に頑張りましょうね、ディル様」
「や、やだっ。無理無理む……ああっ」
角度が変わり、思わぬ場所を突かれて、僕はのけぞった。
(やっぱり意地悪だーっ)
僕はあっという間にネルヴィスの勢いにのまれて、濃密な夜を過ごすことになった。
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