至宝のオメガ

夜乃すてら

文字の大きさ
上 下
97 / 137
本編 第二部(シオン・エンド編)

95. オペラの夜 ※R18表現あり

しおりを挟む


 窓の向こうから、かすかにアリーナの歌声が聞こえる。
 そんな中、部屋には淫靡いんびな水音が響いていた。僕のシャツをはだけさせて、ネルヴィスは後ろから肩に口づけをしながら、右手は胸を、左手は僕自身を愛撫あいぶしている。
 防護布をしているとはいえ、あんまりうなじに近づかれると、ゾクゾクする。

「ネル……ちょっと」

 もぞもぞと動く僕に、ネルヴィスが笑いをこぼす。

「うなじには何もしませんよ」

 僕が何を言いたいのか当てて、ネルヴィスは気にせずそのまま続ける。息が肌をなででくすぐったい。ふいに、ネルヴィスの動きが止まり、舌打ちをした。

「え? ネル?」

 がらの悪さにひやりとすると、ネルヴィスは面白くなさそうに呟く。

「まったくレイブン卿は分かりやすい人ですねえ」
「はい?」
「キスマーク、肩の辺りについてますよ」

 それはかなり気まずいやつだ。僕が固まると、ネルヴィスはそこに吸い付いた。チクリとした痛みに、僕は眉を寄せる。

「痛いです」
「そりゃあ、鬱血うっけつですし」
「もう……」

 文句にひょうひょうと理屈を返され、僕は抗議する気がそがれた。

「恋人が二人いる状況は気にしませんけど、こういうのを見るとムカつきますね。レイブン卿にですけど」

 僕を横抱きに座らせなおしたネルヴィスは、ふっと歪んだ笑みを浮かべる。

「ネ……んんっ」

 僕の背中と右手首を押さえて、ネルヴィスは深い口づけを始めた。息継ぎの暇もなく、苦しくてくらくらする。飲みきれない唾液がつうと口端を伝う。
 ようやく離すと、力が抜けている僕を抱きしめる。

「好きです、ディル様」

 しぼりだしたような声は、ネルヴィスの本音だと告げている。

「言葉で伝えても、あなたを抱いても、この気持ちが全部伝わる気がしません。本や詩では恋は素晴らしいものだと書いてあるのに、私には痛みのほうが強い」

 普段がクールなだけに、そんなふうに弱った顔をされると、僕は動揺する。

「ディル様といると、自分が変わっていく気がします。少し怖いのですが、あなたにはどうでしょうか。私が怖くないといいのですが」

 そこで僕のほうを心配する辺り、ネルヴィスの優しさを感じられる。

「あなたの変化は好ましいものですよ」

 僕の返事に、ネルヴィスは目を細める。

「ディル様は甘やかすのが上手ですよねえ。私のほうが甘やかしまくりたいのに」
「部屋を贈り物で埋めて、僕を窒息死させようとするのはやめてほしいですが」
「私の愛情表現はお金と物なので。父上も祖父もそうでしたから、そんなものだと思ってましたよ。というか、置く場所がないなら、屋敷をお贈りしましょうか」
「そういうお金の使い方はどうかと思いますよ」

 さすがに呆れると、ネルヴィスには心底不思議そうに問われる。

「なぜです。愛する人にお金を使うのは、もっとも有意義なことだと思いますが」
「う……」

 堂々と言われると、何も言えなくなる。

「あなたのことを考えて、贈り物を選ぶのはとても楽しいです。でも、もっと他に何か喜ばす方法があるのでしょうね。勉強します」
「変な所で、頭が固いですね。本人に訊くという選択肢はないんですか?」
「……なるほど!」
「ふっ。おかしな人ですね!」

 真面目に変なことを言うネルヴィスが面白くて、僕は噴き出した。

「それはおいおい話し合うとして、続きをしましょう」

 ネルヴィスは僕の胸の飾りを口に含む。

「んっ」

 片方の手が背を撫で、腰骨をたどってそのまま後ろへ向かう。香油の入った小瓶を取り出して、中身を指にまとわせ、後孔こうこうをほぐし始めた。もう片方の手が、内ももを怪しく撫でるので、僕は腰を浮かせそうになる。それも、座っている体勢のせいで、大して動けないのだが。

「あ……あっ」

 ネルヴィスのシャツをつかみ、僕は首を振る。中を探る指先が、奥の良いところを押すたびに、僕の足がピクッと揺れた。

「待って」
「これだけやわらかいなら、あまり時間をかけなくて大丈夫そうですね。ふふ」

 至近距離で、ネルヴィスが悪い笑みを浮かべる。嫌な予感がした。

「ネ……ネル?」

 彼は理解があって親切だが、意地悪なのだ。

「心配しないでください。後で椅子を見たら、私を思い出すくらいですよ」
「えっ?」

 急にネルヴィスは立ち上がり、僕だけ椅子に座らせた。両足をつかんで、かえるみたいに大きく足を開かせられる。僕がこの格好にぎょっとしている間に、それぞれを手すりに乗せられた。

「な、何っ」

 慌てて閉じる前に、ネルヴィスが間に割り込んだ。不安定な体勢なので、思わず僕がネルヴィスの肩にしがみつくと、そのままキスされた。抗議する前に、声を封じられる。

「ふ……あああっ」

 腰を抱えられ、ずぶずぶとネルヴィスのものが入ってくる。

「待って。いきなり……っ」
「大丈夫ですよ」

 こちらは衝撃を和らげようと必死なのに、ネルヴィスは少し出し入れして具合を確かめてから、僕の腰をつかんで下へ落とした。同時に彼自身を突き入れて、奥を深くえぐる。

「ひゃああっ」

 刺激の強さに、たまらずネルヴィスの背に爪を立てる。

(なんで今日はこんなに強引……?)

 ちかちかする視界の中、ネルヴィスに激しく揺さぶられながら、僕は混乱している。

「あ、あ、あっ」

 ふと、ネルヴィスと目が合う。彼はにこりと微笑んだ。

「ところで、私はあなたに他に恋人がいようと気にしませんが、嫉妬しないとは言ってませんので」
「!」

 それは気にしないに入らないのでは? という疑問は、言葉にならない。

「というか、レイブン卿に負けるなんていら立たしいので、頑張らせていただきます」

 サーッと青ざめて、僕はぶんぶんと首を振る。
 ディルレクシアが「下手」となじっていたせいで、「頑張る」と言っていたネルヴィスとの濃厚な夜を思い出したせいだ。
 僕の左足をガシッとつかんで肩に乗せながら、ネルヴィスは悪魔的に笑う。

「一緒に頑張りましょうね、ディル様」
「や、やだっ。無理無理む……ああっ」

 角度が変わり、思わぬ場所を突かれて、僕はのけぞった。

(やっぱり意地悪だーっ)

 僕はあっという間にネルヴィスの勢いにのまれて、濃密な夜を過ごすことになった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪の王妃

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:37

【完結】婚約破棄から始まるにわか王妃(♂)の王宮生活

BL / 完結 24h.ポイント:269pt お気に入り:708

理想の妻とやらと、結婚できるといいですね。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:181,441pt お気に入り:3,361

私のバラ色ではない人生

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:111,094pt お気に入り:5,894

オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

BL / 完結 24h.ポイント:3,146pt お気に入り:93

処理中です...