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本編 第一部
59. 忠告 ※R18表現あり
しおりを挟むシオンはそのままキスを深くしながら、僕の身体に手をすべらせる。
布越しに胸に触れ、もどかしそうに問う。
「どうしてネグリジェなんです?」
「これしか着替えが無いと言われたので」
シオンが不満そうなのは、本来、ネグリジェは女性の夜着だからかもしれない。やわらかい木綿のネグリジェは、庶民にはとっておきの品だろう。
急遽、地方の小神殿から世話に駆けつけた神官が、オメガにこんな簡素なものを渡して申し訳ないと謝っていた。緊急事態に文句など言うわけがない。
(ディルレクシアなら言いそうだけど)
僕は心の中でつぶやいた。
「借り物ですか。後でもっと良い物を弁償すればいいですよね」
「え?」
どういう意味かと問い返した瞬間、ビリッと布が裂ける音がした。シオンが襟を掴んで、力任せに引き裂いたのだ。あ然とする僕だが、シオンは唇で首筋をたどって、胸の飾りをやんわりと甘噛みした。
「んっ。ちょ、ちょっと、シオン」
普段が品行方正なだけに、乱暴な仕草に戸惑う。
「もう限界だと言ったはずです。泣いて止めても、もう止まりませんからね」
ちらとこちらを一瞥したシオンの青い目は、獰猛に光った。もし寝屋の経験がなかったら、恐ろしいと感じただろう鋭さだったが、僕はそれを見て、なぜか腹の奥のほうがツキンとした。
全力で欲しいと訴えている目に、ぞわぞわと背筋が震える。
求められるのが、うれしい。
僕は少し起き上がって、シオンのこめかみにキスをした。
「待てができないなんて、悪い子ですね」
美しい狼の前に、食べてくれと身を差し出すウサギのようだ。全力の願いには、こたえたくなる。結婚は決められないが、シオンの熱意に負けた。
「そんなに欲しいなら、好きにしていいですよ」
「まったく! 狂おしい気持ちを必死になだめているのに、あおらないでください」
昂った気持ちの行き場にするように、シオンは僕を押し倒して、鎖骨を甘噛みした。そして、そのすぐ下の肌に吸い付く。きつく吸われて少し痛い。彼はお構いなしに、僕の肌に赤い痕を残す。
そして、そのままへその横へ至ると、急に起き上がって、サイドチェストの引き出しから香油の入った瓶を取ってきた。
理性は焼き切れているようなのに、こんな時でも気遣いを忘れないのはさすがだ。
「ちょっとくらい痛くても構わないのに」
「いいえ、駄目です。あなたは良いものだけをもらうべきです」
それに、とシオンは続ける。
「私との夜が痛みで覚えられるなんて、許せない」
なんて誇り高い人だろうかと、僕の胸が震える。
「僕、あなたのそういうところ、好きです」
シオンはふっと微笑んで、行為を続ける。
僕の下着を脱がせると、すでに立ち上がっている僕自身に香油をまとわせた。そして、ゆっくりと愛撫する。
「んん……っ。え? あっ」
僕自身への手での愛撫は少しで、シオンはそのまま口に含んだ。ためらいなく口淫されて、僕は走る快楽でめまいがした。
「ああっ、駄目っ。そ、そんなこと……っ」
慌てて押しのけようとしたが、逆にシオンの髪をつかんで引き寄せるような形になってしまう。身もだえて嫌々と首を振る僕だが、シオンは香油をまとわせた指で、僕の後ろをほぐし始める。
「オメガは感じると濡れるといいますが、そのようですね」
「そのままでしゃべらないで」
もごもごされて、その刺激がたまらず、僕は泣きそうな声を出す。その時、シオンは僕自身から口を離すと、僕の足をつかんで大きく広げた。
「へ?」
恥ずかしい場所が丸見えという事態に、僕は一瞬何が起きたか分からなくてぽかんとし、理解すると赤面する。
「なっ、何をして……っ」
「フェルナンド卿はここまでしませんでしたか?」
意味が分からないので、返事ができない。
驚くことに、シオンは僕の後孔に顔を寄せて、舌で愛撫し始めた。
「ひゃうっ。やめて、汚いからぁっ」
あまりの恥ずかしさに涙目になり、足をバタバタさせて逃れようとするが、シオンは難なく押さえつける。
「痛いのは嫌でしょう? ディル様。しっかりほぐさないと」
薄く微笑んで忠告するシオンを見て、僕は本能的に逆らってはいけないと悟った。大人しくなった僕に満足したのか、シオンは僕が根負けして泣きだすまで、しっかりとほぐしたのだった。
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