29 / 48
第二部 結婚五年目編
14 ※閲覧注意
しおりを挟む※※※※※
このページは読まなくても大丈夫ですが、読む時は閲覧注意です。
(※第三者による暴力表現ありです。モブによるレイプ表現と、水責めという拷問を書いてます)
※※※※※
男に引きずられるようにして、居間に連れてこられた。
ほんの数分の間に、居間はすっかり荒らされていた。家具が倒され、配置がめちゃめちゃになっている。暖炉前にあったロッキングチェアを隅へ移動させ、男はニコルを毛織のラグの上へ突き飛ばした。
「うっ」
たいした受け身もとれず、ニコルはラグに倒れこむ。とっさに両手を突こうとしたせいで、手が痛んだ。すぐに起き上がって逃げようとしたが、男に肩を掴まれて、あおむけに転がされる。
「離せ!」
ニコルはもがいたが、男に上からのしかかられて、身動きがとれない。ゾッとするニコルを、男は見下ろす。
黒髪黒目、無精ひげが生えていて、人をくったような笑い方をする。体つきががっしりしており、ニコルみたいなひ弱なオメガでは、力ではとても敵わない相手だ。
「さて、坊ちゃん。印璽のありかを吐いてもらおうか。早いとこ、終わらせたほうが楽だぜ?」
「私は印璽など知らない!」
即座に言い返すと、左頬を衝撃が襲った。熱い痛みに、平手で叩かれたことに遅れて気付く。
「印璽は?」
男は淡々と問う。ニコルの頭は真っ白になった。
この男は、ニコルを尋問している。
ニコルの背筋を、冷えが走る。
拷問して吐かせる。犯罪者に対して、貴族ではよくやることだ。まさか自分がされる日が来るとは思わなかった。犯罪をしたこともないのだから、一生、縁がないはずだった。
(印璽か……。どういうことか知らないが、彼らは印璽の行方を探している。領主の印璽は法的に価値があるから、盗んだら極刑ものだ。この人達はただの強盗じゃなくて、私は犯罪者と思っているんだ)
事の重大さに気づいて、頭から足先までさーっと血の気が引いていく。
本来なら、領主館で尋問され、裁判を受けるようなことだ。だが、エリアルが個人的に追及している。ここが領主館なら家族が助けてくれるだろうが、静養のために暮らしている屋敷だから助けを呼べない。
(この男が自分に正義があると思っているなら、当然、手加減なんかしない……)
あんな真似をしておいて、まだニコルを追い詰めるのか。エリアルを恨めしく思った。
ニコルは男をまっすぐに見つめて、きっぱりと答える。
「私は、印璽など知らない。疑うなら、ここで尋問するのではなく、アマースト家で裁判にかけるべきだろう」
「そして金を払って逃げるのが、貴族ってものだろう。おい、たらいに水を入れて持ってこい」
「はい、お頭!」
手下が返事をして、どこかに駆け去った。
「印璽のありかが分かれば手柄になる。金をもらえた上に、護衛に取り立ててもらえるんだそうだ。こんな底辺からはおさらばできる」
「お前は、エリアルにだまされてるんだ」
「あんな綺麗な人が嘘をつくと思うか? あんたみたいなどこにでもいるような奴が、案外、悪い奴だったりするんだ。早く白状するんだな」
男の肩の向こうで、顔をうつむけたエリアルが口元だけゆがめていた。悪意のこもった笑い方だった。
「かわいそうな方だ。正妻になるはずが、愛人に横取りされたんだって? オメガのフェロモンで、アルファを誘惑したんだろ。逆レイプというんだぜ」
カーッと頭に血が上る。
「私とブラッドのことを、何も知らないくせに! そもそも結婚したのは五年前だぞ。エリアルはまだ社交界デビュー前の子どもだろう。順番がおかしいことに、何故気づかない!」
「貴族にはいろいろとあるんだろ。どうでもいいさ、俺は金と仕事さえもらえれば、それでな。ああ、持ってきたか」
手下がたっぷりと水をはったたらいを、ニコルの傍に置いた。嫌な予感がして、手が震える。
「早めに吐けって言ってるだろ?」
ネズミをいたぶる猫のような目をして、男が薄く笑う。そして、ニコルを無理矢理起こすと、後ろ襟を掴んだ。
「印璽はどこだ?」
「知らない!」
「ったく、馬鹿な奴だな」
やれやれと悪態をついて、男はニコルをたらいのほうへ押し出した。
「うっ。~~っ」
水に顔を押し付けられ、ニコルは苦しさにもがく。だが、頭は男が押さえている。そして、体を起こされた。
「はあっ、はあ。げほっ」
空気を求めて、ニコルはせきこむ。息を整えながら、恐怖で涙がにじんだ。心臓が早鐘のように鳴り始める。
男は静かに問う。
「印璽は?」
「知らないんだ。本当に」
エリアルはニコルを殺すなと言っていたが、そうならない保証はない。
「強情な奴だな。根比べといこうじゃないか」
男はほの暗い笑みを浮かべ、ニコルの肩をつかんだ。
ニコルはぐったりとラグに倒れこんでいた。
あれから何度か水責めにあったが、ニコルの体力のほうが先に尽きた。だいぶ回復してきたとはいえ、静養の身だ。
加えて魔力不足で視界がくらくらしている。
魔力切れになったら眠る体質を、初めてありがたいと思った。気を失っていれば、こんな責め苦からも解放される。
「弱々しい野郎だな。しかしここまで吐かないとなると、本当に知らないのか。それとも、部下のほうか?」
「命じるなら、そいつだよ。見つからなかったらそれでも構わない。ブラッドリー様に悪さをしようと思わない程度に、こらしめてやって」
こんな残酷な場だというのに、エリアルは平然とお茶を飲みながら、ちらとニコルを見て言った。
(綺麗な顔をした悪魔だ……)
意識の隅で、ニコルはエリアルの本性におびえた。
まるで宗教画の天使のような清楚な外見をしながら、することは蟻を踏みにじる幼児のような、純粋な残酷さを秘めている。四、五歳は年下なので、ニコルにとっては子どもなのに、得体の知れない怖い存在に思えた。
(こんな人が、ブラッドの運命?)
もしブラッドリーがエリアルと番になっていたら、どんな未来になっていたのだろうか。エリアルはユリアとともに、ブラッドリーを支配して、重責の檻に閉じ込めていたのだろうか。そんな地獄を想像すると、疲れ果てているのに、怖くてたまらないのに、奮い立つものがあった。こんな連中に負けてなるものか。
(確か、今日は夕方に、お兄様が来る予定だったはず)
三日に一度は家族が医者とともに様子見に来て、食材や日用品などを置いて帰っていく。ここから買い出しに行くのは大変なのだ。
それまで耐えればいい。
(耐えられるだろうか?)
すでにニコルの体力は消耗しきっている。不安だ。
しかし印璽など知らないので、嘘をついて時間をかせぐこともできない。印璽といってもいろんな形がある。印鑑だったり、指輪のトップだったり。どんな素材かも知らない。ニコルがブラッドリーの妻でも、執務室に入ったのは片手で数える程度だし、ブラッドリーは大事な物を机に置いたままにする人ではない。
(印璽はただの口実で、エリアルは私をいじめたいだけ……。ブラッドはエリアルを遠ざけたって言ってた。それが正しいなら……つまり)
ニコルの胸に希望が湧いた。ブラッドリーはニコルと離縁するつもりがないのではないか。後釜にすわる目論見が外れて、エリアルはニコルに当たりに来た。そう考えると、つじつまが合う。
そしてエリアルがまだ十代半ばの子どもに過ぎず、貴族としての意識が欠けた、甘えた存在だということも察した。
「……かわいそう」
「何?」
エリアルがこちらを鋭くにらんだ。敵意をはらんだ視線も、ニコルには子どもの癇癪に見える。
「誰も、君を止めない。だから、君はいびつなのに、気付いてないんだ」
か細い息の合間に、憐みを込めて。ニコルは呟いた。
「いびつ? 僕がいびつだって!」
図星をついたのかもしれないし、憐れまれたことが勘にさわったのかもしれない。エリアルは逆上して、白い頬を真っ赤にした。しかしニコルは気にとめず、エリアルをまっすぐに見つめる。
「あの清廉な方が、今の君を見て受け入れると思う?」
「うるさいっ。お前が横取りしたんじゃないか。僕の運命なのに、近づけない。侯爵夫人にふさわしいのは僕だ。あの人の隣は、僕のものだ!」
エリアルは激高して叫ぶ。そして男に命じる。
「続けて。そいつが謝るまで、許さない」
「分かりましたよ」
男はあっさりと答えたが、思案げに呟く。
「とはいえ、水責めはもう無理だな。これ以上は死んじまう」
その声にニコルは少しほっとした。だが、すぐに身構えなおした。何をされるか分からなくて怖い。すでに疲れきっていて、たいして動けない。
「あとは体に尋くしかねえか」
男はニコルをあおむけにして、上からのしかかってきた。
「な、何。怖い。やめ……っ」
弱弱しくあがくニコルの様子に、男はふんと鼻を鳴らす。
「肉体経験があるくせに、純情ぶってるんじゃねえよ。んー、特に服にもないか」
シュルリと衣擦れの音がした。男がニコルの帯を引き抜いた音だ。上半身から上衣と内着、下着を全て取り払う。暖炉に火が入っていても、ひんやりと肌寒く、ニコルは震えた。水責めのせいで、頭から肩までずぶ濡れなのだ。
靴と靴下、ズボンも脱がせ、隈なく印璽を探してから、最後に下履きも脱がされた。あっという間に全裸にされてしまい、ニコルは青ざめる。
「なんだ、痩せててみっともない体だな。こんなののどこが良いんだか」
エリアルが悪態をついた。
確かにニコルは痩せ型だが、今は療養中だ。普段はもう少しましである。そう言ってもしかたがないので、ニコルは黙っていた。
「肌触りは良いな」
胸から腹を撫でて、男が言う。ニコルは身を固くした。その手が気持ち悪い。すると居間にいた手下が、にやにやしながら名乗り出る。
「お頭、ヤるんですかい。俺もいいですか?」
「ああ、いいぜ。こいつが印璽について吐かなかったらな」
エリアルがくすりと笑う声がした。
ニコルが印璽など知らないことを、エリアルは分かっているのだ。
「油を持ってこい」
「はい」
手下がすぐにオリーブオイルの入った瓶を持ってきた。
香油の代わりにするのだと気づいても、ニコルは身動きができない。がたいの良い男に押さえつけられているし、すでに体力はほとんど尽きている。しかしいざ、オリーブオイルを尻にかけられると、恐怖と嫌悪感がたまらなくなった。
「やめて、やめっ。嫌だっ」
ラグの上で必死にもがくと、後ろから頭を叩かれた。衝撃で視界がぐらっときた。
「うるせえ。嫌なら、印璽の場所を吐け」
「そんなもの、知らない。エリアルの嘘だ」
「それじゃあやめられねえな。悪いね、これも仕事だ」
悪びれる様子もなく謝って、男はオリーブオイルをまとわせた指を、ぶしつけに押し込んできた。
「ぐ……ううっ」
「ん? ずいぶん狭いな。既婚者だったんだろ」
「やめ……」
痛みに顔をゆがめ、ニコルは歯を食いしばる。
ブラッドリー以外に触られたくない。だが、このままでは痛いだけだ。必死に力を抜こうと努力をするが、心は正直なもので、どうしても嫌で全身に力が入ってしまう。
それでも男は意に介さずに、ニコルの尻をもんだり前を触ったりしながら、少しずつ後孔をほぐしていった。男相手でも手慣れている様子だ。
そして、とうとう自身の一物をニコルの尻にあてがった。
「最後にもう一回だけ聞いてやる。印璽は?」
目尻に涙をにじませ、ニコルは力なく首を振った。知らないと言っても、どうせ聞いてくれない。
「本当に馬鹿だな」
さげすみを込めた笑いを声に含ませて、男はそれを押し込んだ。
後ろをめりめりと割り開かれ、痛みと圧迫感で冷や汗をかきながら、ニコルはすさまじい嫌悪感に襲われた。
――嫌だ。嫌だ。嫌だ!
その拒絶は体に影響し、突如、息ができなくなった。
「は、はぅ、あ……」
パクパクと口を開閉し、痛みを訴える胸を押さえて、身を丸くする。
「ん?」
異変に気付いた男は挿入をやめ、一物を引き抜いた。
ニコルの視界は白くなり、ゆっくりと薄れていく。
「お、おい。しまった。こいつ、番が……」
男の焦り声がした直後、激しい爆発音ともに、居間の扉が吹っ飛んだ。
32
お気に入りに追加
750
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
【完結】あなたの恋人(Ω)になれますか?〜後天性オメガの僕〜
MEIKO
BL
この世界には3つの性がある。アルファ、ベータ、オメガ。その中でもオメガは希少な存在で。そのオメガで更に希少なのは┉僕、後天性オメガだ。ある瞬間、僕は恋をした!その人はアルファでオメガに対して強い拒否感を抱いている┉そんな人だった。もちろん僕をあなたの恋人(Ω)になんてしてくれませんよね?
前作「あなたの妻(Ω)辞めます!」スピンオフ作品です。こちら単独でも内容的には大丈夫です。でも両方読む方がより楽しんでいただけると思いますので、未読の方はそちらも読んでいただけると嬉しいです!
後天性オメガの平凡受け✕心に傷ありアルファの恋愛
※独自のオメガバース設定有り
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。
ブレスレットが運んできたもの
mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。
そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。
血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。
これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。
俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。
そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる