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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない
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しおりを挟む「すみませんでした!」
なんとかエジに助けられて落とし穴を脱出すると、ボコボコにされた人間の男が五人、見事な土下座を決めていた。
特に体格の良い男の背中を、エジが踏みつける。
「“大神官様、申し訳ございませんでした”でしょ? 僕らの神様をなめてんの?」
「大神官様、申し訳ございませんでしたああああ!」
青あざだらけの彼らは、大きな声で謝る。
エジはにっこりした。
「だって、アカツキ。謝ってくれたよ」
「……ハハ、謝らせたの間違いじゃあ……? 怖いからいいけど。ええと、お兄さん達はここでいったい何をしてたんだ?」
暁が問うと、恐る恐る顔を上げたリーダー格の男が、けげんそうな顔をした。
「あんたが大神官?」
「あんた?」
「あなた様が大神官様でいらっしゃいますか!」
エジが一言を発しただけで、男は丁寧な言葉遣いに変わった。
(初対面の人間をしつけしちまったよ……こわっ)
どうしてこう、この世界のエルフは怖いのか。何度目かになることを思い、暁は男達に同情する。
「うーん、大神官だとは思ってないんだが」
「この方は、僕らゴールデンハイム村のエルフがお仕えしている、森の神フォレス様の眷属であらせられる! 大神官様だ」
ごにょごにょとつぶやく暁の声にかぶせて、エジが勝手に話をまとめる。
「森の神フォレス……? 闇の神の信者じゃないのか?」
リーダー格の男が質問すると、エジの糸目がカッと開いた。
「我らは森の民だ! そもそも、闇の神がフォレス様にひどい仕打ちをなさったせいで、神域が荒れているというのに、どうしてあの神をまつらねばならないのか!」
怒りのせいで、エジの口調が変わっている。
「お前達が魔物の被害を受けないのは、森の神の加護があるということだろうか……?」
縮こまっている一人が問うので、暁は手をひらつかせて会話に割りこむ。
「いや、こいつらはフォレスの押しかけ護衛だし、魔物の被害を受けてないんじゃなくて、撃退してるんだよ。武芸が大好きで、すげえ怖いんだ……。こいつは村一番の狩人だけど、村長なんてマッチョだぜ。お前ら、ちょっと村に来いよ。三日も過ごせば、意味が分かるから」
暁が滞在するように誘うと、エジが止める。
「ちょっと待ってよ、アカツキ。部外者を村に入れるなんて……」
「エジ、今後、勝手に罠を設置されたら困るだろ? ただの落とし穴だったから良かったけど、大怪我するような罠だったらどうだよ。こいつらが誤解しているのは、お前達のことをよく知らないからじゃないか?」
「そ、それはそうかもしれないけど……僕の一存じゃ決められないよ」
「どうせ村に連れて帰って、処罰するんだろ? 村長に頼んでみようぜ」
「アカツキがそう言うなら……」
エジは渋々と受け入れて、男達に立つように言う。
「妙な真似をしたら、どうなるか分かってるよね?」
「ひいいい、何もしませんからお許しをーっ」
エジがすごむと、五人は震えあがって、再び土下座した。
それから、落とし穴を埋めてから、暁達は村に向かった。
村の入り口に近づくと、怒号や爆発音などが聞こえてきた。
「うわっ、何事!?」
「アカツキ、落ち着いて。暴れ大熊だよ。闇の神が瘴気をばらまいたせいで、当てられた動物が狂暴化することがあるんだ」
「大熊ったって、大きすぎだろ!」
暁がおびえるのは当たり前だった。暴れ大熊は立ち上がると二階建ての屋根に届くくらいの大きさになる。
真っ黒い毛をした暴れ大熊は、驚いたことに、鉄の鎧みたいに体の表面で矢を跳ね返している。魔法だろうか、火の玉や石つぶてがぶつかるとよろけたが、両腕を振り上げ、グオオウと大声で威嚇していた。
「ひいいいっ。人食い熊だ!」
男達は青ざめて、今にも逃げ出しそうだ。リーダー格の男の後ろ襟をつかんで止め、エジはのんびりと入り口を示す。
「狂暴化すると、毛が針金みたいになるんだよね。まあ、大丈夫だよ。つっくんがいるでしょ?」
「えっ、ああ、本当だ」
隠者のようにフードをかぶった少年が、面倒くさそうな足取りで門をくぐる。魔法を使うのかと思いきや、ツィーデルは右の拳を固めて、暴れ大熊に殴りかかった。
「昼間から騒がしい! うざい!」
「グゴウッ」
ツィーデルの拳が、暴れ大熊の顎下にヒットする。
巨大な熊が宙に浮き、ズンッと地鳴りを立てて倒れた。
「……まじか」
「ね。つっくん、強いでしょ? 外では白月のツィーデルって呼ばれてる魔法使いなんだよ」
「というか、魔法使いなら、魔法を使えよ」
暁のツッコミは、何も間違っていないと思う。
すると、エジの説明を聞いて、男達はぶるぶると震え始めた。
「う、嘘だろ。ドラゴンバスターの……あのツィーデル?」
「勇者一行の一人だったという、伝説のエルフ?」
「魔法を使わせれば山が消し飛び、武闘家としては比類なき猛者の、あの?」
なんだかすごい言葉が聞こえてきた。
「魔法使いじゃなくて、武闘家って言われてるじゃん……」
外でもそんな反応なんじゃないかと暁が納得していると、ツィーデルがこちらに歩いてきた。
「エジ、なんだい、その連中」
「…………ゴミ?」
エジは少し考えて、ひどいことを言った。男達が分かりやすくショックを受けている。暁はそんな彼らから視線をそらす。
「エジって、もっと優しいんだと思ってたわ、俺」
「どうして村に悪意を向ける人にまで、優しくしないといけないの? 敵か味方かで、明確に区別しているだけだよ」
「いやまあ、うん、そうなんだろうけどさ」
暁が言いたいことが微妙に伝わっていないので、暁は説明をあきらめた。どこかで、エジは公平に親切なのだと思っていたのだ。暁が見当違いなことを思っていたらしい。
「ゴミなんか持って帰ってこないでよ。捨てておいで」
ツィーデルは迷惑そうに、森を指さす。暁は慌ててとりなした。
「待って、つっくん。村長さんと話したいんだ! 森の外に捨てるのは、その後にして!」
「ふーん、何か考えがあるってこと? そこで待っていて、父さんを呼んでくるよ」
意外なことに、ツィーデルはあっさりと理解を示し、村長宅へと向かった。十分もしないうちに、ベスケルとともに戻ってくる。
「はあ。彼らを三日ほど村で生活させて、現状を理解させると?」
ベスケルは当然のように、拒否感を示す。
「村人に危害を加えようとした者を、村に入れたくありません」
「分かりますけど、広場でも野宿でもいいですから……。光華教の信者に誤解されて、村が襲撃されるよりいいでしょう? その……村の皆さんが、武芸にどれだけ熱心か分かれば、理解してもらえると思うんです」
ベスケルのことは苦手なので、人見知りが出て、おどおどとしながら意見を口にする。
男達はぶんぶんと首を横に振った。
「あの……無理して泊まらなくてもいいんで」
「お詫びならしますから、帰らせていただいても……?」
彼らはおずおずと言ったが、ベスケルは聞いていなかった。
「おおおお、大神官様。我らのことを案じていただき、私は感動いたしました! 神庭復活のために努力していただいているだけでも、ありがたいことですのに。村のことまで!」
マッチョ男がおいおいと泣き出す。
「え? いや、そんなおおげさな……」
暁は引いた。泣くほど感激することを言った覚えはない。
しかし、エルフ達の反応は、ベスケルと似たようなものだった。
「私達のために心をくだいていただけるなんて!」
「なんて慈悲深いのでしょうか、森の神フォレス様、感謝申し上げます!」
なぜか村人達までその場に土下座をするものだから、暁は顔を引きつらせる。
「ちょっと、やめてくださいよ!」
「謙虚なご様子も素晴らしい!」
暁が本気で嫌がるのを、ベスケルは誤解して受け取り、パアッと表情を輝かせる。
「分かりました! そうまでおっしゃるのでしたら、空き家に連れていきましょう。彼らには大神官様を穴に落とした罰として、三日の無償労働ということにします。……逃げたらどうなるか分かっているよな?」
暁にはしおらしい態度をしていたベスケルだが、男達には獰猛な目を向けた。彼らは青ざめて震えあがる。
「ひいいいっ、喜んで働かせていただきますーっ」
「寛大な採決に感謝をーっ」
エルフ達と入れ替わりに、男達は地面に這いつくばった。
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