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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない
3-2
しおりを挟む魔法のスコップのおかげで、〈宝樹〉三本目を無事に栽培し終えた。
「ふう~、できた。さあ、次に……」
四本目に行こうとしたが、膝がカクンッと折れて、暁は地面に尻もちをついていた。
何が起きたのか分からず目を白黒させていると、フォレスが言った。
「今日は三本でおしまいだな」
そういえばフォレスは最初から三本と言っていた。どういうことかと、フォレスをじっと見つめると、けげんそうに質問された。
「お前、浄化していて何も気づかんのか。体力が減るだろう?」
「そうなのかよ、気づかなかったよ! え、どうすればいいんだ、これは」
「食事をして休んでいれば回復する。洞窟に帰るぞ」
「お前って奴は! 本当に説明が足りてないな!」
洞窟に帰ろうにも身動きがとれない。ぐったりと疲れていて、体が石みたいだった。
「あーもう駄目だ、これは。昼寝していこう」
押し寄せてくる眠気にあらがうのをやめ、暁はあきらめてその場で寝ることにした。眠りに落ちる前に、フォレスに額を踏まれる。爪が痛い。
「うぐっ」
「なんのためにそいつを護衛にしたと思っているんだ。エジ、暁を任せたぞ」
「かしこまりました。大変ですね、大神官様。さあ、後ろにどうぞ」
エジはしゃがんで、こちらに背を向けた。見た目は同年代なのに、なぜだかお兄さんぶられている気がして、ちょっとだけもやっとしたものの、しかたなく背負ってもらう。
「よろしくお願いしまーす」
不満が口に出ていたせいで、エジに笑われた。とりあえず、ムカつくふくろうだが、一応はいろいろと考えてくれているらしい。
洞窟に戻ると、エジが布を織った敷物を敷いてくれたので、そこで寝ることにした。地面に直接寝るよりましだが、ゴツゴツして痛い。
それでも疲労と眠気のほうが強く、あっという間に眠ってしまった。
「起きろ。朝だぞ」
「いだーっ」
翌朝、フォレスにゲシッと頭を蹴られて目が覚めた。
「うっ、お腹が空きすぎて気持ち悪い……」
「だろうと思って、食事を用意していますよ」
「は?」
寝ている間に、洞窟の中が様変わりしている。
出入口の傍に台所が見えた。今、暁が寝ているのは、ロッジのように丸太が敷かれた居間のようである。
「エネルギーが貯まったからな、カタログから台所と居間を先に整えておいた。次は……」
「ベッドだろ!」
「馬鹿者、トイレに決まってる!」
しっかり休めば効率がいいと思っただけなのに、フォレスに馬鹿にされた。
「トイレのたびに、魔物がうろついているかもしれない外に行く気か?」
「うわっ、そう聞くと大問題だな。でも、神様がトイレの心配をしてるのって変な感じ」
「私のような神には、食事やトイレは必要ない。だが、動物にとって危険なのは、睡眠とトイレの時だというのは知っている」
「おまっ、野生動物扱いすんなよな!」
過ごしやすい環境を考えてくれるのはありがたいが、言っていることは失礼極まりない。
「アカツキ、こっちに来てごはんを食べなよ」
「ありがとう、おか……エジ」
うっかりお母さんと呼びそうになって、名前を呼びなおして誤魔化した。ほっこりした雰囲気が、まさに保護者である。
見た目は暁と似た年齢だが、過ごしている歳月が違うせいだろうか、エジには落ち着いた雰囲気があるのだ。
「パンケーキとスープだ!」
「滋養に良いように、はちみつをかけておいたよ。口に合うといいんだけど」
甘くないパンケーキに、はちみつがほどよくマッチしている。根菜類の多いスープは卵入りで、ほっこりと暁の体を温めた。田舎の家庭料理と呼べるような素朴さだが、そこがいい。
「いただきます。おいしい! エジ、良い嫁になれるぞ!」
「うーん、なるなら婿かなあ」
暁なりの誉め言葉だったが、エジは苦笑した。
「エルフでは若者でも、長生きしてるんだろ? 結婚しないのか?」
「こんな半人前と結婚したい人はいないよ。エルフの女性は自立してるから、結婚相手を選ぶのはシビアなんだよね。それに、そもそも存在を認識されてないし……」
エジはそう話しながら、落ち込んで横を見る。
「影が薄い弊害が……!」
かわいそうにと、暁は同情した。どう励ましたらいいか分からず、暁は食事を食べることに集中する。
「今日も〈宝樹〉の栽培をがんばるぞ。そういやあ、フォレス、あと何本あるんだ?」
「さてな。千はあるはずだが」
「お前、全体を把握してないのかよ」
「〈宝樹〉は順調に育てば、勝手に株分かれして増えるのだ。いちいち数えていられるか」
フォレスはフンッと息をつく。暁の質問がしゃくにさわったようだ。
「さっさと食べろ、アカツキ。元の世界に帰りたいなら、せっせと働け」
「そっちが勝手に呼んでおいて、その言いよう! 本気で腹立つフクロウだな!」
しかし、エジに木の実をよこせとゆすっているフォレスはただのフクロウなので、かわいく見えるから、こんな鳥に怒るのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
スープをおかわりすると、満腹になった。
暁は魔法のスコップを手にして、〈宝樹〉復活のために、今日も森に出かけることにした。
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