神庭の番人 ~陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない~

夜乃すてら

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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない

三章 魔法のスコップを手に入れた 3-1

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「その魔法のスコップは、なんでも掘れるのが特徴だ」

 まずはタンブラーに泉の水をついでから、宝樹のほうへ向かう。この金色のスコップは綿みたいに軽いので、持ち歩いていても疲れない。その肩の上で、フォレスが説明を始めた。

「なんでも?」
「そうだ」

 土以外に何を掘るんだろう。暁は首を傾げ、とりあえず宝樹のほうをがんばることに決めた。
 再生した宝樹の隣の木を選ぶと、フォレスがビシッと翼で示す。

「スコップの先で、その木を突いてみろ」
「え? 根本を掘るんじゃなくて?」
「いいからやってみろ」

 不思議に思いながら言われた通りにする。
 根本の枯れた木の部分に、金色のスコップをえいっと押し当てると、さくっと軽く掘れた。

「ええ!? うわーっ」

 予想外に前に出たせいで、暁はつんのめって転げた。

「アカツキ、大丈夫!?」

 ひっくり返った暁を、エジが慌てて助け起こす。

「私の説明を何も聞いていないな、お前は。なんでも掘れると言っただろうが」

 空に飛びあがって巻き添えからのがれたフォレスは、エジの頭に着地した。

「お前のその説明が足りてないところが嫌いなんだ!」

 すかさず言い返し、暁は起き上がって土を払う。そして、眼前の光景に息をのんだ。
 木が大きくえぐれて、向こう側が見えている。

「ひえっ、これ、武器として使ったら最悪じゃん」
「生き物には使えぬから安心しろ。自然界に属するものだけだ」
「良かった。俺のことだから、うっかり怪我しそうだからな」

 この勢いで怪我をしたらしゃれでは済まない。

「掘りやすくなっただろう? 続きをしろ」
「ほんっとこき使うよなあ」

 暁は文句を言うが、木の枝でむやみに掘るよりずっといい。
 今度は根本の地面をサクッと掘った。

「おお! 一発でクリア!」

 あの苦労はなんだったのか。青く輝く〈株玉〉が現れた。黒い気体がまとわりついている。

「うっ」

 エジがザッと後ろに飛びのく。

「どうした?」
「それを見たら気分が悪くなったんだ」

 エジの返事に、フォレスが頷く。

「当然だ。瘴気しょうきだから、この世界の生き物には毒だ。異世界から来たアカツキには影響がないだろうが」
「見るからにばっちいもんな」

 さもありなんと、暁は同意する。
 以前のようにすればいいのだろうと、手近な雑草を抜いて玉串に見立てる。

「はらえたまい、清めたまえ、神ながら守りたまい、幸えたまえ!」

 神棚に祈る心境で、神妙にお祈りする。雑草が行きかうたびに、黒い気体が薄れて、最後には消えた。

「できた! ほら、俺だってやるだろ?」

 暁が得意満面に振り返ると、エジが滂沱ぼうだの涙を流していた。

「うわっ、泣いてる!?」
「なんてありがたい光景でしょう。大神官様ーっ」
「ひいっ、土下座し始めた!」

 エジの感激ぶりに、暁はドン引きする。信仰心が強すぎて怖いと思いながら、〈株玉〉を拾い上げると、枯れ木がざあっと砂のようになって消えてしまった。
 二度目なのでまだいいが、やっぱり驚く。
 それから〈株玉〉を穴に戻して、タンブラーにくんでおいた泉の水をかけた。〈株玉〉がカッと青く輝き、銀色の樹皮と黄金色の葉を持つ大木が現れる。

「すげえ、一瞬で生えるのか」

 一本目の時は観察する余裕がなかったので、暁はしげしげと宝樹を眺める。

「普通の子どもを召喚した時はどうなることかと思ったが、これならなんとかなりそうだ」
「ん?」

 隣に、銀髪の男が立っているので、暁はあ然とする。

「なんだ?」

 ハッと瞬きをすると、白いふくろう――フォレスがいた。

「あれ!? 今、この間と同じ、銀髪の人がいたよな! え、もしかして幽霊?」

 悪寒で身を震わせる暁に、フォレスはじとっとした目を向ける。

「それは私だ! 一瞬だけエネルギーが満ちて、人の姿に戻れたのだろう」
「ええっ、お前、ふくろうの神様じゃないの?」
「森の神だと言っておろうが!」
「いてーっ」

 げしっと足を蹴られ、暁は足を押さえてしゃがみこむ。

「それならそうと言えよな! エジもびっくりしただろ……ひっ」
「神様のご尊顔を拝す光栄に、エジリエストリエンリッターノ、胸が熱いです」
「さらに感激してるわけ!?」

 エジの様子に、暁は再び身を引いたが、フォレスは満更でもなさそうだ。

「ふふん。これが普通の反応だ。身をわきまえよ、人間」
「へいへい、わかりましたよ」

 まあ確かに、あの青年だったら神々しくて拝みたくなるかもしれない。
 だが、暁にとってはフォレスはふくろうなので、こっちのほうが良い。青年のフォレスには人見知りが出そうだ。

「この調子で、他の〈宝樹〉も再生するぞ!」
「おう。エジ、いつまでそうしてるんだよ。行くぞ」

 フォレスにせっつかれ、暁はまた水を汲まねばと、泉に足を向けた。エジが慌ててついてきた。
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