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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない
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しおりを挟む一人暮らしが長いだけあって、エジの料理はそぼくながらおいしい。鶏肉とごろごろ野菜が入ったシチュー、大麦パン、芋のバター焼きという田舎の家庭料理だ。
「もう少し時間があれば、森でうさぎでも狩ってくるんですが。こんなものですみません」
「こういうのが好きなんだよ。うう、うますぎる」
暁は食事をするうちに、涙が出てきた。
「どうしました? 苦手なものでも?」
「そうじゃなくて……」
急に家庭のありがたみを思い出して、ホームシックになったのだ。
「俺、大学の授業を受けようとして構内を歩いていたら、いきなりフォレスに召喚されたんだ。なんにもない洞窟に、寒い中放り出されてさあ。鳥が神様とか言い出すわ、魔物が出てくるわ。意味不明で……」
エジの親切が温かくて、胸がいっぱいだ。
「いっぱいいっぱいだったことに気づいたよ。おいしいごはんをありがとう」
「大学ですか。裕福な家の方にはきつかったでしょうね。どうぞ、お代わりもありますから」
「うん……」
思わず「お母さん」と呼びそうになって、暁は涙を袖でぬぐう。そんなことを言っては、この先、ずっとフォレスにからかわれるだろう。
フォレスのほうを見ると、気まずそうに体を小さくして、横を向いた。
「ふんっ。悪かったな」
「お前も謝ることがあるんだなー! わがままクソふくろうだと思ってた」
「髪の毛を引っこ抜くぞ!」
怒ったフォレスにげしっと頭を蹴られたので、暁も椅子を蹴って立ち上がる。
「何すんだ、この野郎!」
「まあまあ、食事は静かに食べてくださいね」
エジがにこりと注意し、なぜか寒気を感じた暁は大人しく座りなおす。フォレスも静かになり、火鉢の傍で丸くなった。
「なあ、フォレス。神庭に戻らなくていいのか?」
「この程度の距離なら、ちょっと離れていても構わぬ。だが、明日には戻るからな」
「分かった」
暁のほうを、フォレスがけげんそうに見る。
「なんだ、素直だな」
「俺だって元の世界に帰りたいんだから、がんばるつもりはあるんだよ」
「そうか」
どうしてか、フォレスはぷいっと顔をそむける。
「なんで怒るんだよ」
「神様は照れてらっしゃるのではないですか」
エジがとりなすが、フォレスはこちらの会話を無視した。と思いきや、すうすうと寝息を立てている。
「なんだかんだ、フォレスも疲れてるんだな」
「今日はゆっくりされていってください。神様と大神官様をもてなせるだなんて、このエジリエストリエンリッターノには光栄の極みです」
突然、他人が家に泊まるとなると、暁なら迷惑に思うが、エジは喜んでいるようだ。
「お世話になりまーす」
暁はぺこっと会釈して、今度はシチューの制覇にとりかかった。
エジの家は、一階が風呂場とトイレと家畜小屋になっており、二階が住居になっている。
炊事場や食堂との間に扉が一枚あって、奥が寝室だ。屋根裏は倉庫になっているそうで、暁にベッドをゆずってくれた。
「いや、さすがにそこまで図々しくないぞ。俺は床で寝るからいいよ」
「いいえ! フォレス様にお仕えする大神官様を床で寝かせたとあっては、ゴールデンハイム村の衛士の名折れです!」
「ん? エジの名前がどうしたんだ?」
「衛士ですよ。守衛のことです」
「お前って村の守衛なのか?」
「そうですよ。だから見張り番していたんです。それ以外は、狩猟で生計を立てています」
なるほどと思っているうちに、エジは壁の柱を使ってハンモックを張り始めた。
「野宿で慣れているので、僕はこちらで寝ます。ゆっくりお休みください、大神官様」
「だから俺のことはアカツキでいいって……。そこまで言うならベッドを借りるよ。なんか悪いなあ」
正直なところはありがたい。
その夜はベッドに入ると、朝までぐっすり眠った。
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