神庭の番人 ~陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない~

夜乃すてら

文字の大きさ
上 下
12 / 23
陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない

 2-7

しおりを挟む


 一人暮らしが長いだけあって、エジの料理はそぼくながらおいしい。鶏肉とごろごろ野菜が入ったシチュー、大麦パン、いものバター焼きという田舎の家庭料理だ。

「もう少し時間があれば、森でうさぎでも狩ってくるんですが。こんなものですみません」
「こういうのが好きなんだよ。うう、うますぎる」

 暁は食事をするうちに、涙が出てきた。

「どうしました? 苦手なものでも?」
「そうじゃなくて……」

 急に家庭のありがたみを思い出して、ホームシックになったのだ。

「俺、大学の授業を受けようとして構内を歩いていたら、いきなりフォレスに召喚されたんだ。なんにもない洞窟に、寒い中放り出されてさあ。鳥が神様とか言い出すわ、魔物が出てくるわ。意味不明で……」

 エジの親切が温かくて、胸がいっぱいだ。

「いっぱいいっぱいだったことに気づいたよ。おいしいごはんをありがとう」
「大学ですか。裕福な家の方にはきつかったでしょうね。どうぞ、お代わりもありますから」
「うん……」

 思わず「お母さん」と呼びそうになって、暁は涙を袖でぬぐう。そんなことを言っては、この先、ずっとフォレスにからかわれるだろう。
 フォレスのほうを見ると、気まずそうに体を小さくして、横を向いた。

「ふんっ。悪かったな」
「お前も謝ることがあるんだなー! わがままクソふくろうだと思ってた」
「髪の毛を引っこ抜くぞ!」

 怒ったフォレスにげしっと頭を蹴られたので、暁も椅子を蹴って立ち上がる。

「何すんだ、この野郎!」
「まあまあ、食事は静かに食べてくださいね」

 エジがにこりと注意し、なぜか寒気を感じた暁は大人しく座りなおす。フォレスも静かになり、火鉢の傍で丸くなった。

「なあ、フォレス。神庭に戻らなくていいのか?」
「この程度の距離なら、ちょっと離れていても構わぬ。だが、明日には戻るからな」
「分かった」

 暁のほうを、フォレスがけげんそうに見る。

「なんだ、素直だな」
「俺だって元の世界に帰りたいんだから、がんばるつもりはあるんだよ」
「そうか」

 どうしてか、フォレスはぷいっと顔をそむける。

「なんで怒るんだよ」
「神様は照れてらっしゃるのではないですか」

 エジがとりなすが、フォレスはこちらの会話を無視した。と思いきや、すうすうと寝息を立てている。

「なんだかんだ、フォレスも疲れてるんだな」
「今日はゆっくりされていってください。神様と大神官様をもてなせるだなんて、このエジリエストリエンリッターノには光栄の極みです」

 突然、他人が家に泊まるとなると、暁なら迷惑に思うが、エジは喜んでいるようだ。

「お世話になりまーす」

 暁はぺこっと会釈して、今度はシチューの制覇にとりかかった。



 エジの家は、一階が風呂場とトイレと家畜小屋になっており、二階が住居になっている。
 炊事場や食堂との間に扉が一枚あって、奥が寝室だ。屋根裏は倉庫になっているそうで、暁にベッドをゆずってくれた。

「いや、さすがにそこまで図々しくないぞ。俺は床で寝るからいいよ」
「いいえ! フォレス様にお仕えする大神官様を床で寝かせたとあっては、ゴールデンハイム村の衛士えじの名折れです!」
「ん? エジの名前がどうしたんだ?」
「衛士ですよ。守衛しゅえいのことです」
「お前って村の守衛なのか?」
「そうですよ。だから見張り番していたんです。それ以外は、狩猟で生計を立てています」

 なるほどと思っているうちに、エジは壁の柱を使ってハンモックを張り始めた。

「野宿で慣れているので、僕はこちらで寝ます。ゆっくりお休みください、大神官様」
「だから俺のことはアカツキでいいって……。そこまで言うならベッドを借りるよ。なんか悪いなあ」

 正直なところはありがたい。
 その夜はベッドに入ると、朝までぐっすり眠った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

望んでいないのに転生してしまいました。

ナギサ コウガ
ファンタジー
長年病院に入院していた僕が気づいたら転生していました。 折角寝たきりから健康な体を貰ったんだから新しい人生を楽しみたい。 ・・と、思っていたんだけど。 そう上手くはいかないもんだね。

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...