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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない
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しおりを挟む「村長、エジリエストリエンリッターノです。ご在宅でしょうか」
ゴールデンハイム村の村長宅の扉を叩き、エジは声をかける。
しばらくしてドスドスという足音を立てて現れたのは、見上げるほど大きなマッチョエルフであった。
息をのむ暁の前で、彼は周りを見回して首を傾げる。
「ん? 悪戯か?」
「あの」
「うお! エジではないか! 目の前にいたのか、相変わらず影が薄いな!」
まさか目の前にいるのに探すほどとは。
そこでようやく暁とフォレスも視認できたようで、男の眉が吊り上がる。
「よそ者が何用だ!」
暁は固まった。人見知りが発動して、おどおどする。
「あ、あの、お、お、俺は……」
「おい、どうした、アカツキ。急にどもりだしたな」
「うっせえぞ、フォレス! 人見知りだって言っただろ!」
動物相手なら人見知りも出ない暁が言い返すと、男が目を丸くした。
「まさか……森の神フォレス様でいらっしゃるのですか?」
「さよう。この者は、私が森の修復のために召喚した異世界人だ。アカツキという。手出しするでないぞ」
「ははーっ」
不遜に言い放つフォレスを前に、男は土下座した。
「うわあ、この変わり身の速さ……。ありがたいけど、引くわぁ」
暁が小声でぼやく。
聞こえているエジが苦笑しながら、暁と会ったいきさつを話す。
「というわけで、我が家でお世話しておりますとお伝えに来た次第です。村人にも、大神官様を攻撃しないようにお知らせください」
「ああ、すぐにそうしよう! グエン、伝令を頼む」
男が使用人を呼んで、伝令を言いつけた。すぐにエルフの若者が走り出していく。
身なりを整えた男は改めて暁にあいさつする。
「私はこの村の村長、ベスケルハイムエドウィッジと申します」
「ベ、ベスケ……?」
「ベスケルとお呼びください」
「僕は宵谷暁です。アカツキと呼んでください」
完全に親戚の集まりモードになった暁は、引きつった笑みとともに言った。
「僕だぁ~?」
フォレスがすぐに口を出す。
大雑把らしきベスケルはすでに違うほうを向いていた。家の奥に向けて呼ぶ。
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「……ツィーデルレジハイムエット」
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(なんでそんなに舌を噛みそうな名前ばっかりなんだ!)
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「リザさんと、つっくんです」
「ツィーデル!」
ツィーデルが噛みつく。
「え? くん?」
「つっくんは男ですよ」
「エルフの美人さ、こえぇーっ」
どう見ても美少女なので、暁はおののいた。
「僕の幼馴染で、魔導具開発の研究者ですよ」
「ああ、魔導具制作を任せてるって言ってた幼馴染か。えーと、ツ……ツイ……ツッ」
暁ががんばって発音しようとしていると、ツィーデルはものすごく不満そうに妥協した。
「つっくんで良い」
「ありがとう! つっくん!」
思わず人見知りも吹き飛ぶほど感謝した。
「えっと、その噛みそうな名前はエルフ特有のものなんですか?」
暁の問いに、ベスケルが頷く。
「そうです。エルフは家名を持ちませんが、それぞれ名前が長いんですよ。魔よけのためです」
「魔よけ」
「アカツキよ、この世界では信心深い者は、名前が長い傾向がある。ここは神庭のすぐそばにあるであろう? 私を慕って集まった耳長が、森を守っているのだ。ちなみに、特に命じてはいない」
「押しかけガードマンってこと?」
「そうだな」
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「大神官様、よかったら我が家で夕食でもいかがですか?」
「いえ、突然は悪いので……」
こんな陽キャ全開の男と同じ空間で食事するくらいなら、あの寂しい洞窟で果物をかじっているほうがましだ。暁は逃げに走る。
「村長、今日はお詫びをかねて、僕がごちそうしますから大丈夫ですよ。泊まっていくでしょう? あ、でも、神庭にお帰りになりたいですかね?」
「泊めてくれんの? やった! よろしく!」
自然と笑みを浮かべる暁の様子を見て、ベスケルは残念そうに肩を落とす。
「同年代くらいのほうが気楽ですかね? いつでも遊びにいらしてくださいね」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
ベスケルには丁寧に頭を下げ、暁は許可を得たことで、堂々とエジの家のほうに戻った。
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