神庭の番人 ~陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない~

夜乃すてら

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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない

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 エジの住む村は、ゴールデンハイム村というそうだ。

「は? ゴールドハム?」

 金色に輝くハムを思い浮かべる暁に、エジが爽やかに訂正する。

「ゴールデンハイムです、大神官様!」
「ごめんごめん。ゴールデンハイムな。なんか、CMで聞いたことありそうな名前だなあ」
「シーエム?」
「なんでもないよ」

 建築会社のコマーシャルソングが、暁の頭の中を駆け回る。しばらく耳に残るからやめてほしい。

「ゴールデンハイムとは、黄金色の住宅という意味です。火よけのために、村を囲むようにイチョウの木を植えているので、秋になると美しいものですよ。そして、木の実の独特な香りは魔よけになり、魔物を遠ざけるのです」

「ああ、イチョウって燃えにくいから、寺社仏閣に植えてるっていうもんな」

 熱心に神棚をまつるだけあって、祖母は月次祭つきなみのまつりにはできるだけ参拝するし、他にも何かと行事に顔を出していた。月次祭は、一日と十五日にある神社が多いそうだ。

 暁は子どもの頃から体力が無かったので、祖母が心配して健康祈願とおはらいのために、暁を連れていった。そんなわけで、神社の跡取り息子とは友人として親しくしていたが、ていよく手伝わされたのはちょっと根に持っている。
 そのせいで、暁は自然とそんなことを覚えた。銀杏ぎんなんとりにも駆り出されたのだ。

「ほう。頭が空っぽかと思えば、意外にも知っているな」
「馬鹿にするか褒めるかどっちかにしろよ」

 憎たらしい口をきくフォレスを、暁はじろと見やる。
 神庭の外に広がる森は、広葉樹が多いみたいだ。ただ、日本で見たことのある木よりも葉が大きく、幹は太く立派だ。

 しばらく歩くと、イチョウが群生しているのが見えた。あそこがゴールデンハイム村のようだ。
 エジの後ろについて、暁は歩く。

 門番がいるのであいさつしようかと思ったが、背が高く美しいエルフの中年男は、筋肉質で彫りの深い顔立ちをしていて怖い。会釈をして通り過ぎることにした。

 村の中は、石積みの家が並んでいる。二階建てのものがほとんどで、一階は家畜小屋や倉庫になっているようだ。屋根は茅葺きだ。のどかな田舎町という雰囲気である。

(すごい! 美人ばっかりだ)

 エルフの不細工で、暁より綺麗くらいだと思うから、ねたまし……いや、うらやましい。
 暁は見とれつつも、人見知りを発揮して、エジから離れない。
 そして村の奥にあるエジの家に着く頃には、おかしいことに気づいた。

「なあ、エジってみんなに仲間外れにされてるのか?」
「いいえ。どうしてそう思ったんです?」
「だってお前があいさつしてるのに、誰も返事をしないじゃないか。それに俺を見ても何も言わないし……」

 もしかして村八分されてるんだろうかと、暁がエジを心配すると、エジはポムッと手を叩く。

「ああ、そのことですか! 実は僕、影が薄いんですよ」
「そうか、影が薄い……はい!?」

 どういうことだと、暁は目をむく。
 エジはいたって普通の態度で打ち明ける。

「だから村人は僕が声をかけても気づかないことが多いですし、僕が見張りに行ってるのも忘れてると思います」
「なるほどな。それで神庭を出た時、アカツキがエジに気づかずに踏んだわけか」
「ええええ、そこにつながるの?」

 心底驚く暁だが、そういえばあの時は人の気配がまるで無かった。
 エジは細い目を細めてほほ笑む。

「僕と一緒にいたので、大神官様のことも気づいていないと思いますよ」
「……え、それって大丈夫なのか?」
「何がですか」
「いや、俺、不法侵入ってことになるんじゃ……」

「大丈夫ですよ。後で村長にあいさつに行きましょう。神様も一緒なんですから、誰も賊とは思わないはずです。たぶん。賊と思われたら、矢を射かけられる程度です」
「大問題なんですけど!」

 暁が詰め寄ると、エジは素早く身を引いた。ゲロくさいとはいえ、この反応はムカつく。

「大神官様、お風呂は一階の裏なので、こちらへどうぞ」
「俺のことはアカツキって呼んでくれよ。それと、誤魔化されないからな。失礼な奴!」

 眉を吊り上げる暁に、エジはへらっと笑う。いそいそと風呂の準備を始めた。
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