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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない
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しおりを挟む死に物狂いで猛ダッシュして、宝樹の生えていた場所まで戻った。
フォレスが肩から言う。
「急げ急げ」
「やめろ、せかすな! 焦るだろ!」
穴に〈株玉〉を放り込んだものの、恐怖とダッシュのせいで手が震え、暁はタンブラーの蓋を上手く回せない。
「来たぞ!」
「ひいいいいっ」
情けない声を上げながら、暁は上着の裾を使って蓋を回し、中身を勢いよく〈株玉〉にぶちまける。
「くっ」
フォレスはばさりと羽ばたく。飛びかかってくる黒い狼と、身を守ろうと腕で頭をかばう暁の間に割り込んだ。狼の爪がフォレスに届きそうな瞬間、〈株玉〉がカッと青く輝く。フォレスは叫ぶ。
「神の威光!」
すんでのところでエネルギーを得て、フォレスは光を放った。
辺りはシンと静まり返り、目を閉じていた暁は恐る恐る顔を上げる。
「おお……!」
眼前には、樹齢千年ほどになりそうな大木がそびえている。樹皮は銀色で、葉は黄金色。淡い青の燐光が周りをただよっていた。神木にふさわしい威厳がある。
「綺麗だ……」
ぽかんと口を開けて、暁はこずえを見つめる。
「そうだろう。我が神庭は、『金銀、宝石を散りばめたがごとし』とたたえられる美しさであった」
暁はさらに目を見開いた。
腰まで届く銀の髪に、金の葉でできた冠をかぶった、まるで朝露に濡れるもみの葉のような緑の目を持った男がそこにいたのだ。二十代前半ほどだろうか。ゆったりと落ち着いて見目麗しく、仙人のような浮世離れした空気をたずさえている。
「どうした?」
フォレスがけげんそうに訊いた時、目の前には白いフクロウがいた。
「あれ?」
確かに男が立っていたはずだが、夢か幻かのように消え失せている。
(白昼夢でも見たのか?)
暁は首をかしげ、尻もちをついていた地面から立ち上がる。そういえば狼はどうなったのだと周りを見ると、宝樹から洞窟までの一帯を、時折虹色に輝く不思議な膜が包み込んでいる。
「何これ」
「結界だ。宝樹一本では、この範囲しかかけられぬが、これで安全を得た」
「気のせいか、暖かいような」
「結界内は居心地が良い気温になるようになっている。まずは一歩目をクリアだな。穴を掘るのが遅すぎて、どうなることかと思ったが、まあ、及第点だろう」
「お前、本当にえらそうでムカつく」
こちらは望まずに命を張っているというのに、なんて素直でない神だ。
暁はフォレスをにらんでから、洞窟のほうへ歩き出す。一仕事を終えて安全を確保できた途端、急に空腹を思い出した。昼間のうちに果物を摘んでおいたのだ。
「日本食が恋しいぜ……」
早く家に帰りたい。
そして洞窟に入ると、妙な物が増えていたので、度肝を抜かれた。
「うわあ、なんだこれは!」
洞窟に入って、右の壁際に、大きなクローゼットのような、異次元へ続く扉のような、とにかく怪しげな物だ。ガラス製の筒がついていて、上からキラキラと小さな砂のような光が落ちてくる。
「〈創造の箱〉だ」
フォレスは満足げに言った。
「宝樹一本のエネルギーでは作れるか分からなかったが、これで森の復活への時間が少しは縮まるだろう」
「もっとちゃんとした説明を求む!」
暁が抗議すると、フォレスはあからさまに「面倒くさい」という空気を漂わせる。
「しかたないな。簡単に言えば、魔法のアイテムを作るための道具だ」
「魔法のアイテム……?」
「宝樹が作り出すエネルギーが、そこの筒に少しずつたまっていく。これが満タンになれば、アイテムを一つ作れるわけだ。例えば、穴を掘るのが楽になるアイテムとかな」
「それはすごいじゃないか!」
暁の胸に期待があふれる。
「だが、まだ一本だから、エネルギーが集まる速度はこの程度だ」
フォレスが言う通り、光は雨だれのように、ポツンポツンと少しずつ落ちてくる。
宝樹の復活を増やしていけば楽ができるのだと知り、暁はがぜんやる気が出た。
「俺にとっては救世主だ! ありがとう、フォレス!」
喜びのあまりフクロウをぎゅーっと抱きしめてついでに頬ずりをすると、フォレスが切れた。
「やめぬか、神に対し、無礼な!」
「ぐはっ」
頬をゲシッと蹴られた暁は、ドテンと床に転がる。
「お前な、もうちょっと仲良くしようっていう可愛げはないわけ?」
「人間などとなれ合わぬわ、無礼者」
「性格が悪い!」
「はっ、お前は顔が悪い!」
「なんだとー!」
失礼すぎるフォレスの言葉に、暁はブチ切れる。それからしばらく小学生じみた罵倒の言い合いをしていたが、ややあって空腹を思い出した暁は、自然と喧嘩をやめて食事にありついた。
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