神庭の番人 ~陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない~

夜乃すてら

文字の大きさ
上 下
5 / 23
陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない

 1-3

しおりを挟む


 死に物狂いで猛ダッシュして、宝樹の生えていた場所まで戻った。
 フォレスが肩から言う。

「急げ急げ」
「やめろ、せかすな! 焦るだろ!」

 穴に〈株玉〉を放り込んだものの、恐怖とダッシュのせいで手が震え、暁はタンブラーの蓋を上手く回せない。

「来たぞ!」
「ひいいいいっ」

 情けない声を上げながら、暁は上着の裾を使って蓋を回し、中身を勢いよく〈株玉〉にぶちまける。

「くっ」

 フォレスはばさりと羽ばたく。飛びかかってくる黒い狼と、身を守ろうと腕で頭をかばう暁の間に割り込んだ。狼の爪がフォレスに届きそうな瞬間、〈株玉〉がカッと青く輝く。フォレスは叫ぶ。

「神の威光!」

 すんでのところでエネルギーを得て、フォレスは光を放った。
 辺りはシンと静まり返り、目を閉じていた暁は恐る恐る顔を上げる。

「おお……!」

 眼前には、樹齢千年ほどになりそうな大木がそびえている。樹皮は銀色で、葉は黄金色。淡い青の燐光りんこうが周りをただよっていた。神木にふさわしい威厳がある。

「綺麗だ……」

 ぽかんと口を開けて、暁はこずえを見つめる。

「そうだろう。我が神庭は、『金銀、宝石を散りばめたがごとし』とたたえられる美しさであった」

 暁はさらに目を見開いた。
 腰まで届く銀の髪に、金の葉でできた冠をかぶった、まるで朝露に濡れるもみの葉のような緑の目を持った男がそこにいたのだ。二十代前半ほどだろうか。ゆったりと落ち着いて見目麗しく、仙人のような浮世離れした空気をたずさえている。

「どうした?」

 フォレスがけげんそうに訊いた時、目の前には白いフクロウがいた。

「あれ?」

 確かに男が立っていたはずだが、夢か幻かのように消え失せている。

(白昼夢でも見たのか?)

 暁は首をかしげ、尻もちをついていた地面から立ち上がる。そういえば狼はどうなったのだと周りを見ると、宝樹から洞窟までの一帯を、時折虹色に輝く不思議な膜が包み込んでいる。

「何これ」
「結界だ。宝樹一本では、この範囲しかかけられぬが、これで安全を得た」
「気のせいか、暖かいような」
「結界内は居心地が良い気温になるようになっている。まずは一歩目をクリアだな。穴を掘るのが遅すぎて、どうなることかと思ったが、まあ、及第点だろう」
「お前、本当にえらそうでムカつく」

 こちらは望まずに命を張っているというのに、なんて素直でない神だ。
 暁はフォレスをにらんでから、洞窟のほうへ歩き出す。一仕事を終えて安全を確保できた途端、急に空腹を思い出した。昼間のうちに果物を摘んでおいたのだ。

「日本食が恋しいぜ……」

 早く家に帰りたい。
 そして洞窟に入ると、妙な物が増えていたので、度肝を抜かれた。

「うわあ、なんだこれは!」

 洞窟に入って、右の壁際に、大きなクローゼットのような、異次元へ続く扉のような、とにかく怪しげな物だ。ガラス製の筒がついていて、上からキラキラと小さな砂のような光が落ちてくる。

「〈創造の箱〉だ」

 フォレスは満足げに言った。

「宝樹一本のエネルギーでは作れるか分からなかったが、これで森の復活への時間が少しは縮まるだろう」
「もっとちゃんとした説明を求む!」

 暁が抗議すると、フォレスはあからさまに「面倒くさい」という空気を漂わせる。

「しかたないな。簡単に言えば、魔法のアイテムを作るための道具だ」
「魔法のアイテム……?」
「宝樹が作り出すエネルギーが、そこの筒に少しずつたまっていく。これが満タンになれば、アイテムを一つ作れるわけだ。例えば、穴を掘るのが楽になるアイテムとかな」
「それはすごいじゃないか!」

 暁の胸に期待があふれる。

「だが、まだ一本だから、エネルギーが集まる速度はこの程度だ」

 フォレスが言う通り、光は雨だれのように、ポツンポツンと少しずつ落ちてくる。
 宝樹の復活を増やしていけば楽ができるのだと知り、暁はがぜんやる気が出た。

「俺にとっては救世主だ! ありがとう、フォレス!」

 喜びのあまりフクロウをぎゅーっと抱きしめてついでに頬ずりをすると、フォレスが切れた。

「やめぬか、神に対し、無礼な!」
「ぐはっ」

 頬をゲシッと蹴られた暁は、ドテンと床に転がる。

「お前な、もうちょっと仲良くしようっていう可愛げはないわけ?」
「人間などとなれ合わぬわ、無礼者」
「性格が悪い!」
「はっ、お前は顔が悪い!」
「なんだとー!」

 失礼すぎるフォレスの言葉に、暁はブチ切れる。それからしばらく小学生じみた罵倒の言い合いをしていたが、ややあって空腹を思い出した暁は、自然と喧嘩をやめて食事にありついた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

ガチャからは99.7%パンが出るけど、世界で一番の素質を持ってるので今日もがんばります

ベルピー
ファンタジー
幼い頃にラッキーは迷子になっている少女を助けた。助けた少女は神様だった。今まで誰にも恩恵を授けなかった少女はラッキーに自分の恩恵を授けるのだが。。。 今まで誰も発現したことの無い素質に、初めは周りから期待されるラッキーだったが、ラッキーの授かった素質は周りに理解される事はなかった。そして、ラッキーの事を受け入れる事ができず冷遇。親はそんなラッキーを追放してしまう。 追放されたラッキーはそんな世の中を見返す為に旅を続けるのだが。。。 ラッキーのざまぁ冒険譚と、それを見守る神様の笑いと苦悩の物語。 恩恵はガチャスキルだが99.7%はパンが出ます!

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

処理中です...