神庭の番人 ~陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない~

夜乃すてら

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陰キャなオレには、スローライフなんてむいてない

一章 宝樹の栽培 1-1

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 朝が来た。
 薄青い空気に光が差しこみ、暁はようやく肩の力を抜く。
 寒すぎてうたた寝もできなかった。寝たら死ぬと思って、必死に我慢していたせいで、朝日を見て泣きそうだ。

「朝になれば安全だ。低級の魔物は、昼間は動けぬからな」
「だから朝まで待てって言ったのか?」

「そうだ。闇の神が作り出した高級の魔物はすでに去ったが、瘴気から生まれた低級の魔物は、夜しか活動できぬ。低級とはいえ、邪魔をされては面倒だ。さあ、行くぞ」

 フォレスは暁の右肩によじ登り、ビシッと前方を翼で示す。

「おい。自力で動かないんかい」

 暁のツッコミに、フォレスは偉そうに返す。

「下々の人間は、神の足になって当然だ」
「あー、ごめん、手がすべった~」
「何をするか! 髪をひっこ抜いてやろうか、人間!」

 暁がわざとフォレスをはたき落とすと、怒ったフォレスが暁の頭をつついてくる。暁はしれっとした顔で走った。

「飛べるんなら、最初からそうしろよ!」
「疲れるから嫌だ!」

 結局、こんしんの力で追いついたフォレスは、暁の頭の上に着地した。暁がどかそうにも、爪で髪をつかむからやめる。無理をしたら、暁の毛根が死滅しそうだ。

「まずはすぐ近くの宝樹から復活させるぞ」

 フォレスに言われるまま、洞窟から最も近い位置にある大木の前に立つ。どう見ても枯れている。

「ああ、神の威光でバーンと復活するとか?」
「それでできるなら、とっくにしているわ。理の外から来た者しか、神庭の手助けにならぬと言っただろうが」
「そもそも、なんで神様の庭なのに、神様がどうにかできないんだよ」

 そぼくな疑問をフォレスに問うと、フォレスは急に黙り込んだ。

「おーい、フォレスさーん? なんだ、寝たのか? じいちゃんみてえだな」
「じじい扱いするなー! 私が十二番目の末っ子だからだ!」
「はい?」

 まさかここにまで兄弟の序列が関わってくるとは思わない。暁は目線だけを上げて、頭の上にいるフォレスのほうを見た。

「二番目の姉神が瘴気をばらまいたと言っただろう。どうにかできるのは、一番上の兄上か本神ほんにんだけだ。だが、姉上は性格が悪いから絶対にお願いは聞いてくれぬし……聞いてくれても対価が馬鹿高い」

「なんだそれ、理不尽じゃねえか! つまりあれだろ、弟の大事な物を壊しておいて、謝らないし修理もしないってことだろ。ひっでえな!」

「そうなのだ! 姉上は理不尽のかたまりなのだ! だから兄弟は誰も姉上と関わりたがらない」
「嫌われてんのな? 一人はいるよなあ、そういう面倒くさい親戚って」

 うんうんと頷く暁の髪を、フォレスがつかむ。

「イッデ!」
「落ちるだろうが、やめよ!」
「お前もたいがい理不尽だぞ!」

 暁は言い返し、またはらい落としてやろうかとこめかみに青筋を立てる。

「それじゃあ、兄ちゃんに頼めばいいだろ」
「兄上は常識的だが、姉上がからむと駄目なのだ。『こんのクソガキ、性根しょうねを叩きなおしてやらぁ!』モードになって、他のことが頭から消える」
「なあ、その二人はやっぱりおつむが弱いんじゃ……」

 今度は口に出して暁が言いかけるのを、フォレスは強引に話題をまとめて、返事を避けた。

「とにかく! 兄上と姉上は当てにできぬ。しかし、位階が低い神には、姉上の瘴気を払うことは不可能だ。水槽の水がにごったのなら、汚い水を外に出して、綺麗な水を入れれば解決だろう? 理の外の力とは、そういうことだ」

「はあ、なるほどなあ。でも、俺にどうしろと?」
「宝樹は、地上より上は枯れているが、株は無事だ。地面を掘って、根元の〈株玉かぶたま〉を取る。〈株玉〉を浄化してから、地面を掘って埋めて、そこに水をかければ終わりだ」

「待て待て待て。いろいろとツッコミたいが、まず、浄化……? 俺にそんな特殊能力はないぞ!」

 暁はフクロウの体をわしづかみ、自分の頭から下して、顔面を突き合わせる。

「神につばを飛ばすとは、無礼な!」

 フォレスが眼前でビカッと光り、目つぶしをくらった暁は崩れ落ちる。

「くっそ……てめえ……っ」

 明るくなったから多少光っても余裕だと思ったが、目の前での「神の威光」はきつい。しかもフォレスは、暁の背中をゲシッと蹴るおまけつきだ。

(全部終わって帰れるとなったあかつきには、てめえをバスケットボールみてえに放り投げてやるよ!)

 暁はフォレスへのみみっちい復讐を誓った。

「そのための加護だ。適当に手で払えばいいだけだ。それよりも、〈株玉〉を取り出して、水を汲むほうが先だぞ」
「どうやって掘れと?」
「その辺に落ちている木の枝や石でも使えばいいだろう」
「水を汲む道具は?」
「まあ……うむ。どうにかなるだろ」

 フォレスは目をそらした。

「ノープランかよ! あの洞窟を作ったみたいなことはできないのか?」
「それでエネルギーが全部切れたのだ! 凍死するよりマシであろうが! 私はがんばった!」

 ぶち切れて叫んだフォレスの目には涙が浮かんでいる。ふてくされて、体がぼわっとふくらんだ。

(やべっ、言いすぎた?)

 ムカつくフクロウだが、泣かせると後味が悪い。
 フォレスの態度が、幼稚園児みたいに子どもっぽいだけに。

「エネルギー切れで人型もとれぬし……みじめすぎる。森にひきこもっているのに、なんで姉上は私をいじめるのだ。ひどい……」

 しまいには、羽で”の”の字をぐるぐると書きながら、落ち込み始めてしまった。

「わーかったよ! やるだけやってみるから、泣くなって」
「そうかそうか、がんばるのだぞ!」

 途端にパッと笑みを浮かべたフォレスは、「計画通り」と言わんばかりの悪い顔をしていた。

(この野郎)

 ちょっと優しくしてやろうかなと思った決意を、暁は秒でひるがえして、天の彼方に放り投げた。
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