遺伝子分布論 102K

黒龍院如水

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中間都市

非公開

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  翌日火曜日、モモ・テオは、朝からキムラ
 塾を訪問する。キムラ塾は、アマー市の南、
 構造都市南壁付近に広がるサウスナイン市に
 あった。
 
 キムラ塾で、リチャード・キムラと複数種目
 の非公開練習を行う。ストレッチやウォー
 ミングアップを行ったのち、
 
 まずは道着を来て、サンボの試合形式の練習
 だ。リチャードが体重100キロ前後あるの
 に対して、モモ・テオは73キロほど。
 
 身長はリチャードが180センチに対して、
 モモ・テオは172センチ。したがって
 リチャードのほうが筋力では勝るのだが、
 モモ・テオは右の相四つでそのまま組む。
 
 組んだ際のモモ・テオの腕にはほとんど
 力が入っていないが、釣り手の位置などを
 いい所には持ってこさせない。鎖骨あたり
 から上には上げさせないのだ。
 
 お互い細かい足技で牽制しあうが、
 
 モモ・テオが右の背負い投げに入り、
 リチャードが一瞬反応するが、体が完全に
 担がれた状態で浮き、そこから一回転する。
 
「やぁあー!」
  
 バーンと足がマットに当たる音がして、
 試合であれば一本だろう。超高校生級の選手
 をなぜこうも簡単に投げられるのか。
 
 まず、モモ・テオは組手がうまく、妥協
 しない。牽制の足技からじわじわと組手の
 いい形を作られる。
 
 が、腕に力が入っておらず、動作で形を
 造っていくので、牽制から技へのつなぎが
 非常にスムーズなのだ。だから、簡単に
 言うと、技にいつ入られたかを認識する
 のが難しい。反応が遅れる。
 
 組手から牽制、そして崩し、技の形を作る、
 そして掛けて投げる、そこの流れを、完全に
 殺気を無くして行える。
 
 なので、背負い投げの釣り手の袖口をしっか
 り掴んでいるのにも関わらず、いつの間にか
 脇下に折りたたまれて、担がれている。
 
 これがほかの技も同様で、流れるような
 動きで技に入るので、翻弄される。
 
  もうひとつには、サンボ選手特有のリズム
 が無いのだ。ある強さに達すると、サンボ
 特有の癖が出てきて、ふつうはむしろそれが
 強さにつながる。
 
 しかし、あるレベルを超えてくると、その
 癖が弱点となってしまう。モモ・テオは、
 他の格闘技にも熟練しているのもあり、
 殺気ごとサンボ特有のリズムを消す。
 
 これがふつうのサンボ選手にとっては非常に
 やりづらかった。リチャード自身は、他の
 種目もたくさん練習しているが、それでも
 モモ・テオのリズムは掴みにくい。
 
 サンボのルールで相対していても、まるで
 異種格闘技戦をやっているように感じるのだ。
 なので、なるべく気持ちをニュートラルに
 して、無心で戦うようにする。
 
 特に、背負い投げでやられたからといって、
 その防御に拘り過ぎると、背負い投げとは
 別の方向に崩す技に弱くなってしまう。
 
「たぁあ!」
 
 しかし、そうは言ってもなかなか簡単には
 防御できず、右の小内刈りを食らってしまう。
 
 リチャードもモモ・テオに技を掛ける。
 まず決まらないが、以前ほど簡単にポイント
 をずらされてしまうようなことはなくなった。
 
  では、強引な技に入ってもつれ込むと
 どうなるか。モモ・テオは寝技もうまい。
 
 サンボの立ち技は、技に入るセンスのような
 ものを要求される。従って、長年練習した
 からと言って、必ずうまくなるという保証は
 ない。
 
 しかし、寝技は、積み重ねが効く。センス
 よりもどちらかというと知識が要求される。
 
 モモ・テオがリチャードより3つ年上、
 ということもあるのだろうか、寝技の
 面でもモモ・テオが勝っていた。
 
 まず知っている技数が多い。それに加えて、
 モモ・テオは、立ち技にしても寝技にしても
 左右の技をほぼ同じレベルで使いこなす。
 それは、中々に珍しいことだった。
 
 しかし、モモ・テオからしてみると、武術
 というのは彼にとって舞台のためにある、
 美しさを追求するという意味では、左右の
 バランスは保つべき、という思いがあった。
 
  少し場所を変えて、次はムエタイの
 スパーリングを行う。二人とも、ムエタイ
 を専門とする選手ではない。
 
 だが、打撃系のスピード感が投げ技系の競技
 にもプラスになったし、逆に投げ技系の
 競技で鍛えた体幹は、打撃系にも通用した。
 
 キムラ塾自体も、特にどちらかに拘って
 いるわけでもなく、あらゆる武術を念頭に
 置いている。
 
 リチャード・キムラについては、現在は
 確かにサンボ競技に重点を置いているが、
 今後どういう方向に進むかははわから
 なかった。
 
 そして、そもそも二人とも身体能力が
 高いので、すでに現時点で並みのムエタイ
 選手では勝てないレベルになっていた。
 
 ここでも、リチャードはモモ・テオの
 スピードに翻弄されてしまう。横で見て
 いた塾長のマサコ・キムラは、もう少し
 アジリティのトレーニングを増やす必要性
 を感じていた。
 
 ミクスドマーシャルアーツ、つまり打撃、
 投げ技、寝技、何でもありのトレーニングも
 追加してみよう。
 
  最後に、剣術着を来て剣術の試合形式の
 練習を行う。これに関しては、完全に
 モモ・テオのほうが勝っている。
 
 モモ・テオとリチャードは、スピードの点
 では大差ないかもしれない。しかし、
 攻めの間断がない、無限に溢れるような
 攻撃のアイデアが次々出てくる点で
 モモ・テオが勝っていた。
 
 リチャードは、ほぼ何もできないまま、
 ポイントを取られてしまう。 モモ・テオ
 の実力は、この中間都市で見てもかなりの
 ものだったのだ。
 
 モモ・テオも、サンボやムエタイで今後
 食べていこう、という気にはならなかったが、
 剣術についてはその道でやっていくことも
 まんざらではないと思っていた。
 
 ただ、本当にやるなら、かなり我流の部分が
 多いので、他の都市の色々な流派を回るなど
 して、きちんと学ぶ必要があるとも認識して
 いた。
 
 マサコ・キムラとも今後のトレーニングの
 方向性を少し話し合ったのち、キムラ塾を
 出る。
 
  昼からは、趣味のひとつである書道だ。
 空きの時間があれば、水泳か書道をやりたい。
 小さいころから続けていた書道は、この歳で
 師範代クラスの腕前になっていた。
 
 モモ・テオの書の一番の特徴は、オリジナル
 の象形文字を書くことだ。これは、用紙に
 筆と墨で行うのだが、
 
 3次元書道も得意だ。それは、元々子ども
 向けの玩具から発達したものであるが、
 筆のようなデバイスを使い、ボタンなどで
 アクティブの時だけ奇跡が描かれて、
 端末などにその情報が取り込まれる。
 
 ボタンとダイアルを使い色も塗り分ける
 ことができる。それで、既存の文字や
 オリジナル文字を3次元で描くのだ。
 
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