遺伝子分布論 102K

黒龍院如水

文字の大きさ
上 下
52 / 66
中間都市

秘密結社

しおりを挟む
  幕が下りて、周囲が明るくなる。
 金剛石の四人、ヴァイ・フォウ、オンドレイ
 ・ズラタノフ、ワルター・テデスコ、そして
 ヤーゴ・アルマグロが、それぞれ伸びをして
 立ち上がる。
 
「やっぱ何回見ても面白いな」
「毎年ベンケイのデザイン新しくなるのズルい
 よな。そんで毎回模型売れてるらしいし」
 オンドレイとワルターが話す。
 
「けっきょくあの後皇帝とトキコはどうなんの
 かな?」
「ヴァイねえは毎回そこ気にしてるし」
「いや、そこだろふつう」
 
 今回の演劇は、実際の中間都市周辺での出来
 事をある程度元にしている。それも、人類が
 中間都市の宙域に着いて少し経ったぐらいの、
 4万年ほど前の歴史だ。
 
 そのまますぐ会場を出て、外で時間を潰す。
 ここからが彼らの本当の任務だ。ニコロ塾の
 実体は、秘密結社の禍福社。そして、その
 実行部隊が、金剛石の裏の顔だ。
 
  そして、その3人が出てきた。金剛石が
 狙う対象、それは、今回の舞台に立っていた
 人物たちだ。
 
 並んで歩いてくる3人、左から、フィオラ・
 タイナート副将軍を演じていた、イレイア・
 オターニョ、紺地に桜の花の浴衣だ。
 アゴ周りが少ししっかりしているが美人だ。
 
 真ん中が、トキコ・タイナート上将軍を演じ
 た、モモ・テオ、白地に山の絵の浴衣。
 
 右端が、ザイラ・タイナート将軍を演じた、
 マティルデ・カンカイネン、赤と黄の紅葉柄
 の浴衣を着ている。
 
 3人とも髪をまとめて、それらしく歩いて
 くるが、言っておくが、こいつらは全員男だ。
 
「待てーい! おれたちは、金剛石だ!」
 
 知ってる、と短く答えるモモ・テオ。
 オンドレイがイレイアの前、ヴァイがモモ・
 テオの前、ワルターがマティルデの前に立つ。
 ヤーゴも後ろで身構える。
 
 浴衣の3人のほうが、金剛石のそれぞれ3人
 より少し背が高い。
 
「そのほうら、我らがタイナート家の者と知っ
 ての狼藉か?」
 モモ・テオの言葉に、
 
「その話はもう終わってんだよ!」ヴァイが
 叫んでモモ・テオに掴みかかるが、
「我らと尋常に勝負致せ!」とつられてセリフ
 がおかしくなるワルター。
 
 モモ・テオの肩口を掴みかけた瞬間、手首を
 掴まれふわっと一回転して地面に叩きつけら
 れるヴァイ、すぐ回転して立ち上がり、今度
 は体の重心位置に気をつけて踏み込みながら、
 脇のあたりを掴む。
 
 そこから渾身の一本背負いを放つが、この
 モモ・テオ、その投げを柔らかく受けて、
 まったく崩れる気配がない。
 
 他の技も試すが、まるで暖簾に技をかけて
 いるかのごとく、力がうまく伝わらない。
 
 その間にも、オンドレイがイレイアに数発
 殴られ、ワルターがマティルデの回し蹴りを
 頭部に受けて、ふらついている。
 
 形勢悪しと見て、撤退を決意するヴァイ。
 
「おまえらなあ、季節感ないんだよ!
 ダッセーな!」
 ヴァイの言葉に動揺する浴衣の3人。その間
 に、ワルターに肩を貸して逃げ出す金剛石。
 
「木の打ち込みだけじゃなくて、竹の打ち込み
 もやった方がいいよー」
 となにやらアドバイス的なことをくれるモモ
 ・テオ。うるせえ、と返して逃げていく
 ヴァイたち。
 
 その様子を見守る6名の黒い影。
 
 
  宇宙構造都市曼陀羅型9999番、外周部
 のビャッコブロック、1層目から公共交通
 機関で戻って来た金剛石の4人は、翌日
 ニコロ塾の寺子屋に出る。
 
 塾長のニコロス・ニコロディが語る。 
「前のサンボの大会でもそんなに悪くはなかっ
 ただろ、お前たちはけして弱くはない」
 
「おやっさん、なんか飛び道具的なものを
 使うのはダメなんですか?」
 そう問うワルターに、
 
「駄目だ。まずは相手の心を制す。我らは単
 なる過激派でもゴロツキでもない」
 ニコロディが諭す。
 
「いい芝居見せられて、コテンパンにやられて、
 心を制せられているのは今のところ……」
 オンドレイが誰となく言うが、ニコロディは
 相手にせず、
 
「もう少し打撃系の技と投げ技のバランスが
 必要だな。そして、もっと序盤から畳み
 かける」
 
「そうだ、おやっさん、モモ・テオの奴が、
 タケの打ち込みがどうの言ってたよ」
 ヴァイだ。
 
「リチャード・キムラも強かったけど、なん
 つうか、捉えどころがないんだよな、
 モモ・テオは」
 
「それは、おそらくアイキの技術がからんだ
 投げ技に対する防御のテクニックだな」
 ニコロディがどこかを見ながら答える。
 
「固定された木人への技の打ち込みはやって
 おるわな、それを、しなる竹を相手にやる、
 という練習法が古い文献に残っとる、
 やってみるか?」
 
「面白そうだね」
 ヴァイは乗り気だ。
 
「じゃあ具体的にはあとで考えるとして、
 金剛石の活動の理論的背景をもう一度
 おさらいするか」
 
  半獣半人座星系から、反発展主義と呼ば
 れる危険思想が中間都市にも入って来た。
 モモ・テオ一派は、その芸風から、反発展
 主義者であると指摘されている。
 
 それに対し、いち早くモモ・テオ一派に挑戦
 状を叩きつけて抗争を開始したのが金剛石だ。
 と同時に、ニコロ塾では反発展主義そのもの
 の研究も開始している。
 
 ニコロ塾は、比較的いろいろな思想を勉強
 する。それも、かなり踏み込んだところ、
 つまり、その主義を表明する程度にまでだ。
 
 反発展主義に関してどこまで踏み込むかは
 わからないし、人によっては節操がない、
 と言うひともいる。しかし、ヴァイたちは
 ニコロディのそのやり方を受け入れていた。
 
 考える前に、まずやってみる、飛び込んで
 みる、というのは、なんとなく彼らの性に
 あっていたのだ。
 
 少なくとも、学校で習う眠たくなるような
 話よりは、幾分か面白く、かつ自分の
 ためになるような気がした。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。

べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

【完結】Imagine alive『新居武はヒーローになって異世界魔人との絆で7つの大罪から世界を救う』

すんも
SF
 新居武の父である優は、ある日突然不慮の事故で死を遂げる。息子の武の夢が叶いますようにと言うのが、優の最後の願いだった。  優の死から10年後、ある事件を切っ掛けに武の夢が叶う日がやって来る。それは10年前の出来事が関係していた。  夢を叶えた武に待っている事とは…… 【テーマ】 『優しさ』をテーマにしました。 主人公の父、新居優の子を思う気持ち。 母の主人公を見守る優しさ。 片親となってもめげずに周囲に優しい目を向ける主人公を書いたつもりです。 稚拙な文章で伝わるか心配ですが、少しでも優しさを感じて頂けたらと思います。

【なろう400万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ

海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。  衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。  絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。  ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。  大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。 はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?  小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間1位、月間2位、四半期/年間3位の実績あり。 カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。  

日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!

黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。 でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。 この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。

コンプ厨の俺が「終わらない神ゲー」を完クリします

天かす入りおうどん
SF
生粋の完クリ厨のゲーマーである天方了は次なる完全クリアを求めて神ゲーを探していた。すると、自身のsnsや数少ない友達からとあるゲームを勧められる。 その名は"ゲンテンオブムーンクエイク"通称"無限"。 巷で噂の神ゲーに出会った了に訪れる悲劇と出会いとは――――。 『999個……回収したぞ…これでもう…終わりだろ…!』 ゲーム内のアイテムを無限に回収し続ける事を目的とする俺にとって、カンストというのは重大な物事だ。 カンストに到達する最後の1個…999個目を回収し、遂に終わったと思ったが、試しにもう1つ回収してみると…… ……取れちゃった…… まさかのカンストは999ではなく9999だったのだ。 衝撃の事実に1度俺の手は完全に止まった。 だがここで諦めないのが俺がコンプ厨たる所以。 これまでにかかった多くの時間に涙し、俺はまた回収を再開するのだった。 そんな俺が今後のゲーム人生を変えるとある人物と出会い――――。

宇宙戦記:Art of War ~僕とヤンデレ陛下の場合~

土岡太郎
SF
ナポレオン戦争をベースにして、宇宙を舞台にした架空戦記です。 主人公の<ルイ>は、『ヤンデレチートゴスロリ王女様』<フラン>に気に入られる。彼女に、時には振り回され、時には監視され、時には些細なことで嫉妬され、時には拉致監(以下略) やがて宇宙艦隊の司令官に任命されてしまう。そして主人公補正で才能を開花させて、仲間達と力を合わせて祖国の平和を守ろうとするが……。チート的才能を持つ主人公であるが如何せん周りもチートな人達がいるのでなかなか目立てないので、まあ、いいかと思うが時代の激流と主人公補正がそれを許さないスペースオペラとなる予定ですが、コメディ寄り作品になる予定でしたが、作者なりに過去の戦術戦略を元に戦いを構成したシリアス寄りの物語になっていると思います。  戦闘が好きな方は、第一章から読んでみてください。  SF(スペース・ファンタジー)なので、設定は結構ゆるいです。 あと、本作品は戦争物なので人がたくさん死ぬ事になりますが、作者がグロやら人が死ぬのは余り好きではないので、できるだけライトに描写しようかと思っています。 誤字報告、よければ評価やブックマークなどよろしくお願いします。

地球連邦軍様、異世界へようこそ

ライラック豪砲
SF
巨大な一つの大陸の他は陸地の存在しない世界。  その大陸を統べるルーリアト帝国の第三皇女グーシュ。 21世紀初頭にトラックに轢かれ、気が付いたら22世紀でサイボーグになっていた元サラリーマンの一木弘和。 地球連邦軍異世界派遣軍のルーリアト帝国への来訪により出会った二人が、この世界に大きな変革を引き起こす! SF×ファンタジーの壮大な物語、開幕。 第一章 グーシュは十八歳の帝国第三皇女。 好奇心旺盛で民や兵にも気さくに接するため、民衆からは慕われているが主流派からは疎まれていた。 グーシュはある日、国境に来た存在しない筈の大陸外の使節団への大使に立候補する。 主流派に睨まれかねない危険な行為だが、未知への探求心に胸踊らせるグーシュはお付きの騎士ミルシャと共に使節団が滞在するルニ子爵領へと赴く。 しかしその道中で、思わぬ事態が起こる。 第二章 西暦2165年。 21世紀初頭から交通事故で昏睡していた一木弘和はサイボーグとして蘇生。 体の代金を払うため地球連邦軍異世界派遣軍に入り、アンドロイド兵士達の指揮官として働いていた。 そして新しく配属された第049艦隊の一員として、一木はグーシュの暮らす惑星ワーヒドに赴く。 しかし美少女型アンドロイドの参謀や部下に振り回され、上官のサーレハ大将は何やら企んでいる様子。 一般人の一木は必死に奮闘するが……。 第三章~ そして、両者の交流が始まる……。 小説家になろうで連載中の作品の微修正版になります。 最新話が見たい方は、小説家になろうで先行して公開しておりますので、そちらをご覧ください。

処理中です...