遺伝子分布論 102K

黒龍院如水

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中間都市

死闘

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  引き続き会場は騒然としているが、
 次鋒戦が始まる。
 
 ニコロ塾のヤーゴ・アルマグロと相手の
 次鋒ミワは、体重別の階級だと同じだ。
 ヤーゴもけして弱い選手ではないのだが、
 このミワは、少し別格だ。
 
 キムラ塾は、超高校生級のリチャード・
 キムラがやはり目立つが、このミワも
 かなりの選手なのだ。
 
 ヤーゴはそれをよく分かっていて、自分
 から組みに行き、先に仕掛けて、そして
 寝技に引き込む。
 
 そのまま寝技で取れればいいが、ミワの
 腰も強く、守りも堅い。しかし、その
 寝技で時間が稼げる。
 
 待てがかかり、ヤーゴが開始線に戻り
 ながら、ニコロ塾長のほうを見る。
 塾長は頷く。
 
「いいよ、そのまま寝技狙っていこう!」
 アナが大きな声を出す。
 
 まだ試合を控えている3人は少しナーバス
 なようだ。しきりに小刻みにジャンプしたり
 足を払ったりしながら見ている。
 
 ヤーゴは右組、ミワは左組で、いわゆる喧嘩
 四つの組手となる。引手を持たせると、ミワ
 の左内股が飛んでくる。引手を持たせずに、
 ギリギリの技を出し、そして寝技に持ち込む。
 
 このまま行ってくれ、とニコロ塾の皆が
 祈るが、ミワの右手が引手ではなく、ヤーゴ
 の襟を掴む。そして、そこから強引に左内股。
 もつれこんで、ヤーゴが有効を取られる。
 
「いいよ、気にしなくて! 寝技続けよ!」
 アナが声を掛ける。
 
「ヤーゴ! 相手の引手をしっかり引くか、
 釣り手を落とすかしろ!」
 ニコロ塾長も思わず声が出る。
 
 両襟からの内股が防げそうになく、ヤーゴは
 かなりやりにくそうだが、そこに左足払いが
 飛んできて、有効を取られる。
 
 それでも有効で耐えてくれればマシなので、
 両チームの声が大きくなっていく。
 
 ミワが、今度は襟でなくヤーゴの両袖を
 掴んだ。
 
「切れ!その形はいかんぞ!」
 ニコロ塾長が叫ぶが、
 
 両袖からミワが潜り込み、低い左袖釣り込み
 腰でヤーゴの体が綺麗に回転する。一本負け
 だ。しばらく立ち上がれないヤーゴ。
 
  中堅戦は、ワルター・テデスコ対、キムラ
 塾のホンダだ。このホンダという選手は、
 おそらく引き分け役だ。
 
 強い選手がいるチームというのは、その強い
 選手に鍛えられて、引き分けがうまい選手が
 育つ可能性がある。
 
 危なげない試合運びで、安心して見ていら
 れる。しかし、ニコロ塾側はそうではない。
 このホンダ選手、返し技がうまい。実際
 今日の試合もほんとどそれで勝っている。
 
 ワルターに、優勢勝ちでもいいからなんとか
 勝ってもらいたい、攻め続けて、どれかの
 技が掛かればいい、しかし、あまり攻め過ぎ
 て返しを食らうとまずい。
 
 かと言って、守り過ぎると指導の反則を取ら
 れる可能性もあるし、引き分け役といえど、
 ホンダはそれなりの技も持っている。
 
 サンボというのは、自分から技を掛ける際は、
 ある程度技のセンスのようなものが必要に
 なるが、技を耐える力、というのは普段
 強烈な技を受けていればけっこう身に付く。
 
 ホンダもふだんから3人のポイントゲッター
 に鍛えられているのだろう、ワルターの
 技を難なく凌ぐ。が、ワルターもある程度
 わかっているのか、返し技を食らうような
 中途半端な技はけして入らない。
 
 4分の試合時間が過ぎ、引き分けとなる。
 
  オンドレイ・ズラタノフの番が回ってくる。
 腿や腕や顔を手でバシバシと叩き、気合を
 入れている。
 
「よしこいやおらー!」
 
 キムラ塾の副将、リチャード・キムラ相手に
 大きな声を出す。キムラ塾顧問のマサコ・
 キムラは、このリチャードの母親だ。
 
 オンドレイは、ニコロ塾の中では身長も
 体重もあるほうだが、キムラはまた一回り
 大きい。しかし、100キロの巨体にも
 関わらず、スピードがある。
 
 そのキムラに、オンドレイは序盤から積極的
 に技を出していく。お互い右組手の相四つ、
 必ず相手の右手、引手から取りに行く。
 
「そうそう! 組手妥協すんな!」
 
 ニコロ塾陣営から声が飛ぶ。オンドレイは、
 技に入り、潰されるが、そのあとの寝技を
 耐える。キムラは寝技もうまい。
 
 が、試合時間4分というのは意外と短い。
 寝技は固めるまでにけっこうな時間を要する
 ので、寝技で取りきるのかどうかの判断が
 必要となってくる。
 
「その三角気をつけろよ!」
 
 うつ伏せのオンドレイに三角締め、あるいは
 腕を縛ってからの抑え込みを狙うキムラ。
 頭部側から脇に踵をねじ込んでいく。
 
 オンドレイは、なんとか凌いで待てがかかる。
 今日の試合は審判が比較的早く寝技で待てを
 かける。
 
「さあこい!」
 
 相四つで組み合う。相手の釣り手を充分に
 落としていい形にさせない。そして技を出し
 ながら、前に出る。
 
 焦ったキムラが右の払い腰にいくが、それを
 腰でしのぐオンドレイ。
 
「いいよ、いいよ! どんどん先に技出そ!」
 
  2分が経過して応援にも熱が入っていく
 ニコロ塾。
 
 開始線に戻って顧問の方を見るキムラ。
 
 はじめ! の声に再び試合場中央で相四つに
 組み合う二人。キムラが、右の小内刈り、
 大外刈りでオンドレイの右足を狙う。
 
 オンドレイも足払いなどを返しつつ、
 キムラの足をとる素振りを見せる。
 
 キムラがオンドレイの右手を切った。釣り手
 を切られて、オンドレイもキムラの引手を
 切りにいく。下がり気味のオンドレイに支え
 釣り込み足で追い込みながら、
 
 キムラの引手の左手を釣り上げ、右組手の
 まま腰を回転させて足先を延ばし、左の払い
 腰に入った。ふわりと宙に舞うオンドレイ
 の体。
 
「一本!」
 
 何だ今の技は? あっけにとられるニコロ塾。
 畳を叩いて「くそー!」と悔しそうなオン
 ドレイ。
 
  ヴァイの背中を叩いて下がるオンドレイ。
 おれに任せろ、と返すヴァイ。
 
 開始線に立つヴァイ。その眼前に、身長
 182センチ、体重120キロの、キムラ
 塾大将タナカが立つ。
 
「はじめ!」
 
 の声に、無言で両手を挙げるヴァイ。大将戦
 が始まった。
 
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