遺伝子分布論 102K

黒龍院如水

文字の大きさ
上 下
35 / 66
半獣半人座星系

夜襲の兆候

しおりを挟む
  そのまま四階、五階と確認を続ける。
 四階は二階と同じ構造、そして、五階は
 三階と同様、四階のオペレーション室と
 なっていた。
 
 その四階だが、すでに生物はいない。
 巨大な生物の、白骨化した死体があった。
 しかし、骨の部分を見るだけでも、さき
 ほどの巨大熊よりもふた回りほど大きい。
 
 ヨミー・セカンドにシキガミを通して
 確認してもらうと、バッファローという
 牛に似た動物の改造生物の骨に見えると
 いう。
 
 生きていればかなり苦戦したようにも
 見えるが、大きすぎて扉を通れない気も
 する。それを利用してうまく戦えた
 かもしれない。
 
 五階のオペレーション室には、三階に
 あったような餌のストックが無かった。
 餌代が払えずに飼育を諦めたのかもしれない。
 10メートルを超える体長、いったい一日に
 どれだけ食べたのだろうか。
 
  この日はそこで早めに引き上げて、また
 一階で宿営する。現地組は早めに食事を
 して、すぐ就寝する。本部隊は、すでに
 順番で睡眠をとっているようだ。
 
 つまり、今晩は夜襲を予想している。上階に
 潜んでいる人間と、塔外部の人間との間の
 通信を傍受したのだ。
 
 さすがに平文で通信はしていなかったが、
 暗号化通信であっても、玄想旅団にはそれを
 解読できるエンジニアがいる。暗号を解読
 できるエンジニアはこの惑星では稀有
 だったので、油断したのだろう。
 
 夜襲は、おそらく塔内に潜んでいる何名かの
 グループと、外部の軽装騎兵による同時の
 奇襲となるだろう。
 
 外部の戦力とは、おそらくこの塔内の人間と
 取り引きを行う盗賊の集団だ。
 
  本部の位置を、北側の階段の扉の向こう側
 へと移動する。そして、準備を行う。
 それは、明け方近くの時間帯。
 
 建物内の灯りは、深夜は弱められるが、
 少し薄暗くなる程度だ。それが、突然真っ暗
 闇となる。塔の一階の外壁扉が開き、
 数十名と思われる足音がする。
 
 同時に、二階からも数名の、人が降りて
 くる音がする。階下では、数名が慌てて
 いる様子だ。暗視ゴーグルでその様子が
 よく見えるため、一気に接近して
 勝負を決めに行く。
 
 しかし、そのうちの一人が、呪文を詠唱
 し始めた。狭い階段で逃げ場がない。
 それでも数名近寄ってくるが、スヴェンと
 オリガ・ダンがその前を塞ぐ。
 
 連続で魔法を放つシャマーラの横で、
 催眠の呪文を使うのはパリザダだ。同時に
 シキガミを目くらましに使う。安価で大量
 生産できるシキガミは、そういう使い方も
 できた。
 
 隠れて端末を使いながら状況を把握する
 のはヨミー・セカンド。 
 
 一方外部から侵入した一団は、北側の
 扉前まで到着し、扉に手をかける。
 中へ踊り込むつもりで開けようとした
 寸前、扉が開いて人が飛び出す。
 
  アントンを先頭に、イスハーク・サレハと
 おれ、ベルンハード・ハネルが飛び出す。
 イスハークは腰の2丁の短銃を使い、次々と
 侵入者の腕や足を撃ち抜いていく。
 
 彼の銃は、ホルダーから抜くたびに砲身の
 形状を変化させる。シールド機能を持った
 装備に対しても、この砲身変化と早撃ちで、
 力場シールドが反応できない。
 
 予めそれがわかっていれば、突入前に
 シールドを出しっ放しにするのだが。
 
 その外部侵入者の背後に、迫る影があった。
 東西の通路の部屋から出てきた、双子の
 クノイチ、そしてセイジェン・ガンホン。
 
 セイジェンは、十字路の中央で増援に備える。
 クノイチのイズミ・ヒノとナズミ・ヒノは、
 戦闘装備に身を包み、神経性麻酔剤の塗ら
 れた短刀を一人ひとり突き立てていく。
 
  そのころガンソク・ソンウは塔の外にいた。
 外部侵入者は馬でここへ到着し、見張り2名
 を残して全員中へ侵入したようだ。
 その数、見張りを含めて22名。
 
 少し離れた位置から、閃光玉を複数投げ込む。
 音と光、数秒して、セイジェンが走って
 駆けつける。ガンソクも加わって、見張り
 2名を素手で片づけた。
 
 その2名を拘束帯で動けなくして、
 セイジェンは十字路へ戻り、ガンソクは
 馬を別の場所へまとめていく。
 
  内部では、スヴェンとオリガがどんどん
 相手を押していく。ヨミーの解析では、
 上階から来たのは30名ほど。ほとんどが
 戦士タイプで、飛び道具持ちもまともに
 その道具を使える状況にならなかった。
 
 20名ほど戦闘不能にしたところで、
 上階から来た襲撃者は撤退を決めたようだ。
 
 外部侵入のほうも降伏して片付いた。
 それにしても、この侵入者たち、東西の部屋
 の中を確認しなかったというのは迂闊過ぎる。
 
 負傷者の傷の手当てと拘束を行い、町に
 護送車を依頼する。けっきょく42名を
 確保したことになる。全員、いったん
 一階の西側の部屋にある個室へ監禁する。
 
 捕虜の処理が終わったところで休憩をとり、
 そして最上階を目ざす。最上階へは本部も
 ともに動く。
 
 まず六階は、一階と同じような構造で、
 居住区となっていた。襲撃してきた者たち
 が、最近まで使っていた感じだ。
 
 逃げた残りのメンバーは、おそらく七階へ
 逃げたのだろう、六階には誰も残って
 いなかった。
 
  六階から、七階の構造を解析する。
 階段を上がったところは、広くなっていて、
 塔の中心から向こう側に、部屋がある。
 
 そのすぐ上がったところで迎え撃ってくる
 のか、それとも部屋の中で守っているのか。
 六階の階段下に本部を置いて、いよいよ
 最上階だ。
 
 我々が階段から顔を出したぐらいで、
 七階の部屋からワラワラと出てきた。
 さきほど逃げた10名プラス1名。
 老人の魔法使いだ。
 
 さっそく詠唱を始める。同時に、玄想旅団
 のシャマーラも詠唱を始めた。久しぶりの
 魔法戦になりそうだ。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

第一次世界大戦はウィルスが終わらせた・しかし第三次世界大戦はウィルスを終らせる為に始められた・bai/AI

パラレル・タイム
SF
この作品は創造論を元に30年前に『あすかあきお』さんの コミック本とジョンタイターを初めとするタイムトラベラーや シュタインズゲートとGATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて・斯く戦えり アングロ・サクソン計画に影響されています 当時発行されたあすかあきおさんの作品を引っ張り出して再読すると『中国』が経済大国・ 強大な軍事力を持つ超大国化や中東で 核戦争が始まる事は私の作品に大きな影響を与えましたが・一つだけ忘れていたのが 全世界に伝染病が蔓延して多くの方が無くなる部分を忘れていました 本編は反物質宇宙でアベが艦長を務める古代文明の戦闘艦アルディーンが 戦うだけでなく反物質人類の未来を切り開く話を再開しました この話では主人公のアベが22世紀から21世紀にタイムトラベルした時に 分岐したパラレルワールドの話を『小説家になろう』で 『青い空とひまわりの花が咲く大地に生まれて』のタイトルで発表する準備に入っています 2023年2月24日第三話が書き上がり順次発表する予定です 話は2019年にウィルス2019が発生した 今の我々の世界に非常に近い世界です 物語は第四次世界大戦前夜の2038年からスタートします

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

VRMMOでスナイパーやってます

nanaさん
SF
ーーーーーーーーーーーーーーーー 私の名は キリュー Brave Soul online というVRMMOにてスナイパーをやっている スナイパーという事で勿論ぼっちだ だが私は別にそれを気にしてはいない! 何故なら私は一人で好きな事を好きにやるのが趣味だからだ! その趣味というのがこれ 狙撃である スキルで隠れ敵を察知し技術で当てる 狙うは頭か核のどちらか 私はこのゲームを始めてから数ヶ月でこのプレイスタイルになった 狙撃中はターゲットが来るまで暇なので本とかを読んでは居るが最近は配信とやらも始めた だがやはりこんな狙撃待ちの配信を見る人は居ないだろう そう思っていたが... これは周りのレベルと自分のレベルの差を理解してない主人公と配信に出現する奇妙な視聴者達 掲示板の民 現実での繋がり等がこのゲームの世界に混沌をもたらす話であり 現実世界で過去と向き合い新たな人生(堕落した生活)を過ごしていく物語である 尚 偶に明らかにスナイパーがするような行為でない事を頻繁にしているが彼女は本当にスナイパーなのだろうか...

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

Metal Blood World 〜ようこそ選ばれしプレイヤー達〜

風鈴ナツ
SF
2040年 大手ゲーム会社「ミラージュ」は新作VRゲームとして 「Metal Blood World」を発表 文明の崩壊した異世界をロボット....つまりプレイヤー達が仲間と共に冒険するというシンプルなストーリー........。 ミラージュはこのソフトの試作品を抽選で30000名に販売する事にした。 そして見事!それに当選した主人公は届いたゲームを早速プレイするも 激しい頭痛により意識を失ってしまう。 気がつくと、そこは先ほどまで画面で見た「Metal Blood World」に酷似した異世界、自分の姿はキャラのロボットになっていた。 さらに.......彼からは「ある記憶」だけが消されており..........。 毎週月曜日 更新です! 気分次第で月曜日以外にも投稿します!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...