遺伝子分布論 22K

黒龍院如水

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ヘンリクの話

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  ヘンリク・ビヨルクという19歳の青年の
 話をしていく前に、彼が住む都市について
 の説明をしていきたい。
 
 ヘンリクが住む都市は、月の裏側の
 ラグランジュポイント、重力が安定している
 ため宇宙空間での都市建設が比較的
 行いやすい空域にある。ここは、第3エリア
 と呼ばれている。
 
 その構造都市は、
 バームクーヘン型都市、マヌカと呼ばれている。
 バームクーヘンといっても、円形をしている
 わけではなく、食べやすいサイズに切り出した
 ときの形状だ。
 
 ざっくりとした言い方をすると、だいたい
 一辺100キロメートルの立方体に近い大きさ。
 
 これが弱重力を生み出すため、ゆっくりと
 回転しており、中心軸に長大なケーブルで
 接続されて、その先に同型のバームクーヘン型
 都市であるメイプルが存在する。両構造都市が
 引っ張りあいながら回るかたちになる。
 
 都市マヌカは、メイプルも同様であるが、
 階層構造をなしており、高さ100キロの
 構造の中に50層が存在する。
 
 各層は、1キロの厚さの地面と、1キロの
 高さの空間と、そのうえにまた1キロの
 あつさの天井、次の層にとって地面、を
 もつことになる。
 
 この型の構造都市は、比較的新しく、過去の宇宙
 空間の構造都市の歴史を受け継いで、様々な工夫
 がなされている。
 
 地面にあたる部分に充填する素材も、強度が
 ありかつ軽量のものが使用されている。金属
 なども資源利用の関係で極力使用しない。
 
 気密をたもつために、生きている樹木、粘性の
 樹液をもつものが多用されている。木の繊維を
 ハニカム構造に成型しなおした部材も
 使用されている。
 
 建築物の種類を、使われている素材の一番割合
 が多いもので決めるとしたら、木造建築物、
 といってもおかしくないレベルだ。
 
 この階層都市を上から見ると、正方形の面の
 中央北側と南側に層間をつなぐ主要交通
 機関がある。
 
 構造都市が回転する方向に東西、
 直行するかたちで南北だ。
 
 ヘンリクが住むのは、その最下層だった。
 
ヘンリクの話2
  構造都市マヌカの人口は2億人と少しだ。
 この都市の適正人口は3億から5億人だが、
 都市のスペック上は10億人住んでも
 問題ない。
 
 上から50層目にあたる最下層では、
 約100万人が暮らしている。下層にしては
 多いほうだ。
 
 おそらく、大学が設置されていることが
 原因で、人口が多い。マヌカでは大学
 設置が全体的に遅れており、特に中間層に
 まだあまり設置されていない。
 
 最下層の中央北壁から広がる都市がノース
 フィフティで人口40万人、南壁側に
 あるのがシンジュクで20万人、残りの
 人口は各鉄道駅周辺に散在する。
 
 ノースフィフティとシンジュクをまっすぐ
 結ぶ鉄道が中央線、途中で分岐して西側エリアを
 迂回して中央線に再合流するのが西線、東側
 エリアを迂回して同じく戻ってくるのが東線だ。
 
 シンジュク駅を出ると次がキタシンジュク駅、
 そこから西線が分岐して、マゼラン駅、
 ミノー駅と続く。
 
 そのミノー駅近くの安いアパートにヘンリク・
 ビヨルクは家族とともに住む。
 
「ただいまー」
 午後一の大学の授業を終えて自宅に帰ってくるが、
 家には誰もいない。親はヘアーサロンをやって
 いて、二人とも閉店まで帰ってこない。
 
 弟が二人いるが、ふたりとも家を出ており、
 上層でそれぞれ一人暮らしをしながら
 美容や理容の勉強をしている。
 
 ヘンリクはスポーツウェアに着替えると、
 また外に出た。アパートは駅前商店街の上に
 あるが、裏口から路地に出る。
 
 そこから、南東方向へ、軽く走ったり歩いたり
 しながら、家がまばらになっていく、水田と
 小さな水路が敷かれた田園風景だ。
 
 気温は春から夏の設定に変わるころだが、
 すでに暑い。薄い羽をもったトンボと呼ばれる
 昆虫が水路わきに止まっている。
 
 駅から線路沿いに北東方向に走れば堤防幅
 200メートルほどの川もあるが、今日は
 そっちへは行かない。南壁の山のほうへ向かう。
 
「午後から雨とか言ってたな」
 
 今日は負荷をあげるための重りもつけていない
 ため、やろうと思えば山道を走って登れるが、
 いつもの丘の神社のところで折り返した。
 
 往復1時間ほど運動して、シャワーを浴びたら
 端末を前にして情報をチェックする。
 
ヘンリクの話3
  夕食の準備をしなければならない。
 
 最近はヘンリクが親の分も含めて料理をした。
 といっても、平日が忙しいので、週末に
 作りためる方式だ。
 
 今日は金曜日で、作りためたものも昨日に
 尽きている。何か適当に食材を買ってきて、
 あるものと組み合わせてすぐ食べれるように
 料理しておく。
 
 週末は土曜に買い出し、日曜に料理した。
 だいたいは冷凍保存などできる鍋もの中心だ。
 香辛料をふんだんに使った料理が得意だ。
 
 第3エリアでは、ほかの宙域エリアと比べ
 一般家庭での料理が盛んだ。第2エリアでは、
 出来上がりのもの、あるいはすぐレンジなど
 で調理できるものを買ってくる、あるいは
 宅配を頼む、外食する、など、自分で作る
 文化がほとんどないと聞く。
 
 てきとうに作ったものをつまんでから、
 このあと親と入れ替わりでヘアーサロンの
 店舗にいく。
 
 店舗の控室の一室がヘンリクの部屋に
 なっていた。そこで、休憩したり、製作活動
 をやったり、大学の課題をやったりする。
 
 店舗はミノー駅そばの小さな地下街にある。
 ここに、だいたい週末仲間と集まる店が
 ふたつある。
 
「魚介のスープ、ジャガイモ蒸し、あと、
 野菜のサラダ」
「わかったありがとうヘンリク」
 親に告げて、店舗をクローズドに変える。
 
 ヘアーサロンの向かいにある、サクティ
 というレストランと、ゲルググというバーだ。
 
 ゲルググは、バー兼、ライブハウス兼、
 クラブで、店舗の規模自体は小さいが、
 お客が入るスペースに加えてバンドが演奏
 する低い段差をつけただけの小さなステージ、
 
 ディスクジョッキーが演奏するブース、
 その横に照明操作やビジュアルジョッキーが
 プレイする小さなスペースもある。
 
 今日はバンドのライブイベントが予定されて
 おり、出演するのはアラハント、マッハパンチ、
 ボッビボッビの地元3バンドだ。
 
「何時からだったっけ?」
 イベントフライヤーをみつけて確認する。
 バンドやDJの出演数でよく開始が変動する。
「9時オープンか」
 
 このイベントに、ヘンリクもビジュアル
 ジョッキーとして出演する。今日のイメージ
 を、あらためて自分の中で確認する。
 
 自分の端末を持ち込んで、ゲルググ備え付け
 のビジュアルミキサーでプレイする予定だ。
 時間までまだ2時間あった。
 
ヘンリクの話4
  ライブイベントまでに時間があるので、
 大学の話について書いてみよう。
 
 ヘンリクが通う大学は、サウスマゼラン
 ユニバーシティといい、メインのキャンパス
 はヘンリクがいるミノー駅の隣、マゼラン駅
 にある。
 
 ミノー駅にもキャンパスがあり、ヘンリクは
 そこの映像関係の授業に通う。
 
 この時代、大学に入るのは簡単である。
 ネットワークから登録すればよい。それも
 登録自体は第3エリアすべて共通なので、
 すべての大学に入学した、ともいえる。
 
 授業は直接キャンパス内の教室に行っても
 よいし、ネットワークから受講してもよい。
 ネットワークから受講しても講師に
 質問等は、口頭でもテキストでもできる。
 
 受講できなかったときは、録画を利用できる。
 
 学費は基本的に講義ごとで払う。ある一回の
 講義だけ受講する、というのも可能だ。
 大学の宣伝のために、無料の講義も存在する。
 
 利用者が多いのもあって、授業料は安い。
 
 ヘンリクは一般映像理論の授業を受けたあと、
 ビジュアルジョッキーにより関連した授業を
 受け、その後研究室に属してエンター
 テイメントのリアルタイム映像論について
 研究している。
 
 そのほかには、静止画や動画の撮影技術、
 著作権関連、音と映像の編集などについても
 学んだりしているが、
 最新物理学にからんだ勉強もしている。
 
 自分が作る映像のヒントが得られるのでは
 との発想からだ。
 
 物理学については、量子力学の応用分野が
 かなり発展したほか、重力子理論が確立
 されて、反重力などの研究が進んでいる。
 
 そのほかには、素粒子論も研究がかなり
 進み、それによって宇宙の成り立ち、
 始まり方などがかなり解明された。
 
 過去には、現在住んでいる宇宙とは別の
 宇宙が存在し、物理法則も異なるのではと
 考えられていた。
 
 しかし、最近の研究では、宇宙誕生の瞬間の
 素粒子の種類の比率により、その後の
 宇宙の姿がまったく異なってくる。
 
 素粒子の種類はかなり存在することが
 わかっており、場合によっては原子組成も
 まったく異なる宇宙ができ、力場の
 相互作用がなければまったく干渉しない
 ふたつの宇宙が同じ空間に存在する
 ことも可能となるとか。
 
 ヘンリクはこの素粒子宇宙論に計算機
 科学を用いる研究室にも所属している。
 コンピュータシミュレーション時に
 映像を用いるのである。
 
ヘンリクの話5
  そろそろサクティへ行こう。
 
 控え室を片づけて端末をもって店を出ると、
 もうすぐ前だ。外のテーブルですでに
 ボッビボッビの3人がデザートを前に
 談笑している。
 
 軽く挨拶して、店の中のカウンター席へ。
 
「ゴシさん、ミソカリーヌードルをハーフで」
「あいよ」
 
 店長のゴシ・ゴッシーだ。
 
「今日は米の麺だからミソカリーフォウだな」
 
 レストラン・サクティはふだん17時から20
 時ぐらいまで、学生で混雑する。
 
 サクティはもともと香辛料をふんだんに使った
 カリーと呼ばれるスープをメインに提供する
 レストランだったが、最近はもう色々な
 料理を学生のリクエストに応えて低価格で出す。
 
 今はもうすでに20時なので、学生の姿は
 まばらになってきたが、イベントのお客さん
 らしき人たちが増えてくる。
 
 サクティはそれほど大きなレストランでは
 ないが、特徴がある。店舗の奥側にある
 スペースの机は、流し台もついた調理
 スペースになる。
 
 週末などに主に学生を相手にした料理教室を
 やっているのだ。
 
 ミノー駅から歩いていける距離にサウス
 マゼランユニバーシティのどちらかと
 いうと少しマイナーな学問をやるための
 キャンパスがあり、
 
 ミノー駅周辺にも一人暮らし、あるいは
 ルームシェアの学生がけっこう住んでいる。
 
 サクティの料理教室にしっかり通えば
 卒業するころにはかなりの数のレシピを
 実際に作れるようになる。
 
 ヘンリクの得意料理も、親から習ったもの
 が半分、サクティで習ったものが半分だ。
 
「ヘンリク!今日も演るの?」
「やりますよ、今日はビジュアルですけど、
 サネルマさん!」
 カウンターの向こうから声をかけてきたのは
 ゴシ・ゴッシーの妹のサネルマ・ゴッシーだ。
 
 夜は基本的にこの二人が店を切り盛りして
 いて、昼のランチ時は彼らの両親が店に
 出ている。
 
 もう少しサネルマさんと話していたいところ
 だったが、軽い打ち合わせがある。
 
 さっき頼んだカフィーエスプレッソの小さな
 カップを持って、ボッビボッビのところへ行く。
 今日の映像のイメージをざっくり伝える。
 
 ゲルググでイベントをやるときは、事前に
 細かい打ち合わせなどはしない。そして、
 各バンドは毎回何か新しいことをやる。
 
 そして、高い確率でそれが失敗に終わる。
 ゲルググはそれが許される雰囲気だった。
 
ヘンリクの話6
  ボッビボッビの3人といると不思議と
 落ち着く。
 
 弦楽器を演奏するビンディ・マクナマラ、
 キーボードのメリンダ・リトカ、ボーカルの
 タリア・アキワンデの3人だ。
 
 3人とも、うすい褐色の肌をもつ美人だ。
 とくにタリアはかなりの美人で、駅近くで
 雑貨店を営むタリアの母も美人で有名だ。
 本人は背が低いことを気にしてるらしいが。
 
 ビンディは音楽家の親をもつ。その世界では
 けっこう有名なリュート奏者らしい。
 
 メリンダは少しふくよかな印象で、いつ
 話しかけても少し照れたような話し方
 をする。実家は農家。
 
 3人のほかの共通点は、かなりの歴史好き。
 旧世紀の歴史にも詳しく、最近僕がハマって
 いる島国のセンゴクブショウの名前が
 彼女らの口からバンバン出てくる。
 
 カンビーを教えてくれたのも彼女らだ。
 
 なので、普通に接していると、とても
 ステージにあがってパフォーマンスをやる
 ようには見えない。学校の図書スペースで
 静かに読書しているのがとても似合うのだ。
 
 3人のなかで比較的活発な印象のタリアで
 さえ、ほかのバンドのメンバとくらべると
 ぜんぜん大人しい。
 
 いや、たぶん大人なのだ。とても優しい。
 
 彼らは民族楽器を使って、メリンダは
 民族楽器の音をキーボードに取り込んで、
 過去の歴史の、先住民族の弾圧や民族差別
 について歌う。
 
 その曲調はときに激しく、また、ときに
 切なく、悠久の昔から響いてくる哀詩の
 ようだ。
 
 彼女ら自身が、そういった弾圧を受けてきた
 民族の末裔だとも聞く。
 
 彼女たちから感じる優しさが、そういった
 弾圧の歴史の結果だとすると、それは
 それで悲しい物語なのかもしれない。
 
 そんなことを心に感じながらも、彼女らと
 する話は男の子が好きな大陸のスリーキング
 ダムスや島国のセンゴクの話だった。
 
 なんでも、スリーキングダムズとセンゴクは
 時代的にかなり開きがあるが、ウェイの
 カオカオの書いたサンツが、カンビーや
 ハルノブに大きな影響を与えた。
 
 ハルノブに影響を受けたモトヤスが島国を
 統一したのは歴史書が示すとおりである。
 サンツの背景にはタオ教があり、
 ラオジーの哲学が伝説の人物たちを
 つなげ、泰平をなさしめたというのだ。
 
 といいつつも、彼女らは大学で歴史学を
 専攻していない。ビンディは数学、メリンダ
 は化学、タリアは経済学だった。
 
ヘンリクの話7
  そうだ、エンゾさん手伝う仕事があった!
 
 あわてて3人にそう告げて、ゲルググ店内に急ぐ。
 40歳、独身、ヒゲの巨漢だ。
 
「おうヘンリク、遅いな」
 
 エンゾ・グラネロ、バーゲルググの店長だ。
 
 この店を一人で運営している。
 というと聞こえが良いが、出演者や客に
 けっこう手伝わせている。
 
 今日も最初に来て鍵を開けて中を少し片づけて
 くれたのはボッビボッビの3人だ。
 
 とりあえずあるていど片付いているのを見て、
 自分の分のセッティングを済ませておく。
 端末をビジュアルミキサーに無線で接続し、
 今日使う分が3つのフォルダに入っているの
 を確認する。
 
 それから照明機材の確認をしたら、ドリンク
 や軽食の類がすぐ出せるようになっているか
 確認。
 
「エンゾさん、前切れてたリキュール」
「おう、買っといたよ、そこそこ」
 
 外が少し騒がしくなった。
 マッハパンチが到着したようだ。
 
 ちなみに今日の出演順は、21時から
 アラハント、そこから1時間づつで
 22時からマッハパンチ、トリが
 ボッビボッビで0時に終わる。
 
 開始20分前だがアラハントはまだ
 来ていない。
 
「エンゾさんこんちわー」
 太い声が聞こえてくる。
 
 とにかくこの4人はでかい。4人とも
 180センチ以上ある。基本的にステージ
 ネームでしか呼んでいけないことに
 なっているので、
 
 ボーカルのキング、身長182センチで
 この中では一番低い、髪もこの中では一番
 短いが整髪料でうしろへ撫でつけている。
 
 ギターのプリンス、身長なんと195センチ、
 痩せ型、長髪、父親は郵便局員で、プリンスも
 年末年始たまに局でバイトしている。
 
 ベースのクイン、身長187センチ、長髪
 美形であるが、男性だ。家はお寺でお酒
 が飲めない。
 
 ドラムのナイト、身長185センチ、長髪、
 実家は道場で、キャポエイラという
 古武術らしいが、この4人ともこの道場で
 習っているらしい。一番筋肉がごつい。
 
 4人はステージ横の扉から控え室へ抜けて
 いく。控え室といっても、そこはサクティだ。
 店同士がつながっていて、そのスペースに
 それっぽく衝立を立てて控え室という
 ことにしている。
 
 通りぎわに4人とも無言でヘンリクの肩を
 ガシっとつかんでいくが、これが地味に痛い。
 今日もお互い頑張ろう、という意味らしい
 のだが。
 
ヘンリクの話8
 「アラハントはまた遅れてるのか」
 控室の椅子に座ってキングが嘆くように
 呟くが、よく見ると顔がニヤニヤ笑っている。
 
 言っているうちに二人到着した。
 
 管楽器とラップ担当のエマド・ジャマルと、
 ドラムスのフェイク・サンヒョクだ。
 フェイクはくるなりそそくさとドラムの
 準備を始める。
 
「おっすヘンリク!最近どうよ!?」
 こいつとは昼にキャンパスで会ったばかりだ。
 
 適当に返事しておいて準備を手伝う。
 残りの3人がどうしてるのかあえて聞かない。
 
 エマドとは、ガッダーフィという名の
 ユニットも二人で組んでいて、DJ Kanbee
 名義で僕もプレイする。ビジュアルジョッキー
 ではなく、ディスクジョッキーとしてだ。
 アラハント結成前からやっている。
 
 フェイクが叩き始めた。
 エマドのマイクパフォーマンスが始まる。
 
 ここ最近だが、もう少し大きなハコ、つまり
 ライブハウスでは、アラハントの時間が
 スタートするときはいつもこの二人から
 始まる。
 
 そして、エマドがマイクパフォーマンスで
 客をいじったり煽ったりするので、
 まずはエマドへの「帰れ」コールから
 始まる。
 
 しかし、ここゲルググでは、その帰れコール
 も気の抜けたいい加減なものだった。
 フェイクのドラムが鳴り始めてからフロアの
 客も増えだしたが、まだまだこれからだ。
 
 エマドの下手うまダンスとマイクによる煽り
 が続く。もっと返してこいというジェスチャー
 をするが、客はまだ乗ってこない。
 
 まだメンバーはそろっていないが、
 アラハントの特徴は、まあ一言でいうと
 未来オタクの集まりだ。
 
 彼ら個々もそうだが、バンドの設定上も
 メンバーがテンジクという未来都市に住んで
 いて、そこからやってきて演奏している、
 ということになっている。
 
 だからエマドの客いじりも、その帽子は
 どこで買ったんだテンジクにはもうそんな
 ものは売ってない、だとか、いい加減その
 古典的なダンスをやめろ古い、といった
 感じだ。
 
 彼自信は身体能力抜群で、ダンスの
 キレもいい。現存するほとんどの踊り方
 を知っている。しかし、ステージでは
 テンジクのダンスしか踊らないらしい。
 
 ウイン・チカが入ってきた。彼女の
 学生友達らしき数人から歓声がおきる。
 今日は小さめのキーボードを肩から
 下げている。
 
 それに笑顔で答えながら、
 メロディーが足されていく。
 
ヘンリクの話9
  ウインの登場でフロアの雰囲気が少し
 変わる。映像のトーンが変わるからだ。
 エマドはミニペットと呼ばれる管楽器に
 変える。
 
 エマドとフェイクだけのときは、1000年
 ほど前の野暮ったい時代劇の映像をモノクロ
 に加工してコミカルな雰囲気でミックスして
 いたが、
 
 ウインの搭乗で彼女のキャラクターである
 伝説上の動物ウニコーンをデフォルメした
 キャラ、ウニーが画面に登場する。一気に
 ポップな色調になるが、まだ2Dモニター
 しか使用しない。
 
 ビジュアルジョッキーとディスクジョッキー
 は似ている、とヘンリクは思う。少なくとも
 ヘンリクがふだん使用する音楽ジャンルで
 言うと。
 
 今かけているディスクの曲に少しづつ
 次のディスクの曲の音が混ざっていき、
 そしてそれが入れ替わり、もともと
 かかっていた曲の音が徐々に抜けていく。
 
 ウニーが出てきたあとも時代劇の登場
 人物がまだ所々出てくるが、それも徐々に
 デフォルメ化され、最後は下の
 ほうに小さくなってうろうろしている。
 
 表現のしかたは色々あるが、そういった
 感じだ。
 
 今回は、いったん加工した映像を使用
 している。加工には自分で静止画状態の
 ものを細かくいじる場合もあるし、
 今回は時代劇の登場人物をデフォルメ
 するにのAI機能を使っている。
 
 できれば、ライブ中にもっとリアル
 タイムで、素材の加工とミックスを
 できればと思っている。フロアの熱に
 合わせて流す映像を変えていくのだ。
 
 電子工学を専攻しているフェイクと、
 そのあたりを相談しながら何が
 できるのかをこれから試していこうと
 考えている。
 
 それ用の新しいデバイスが作れたらな、
 とフェイクは言う。
 
 などと考えているうちに、ベース担当の
 アミ・リーが登場だ。
 
 眠そうに、だるそうに準備を始める。
 と思ったらエンゾさんに何か話しかけて
 いる。どうも酒はまだかと聞いている
 ようで、エンゾさんに追い返される。
 
「マジメにやれー!」罵声が飛ぶ。
 
 が、いったんアミが重い低音を響かせると、
 またフロアの雰囲気が変わる。そして、
 デスボイスと呼ばれる特殊な発声法で歌う。
 
 そうすると、一気にフロアにいかつい
 兄ちゃんたちが増える。エマドがマイクに
 持ち替えて、即興のラップを繰り出す。
 
「ヘイ、ヘンリク、映像の切り替えを
 忘れてないかい気づいた君は少し後悔」
 
ヘンリクの話10
  ステージのほうに手をあげて応えながら、
 映像を切り替えていく。
 
 ゲルググではよくあることだ。
 
 同時に3D映像をスタートさせる。人型機械が
 戦っている3D映像だが、アミからもらったもの
 で、アミは元ネタを軍からもらったとか。
 
 ゲルググなので天井付近で小さく映し出されて
 いるが、大きなライブハウスでこれをやると
 大迫力だ。
 
 2Dモニターではかわいそうに、ウニーが
 人型機械に画面外に蹴り出されている。
 
 アミのデス歌が、今日はショートバージョンで
 2曲ほど。実際このスタイルでやるとライブ
 はやる側も客側も30分ももたないとか。
 
 そして、
 ボーカルのマルーシャ・マフノの登場だ。
 
 低音が一気に抜けて、透明な音色に変わる。
 3D映像と2Dモニターは未来都市テンジクだ。
 映像は都市のなかにどんどん入っていき、
 巨大なライブハウスの中で歌うマルーシャ
 の映像になる。
 
 デスな雰囲気から、一気にハッピーな
 雰囲気に変わる。マルーシャの声は、
 ハスキーで低音側もしっかりしている
 いい声だ。
 
 が、ときにアミとマルーシャの二人とも
 デスモードに入るパターンもあるらしい。
 今日このあとやるのかどうか。
 
 フロアのほうはそれなりにお客さんが入って
 盛り上がっているが、ぎゅう詰めというわけ
 でもない。
 
 隣のサクティでもライブの様子をモニターに
 映しているのもあって、むしろサクティの
 ほうがお客さんは多いかもしれない。
 
 ゲルググでこの3バンドが出演する場合は、
 だいたいはネットワーク上で告知しない。
 なので近所の常連客が適度に楽しむ雰囲気だ。
 でも、どのバンドも都市上層の中規模の
 ハウスをワンマンで満員にするほどの実力が
 すでにある。
 
 と、アミのお兄さん、テルオ・リーが
 カウンターに座っているのに気付いた。
 たまに妹のライブに顔を出すのだ。
 
 ジャージ姿、おそらく寝間着だろう、それに
 サンダルを履いて、ゲルググとはいえかなり
 リラックスした姿だ。坊主頭に近い短髪に
 澄んだ瞳で、賢人のような、でも何か抜けて
 いるような、不思議な雰囲気をもっている。
 
 ステージではマルーシャのMCが始まっていて、
 育ちの良さそうな話し方で今日明日の
 天気の話なんかをしている。
 
「じゃあ今日は新曲を2曲ほど紹介します、
 まずは、プロキシマ・ケンタウリ」
 

ヘンリクの話11
  前奏が始まると、アミのお兄さんもスタスタ
 とステージのほうへ歩いていく。
 そしてステージのすぐ手前でつま先がリズム
 に乗っている。
 
 新曲というのと静かな感じの立ち上がりの
 曲のため、他の客も少し遠巻きに見ている。
 
 兄さんはこういう感じの曲が好きなんだね、
 と思いつつもちょっと立ち位置が近すぎる
 んじゃないかと心配になったが、好きなら
 しょうがない。妹のアミが若干苦い顔
 をしているように見えなくもないが。
 
 前奏が長い曲らしく、そろそろボーカルが
 入りそうな曲調になってきた。
 
 すると、テルオがマルーシャにちょこちょこ
 と何か話しかけて、
 
 マイクを取って、
 こちらを振り返って、
 歌い出した。
 
 おまえが歌うのか、という軽い衝撃を
 ゲルググ、サクティの両フロアに与えつつ
 演奏が続く。
 
 曲は、テルオがひたすら
 「プロキシマ・ケンタウリ」と囁くように
 低く繰り返すというシュールな内容で、
 しかし、曲自体は変則ビートでヘンリクは
 嫌いじゃなかった。
 
 映像はテルオがデザインした様々なタイプ
 の都市が次々と出てきて、カメラ映像は
 その内部にまで飛んでいく。
 
 曲は静かな立ち上がりから徐々に盛り上
 がっていくタイプで、音数も増えていき
 ハーモニーも足されていく、
 
 テルオは非常に澄んだ声で、
「プロキシマ・ケンタウリ」を続け、
 お客のほうもわかってきたのか、こう
 いうのが好きな人たちがフロアに
 集まってきて、そして歓声をあげた。
 
 10分ほど続く長い曲だったが、
 最後におそらく「遠い」とつぶやいて
 終わった。
 
「じゃあアラハント&テルオ最後の
 曲になります。シリウス」
 テルオが自分のマイクで言って、
 曲がスタートする。
 
 このシリウスも静かな立ち上がりの
 変則ビートの曲だが、こちらはケンタ
 ウリと比べて若干明るめの曲調だ。
 
 この曲も低く囁くような声でテルオが
 歌い、かつ歌の表現としてわざと滑舌
 悪く歌うため何を言っているのか
 聞き取りづらいが、
 
 どうも、シリウスのあるあるを早く
 言いたい、という歌詞のようだ。
 
 そして、これも同じ歌詞のリフレイン
 から徐々にテンションがあがっていき、
 最後に歓声があがって、テルオが
 また「遠い」とつぶやいて終わった。
 
 アラハントが今後このスタイルを
 続けるのか気になりつつ、22時までの
 つなぎの静かな曲を流す。
 
ヘンリクの話12
  マッハパンチが準備を開始した。
 
 彼らは皆、電子制御の楽器を使う。
 もともとアナログ楽器が好きらしいのだが、
 電子制御をあえて使うのは理由がある。
 
 もっとも、アナログ楽器にも様々な
 電子基板が付いていたりするのだが、
 たとえばギターであれば、アナログの
 ものは弦自体が音を出す、
 
 電子制御ギターは、弦自体は音を
 出さず、弦の振動を高精細センサーで
 読み取り、音に変える。
 
 たいていはアンプに接続するが、
 それ自体も小型のスピーカをもって
 おり、これがなかなかの音を出せる。
 
 それで、彼らが電子制御タイプを
 使う理由は、おそらくこの後わかる。
 
 全員が、形状はそれぞれ異なるが
 シルバーのフォーマルな衣装に身を
 包んで、演奏がスタートする。
 
 彼らは自分たちを、モッズ系バンド
 と称する。見た者はすぐ、彼らの
 基本的な技術の高さに気づく。
 完成されているのだ。
 
 しかし、
 彼らのスタイルを一言で表すなら、
 それは、批判、だ。
 
 最初の数曲は、完成されているが、
 ありきたりで、ありふれたものだ。
 愛だの恋だのといったものは
 彼らにとってウォーミングアップに
 過ぎない。
 
 映像は、地球上のロンドンという都市
 の街並みを映し出している。映像自体
 はごく最近のものであるが、街並みは
 西暦時代の面影を残す。
 
 3曲終わった段階でMCに入る。
「ではそろそろまいりましょうか」
 
「ではお手を拝借、いーち、にー、
 さーん、元気ですかー!大往生ー!!」
 
 意味不明の掛け声とともに、4人が
 服を脱ぎだす。上半身裸に、黒い
 タイツ、これが彼ら本来の姿だ。
 演説風の歌い方がはじまる。
 
 もともと彼らは音楽活動を通して
 政治批判を行っていた。マイナーな
 武術、マイナーな宗教に対して政府は
 何もできていないのではないかと。
 
 しかし、コウエンジ連邦の対応が
 意外と早かったので、彼らは矛先を
 変えた。
 
 マスコミメディアは企業の利益を
 優先し、本来伝えるべき食品や製品
 の不具合や危険性を正確に伝えて
 いない、だとか、
 
 医療機関は利益を追求して国民の
 健康を促進することを忘れ、皆が
 病気になるのを待っている、だとか、
 
 製薬業界は健康の指標を自分たちの
 利益になる方向へ変えること
 ばかり考えている、皆を薬漬けに
 したいのか、だとか、
 
 国内のみならず、ある小国では政府
 が好き放題やっており、かつ国民
 が国外に移動するのを妨げている、
 だとか、
 
 はては、
 この国の音楽業界は腐りきっていて、
 商業的な部分を意識するあまり、
 本来の音楽性の追求がまったく
 できていない、特にプロデューサー
 にろくな人材がいない、
 
 などなど、ちょっと将来が不安に
 見えてくるが、共感する部分が多い
 のか、人気も高くファンも多かった。
 
 ちなみにこの3バンドを今現在
 プロデュースしているのはサクティの
 店長のゴシ・ゴッシーさんだ。
 
 そしてゴッシーさんは、ゆくゆくは
 3つのバンドとも、大手のプロ
 デューサーに乗り換えてさらに成長
 してほしいと公言している。
 
 そして、それだけ音楽業界を批判
 していても、マッハパンチには
 大手からオファーが来るという。
 スタイルを変える必要もないとか。
 
 映像は、市民革命をテーマにした
 映画からサンプリングしたものに
 変わっていく。
 
ヘンリクの話13
  この黒タイツスタイルになると、
 最終的に楽器を自動演奏モードにして
 4人ともマイクをもち、ステージを
 暴れまわりながらパフォーマンスする。
 
 というのがいつもの流れだが、今日は
 ゲルググなので、何か新しいことを
 やってくるかもしれない。
 
 いや、マッハパンチはもうほとんど
 出来上がっているので、みなが
 期待するいつものスタイルで充分
 楽しめるはずだ。
 
 でもこのあと切り替える映像を僕は
 知っている。天井の3Dは青みがかった
 オーロラ、モニターも青を基調と
 した映像だ。
 
 批判モード3曲終えて、MCに入る。
 
「では今回は、新境地を開拓します」
 
「みなさんご唱和願いますー」
「大ー往ー生ー!」
 フロアが一気に青みがかる。
 
 4人がそれぞれ頭に手をやり、
 つかんで引っ張ると、
 それは、取れた。
 
 ウィッグだ。見事に薄毛な4人が現れ、
 曲が始まる。
 
 ゲルググとサクティの両フロアに再び
 そこそこの衝撃が与えられ、しかし、
 そのアイルランド民謡をサイケデリック
 風にしたその曲は、
 
 か、カッコいい。
 
 歌詞の内容は薄毛がつらいだとか
 でもがんばっていこう、みたいなもの
 のようだが、曲そのものはカッコいい
 ではないか、とヘンリクは感じた。
 
 映像は、彼らのキャポエイラのつらい
 練習風景や、髪に、もとい神に祈る姿が
 青を基調として流れる。そして、この
 神の名を僕は知っている、ホトケだ。
 
 その映像の中で、チラッと見えたが、
 確かにキャポエイラの技であろう、頭を
 軸に回転しながら蹴りを放つ練習を
 やっている場面があった。
 
 そういった部分も影響しているのだろうな、
 と思いつつ、ヘンリクは自分は気をつけ
 ようと、強く思ったのだ。
 
 最後にボーカルのキングが、
「おれたちは常に弱者の味方だ」
 と言い残して、今日のステージを終えた。
 歓声が鳴りやまない。
 
 23時までのつなぎの曲をかけ流して、
 彼らの後を追う。サクティでファンたちと
 ハイタッチしている。
 
 やっぱりすごい。
 
 そしてトリのボッビボッビがサクティ側で
 楽器と衣装の準備を始める。
 
 マッハパンチのステージのあとで、少し
 やりづらいとかあるのかなとヘンリクは
 思いながらも、照明の設定や映像の
 準備をする。
 
 彼女たちは、開始前でもいつも落ち着いて
 見える。一つ年上というのもあるのだろうか
 頼もしくみえるのだった。
 
ヘンリクの話14
  今日のボッビボッビは、ビンディがいつもと
 違う楽器でスタートだ。
 
 これは、キョクトウという島国が発祥の
 シャミセンというリュートだ。独特の音色
 を響かせる。
 
 それに合わせてタリアが歌うのは、やはり
 キョクトウで生まれた民謡だ。キョクトウ
 の民謡はその地方によって趣きも
 違うらしい。
 
 少し悲しげで、どこか懐かしいような、
 その地方の自然や人々の暮らしを謳う。
 そこにメリンダが据置キーボードから
 管楽器の音を合わせていく。
 
 彼女たちは、地球上のさまざまな
 地域の民謡を歌う。そして、その
 民謡風のオリジナル曲も作る。
 
 オリジナル曲では、もっと直接的に
 その民族の悲しい歴史を歌う。
 
 曲調が少し明るいものになり、
 映像は熱帯の島々の海の風景になる。
 いつのまにかビンディはさっきと
 少し違う楽器を弾いている。
 
 キョクトウの南国の民謡だ。
 
 映像の中で人々が踊っている。そして、
 次に流れてきたのは、これもすごく
 古い歌であるが、いまだにプロの
 歌い手たちに歌い継がれている、
 Great Tears Are Spillingだ。
 
 それを玉のように響く声でタリアが
 歌いあげる。その透明感と声の伸びが
 とても気持ちいい。
 
 そして次はオリジナル曲だ。日差しの
 強い南国の明るさと自然の美しさを
 感じさせるその曲調に、
 深い悲しみを見いだせるのはその歌詞
 のせいだ。
 
 キョクトウの南の島々は、旧世紀に
 悲惨な戦禍に巻き込まれたという。
 映像は楽し気に踊る島の人々を映し
 出し、まったくその戦禍を想像する
 ことはできない。
 
 曲が終わり、タリアのMCが始まる。
「えー本日はボッビボッビのワンマン
 ライブにお越しいただきましてー」
 すぐ観客からツッコミが入る。
 
「それでは、私たちの新境地をー」
 3人が、頭に手をやり、髪をそっと掴む。
 
 周りが息をのみ、状況を見つめる。
 
「えっと、ジョウダンです」
 周りがホッと胸をなでおろす。
 
「じゃあせっかくなんで明るい曲も
 演りましょう。ダンシングガールズと
 アメノウズメ、続けていきます!」
 
 その声に合わせてフロアにスモークが
 足される。3D映像と2Dモニターを切る
 のはフラッシュライトの効果を高める
 ためだ。
 
 フロアにはさらにお客さんが集まってくる。
 サクティも外も人が多く、噂を聞きつけて
 遠方からでも集まってくる。
 
ヘンリクの話15
  ビンディのリュートから入るが、メリンダの
 キーボードにはリズムマシンの機能もある、
 これはタイトルのとおりダンスミュージックだ。
 
 民族音楽的な曲調でビートが乗ってくる。
 タリアは、歌というよりささやくような
 小悪魔的な声をダンスとともに挟んでくる。
 その声をメリンダのシーケンサーが刻んで
 繰り返す。
 
 キックの低音が抜けて歓声があがる。
 
 彼女たちには、歌のコンサートをしてほしいと
 いう依頼もくる。しかし、毎回丁重にお断り
 するらしい。その理由がこれを観ていると
 なんとなくわかる。
 
 過去の現実を見ろ、でも同時に、希望を捨てず
 楽しくやろう、そういったメッセージが
 込められている、とヘンリクは思っている。
 
 この曲は、10分近くあって、ふつうの楽曲
 とくらべると長いが、フロアでは長さを
 感じない。最後に歓声があがって次の、
 今日最後の曲につながる。
 
 ダンシングガールが民族楽器を使いつつ
 ポップな雰囲気だったのに対して、次の
 アメノウズメは神秘的な、オカルティック
 なメロディーでスタートする。
 
 女神が舞い降りて、踊り子に憑依すると
 いうストーリだが、タリアはフロアの
 真ん中まで出てきて、歌い、踊る。
 クルクルと円のイメージで。
 
 ビートのスピードアップとともに
 フラッシュライトの点滅が同期する。
 曲は正気と狂気が交互に入れ替わって
 いくような変化を見せる。
 
 その姿は、神懸っていた。
 
 ビンディとメリンダはいつも言う。
 この曲をやるときは、自分たちも楽器を
 置いて、フロアに行きたくてウズウズ
 すると。
 
 最後に女神は、ゆっくりとした動作で
 天を仰いだ。曲が終わる。
 
 拍手をする者、拍手も忘れてまだ
 ボーっと見ている者。
 
 人間に戻ったタリアが、話し出す。
「本日はボッビボッビのワンマンライブ、
 楽しんでいただけましたでしょうか」
 
 すかさずフロアからツッコミが入る。
 アラハントやマッハパンチの面々も
 それぞれドリンク片手に眺めている。
 
「ちなみにこの最初に出てきた楽器、
 猫の皮が張られてるんですけど、
 なんで猫の皮が使われるか、
 知ってますかー?」
 
 それは、かわいいから、とぼそっと
 つぶやいて、タリアはステージを
 あとにした。
 
 これで今日のライブは終了。
 でも、すこし片づけたらすぐサクティ
 で打ち上げだ。
 
ヘンリクの話16
  タリアが適度にフロアを冷まして
 くれたおかげで撤収も楽に済んだ。
 
 サクティではもう乾杯が始まろうと
 している。いそいでビールをもらって
 席につく。
 
 キングが立つ、
「えー本日はゲルググライブイベントに
 お集まりいただき」
「えーあいさつもういいよ」
「飲もう飲もう」
「乾杯!」
 
 やっぱりライブあとのこの一杯がたまらない。
 このためにやっている、といっても過言では
 ないかもしれない。
 
 僕の4人席テーブルには隣にアラハントの
 アミ、向かいにマッハパンチのキングさん
 とボッビボッビのタリアさん。
 
 このメンバーで飲む時に、気を付けないと
 いけないのはアミだ。何を気を付けないと
 いけないかというと、けしてアミと
 同じペースでお酒を飲まないこと。
 
 最近は、本人も言っているが、だいぶ丸く
 なったとのことで、他人にしつこくお酒
 を勧めることはしなくなった。
 
 驚くべきことにアミは、どれだけ飲んでも
 二日酔いにならないらしい。そして、つい
 最近まで、ふつうの人が二日酔いという
 状態になることを知らなかったとか。
 
 他にも、飲めば飲むほど強くなるという
 噂もあるし、気分が乗ってくると男性
 の上半身を裸にして油性のペンで
 女性が付けるブラジャーを描く、
 という話も聞いた。まったく恐ろしい。
 
 僕は、アミと一緒に飲んでいて自爆ぎみ
 に潰れたことはあったが、そういうひどい
 目にはあったことがない。気を使って
 もらっているのだろうか。
 
 でも、先日はこんなことがあった。
 同じようにライブあとの打ち上げで
 飲んでいた時、アミはふだんと違って
 少し落ち込んでいる雰囲気だった。
 
 第2エリアにいたとき、普段から仲の
 良かった親友が亡くなったらしい。自殺
 だった。自殺の原因はあまりよくわからな
 かったらしいが、
 
 演奏の技術はアミよりも高く、将来が
 とても期待できる子だったらしい。
 でも、ある時期から、第2エリアの音楽
 の世界に絶望したようなことを言って
 いたとか。
 
 その出来事が、アミに、何かを表現したい、
 何もやらずに自分の人生を終えたくない、
 という強い気持ちを与えたという。
 
 その日はその子の命日ということだった。
 前日だったかもしれない、とも言った。
 アミにも、シリアスな部分があるのだ。
 
ヘンリクの話17
  ふと見ると、マッハパンチのプリンスさんが
 なにか落ち込んだ様子だ。
 
「プリンスさん、何かあったんですかね」
「あ、ああ、家で飼ってるハムスターが
 昨日死んだんだよ」
 キングが答える。
 
「へー意外ですね」
「え?あいつが泣き上戸なところがか?」
「いや、それも知らなかったですけど、
 でも確かにいつも最後泣いてますね」
 
「マッハパンチみんな何か飼ってるでしょ?」
 アミが尋ねる。
 
「ああ、おれたちみんな何か小動物飼ってる」
 キングはチンチラ、プリンスはハムスターを
 まだあと5匹、クインはフェレット、ナイトは
 ロップイヤーラビットだ。
 
「というより、この3バンド、おれたち以外も
 みんななんか飼ってるだろ?」
 逆にキングが聞いてくる。
 
「あーたしかにそうかも」とタリア。
「ボッビボッビは全員犬飼ってるね」
 
「アラハントはー」アミが思い出そうとしている。
「うちは雑種の猫でしょ、ウインは雑種の犬、
 エマドんちはリクガメ」
 
「マルーシャは?」
「マルーシャの家はでかい水槽に熱帯魚」
 あー、と言って全員うなずく。
 
「でも一番好きなのは透明なエビらしいけど」
「あれ?フェイクは?」
 
「フェイクはねえ、ペットはいない。野菜
 育てるのが好きでしょ。」
 そうだ。聞いたことがある。確か、一番好き
 なのはカリフラワーだ。
 
「ヘンリクも何か飼えばいいのに」
 アミが提案するが、
「うちは近所に野良猫多いからなー、
 エサもしょっちゅうやってるし」
 
 こんな感じで、ライブあとの打ち上げは
 あまりライブの内容やら音楽の話はあまり
 しない。
 
 音楽の話はしないが、1時間ほど経った
 あたりから内容に熱が入ってくる。
 タリアがキングに話しているのは、
 なにやら難しい経済の話だ。
 
「コウエンジ連邦は今のところとても
 うまくやっているわ」
「でもそれを理解するには最新の経済学を
 学ぶだけでは難しいの、ほらこれを見て」
 
 テーブル横のモニターにネットワークサイトの
 何やら表が表示される。歴史経済学に
 関するものらしいが。
 
「宇宙世紀の年代の横に国か地域の名前、そして
 地球の人口、その横は宇宙の人口」
「まず旧西暦の話からになるけれど、まず
 ヨーロッパ型の資本主義経済で経済覇権国と
 なったのはオランダと呼ばれる国」
 
「その次にユナイテッドキングダム、そして
 北米のユナイテッドステイツ」
 
ヘンリクの話18
  タリア先生の講義が続く。
 
「そのころはだいたい100年周期で
 経済覇権国が入れ替わるの」
「でも宇宙世紀に入ってからの覇権国と
 年代を見てもらえば」
 
「覇権が続く期間がどんどん延びて
 いるのがわかるかしら」
 
「そうだね、チャイナ、インド、エジプト、
 ブラジル、どんどん長い期間になっていくね」
 とキングさん。
 
「じゃあ、問題、なぜだかわかりますか?」
 
「難しいな、でもたぶんあれだろ、過去の
 失敗に学んだ系じゃないの」
 これは僕もわからない。
 
「まあ過去の失敗に学んだってところは
 間違ってないわ」
「覇権国としての影響力を、あまり行使
 しなくなったことによって、長命になった」
 
「つまりそれまでは影響力を行使しまくって、
 そのおかげで短命に終わったと」
 
「そうよ」
「短期間で強い影響力を発揮しようとすれば
 するほど、自分たちを強く見せないといけない、
 そうすると、経済も急激に発展させないと
 いけない」
 
「急激な経済発展は自国の通貨高をまねき、
 労働力の単価があがって産業が流出すると」
 と続けるのはキングさん。このひと意外と
 頭良さそうに見えるときあるんだよな。
 
 マッハパンチの4人は宗教上の理由でお酒
 をまったく飲まない、てのもこの場で
 頭よく見える理由かもしれない。タリア
 さんはだいぶ飲んでるけど。
 
「そうね、だから、その後の国々は、
 できる限り影響力を行使しないようにして、
 経済もゆっくり成長させるようにした、
 そして、軍事費もぎりぎりまで削った」
 
 僕も負けてられない、
「はい、タリア先生!」
「はいどうぞヘンリク君」
「そこの、ブラジルのあとに北米、シベリア、
 ムーとありますが、そのあと国の欄に
 何も書いてないのはなぜですか?」
 
「それはねヘンリク君、その年代以降、
 覇権国を定義するのが難しくなったからよ。
 多極化した、と言えばいいかしら」
 
「宇宙と地球の人口もその15000年あたり
 で逆転してるよな」とキングさん。
 
「だからコウエンジ連邦が経済の変動を
 なるべくゆっくりさせている、とうのはわかる」
「でもおれがわからないのは、コウエンジ
 連邦が最近他エリアとの貿易を縮小したり
 なるべく小さいエリアで自給自足的なことを
 やろうとしてるだろ。なぜなのか?」
 
 そのあたりに次の批判ネタがありそうってことか。
 
ヘンリクの話19
 「コウエンジ連邦はオタクの集まりで、
 経済オタクもいっぱいいるから色々試したい、
 ってことじゃないですかね」
 僕もタリアさんの前で少しいいとこ見せたい。
 
「宇宙世紀開始の昔から、アメーバ経済
 という考え方はあったわ」
「より狭い地域で経済を成り立たせよう、
 そして、外部環境の変化にも強くしよう」
 
「ふつうはこう、生産設備なんかも集中
 させて効率化して強くするよなあ」
 キングさんが呟く。
 
「そうね、でも、そうすると、政治や
 経済含めた環境変化による一点障害に
 弱くなる」
 
「それにね、これは極端な話、遠い未来に
 実現するのかどうかわからないけど、
 生産効率が極端に上がって、自分に必要な
 ことがほどんど簡単に自分で出来るように
 なってしまったとき」
 
「ひとは果たしてそれを他人に任せるかしら」
 
 なるほど、遠い未来にはそういうことも可能
 になってくるのか。
 
「最近の技術革新も関わってくるかしら。
 太陽系外縁から来たっていう、素粒子論を
 応用したやつ、ヘンリク君のほうが詳しいかも」
 
 来たよ来たよ。
「あ、僕それ知ってますよ、各素粒子の相互
 作用を利用して物質の分離や原子レベル
 での再構築を行うシステムに応用する話
 ですよね。システムが実用に入ってさらに
 小型化されれば生産効率がまた各段に
 向上するし、今後原子核の操作にも応用
 できるとか聞いています、ごほっ」
 
 最後むせてしまったが、ヘンリクが早口で
 まくしたてる。
 
 タリアさんが続ける。
「もともとモノを作る段階で原子レベルの
 操作という技術はかなり進んで来てたよね、
 でも、今回の技術進化は、いらなくなった
 モノを分離して再利用するのに強力な
 ツールになりそうなのよ」
 
 自分の領域に話を持ち込めそうなので、
 ヘンリクも興奮してきたが、どうしても
 トイレに行きたい。
 
 戻ってくると、タリアさんとアミが別の
 テーブルに移り、代わりにエマドと
 マッハパンチのクインさんが座っていた。
 ヘンリクは若干がっかりしている。
 
「おう、ヘンリク、クインさんがいい話
 してくれるって」
 
 なんだろう、少し興味が沸きつつも、
 ちょっとだけ嫌な予感もする。
 実家がブッディストのお寺だという
 クインさんがする話といえば、いつもあれ
 の話なんだよなあ。
 
 あれが苦手なヘンリクは食わず嫌いな
 形でクインの話を聞くのを今まで
 避けていた。
 
ヘンリクの話20
  時間もちょうど深夜2時だ。
 
「クインさんが霊視してくれるってさ」
 ほら来た。エマドがニヤニヤしている。
 
 クインさんはブッディストの中でもかなり
 マイナーなミッキョウの宗派らしい。
 そして、宗教にあまり関係なく、知り合いに
 える人が多いとか。
 
 何が見えるって?霊だよ、霊。
「ヘンリク君がいいって言えばだよ」
 クインさんも乗り気だ。
 
「いやー、あの、今日はちょっと」
 なんかいいのが見えればいいんだけど、何か
 悪いのが見えたりしたらトイレに一人で
 行けなくなる。この歳でそういうことに
 なりたくない。
 
「あとさあ、好きな女の子とか当てれる
 らしいぜ」
 
 まあそれぐらいだったらいいだろう。
 クインさんが僕の前に来て、額のあたりに
 両手を掲げて目をつむって何か唱える。
 
「むむっ」
「5人くらい見えますね」
「え、おまえそんないんの?」
「ちょ、ちょっとやっぱこれ止めましょう」
 
 霊も含めた神秘的現象については、科学の
 進歩によってかなり解明が進んでいる。
 はず、だが、解明が進むごとにわからない
 こともどんどん出てきている。
 
 霊感のある人、の中には洞察力がずば抜けて
 高い、というひとがかなりの割合で
 含まれていたことが研究により解明は
 されている。
 
 しかし、それ以外にどうにもまだ、最新の
 応用量子力学でもわかっていないことが
 たくさんある。素粒子的になにか弱い
 相互作用が絡むのかの研究もなされている。
 
 そもそも、脳の仕組み自体、まだわかって
 いない部分がかなりある。宇宙世紀の開始
 あたりから、意識の領域はほとんど解明
 されたといわれているが。
 
 無意識領域の、それも発現がまれな現象
 についての解析がほとんどまだ進んでいない。
 それは、量子力学でいう観測者の存在が
 観測対象に影響を与えてしまうことも
 関係する。
 
 観測すると出ないのだ。
 
「霊感が強いのにもふたつのタイプがあって、
 まったく見えないけれど、強いタイプも
 いますよ」
 クインさんは語る。
 
 見える、というのが論理的にどういった
 かたちで見えるのか、ということを聞いて
 みたいとも思うが、それを聞いて自分が
 見えるようになるのも怖い。
 
「こういう話すると女の子にモテるってよ」
「詳しく教えていただきましょう」
 
 こうして学生の夜は更けていく。
 
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