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第三話 蝶の店
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しおりを挟むゆるやかに波打つ黒髪を背に払い、蝶は己の店の前で退屈していた。
肩に掛けた菫色のワッフルカーディガンが、春を待つ風を孕んで、羽を広げるように袖を広げる。
ふわりと地に落ちたそれを追いかける蝶の視線の先に、おろしたての白いスニーカーがちょこんと頭を揃えていた。
耳の後ろで髪を二つの団子に結った女の子が、おずおずと口を開く。
「あの。ここに来れば、どんなものでも見つかるって本当ですか?」
可愛らしい客の来店に、蝶は上機嫌で口許を綻ばせた。艶のある肌に薄く乗せた化粧が、彼女の上品な顔立ちを引き立たせ、見る者を一瞬で虜にする。
淡いピンクの唇から紡がれる言葉は、心を掴んで離さない。
「ようこそおいでくださいました。あなたの失せ物、この蝶がたちどころに見つけて差し上げましょう」
菫色のカーディガンを羽織り、蝶は店の戸を引き開けた。
歪んだ街の奥深く、時代遅れな店構えのここもかくりよのテナントの一つだ。看板に掲げられしは「失せ物お探しいたします」の文字。
ここは、一生のお願いと引き換えに蝶が営む、失くし物を探すことに特化した店だ。
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